玉ちゃんのライティング話 09〜レンブラントライティングで撮るポートレイト〜


照明機材のオーソリティ
「玉ちゃん」こと玉内公一氏と、
担当編集者との掛け合いでお届けする、

ライティングの基礎と実践。
2009年から約3年間にわたって

コマーシャル・フォトで
連載した記事から抜粋して

お届けします。


 これまでブツ中心にライティングの話をしてきましたが、今回はポートレイトライティングの基本をお話ししましょう。
ポートレイトのライティングでよく知られるのは「レンブラントライティング」ですね。

右斜め方向に顔を向けた人物の鼻筋に対して、斜めに光があたるようにバンクライトをセット。フィルインとして左側にレフを立てている。全体に回し気味の光だが、シャドー側の頬に三角形のハイライトができる「レンブラントライティング」である。この写真のようにカメラ方向に向いている顔半分がシャドーになる場合を「ショートレンブラント(ライティング)」と言う。メインライトを拡散光にしないで、フィルインを入れなければよりシャドーとハイライトのコントラストがついた仕上がりになる。

 あ、知ってます。影の部分が多い重厚なポートレイトの撮り方ですね。

 うーん、感覚的には間違っていないのですが、正確にはちょっと違う。

「キアロスクーロ」という言葉は知ってますか? イタリア語のChiaroscuro。
「明暗」という意味ですが、絵画や版画では、明暗のコントラストによって立体感を出す表現のことです。
もちろん写真でもそうした明暗表現を「キアロスクーロ」なライティングと言いますが、レンブラントライティングはポートレイトにおける「キアロスクーロ・ライティング」のひとつなんですね。

 つまりシャドーとハイライトのコントラストがはっきりしたポートレイトライティングが、すべてレンブラントライティングというわけじゃないということ?

 そうです。もっともレンブラントライトが広まったのは、かなり昔にコダックが写真館やポートレイトフォトグラファー向けに出した指南書からですから、今では、その解釈もあやふやになっているかもしれませんが…。

 では具体的にレンブラントライティングというのは、どういうものなんですか?

 シャドーを多用してドラマチックな表現をした画家レンブラントにちなんで名付けられた名前ですが、基本的には人物の鼻筋に対して上方斜め45度から光をあてたライティングのことなんです。

 顔半分に光があたり、一部の光が鼻筋を越えシャドー側の頬にもあたる。そこに三角形のハイライト部ができる。
この頬の三角形がレンブラントライティングの特徴です。

レンブラントライティング(正面)

レンブラントライティングとは人物の鼻筋に対し、ライトを斜め45度ぐらいの角度でやや上方からあてて、シャドーになる顔半分の頬骨辺りに三角形のハイライトを作るライティング。顔の立体感、陰影が強調される。カメラアングルが変わっても、鼻筋に対してのライト角度が45度ならば、三角形のハイライトが入るレンブラントライティングと言える。


 レンブラントライティングは、顔の立体感を強調して力強い印象を出します。
また顔を細く見せるので、ちょっと太った人をやせて見せたり、丸顔の人を大人っぽく見せたりできますね。

 でもそれだけだと、シャドー面積の多さとか、重厚感とはあまり関係ないような…。

 それについてはショートレンブラントブロードレンブラントの話をしなくてはなりませんね。
重要なのはどの方向から顔を撮るか。

たとえばカメラ位置から向かって右斜めに顔が向けられている場合、同じ鼻筋45度でも、左方向からの順光をあてれば顔の広い部分が明るくなります。それをブロードレンブラントと言います。

一方、右から鼻筋に対して45度の光をあてると、カメラに向いていない顔半分が明るくなり、全体としてはシャドー面積の多いポートレイトとなる。それがショートレンブラントです。

ブロードレンブラント

向かって右向きの顔。鼻筋に対し左45度から(つまりカメラとほぼ同位置から)光をあてる。カメラに向いた顔の広い面積が明るくなるので「ブロードレンブラント」と言う。奥の頬に三角形のハイライトができている。

ショートレンブラント

「ブロードレンブラント」とは反対の位置(鼻筋に対し右45度)からライトをあてる。カメラ光軸に対しては右手より直角に入る光となり、明るい部分の少ないシャドー中心の表現となる。これを「ショートレンブラント」という。

レンブラント(プロフィール)

横顔(プロフィール)も、鼻筋に対するライトの角度が45度であればレンブラントと言える。右向きのこのプロフィールの場合、カメラ光軸に対し、右奥斜めからの半逆光となるが、頬のハイライトはやはり三角形。

 日本でレンブラントライティングと言えば、一般的にこのショートレンブラントを指すことが多いので、レンブラントライト=影の多い重厚な表現というイメージがあるのです。

 なるほど。

 しかしレンブラントライトには問題点もある。

立体感が強調され、重厚さが出るということは、顔が老けて見える。
特にホリの深い西欧人の場合、ハイライトとシャドーの部分のメリハリがつきすぎるんですね。
それを解決するライティングは…。

 その、ライティングとは?

 次回に続きます。

▶玉ちゃんのライティング話 アーカイブ

玉ちゃんのライティング話(Kindle版)

コマーシャル・フォトで約3年にわたり連載された「玉ちゃんのライティング話」を再構成した1冊。カラー作例をふんだんに使い、プロのスタジオ撮影の基礎を解説したライティング読本です。

Amazonで見る

コマーシャル・フォト2024年8月号

【特集】視点を変える。記憶に残す。「ブツ撮り2.0」
「ブツ撮り」には2種類ある。ひとつは誰がどう見てもその被写体だとわかるもの。被写体に正面― あるいはその被写体がもっとも美しいとされる位置―から捉え、被写体の質感や色を正しく写す撮影。そしてもうひとつは、視点を変えて、被写体に新しい価値を見出すもの。今回は後者の「ブツ撮り」を特集。見慣れた物の見方を変えて、静物に新しい命を吹き込む6名のフォトグラファーのアイデアの源泉を探るため、誰もが1日に一度は目にする「ティッシュ」という同一テーマを撮り下ろしてもらい、被写体との向き合い方、こと〞ブツ撮り〝への考え方について聞いた。
泊 昭雄/Kaz Arahama/水野谷維城/瀧本幹也/望月 孝/李 有珍

【FEATURE 】 須藤絢乃「Fragment」/岡 祐介「ジンシャリ(JinShari)」」/HIRO KIMURA Yohji Yamamoto POUR HOMME × ISAMU KATAYAMA BACKLASH「HEROES」

【別冊付録】 スタジオデータブック 2024
各スタジオの諸設備、サービスの内容がひと目でわかるアイコン表記や一覧表で、 検索しやすい構成となっている。 スタジオルポ、新規にオープンしたスタジオ、リニューアルしたスタジオの情報など最新情報も網羅した、スタジオ探しをサポートする必携の1冊。

ほか