写真を楽しむスペシャリストたちVol.12 小髙美穂が考える写真の“今”

アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。

小髙美穂(おだか・みほ)

キュレーター、写真研究者、愛石家。上智大学英文学科卒業、ファルマス芸術大学(イギリス)写真学科修士課程修了。写真展やフェスティバルでの展示キュレーションや展覧会コーディネート、執筆などを行なう。日本大学芸術学部、東京工芸大学にて非常勤講師を務める。

中野氏が組んだセットを使用して、本人が iPhone でリモート撮影。

中野 「Independent Curator of Photography」という肩書きはどのような定義の仕事なのでしょうか?

小髙 「Independent」は、どこにも属していないという意味ですが、美術館やギャラリーといった特定の箱を持たずに、色々な方と色々な場所で展示や企画を手がけています。また、「キュレーション」についても、展示に限らず、写真集などの書籍や、イベントやプロジェクトなど幅広い意味で捉えています。

中野 キュレーション業界もイノベーティブ思考になっている印象です。フォトグラファーの立場としては、国内外の写真のトレンドに興味があります。

小髙 写真表現自体が拡張していると感じます。写真は技術の進化によって、常にメディウムが変化してきたので、何をもって写真なのか、定義が難しいんです。写真が「最終的にどの形態で存在するのか」まで含めて、作家性が表れやすくなってきたように思います。写真は誕生以来、陶器や布など様々な素材に写真が転写されたりしていますが、最近はますますその選択肢が多様化していると思います。

中野 AI で生成された作品が賞を取っちゃったみたいな話もありますね。

小髙 ありましたね。その一方で、アナログの価値はものすごく上がってきているとも感じます。古典技法を試してみたいという学生も増えていて、それこそ暗室でゼラチンシルバープリントを焼くことに興味を持つなど、デジタル以降の世代にとって暗室作業はむしろ新鮮な体験として受け止めている印象です。

中野 テクノロジーを駆使した技法が拡張している一方で、アナログに回帰している。それだけ豊富な選択肢の中で、アートピースとしての写真を選ぶお客さんはどういう傾向にあるのですか?

小髙 ニューメディアへの興味はあるとして、やはり古典的な写真への人気は根強いです。昨年、6年ぶりにパリ・フォトを観てきました。6年も経つと生成AI 以降の表現が出てきているわけですが、その中でもヴィンテージプリントや、60年代〜80年代のコンセプチュアルアートの作品も多く目にしました。会場全体としても時間を経たプリントが持つ存在感や、アーティストの手仕事が介在した作品が再評価されていたのが印象的でした。顧客も新しいテクノロジーだけに注目してるかというと全然そんなことはなく、手仕事やヴィンテージの価値はさらに高まっていくと思います。

中野 ちなみに、写真のテーマや被写体についての傾向はどうでしたか?

小髙 初回から毎年参加しているギャラリストによると、アートフェアであってもおのずとその時の世相や問題意識は反映されるようです。個人的に今回は、ポートレイトを含む人間がモチーフになってる作品が多い印象を受けました。

中野 その理由を分析すると?

小髙 生成 AI が発展して、「リアルとは何か」がわかりにくい時代だから、余計に「人間」という存在に関心がいくのかなと。技術革新の反動で人間臭さへの関心が増していると捉えました。

中野 若い子と懐古主義的な写真が増えているという話をするのですが、いわゆるフィルムライクな質感表現のムーブメントは未だに衰えないですよね。

小髙 皆さん好まれますね。

中野 彼らの考えるアナログは、我々が捉えるアナログとはちょっと違うと感じているんです。あくまでアナログ「感」であって、アナログではない。みたいな。

小髙 私たちの場合、原体験としての懐かしさ、育ってきた頃に思いをはせるといった感覚があると思うんです。でも、今の世代の子はそれがリアルだろうとリアルでなかろうと、エモさという感覚は共通に持っているのだと感じます。

中野 僕なんかは、それは作られたエモさだと思ってしまいます。80 年代より前って汚い雰囲気というか(笑)、少なくともキラキラ感はなかったはず。

小髙 今では、家族写真をフィルムで撮る方は少ないでしょうし、そもそもプリントアウトしてアルバムを作ることもないかもしれません。当たり前にデータとして写真を見ていて、でもフィルムのプリントに懐かしさを感じる。直接経験していないことや自身の記憶以外に感じる“ 懐かしさ ” って面白いなと思います。

中野 小髙さんはどのような写真家に興味を持つのでしょうか?

小髙 様々な媒体、表現方法がある中で、この人は必然的に写真に行き着いたと思わされる表現に興味をそそられます。

中野 その必然性というのは、作家のどんな姿勢から垣間見えるのでしょうか?

小髙 写真は本来1枚の画像でしかないですよね。でも、そこからいかようにも解釈する自由がある。同じ1枚の写真でも、私ではない別の人の手に渡ったら、全然違うことを感じ取るかもしれない。その写真が見られる時代によっても意味が変わってしまいます。究極的には、写真は “ 点 ” の表現でしかないのに、その点が時間や記憶を呼び起こす装置になる。その根源性に惹かれるのかもしれません。その世界にグッと引き込まれる魔力があると思うんです。そうした根源的な力を持った作品に惹かれます。

中野 僕は商業写真のフィールドで撮影していますが、流行りの推し活に喜ばれそうな写真を撮る機会もあります。その写真を見たファンの人たちの反応を見ると、受け手によって捉え方は様々だなと感じるんです。撮影中は被写体と向き合うことしか考えていませんが、今のお話を聞いて、写真としての意味合いみたいなものは考えた方がいいのかなと思いました。写真家との付き合い方でいうと、どのようなコミュニケーションをとっているのですか?

小髙 以前はギャラリーに勤務したり、マネジメントに携わっていたので、作家と一緒に作品のテーマ、言葉、コンセプトを考えてきました。キュレーションにおいても、作家の意図を丁寧に拾いながら、鑑賞者にどう届くかを同時に考えるので、対話のプロセスを重視しています。

中野 マネジメント視点でいうと、今の時代の作家に必要とされていることは何だと考えますか?

小髙 今の時代って作家が考えるべきことが複雑化していると思うんです。作品のテーマや、マーケットの傾向、発信の仕方や方向性など、色々な要素が複雑に絡み合って、不安や焦りに繋がることも。ただ、過去にどんな作品を作ってきたのかを含めて、その人の本質は大きくは変わらないはずなので、マネジメントとしては、その軸を客観的に見て、本質を見落とさないように整理し、一緒に並走していくことが大切だと思っています。大学のゼミの場合、約1年間を卒業制作に費やしますが、皆さん悩むことも多いですし、やりたいことも多く、影響も受けやすい。でも、その人の興味関心や、その人だけの表現が何かを考えた時、ひたすらに削いで最後に残るものがいい作品になるはずです。

中野 自分のことをそこまで客観的に考えるのは難しいですよね。だからこそ、マネジメントが必要になってくると。

小髙 客観的な視点を一緒に持つ相手がいることで、自分では気づけない部分が見えてくることは多いと思います。

中野 表現の手法や作品の見せ方という意味では、ここ数年でどんな変化を感じていますか?

小髙 見ることのレイヤーの問題は関心を寄せているテーマのひとつです。1枚のイメージの中もそうですが、空間において物理的な奥行きや物質性を伴う作品は、近年の視覚表現の潮流のひとつです。気になるフォトグラファーで挙げさせていただいた、ノエミー・グーダルもまさにレイヤーの問題を扱っていて、空間に視覚的な違和感を作り出す作品を制作している作家です。

中野 違和感というのが、ひとつのポイントですよね。AI 生成時の性能不足によるネガティブな違和感ではなく、人間にしか作り出せないポジティブな違和感。意図せず生まれるものも、あえて施すものでも、そこに惹かれている。そういう作品が生まれ始めてるという潮流は絶対にあると思います。

小髙 その違和感の本質ってすごく繊細なんですよね。感情や経験に基づいてこそ感知できる、人間ならではの領域だと思います。

中野 人を惹きつけるという面では、アート作品としてだけではなく、商業写真においても有効な要素です。ただ、これまでの商業写真には完璧さが求められてきた背景があるので、完璧じゃないものを作るのは、完璧に作るより難しいとも感じています。相当深く自分に入り込んで、客観的に見て外さなきゃいけないわけですから。意図した不完全さを成立させるには、技術的にも精神的にも高いレベルのコントロールが必要になります。

Tokyo Dialogue 2024

P =鈴木のぞみ 俳句=藤井あかり 展示風景撮影=加藤健

キュレーションをした「Tokyo Dialogue 2022-2024」では、写真家と書き手がペアとなり、京橋を舞台に作品を制作していただきました。詩、俳句、短歌という3つの形式と写真の掛け合いによって生まれる作品はまさに科学変化のようで、思考の実験の場でした。(小高)

NAKANO’s COMMENT
1枚の写真が持つ多面的な意味合いを強く意識することが、発信する側にも必要ではないか? と小髙さんのお話を伺って考えさせられました。また、アートに限らず商業も含めた写真表現全般に必要な、AI との向き合い方のヒントにもなりました!

Q1 写真の好きなところ
記録でありながらも、それを見る人や見る時代によっても、その意味や役割が変わっていくところが好きです。「見終わる」ということがない写真の性質に惹かれます。

Q2 最近気になるフォトグラファー
以前キュレーションした展覧会の展示作家ノエミー・グーダルの最新作に注目しています。屋外や室内にアナログのプリントを配置し、再度写真に撮影するのですが、動画を融合した表現も面白いです。

Q3 業界を目指す人へ
写真というメディアにこだわらず、人文学や科学などにも意識を開いてみることをおすすめします。写真に関係なさそうでも、自分の興味がどこにあるのか知るきっかけになるはずです。

Q4 衝撃を受けた写真
デンマークの写真家、クラス・クレメントの写真集『Drum』です。ダブリンのバーでの一夜の出来事を捉えた写真集で、人間の孤独や存在など本質的な姿が描かている作品だと思います。

Q5 フォトグラファーと出会う場所
展覧会やアートフェアなどのイベントでお会いすることが多いです。あと、ポートフォリオレビューに参加することもあるので、そこで面白い作家さんに出会うこともあります。

Q6 キーアイテム
海辺などで拾った石たちです。石も写真も、変化し続ける生き物のようで、写真を撮ることも石を拾うことも、無数の可能性や瞬間との出会いという点ですごく似ている気がします。

撮影・インタビュー

中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/



【特集】アーティストを撮る

■PART 01 当瀬真衣 × 私立恵比寿中学
巻頭特集ではフォトグラファー当瀬真衣が、結成17年目に突入したアーティスト・私立恵比寿中学(中山莉子は公欠)を撮り下ろした。仕上がりカットのほか、ライティング設計図や撮影コンセプトも併せて紹介する。

■PART 02 4名のフォトグラファーが語るアーティスト写真
伊藤元気、キム・ヨンジュン、平松真帆、横浪 響が撮影したアーティスト写真撮影を紹介!フォトグラファー達は、一枚の写真にどんな意図を込めるのか。どのような距離感で向き合い、どの瞬間を選び取るのか。ライティング図や使用機材、現場で役立つアイテムも紹介しながら、それぞれの撮影アプローチを具体的に紐解く。

【FEATURE】 戎 康友「A Whole California Anthology 1993-2025」
【広告特集】「LES SIX」のブランドビジュアルタブロー・ヴィヴァンによる表現
【好評連載】
Create My Book -自分らしいポートフォリオブック vol.20「金村美玖とアーティスト写真」
ニッポンフォトグラファー探訪 vol.21 長崎で紡ぐ 陰影と物語性を宿すポートレイトkanako
SHOW CASE #39 志村 将
ゼウスのスチルライフマジック 高井哲朗 vol.62 ガリレオ温度計のある風景 〜研究室の昼と夜〜
長山一樹流 違いを生み出すコマーシャル・ポートレイト 第15回 紳士のポートレイト
GLAY CREATIVE COLLECTION 2024- VOL.23 The Millennium Eve 2025 LUNA SEA| GLAY 初回生産限定盤 封入特典写真集
フォトグラファー生存戦略 vol.38 藤井利佳✕黒田明臣 「写真への愛と、表現を言語化することの大切さ」

ほか