ゼウスのスチルライフマジック Vol.33

スプーンリングは愛と平和のシンボル
Photo&Words: Tetsuro Takai Photo: MIWACO

高井哲朗が
スタジオスチルライフ撮影の
アイデアと 愉しみを 伝授
創造主ゼウスのように
光を操って 宇宙を創造しよう
スチルライフ それは あなたが
神になれる世界

大阪から大量のスプーンと共にMIWACOさんがやってきた。
グラフィックデザインから撮影、レタッチまで幅広くこなすMIWACOさんは、
スプーンリング職人という顔も持つ。
古いスプーンの柄で作られたシルバーリングに
まつわる「お話」に興味を惹かれ、早速、撮影することとなった。

Photo:MIWACO



17世紀のスプーンリングのお話

ゼウスクラブで 時々 レタッチをしてくれる
MIWACOさんが 大阪からきた
スプーンで作った指輪を たくさん持ってね

こんな話をしてくれた

“スプーンリングの歴史は 17世紀のイギリス
 
裕福な家の 召使いとして 働く男が いました
彼には 結婚を申し込もうと思う
大切な女性がいました

しかし 彼には 経済的な余裕は 
ありませんでした
その女性を 喜ばせたいと
高価な 銀のスプーンを 雇い主の 家から盗み
それをスプーンリングにしました”


つまり彼は 本物の婚約指輪を 買う代わりに
銀のスプーンリングを 送ることで
婚約者に喜んでもらおうと 考えたんだ

愛を伝える 手段
そんな愛おしい指輪を 写真にしてみたい

好きな人のためには 悪人になっても 愛を伝えたい
正義と悪
世界は 愛で動いてるんだ

なんてね 考えてしまうな

並べるとき すごく いい音色する
気持ちいい 音楽みたい
こんな感じの 愛おしい音 撮れるといいね

光をあてよう 音色が見えるように
そこにある 愛ある形を伝えよう

ライティングの組み立て             


ライト:❶ broncolor Pulso G Head+Standard Reflector P70
    ❷broncolor Boxlite 40 ❸GENTOS T-REX TX-850Re
カメラ:Canon EOS 5D Mark II/TS-E90mm F2.8L マクロ/1/100秒  f16  ISO50

 

アクリルディフューザー越しに、
アンバーのカラーフィルターをつけたライト❶を打つ。
スプーン面に丸いスポットが入る。
ハードボックスライト❷で全体を明るくしつつ、
リング側面にハイライトを入れる。
LEDハンディライト❸をリングにあてて完成。

古い手紙がプリントされた用紙を敷き、リングとスプーンを配置。
要素の多い画面の中で、いかに「リングを目立たせるか」がポイント。
シフトレンズ(キヤノンTS-E90mm F2.8L)の「逆アオリ」で撮影。
画面手前と奥を大きくボカすことで、中央のリングを浮かび上がらせる。
使用したストロボは、ディフューザー越しのリフレクター光(右上)と
ボックスライト(左手前)の2灯。
右上のライトにはアンバーのカラーフィルターをかけている。
さらにリングを際立たせるため、ゼウス高井が得意の「ハンディライト・スポット」を伝授。
LEDハンディライトは光が強いので、ストロボをベースにした撮影(シャッター速度1/100s)でも効果的。

カメラの色温度設定とカラーフィルター

撮影でこだわった点は、画面全体の色味。
A.カメラの色温度設定5500K。
 右上のストロボのカラーフィルターはなし。
正確な色味は出ているが、クールすぎる印象。

B.カメラの色温度設定を7500Kに変更。
 右上ライトのカラーフィルターはなし。
カメラの色温度設定を上げることで全体がアンバーに転ぶが、
スプーンへのストロボ光の映り込み(ハイライト)は白いまま。

C.色温度設定7500Kで、さらにライトにカラーフィルターをかけると、
スプーンのハイライトにも色がのり、画面に統一感が出た。




ZEUS’S STILL LIFE MAGIC



Photo:高井哲朗



1960年代のスプーンリングのお話

1960年代 ヒッピーと呼ばれる 文化が 生まれました

第二次世界大戦が終わり
それまでの 抑圧 保守的な キリスト教に対する 
カウンターカルチャーとして 生まれた ムーブメント
ベトナム戦争の 反戦運動も ありました

ヒッピーのスローガンは LOVE & PEACE
ピースサインです
自然回帰的な 思想のもと 活動してました

拝金社会 物質主義の 支配からの 解放を目指し
とても独特な ライフスタイル
ファッションスタイルを 作り出していきました

「ヒッピー風スタイル」
長い髪と ひげ ベルボトム フラワーチルドレン です

この頃に人気だったアクセサリー スプーンの指輪

物質主義からの 解放を 目指した 彼らにとって
既製品を 身につけることよりも
手作りで リメイク アップサイクルの
アクセサリーを作ることが 流行していました

スプーンから リングを作り 身につける ということは
自然な 流れでした

人々からの 注目を集め 愛を 伝える手段

スプーンリングの 物語です

そして もう一つ “スプーニング”

柔らかな まあるいカーブは
しまう時 綺麗に重なり合います
それは 後ろから 抱きかかえられたみたいに
包まれたように 感じられます

Do you want a spoon? 

ハグしたい 抱きしめてほしい
触れ合いです

後ろから抱き寄せる人は Big Spoon(ビッグスプーン)
抱き寄せられる人は Little Spoon(リトルスプーン)

平和と愛は 利他的な願望であり 利己的な 欲望ではないのです

“Make Love Not War”

スプーン 柔らかな愛の形


ライティングの組み立て             


ライト: ❶broncolor Boxlite 40 ❷broncolor Pulso G Head+Standard Reflector P70 
❸OPPSK LED-UVBAR
カメラ:Canon EOS 5D Mark II/TS-E90mm F2.8L マクロ/1.6秒 f11 ISO100

ライト❶。出力は弱め、近い位置から打つことで光を散らさず、
スプーン面のみにハイライトを入れる。
ライト❷。高い位置から打つことで全体を明るくする。
リフレクター直光(生光)なので、
金の砂やスプーンのエッジは硬く描写されるが、
スプーン面のハイライトは小さい。
ライト❶❷のミックス。
シャッター速度を1.6秒にして、スプーンの上で
LEDブラックライト❸を動かして紫の光跡を描く。
動かし方のコツとして、ブラックライト本体は
画角に入らない位置に構えておき、シャッターを押した後、
スプーンの上で移動(スライド)させる。
先幕シンクロのストロボ❶❷が発光してCの状態が露光されているので、
残りのシャッター解放の間、ブラックライトが画角内に入っても、
ライト本体は写らない(ストロボのモデリングはオフ、スタジオ全体を暗くしている)。

金色に着色された砂をアクリルケースに敷いて、スプーンを並べていく。
俯瞰からの撮影。右斜め上、近距離からのボックスライトと、
トップからのリフレクター直光のストロボ2灯に、手持ちでLEDブラックライトを加えるライティング。
室内とカメラ三脚がスプーンに映り込まないように、黒布を三脚前に広げてかぶせている。
写真下・左が黒布なし。写真下・右が黒布あり。スプーン面の余分な映り込みが消えた。
使用したLEDブラックライト。
複数のライトが縦一列に並んでいるところが、このライトを選んだ理由。
ブラックライトを被写体の上で移動させて、スプーン面にブラックライトの光芒を映し込む。
長時間露光で動かすと、複数のライトの光芒が1本1本のラインとなり、スプーン面に縞模様を描く。

 

 

MIWACO
大阪在住。学生の頃からグラフィックデザインや印刷業に従事。その傍らでレタッチや写真撮影に興味を持ちたずさわる。近年ではフリーランスとしてグラフィックデザインや撮影、モノづくりなど幅広く活動中。今回撮影のスプーンリングは商品撮影だけでなく制作、販売スタッフとしても関わっている。
Instagram:@miwacobalam_

高井哲朗
たかい・てつろう/1978年 フリーとして活動開始。1986年(株)高井写真研究所設立。広告写真を中心に活動するかたわら、ゼウスクラブを開催し、写真の可能性を伝導する。
www.kenkyujo.co.jp/
twitter.com/TetsuroTakai


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