アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。
Vol.11
藤木洋介に聞くキュレーターの役割
▼今回のSPECIALIST
藤木洋介(ふじき・ようすけ)
Yosuke Fujiki Van Gogh Co., Ltd. 代表。キュレーターとして公立美術館やギャラリー等で様々なアーティストの表現を展覧会を通して紹介。2021年に “Roll”(東京・飯田橋)を立ち上げ、年間を通して実力のあるアーティストの展覧会を開催。

キュレーターという仕事は、写真家との向き合いをしないと存在意義がないんです。
中野 藤木さんのギャラリー「Roll」にお伺いして感じたのは、写真家と並走して展覧会作りをされているということです。キュレーターとして展覧会を企画する時、写真家の選定や距離感など、どんなことを意識されているのでしょう?
藤木 そもそものお話をすると、僕自身、インディペンデントで仕事をしているので、美術館などの会場で企画展をやろうと思うと、そこを運営する人たちのメリットが必要になるんです。例えば話題性があって集客がある、作品が売れるといったことですね。でも、僕は展覧会が好きで、無名の人をどう紹介できるのかと考えた時、自分でハコを作るしかないと立ち上げたのが Roll なんです。Roll を運営していて、ギャラリストと言われることもありますが、僕の感覚はちょっと違うんです。並走した感覚という意味では、そもそも展覧会をするには1年〜3年の準備期間が必要になるので、撮影に帯同していく頻度も増え、自然と写真家と仲良くなるんです。自分が伝えたことが作品に反映されたりという経験もあります。
中野 写真家も自然と壁打ちをしている感覚があるんでしょうね。
藤木 時間の問題だと思います。ちょっとしたことから家族以上に距離が近づくことがあるんです。他の人には話さないことも聞けたり、役に立っているかわからないけど、一緒にやっている感覚を持ってくださるのは光栄です。
中野 写真を客観的に見る時に、展覧会をしてみたいと感じる基準値はあるのでしょうか?
藤木 写真より人を見ていると思います。僕にとっての作家の定義は「誰にも頼まれていないことをやっている人たち」で、頼まれていないのに、描いてしまうとか、撮ってしまうような人たちが好きなんです。
中野 写真家の視点に対して興味があるということですね。
藤木 そうですね。何が写っているのかは二の次で、何をしたいのかに興味があります。したいことがはっきりしていても、写っているものにズレがあるなら別案を提案します。「こっちの方があなたがしたいことにふさわしいんじゃないですか?」と意見を出す仕事です。
中野 逆に、準備期間が短く数ヵ月というパターンもあるわけですか?
藤木 おっしゃる通りで、Roll に関しては1年スパンを基準に展覧会を計画しているんですけど、たまにスケジュールが空くことがあって。やはり作品はナマモノなので、準備をしていても作りきれず展覧会が流れる時があるんです。そういう時、親しい人に「半年後に発表できないか」という相談をすることはあります。Roll は所属作家をつくっていないのですが、幸運なことに関わった写真家のみなさんは、所属しているように感じてくれている人が多く、ひとつの展示が終わった後も継続して作品づくりをしてくださる方が多いんです。
中野 雑誌の編集者など、商業をベースとする方と比べて、藤木さんのアプローチはどこが違うと思います?
藤木 ニーズに応えることがないので、それが明らかに違います。誰にも頼まれていないことをやる、その背中を押す行為なので、ニーズとは正反対です。
中野 ニーズではなく、テーマを重視して展覧会を作り上げていくわけですね。人によっては、そのテーマに向き合い過ぎてしまい、本当に好きなものを撮れているのかという悩みが生まれてしまうこともあるのではないでしょうか?
藤木 そういった場面では、しっかりと話をして、それでも作れなくなったら休憩します。限界までやったうえで、作れなくなることも重要で、失敗ではありません。むしろ妥協したら失敗で、そもそもの意味がなくなってしまいます。なので、そこで妥協する人とは一緒にできないかもしれません。
中野 シビアなキュレーションですが、その通りですね。
藤木 自分も責任を取れませんし、自分も妥協をすると意味がないので。
中野 作品テーマが決まってからのフローはどのようにしているのでしょうか?
藤木 会場、日時、作品の大きさなど全部同時に進めていくタイプです。ブルドーザーみたいな感じで。
中野 どのように見せるかが決まっていると、作品撮りへの向き合い方も変わってきます。それって、写真家を志望している若い子たちがやっていないことでもあるんですよね。夢中に撮影するけど、その後にどうしたらいいかわからない。自分の作品と展覧会を繋げる、具体的なビジョンを持つことも大事なのかもしれません。写真ってどうしても自己完結しがちなメディアで、それが好きな人ほど客観的なマインドセットをしづらい気がするんです。
藤木 でもそれって、気付いていないだけで、例えばスパイラルホールでやりたいと思っているなら、頭の中で作品との相性まで考えているはずなんです。なので、僕が先導するのではなく、相手のやりたいイメージを引き出す、解像度を上げていくようなコミュニケーションをとります。とはいえ本人の中で、アイデアがまとまっていないことも当然あります。新作を作りたいけど、しっくりくるテーマが浮かばないというような。
中野 そういう時はどんなお話をされるんですか?
藤木 過去作から探ることがあって、「こういう作品を撮ってきたなら、次はこういうのはどうですか?」といった具合に。
中野 自分のことを自分以上に考えてもらえているようで、とても心強いです。
藤木 そうじゃないと僕がいる意味がないんです。ギャラリストであれば場所を提供して、作品を売るだけでいいかもしれませんが、キュレーターという仕事は、写真家との向き合いをしないと存在意義がないんです。
中野 ポートフォリオの見方からしてまず違うんでしょうね。ギャラリストや編集者の場合だと、「ここの部分が売りになる」みたいな視点になりそうです。
藤木 だから僕はアートフェアも出ませんし、写真を商品として見ていません。とにかく展覧会が好きで、逆にいい展覧会をしていると自然と売れるとも思っています。
中野 展覧会のどういった面が好きなんですか?
藤木 ナマでお客さんの反応を見ることが好きなんです。音楽でいうと音源じゃなくて、ライブが好きみたいな。
中野 なるほど。今後、フィジカルでリアルな体験の価値が高まっていくと、昨今言われていますよね。写真もデータより、リアルで見たときの解像度の高さには敵わない。
藤木 プリントで見た方が絶対に面白いし、見応えがあると思います。そのためにも、作品や展覧会に適したサイズでプリントアウトすることが大切です。
中野 正直、今まで意識していなかったので、ハッとしました。作品に対する正しいプリントサイズというのは、考えるべきですね。
藤木 写真はサイズを自由に決められるじゃないですか。絵画は先にキャンバスのサイズを決めないといけないし、彫刻も最初にベースを決めて彫り進める。写真はその自由さも魅力のひとつですよね。
中野 ちなみに、写真集についてはどのように考えていますか?
藤木 個人的に写真集は、作品というより資料として見ています。写真家になぜ作ったのかを聞くと、「残る」「広まる」という意見が多いです。一方、画家は全然作りたがらないです。原画の方がいいし、図録だと小さくなる。凹凸も出せないから興味がないという方が大半です。
中野 なんとなくモノとして残しておきたい気持ちですかね。
藤木 その ” なんとなく ” の解像度を高めていくのが僕の仕事で、「なぜ、どうして」と沢山聞くんです。相手は結構しんどいかもしれませんが、せっかく美術をやるんだったら、妥協をせずに作る方がいいじゃないですか。美術は食えないし、絶対に苦労する。苦労するんだったら思いっきりやらないと。
中野 もしかすると、「アート」という言葉が勘違いを生むきっかけになっているかもしれません。「美術」という言葉にはないカジュアル感が出てしまい、作品にそこまで対峙する人がいないし、対峙した方がいいと伝える人も減っているというか。
藤木 カジュアルでもいいんですけど、それは AI でもできてしまいます。ゼロから考えて企画していくというプロセスも含めると、AI にはできないだろうし、その人しか持っていない、不器用なものを引き出した方が、写真家としては面白い作品がつくれると思います。
shunsuke shiga “still life”

2024年に Roll で開催した写真家・志賀俊祐氏の個展、“still life” では、2023年の1年の間に Roll の床を撮影(複写)した写真を、その床の上に展示しました。志賀氏が経験したある出来事から着想を得た本作は、写真の真贋や物の価値に主題を置いた内容となりました。(藤木)
NAKANO’s COMMENT
藤木さんとお話ししていると自然とものづくりの根幹は、自分の中に眠っているのではないかと考えさせられました。自由な表現であるが故に忘れてしまう「自分にとっての自由の定義」を、写真を撮る上で改めて考えるべきだと思いました。
スペシャリストに聞く6つの質問
Q1 写真の好きなところ
サイズが可変できて、複製ができることが魅力です。大きい写真はインパクトがあるし、写真家の気持ちも伝わってくる。一言で言うと、印刷物であることが写真の特別なところだと思います。
Q2 最近気になるフォトグラファー
山上新平さん。今年の年末あたりに Rollで展覧会をする予定です。お酒の席で初めてお会いして、その場でお互い感じるものがあり、その後写真の話をしていく中で彼の視点に興味を持ちました。
Q3 業界を目指す人へ
本当に撮りたいものがない人には、おすすめできない業界です。写真家として生きていくことを考えると、そのハードルは高く、なかなか上手くはいかないものです。でもどうしてもならやるべきです。
Q4 衝撃を受けた写真
古屋誠一さんの写真です。奥さんのクリスティーネを被写体にした作品は、なぜか胸を打つものが多く、長い間ずっとそれらの写真を発表し続けている古屋さんの生き方に興味を持っています。
Q5 フォトグラファーと出会う場所
お酒が好きな人が多いですよね(笑)。お酒の席でご一緒して、色々な話を聞いて、フィーリングがあえば、改めてお会いして一緒に仕事をするというパターンが多いです。
Q6 キーアイテム
10年以上、袈裟掛けしているキーストラップです。これがあれば大事な鍵たちを絶対に落とさないので、安心です。毎日着けている指輪や時計みたいなもの?で、常にないと気持ち悪いです。

撮影・インタビュー
中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/

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