アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。
Vol.04
武山範洋とフォトグラファーの関係性
▼今回のSPECIALIST
武山範洋(たけやま・のりひろ)
2009 年入社。主な仕事:JR 東日本「JR SKISKI」「TAKANAWA GATEWAY CITY」、ビューカード、パ ーソル「doda」など。ACC フィルムクラフト部門ブロンズ・ACC ファイナリスト。APA 賞、朝日・読売・毎日・日経などの各新聞賞、交通広告グランプリ、新聞協会賞など。Metro Ad Creative Award 審査員。

異なる視点から同じコンセプトを追求していく、
二人三脚の関係が理想です。
中野 武山さんが様々な広告を手掛けられる中で、写真の訴求力の変化を感じる瞬間があるのではないでしょうか。例えば、「JR SKISKI 2024-2025」では、あえて目線を外して撮影されています。これは、今までとは異なるアプローチを取られたということですね。
武山 変化という点では、特に若年世代を中心に、広告そのものへの忌避感が高まってきているという現状があります。特に「JR SKISKI」は若年層をターゲットにしているため、大きな課題として考えられます。さらに、歴史の長いシリーズのキャンペーンですから、ヒロイン選定に対する世間の期待も大きい。これまでは力強い眼差しを意識したグラビア的な写真で被写体の象徴的な表情を追求してきましたが、今回は世界観を重視したポートレイトの方が訴求力があるだろうと考え、チャレンジしました。向き合い方を少し変えてみるという手法です。
中野 少しだけ変えてみるという発想が興味深いです。他の案件でも行なっている思考なのでしょうか。
武山 そうですね。そこは常に意識して仕事をしています。実験的とまではいきませんが、「これが正解」とされるラインを少しずらしていくんです。そのため、フォトグラファーにも撮影技術をコンセプトに乗せていただくようお願いしてい ます。例えば、アナログが流行していた時期には、「青春の儚さ」を機材で表現するために写ルンですを使用したり、別の仕事では観光写真を日中シンクロで撮影したりしました。
中野 ここ数年の写真のトレンドの変遷については、どのようにお考えですか?
武山 広告写真は普遍的な方向に向かっていると感じます。無個性というか、尖った特徴の少ない写真が好まれる傾向にあるのかなと。また、Web や SNS でのコミュニケーションが増加していますが、そこでは撮影方法や被写体の目線などがマニュアル化されているんです。それにアナログ広告も引っ張られている傾向があるので、クライアントも写真に「わかりやすさ」を求めているなと感じます。
中野 「わかりやすい写真」とは、どのようなものでしょうか?
武山 アイドルであればアイドルらしさを、俳優であれば俳優らしい雰囲気を重視した写真になります。そこに撮影技術によって世界観のジャンプが加わると、ひとつフィルタリングをされるわけです。今の世の中は、そのフィルターが極力ないものを求めているなと感じます。
中野 しかし、それも不変というわけではありませんね。
武山 おそらく一過性のものでしょう。わかりやすい表現が世の中に多いので、今回の「JR SKISKI」では少し解釈がある表現を提案しました。10 年以上続く広告のネクストブレークで、ヒロインが横顔を見せるという選択は、かなりの裏切りですから。もちろん、クライアントの理解があってこその決断だと考えています。
中野 ここまでお話を伺って興味深く感じたのは、発注の方法に写真技術の知識が反映されているということです。武山さん自身が写真に精通していなければできないことだと思うのですが、元々、写真がお好きだったのですか?
武山 僕は最初、制作会社に入社したのですが、7 フロアにわたるオフィスの全ての本棚が写真集で埋め尽くされていました。新人はまずラフ案の作成からスタ ートするのですが、「良いラフを作るために、写真をたくさん見なさい」という指導がありました。そのため、本棚の写真集を全て確認し、どのページにどんな写真があるか、フォトグラファーは誰かを把握するところまで勉強しました。発注があればすぐに対応する必要があったので、「このような雰囲気の写真」というオーダーに応じて、膨大な数のリファレンスから適切なものを見つけ出さなければなりませんでした。
中野 アートディレクターの英才教育ですね!
武山 いろいろな写真を見ていると、同じフォトグラファーでもアートディレクターが異なるとクオリティに差が出てくることに気づくんです。だから、若い頃は、どうやってクオリティの高い写真を撮ってもらえるのかを常に考えていました。
中野 それは素晴らしいです。そこまで写真を頭の中にアーカイブできているフォトグラファーも少ないでしょう。
武山 様々な写真集に触れられる環境に恵まれていたのは幸運でした。よく、ア ートディレクターとコピーライターはコンビだと言われますが、僕はアートディレクターとフォトグラファーもコンビだと考えています。異なる視点から同じコンセプトを追求していく、二人三脚の関係が理想です。それこそが写真のディレクションの醍醐味なんです。
中野 発注時のラフはどのように作っていますか?
武山 以前勤めていた制作会社には、フォトグラファーもレタッチャーも在籍していたので、完成ラフが非常にクオリティの高いものでした。その反動もあり、基本的にフォトグラファーへはイラストラフで発注するようになりました。時には、フォトグラファーから「イラストではできても、写真だと難しい」みたいな話をされることもありますけど。
中野 イラストラフで発注される際も、技術的な方向性は見えているのですか?
武山 そうですね。同時に、フォトグラファーも想定した上で考えています。
中野 技術的な要望はありつつ、クリエイティブの余白は残しているわけですよね。その余白について、どのような期待を込めていらっしゃいますか?
武山 技術的な上乗せが必ず欲しいのですが、それは再現性ではなく、コンセプトに対する上乗せであるのが重要です。そのため、ラフに合わせてほしいというオーダーはしませんし、リファレンスも提示しません。「このコンセプトに対して僕はこう考えましたが、どう撮影するのが技術的な面でクオリティを高められますか?」という相談をしています。
中野 写真を知っているから違うものを見たいという、武山さんなりの欲望なのかもしれないですね。
武山 人によっては、いつも発注が難しいと悩ませてしまいます(笑)。
中野 このようなアプローチは、多くの現場を経て確立されたのでしょうか?
武山 実は違うんです。僕が最初に携わった撮影が荒木経惟さんの現場で、ご本人がディレクションをされる様子を拝見しました。荒木さんは、ロケハンのプロが提案した場所に加えてご自身でも探していましたし、モデルもリアリティにこだわられて選定されていました。その時の撮影はドキュメンタリー的なコンセプトでしたが、ドキュメントを演出するのではなく、ドキュメントの中で撮影するという手法だったんだなと。そんな現場体験から、コンセプトに忠実に考え、撮影方法を追求していく面白さを実感したんです。
中野 殻を破りつつ、ちゃんと枠内には収まっているのが素晴らしいですね。
武山 広告写真とはいえ、広告写真の枠に収まりすぎたものは、世の中の反応が良くないと感じますし、データでもそのような傾向が見られます。
中野 バランスが難しいですよね。
武山 ニッチな広告は、ブランドもニッチに見えてしまう傾向があります。表現にこだわりすぎてニッチな方向に進むことは避けたいので、仕事では特に注意を払っています。
中野 例えば、ビューカードの広告は、王道の写真ですね。
武山 ビューカードは、王道のポートレイト写真が最適だと思っていました。というのも、ビューカードは交通系に強みがあるイメージですから、いわゆる万人向けのファーストカードとは違うだろうと。だからこそ、王道のポートレイトで力強さと自信が表現された雰囲気を付加することは重要だと考えました。
中野 トレンドや媒体特性との掛け合わせが、武山さんの中で見事に融合されているのですね。そこまでの意図を理解した上で撮影できると撮りやすいだろうと思います。実際に、ここまでの制作意図についてフォトグラファーと共有することはありますか?
武山 実は、そこまでは共有しないんです。フォトグラファーの方々には、フォトグラファーとしての観点からお願いする形を取っています。
中野 しかし、今のお話を伺うと、その意図を理解することで、より撮影の方向性が明確になりますね。逆に言えば、その背景まで理解することがフォトグラファーには大切なのかもしれません。
武山 その通りですね。互いの専門性を活かしながら、同じビジョンを共有してコンビになれる存在は貴重です。
JR SKISKI 「白と熱。」/ビューカード 「そこは、ビューカードでしょ。」
JR SKISKI は、世界観の中で表現するポートレイトで、空気感やテンションを重視したディレクション。ビューカードは、実直さや信頼感などイメージを体現するポートレイトで、商品の性格を加飾なくまとわせることを重視。ポートレイトの ディレクションでは、コンセプトを正しく細かく落とし込むようにしています(武山)。
NAKANO’s COMMENT
制作会社時代に膨大な写真集を読み込んだというお話は、様々なスタイルの写真で広告表現なさっている武山さんならでは。想像力を働かせる土台を現在から過去のアーカイブに求め、新しいクリエイティブを創作していくのは写真表現の醍醐味であると改めて気付かされました!
スペシャリストに聞く6つの質問
Q1 写真の好きなところ
レンズを通して撮影することで、実際に見えている景色とは全く違う世界を写し出せるところです。要は絶対にカメラじゃないと撮れない世界があるということなので。
Q2 最近気になるフォトグラファー
新しく台頭してきているビデオグラファーという職種に注目しています。自分自身がメディア化していくような職種なので、広告の世界にも入ってくると感じています。
Q3 業界を目指す人へ
デザインをたくさん見るのが良いと思います。デザインのコンセプトは何かといった難しいことは考えず、気になったものをピックアップしていくと、自分がやりたい方向性が見つかると思います。
Q4 衝撃を受けた写真
アンドレアス・グルスキーの写真です。ひとつの写真集の中に、具象的な作品と抽象的な作品が混在しつつもテーマがきちんと設定されている。グラフィックデザイン的な構成だと感じました。
Q5 フォトグラファーと出会う場所
SNS(主に Instagram)で見つけることもありますが、今でも多いのは雑誌や写真集です。本で見て気になった人は印象に残りやすいです。逆に広告畑から探す方が少ないですね。
Q6 キーアイテム
4、5 年前からクラフトビールにハマっ ていて、色んな醸造所から発売されているビール缶のデザインはどれも個性的で、見ても飲んでも楽しいです。いくつかピックアップして持ってきました。

撮影・インタビュー
中野敬久(なかの・ひろひさ)
1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/

話題作を次々と生み出す人気クリエイターは、何を考え、どこでアイデアを生み出しているのか。本特集では、広告・エンタメビジュアルなど様々なフィールドで活躍する6名へのインタビューを通して徹底取材。思考のプロセスや発想の起点、日常の習慣、創作の源泉、そしてプライベートまで、そのリアルに迫る。栗田雅俊/井本善之/吉兼啓介/有元沙矢香/吉良進太郎/泉田 岳
【特集】
Mrs. GREEN APPLE Wonder Museum MGA MAGICAL 10 YEARS EXHIBITION
Mrs. GREEN APPLEのデビュー10周年を記念して虎ノ門ヒルズ・TOKYO NODEで開催された展覧会を、制作に携わったクリエイターへの取材を通して紐解く。
10年間で生み出された楽曲の背景にあったアイデアや対話を、いかに空間体験として構築したのか。そのコンセプト設計や表現のプロセスを掘り下げ、音楽と展示表現を横断するクリエイティブの現場に迫る。
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