アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。
Vol.06
大橋麻里奈が考えるアーティスト写真
▼今回のSPECIALIST
大橋麻里奈 (おおはし・まりな)
2013 年にロッキング・オン入社。2014 年より音楽雑誌『ROCKIN’ON JAPAN』のアートディレクターに就任。2022 年より同誌の副編集長も務める。エディトリアルを中心に、rockin’on sonic など自社イベントの VI、アパレルなども担当。

アーティストのイメージを拡張させるのは、雑誌の存在価値のひとつです。
中野 SNS の普及で音楽と写真が密接になってきている中、アーティストや音楽の魅力を伝える上で写真というメディアは相性が良いと感じます。『ROCKIN’ON JAPAN』のアートディレクターとして、どのような写真を求めていますか?
大橋 メディアの人間からすると、写真は読者とのコミュニケーションツールだと考えています。読者が求めているけれど、アーティスト自身では発信できない部分、気付いていない部分を発信することで、メディアとして新しいコミュニケーションを提示したいという意識が強くあります。
中野 アーティスト側に立ちつつも、新しい一面を引き出すということですね。
大橋 そうですね。アーティストのイメージを拡張させるのは、雑誌の存在価値のひとつです。そういったチャレンジの場としての雑誌は、SNS の発信とは違う影響力を持っていると思います。
中野 アーティストにはどうやって切り込んでいくのでしょうか?
大橋 例えば、殻をひとつ破ってあげるために、普段とは違うトーンのフォトグラファーや企画を当ててみたりします。ただ、チャレンジと同時にアーティストが背負うものを守ることも大切なので、パーソナルな部分も含めて精査します。相手のことを尊重しつつ、新しい扉を提示するイメージです。
中野 大橋さんがディレクションする際、具体的にはどんなワークフローになるのでしょう?
大橋 企画を立てて、フォトグラファーと打ち合わせして、撮影にも立ち会います。撮影後は写真セレクトまで行ない、編集部と一緒にページを組み立てていく流れになります。企画から芯をぶらさずに、舵取りをする役割ですね。
中野 最近のアーティストの変化を感じる部分はありますか?
大橋 若いアーティストはセルフプロデュース能力に長けている方が多く、やりたい音楽や表現が明確にあるんです。それに、圧倒的に写真慣れしてますから、チャレンジングな提案も物怖じせずに受け入れてくれます。その反面、利き顔など自分はこう見せたいというフィルターの厚さも感じます。それを崩すかどうかも、人によって見極める必要があります。
中野 フォトグラファーも空気を読みながら、技術面でアップデートして、距離感の押し引きを見極めないといけませんね。『ROCKIN’ON JAPAN』はエッジの効いた若手や、海外のフォトグラファーを積極的に起用していますよね。
大橋 雑誌としても新しい価値を提示しなければ生き残れないので、意識的に新しい表現やワールドワイドな目線を狙っているからですね。世界基準で張り合えるマインドでいたいんです。どうすれば読者にとって「憧れ」が作れるのか考えて、海外の方も日本の方も分け隔て無く起用します。
中野 ちなみにキャスティングの際、写真のテイスト以外に何を重視しますか?
大橋 キャラクターです。ポートレイト撮影は人間同士のコミュニケーションなので、相性は重要だと思います。アーティスト自身のプロモーションでは選択肢にあがらないであろうフォトグラファーでも、マッチしそうならキャスティングします。逆にテイストは合っていても、人間的な相性が良くないと感じれば避けることもあります。
中野 コミュニケーション能力を重視する話は良く聞きますが、キャラクターを意識してマッチングさせるという手法は面白いですね。
大橋 加えて、『ROCKIN’ON JAPAN』は読み応えのあるロングインタビューも特色のひとつなので、アーティストを本質的にどう見せるか、言葉とビジュアルを並行して企画することに注力しています。このタイミングでこの作品を作るなら、こういう考えなんだろう。だったらその気持ちを伝えるにはこの切り口の特集にしよう、といった具合です。
中野 キャスティング以前に編集的なキーワードがあり、すごく立体的な作り方をされているんですね。
大橋 最終的に企画時よりもクオリティの高い状態に持っていきたいので、その時だからの化学反応が起こるテーマを考えて、フォトグラファーにオファーするようにしています。
中野 言葉の強さ、ジャーナリズムも『ROCKIN’ON JAPAN』の本質であるというお話ですが、その言葉をフォトグラファーはどこまで理解するべきですか?
大橋 ゴールが共有できていれば、必ずしも言葉に置き換えなくていいかなと思います。被写体とのコミュニケーションが高まるなら、過程は気にしていません。
中野 近年 SNS などでライブ写真の要望も高まっていますよね。
大橋 アーティストにとってライブは本質の部分ですからね。ライブ写真においては、彼らがリラックスできる環境を作ることが優先されるべきだと思います。
中野 距離感は近くなくても継続して撮影に入っているパターンもあれば、距離感は近いけれど技術的に解決できていない人が入っているパターンもあって。個人的に今のライブ写真のシーンを眺めると、そんなちぐはぐ感を感じます。
大橋 コロナ以降、若いライブフォトグラファーが増えましたが、入れ替わりの激しい業界でもあるので、優れた写真を撮れる技術を持っているかどうかは重要です。営業力で仕事を獲る人もいますが、ビジョンを持って誰に依頼するのか、クライアント側もレベルを上げて、一緒にシーンを作っていく必要があると感じています。
中野 機材が発達したことで偶然撮れてしまうこともあり、「ライブ撮影って楽しい」という初期衝動は理解できます。ただ、その後にアーティストとの距離の詰め方と並行して、技術力も上げていかないと結局は似通った写真が溢れるだけになるんだろうなと危惧しています。セルフリピートになった時、アーティストの欲求に応えられなくなるだろう、と客観的に思うんです。この連載を続けていると、最前線で活躍する人達は様々なアーカイブと技術力をミックスしてアウトプットしていると感じるんです。若手の頃に割とすんなりと現場に入ることができたライブフォトグラファーこそ、そこで行き詰まるのかなと。
大橋 ライブってそれ自体が素敵なので、ある程度どこを切り取っても成立しちゃうんです。だから、技術力にフォーカスしなくてもやっていけちゃうっていうのは正直なところあるとは思うんですよ。逆に、その中で違う写真を見せるのがとても難しいので、アイデアの引き出しの数が必要だと思います。
中野 ライブ写真にも名作と呼べる作品が多く残っています。例えば最近、ボブ・ディランの伝記映画『名もなき者 /A COMPLETE UNKNOWN』が公開されました。ディランの有名な写真は音楽写真の歴史のひとつとしてアーカイブされているのですが、同様にライブ写真も少なそうに見えて実は結構残っていたりするんです。若いライブフォトグラファーにはそういうものを振り返って見てほしいなと思います。
大橋 確かに普遍性や本質など過去の作品から学べることは多いですよね。
中野 最後に、この先、フォトグラファーにとって必要とされる技術やスキルは何だと思いますか?
大橋 考えるべきは、自分の武器をどれだけ伸ばせるかどうかで、探究心を持ってクオリティを上げ続けられるかに尽きると思います。現場でのコミュニケーションは少なくても、あがってくる写真が素晴らしいフォトグラファーもいるので、お互いを理解して最大値を目指す姿勢が必要だと思います。
中野 自分の特性を理解して、それを発揮できる現場を増やしていくといったことですかね。
大橋 オーダーする側や時代とのマッチングもあるので、自分を信じて個性を伸ばし続けることが大切だと思います。
中野 最近、自分の技術的なアーカイブを写真に活かすことを考えています。昔だったらしない撮り方でもできるならやればいい、みたいな。それが今っぽい技術の使い方だと感じるし、「中野はこんな写真が撮れるんだ」と思ってくれる方が楽しいなと。
大橋 若いフォトグラファーには感性を120%発揮できるディレクションをすることが多く、中堅以上の方には意外性を求めていつもと違うオーダーをしてみたりします。昔、流行っていたライティングで今のアーティストを撮影すると、結構新鮮だったりするんですよ。
中野 写真業界も次の段階に来たというか、誰でも撮れるからこそマインドを変えていく必要があるなと感じます。
ロッキング・オン『ROCKIN’ON JAPAN』
上:2025年3月号 サザンオールスターズ 下:2025年4月号 SEKAI NO OWARI・Fukase


上:表紙の立ちション風写真はその場のノリではなく、配置やポーズなど緻密に決め込んだ上で撮影に挑み、メンバーのアドリブが引き出せるよう、現場の空気をスタッフ全員で作って撮影しました。
下: バンドのアート感を出しつつ、Fukaseさんの素が見えるドキュメントを目指しました。現場では本人含むクリエイターの良さが出るよう決め込み過ぎずに、その日その時間の空気を最大化させるようディレクションしました。(大橋)
NAKANO’s COMMENT
音楽業界の現在地を俯瞰で見ながら、メディアとしてアーティストありきのディレクションを体現している大橋さん。フォトグラファーと被写体のセッションによる化学反応を常に意識しているというお話には、常に提案できる要素をこちら側も用意する必要があるという矜持と捉えました。
スペシャリストに聞く6つの質問
Q1 写真の好きなところ
抽象画のような写真を撮る人もいれば、記憶の中をのぞき込んだような写真を撮る人もいる。現実と想像の間を非常に曖昧にできるメディアで、そこが写真の面白さだと思います。
Q2 最近気になるフォトグラファー
国内外、プロアマ問わずどんな作風でも、撮っている人がこれまでどんな時間を過ごしてきたのか、撮られている人・物の背景に流れる時間が想像できる写真に惹かれます。
Q3 業界を目指す人へ
原点回帰、自分がどうして写真を撮っているのか、そこをしっかりとフォーカスして掘り下げてみると、その過程で他の人にない自分の武器が見つかるし、磨くことができると思います。
Q4 衝撃を受けた写真
お仕事をしたことはないのですが、髙橋恭司さんの写真はすごく好きです。高橋さんの写真は声のないものでもその声が聞こえてくる、被写体が主役になっていると感じさせられるんです。
Q5 フォトグラファーと出会う場所
Instagram が多いです。最近は皆さんタグ付けをされているので、それを続けて追っていくと面白い写真に巡り会うことがあります。あとは、気になったアートワークのクレジット、展覧会ですね。
Q6 キーアイテム
シュールな雑貨が大好きで、色々なものが家に溢れているんです。その中からひとつ持ってきました。常日頃から面白いアイデアを探して街を歩いたりしているので、雑貨集めもその一環です。

撮影・インタビュー
中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/

特集「LEDライト最新活用術」&別冊付録「CM・映像 キャメラマン&ライトマンファイル 2026」。
巻頭特集ではフォトグラファー福岡秀敏が俳優・田中麗奈をLEDで撮り下ろし。さらに倭田宏樹、森山将人、川村将貴、須藤絢乃による現場事例や機材検証を通して、LEDライティングの実践的な活用方法を解説。「Aputure LED 4機種 実践検証」ではCOB型、パネル型、スポット型、ストリップ型という異なる光源を用い、静物撮影で検証。光の質や質感表現の違いを比較しながら、LEDライトの特性を具体的に探る。撮影と解説は中村雅也氏が担当した。
【広告特集】King & Prince「STARRING」のクリエイティブ
2025年12月24日発売のKing & Prince 7thアルバム「STARRING」。本企画では、収録曲それぞれを“架空の映画の主題歌”に見立て、1曲につき1本の特報映像を制作するという前例のないプロジェクトを徹底取材。本編は存在しないにもかかわらず、長編映画を想定した設計で10本の特報映像とポスターを制作。さらにレッドカーペットイベントや映画館での上映会まで展開するなど、アルバムの枠を超えた大規模なプロモーションとして構築されている。特報・ポスター制作全体のプロデューサー加藤諒氏をはじめ、3人の映像監督、アートディレクター、フォトグラファーが参加。企画設計の背景と制作プロセスをそれぞれの立場から語る。
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ほか