【蒼井ゆい 短期集中連載】第3回「写真は『何を撮るか』で決まる──被写体探しこそがすべての原点」

写真は、構図や設定、編集スキルで決まるのではない。「何を撮るか」──そこですべてが決まる。

私はそう信じています。
機材の性能が上がり、誰でも“きれいな写真”を撮れる時代になりました。スマートフォンでも、AI補正や自動構図アシストがついています。

けれども、それで「写真として心に残る一枚」が撮れるかというと、それはまったく別の話です。構図が整っていても、色が綺麗でも、「なぜそれを撮ったのか」が写っていなければ、写真はただの情報です。

写真に必要なのは、技術ではなく、視点。そしてその視点は、「何を撮るか」という被写体選びからしか生まれないのです。

[絶景より、日常にある“問い”]

たとえば世界遺産や絶景スポットのような、「行けば誰でも撮れる」場所。
もちろんそこに価値がないとは思いません。ただ、撮る前から「美しいことが約束されている場所」では、“その人がなぜ撮ったか”という個性が浮かびにくいのも事実です。

逆に、何気ない道ばたの影、反射、ふんわりと差し込むやわらかな光──。

そういう日常の中のささやかな瞬間に、自分だけの問いや視点が宿る。「なぜこれを撮りたいと思ったのか?」という感覚こそが、写真に深みを与えると私は思います。

[被写体を見つけるための3つの行動]

良い写真は、良い被写体との出会いから始まります。そしてその出会いは、待っていてもやってきません。だから私は、次の3つを意識して歩きます。

・角度を変える
上・下・逆光・反射──同じ場所でも、見方を変えることで景色はまったく違って見えてきます。

・しっくりこなければ諦める
「なんとなく撮ろう」としても、あとで見返して刺さらない。だから見切る決断も大切です。

・カメラ越しに確かめる
肉眼で良くても、カメラのフレーム内で成立しなければ、私はシャッターを切りません。 

“良い被写体”は、画面の中でこそ見えてくることも多いのです。

[惹かれたときにだけシャッターを切る]

本当に惹かれた被写体に出会うとき、私は撮る前から「これは絶対に良く撮れる」という自信があります。
構図も光も自然に整い、気づけば何枚もシャッターを切っている。
そういうときの写真は、あとから見返しても何かが宿っている。

一方で、「なんとなく」撮った写真は、やはり“なんとなく”しか写っていません。
だから私は、惹かれないなら撮らない。撮る理由が曖昧なら、無理に記録しない。その線引きが、自分の写真を形づくってきました。

[続けるには「撮りたいもの」が必要]

私はこれまで何度か、「なんかうまくいかないな」と感じたことがあります。その原因はいつも、「その被写体に強い興味がなかった」ことでした。
もちろん、同じモチーフに何度も向き合って深めていくスタイルもあります。
でも私は、「撮りたいと思った瞬間を、無理なく撮り続けること」こそが、挫折せず、楽しく続ける鍵だと感じています。続ければ、写真は自然とうまくなります。


私の過去の写真は、決して“上手い”ものばかりではありません。
でも、「撮りたいと思ったものを撮り続けた」から、今があります。
写真を続ける理由も、上達の原点も、すべては「何を撮るか」にかかっている。この感覚があるかぎり、私はこれからもシャッターを切り続けます。

[被写体探しこそが、すべての原点]

写真は「どう撮るか」ではなく、「なぜそれを撮るか」。
そこに答えがなければ、どれだけ機材が良くても、見栄えが良くても、それは記録以上にはならない。
被写体を見つける目。「これを撮りたい」と思える自分の中の声。そしてそれを大切にすること。

すべての写真は「何を撮るか」から始まる。だから私は、「被写体探しこそが、写真のすべての原点」だと、今も変わらずに思っています。

[エピローグ]
___________
時代が、すこし動いた。

「えっ、玄光社から?」
最初に声をかけていただいたとき、正直、私はそう思った。

写真や映像に少しでも関わったことがある人なら、玄光社という名前の重みをきっと知っていると思う。
日本のプロ写真業界をずっと支えてきた、まさに“本流の本流”。創刊60年を超える『コマーシャル・フォト』をはじめ、雑誌、書籍、ムック、プロ機材ガイド…その発信は、ずっと業界の「基準」だった。

そんな玄光社が、いま──SNSで写真を発信する私に声をかけてきた。これは、たった1人の出来事じゃない。写真界の価値観が、静かに、でも確実に動いた瞬間だった。

これまで写真界では、「どんな現場で撮ってきたか」「どこで評価されたか」「誰に認められたか」がプロの証明だった。
でも、いまは違う。“どんなふうに見ているか”“なぜそれを撮るのか”という、視点そのものが価値になってきている。

そして玄光社は、その変化を見逃さなかった。変わらないことを美徳としてきた出版社が、変わることに賭けた。

私は玄光社にとって理想的な人選ではなかったかもしれない。賞歴もない、アシスタント経験もない。
だけど、「楽しいから撮ってる」「好きだからカメラを持ってる」という気持ちだけは、誰よりもまっすぐ持ってきたつもりだ。

それを拾ってくれた。拾う“勇気”があった。私は、玄光社という出版社を心から尊敬している。

この数年、たくさんの人が写真を始めた。でも同時に、やめていった人もたくさん見てきた。

「こんな自分がカメラをやってていいのか」
「誰にも見せる勇気がない」
「うまくなれないからやめようかと思う」

そんな声が、いまも聞こえてくる。

でも、もし“玄光社がSNSの発信者をちゃんと見ている”と知ったら──。その誰かの手が、もう一度カメラに伸びるかもしれない。

私は、時代が動いたと思ってる。
まだ静かに。でも確実に。

そしてその最初の一歩に、私が立ち会えたことを、とても誇りに思ってる。

蒼井ゆい

【PROFILE】
蒼井ゆい(あおい・ゆい)
写真家。スナップ、ミニチュア、自然、風景、動物など、ジャンルを横断しながら「どこを見るか、なぜ撮るか」を大切に撮影。作品だけでなく、撮るまでの視点や思考も含めて写真だと捉えている。YouTubeではPOV視点を通じて構図や判断のプロセスを発信。SNSフォロワー数は20万人以上。「カメラをもっと身近に」をコンセプトに、日々写真の楽しさを発信している。自身が運営するオンラインコミュニティ「蒼い彗星」では、作例や講座を通じて表現の奥深さを共有している。
X:x.com/_aoi_yui_
Instagram:www.instagram.com/_yui.aoi_/


【特集】「ワンオペ映像撮影力を鍛える」

写真の現場でも「動画も撮れること」が求められる今、フォトグラファーが直面するのは“ワンオペ”での映像撮影。本特集では、ディレクション・撮影・編集まで一人でこなす映像制作者たちに取材。ミュージックビデオ、CM、ウエディング、プロモーション映像など多様なジャンルの現場から、少人数制作のリアルな工夫とノウハウを紹介。すでにワンオペ映像撮影を始めている人、これから挑戦したい人に向けた特集。
出演 加藤マニ/三戸建秀/Shuma Jan/ヒガテツヤ

Blackmagic Camera (Application for smartphones)/DaVinci Resolve 18 Special Interview
Kroi「Method」 木村太一(ディレクター)・西田賢幸(カラリスト)・内田誠司(DIT)

【FEATURE】
加賀 翔
コハラタケル「Contrast」
山岸 伸写真展「西田敏行 Since 1980~」

【広告特集】
NEWoMan TAKANAWA
日本テレビ ドラマ『良いこと悪いこと』番宣ポスター

【CP NEWS 特別篇】
「ライカI」誕生100周年記念 「ライカの100年:世界を目撃し続けた1世紀」展を開催
大倉忠義が編集長を務める雑誌『Zessei』が創刊

【好評連載】
長山一樹流 違いを生み出すコマーシャル・ポートレイト 第9回 ガラス越しのポートレイト
Create My Book -自分らしいポートフォリオブック- Vol.15 「犬を撮る」 金村美玖
GLAY CREATIVE COLLECTION 2024- VOL.17 GLAY 30th Anniversary GLAY EXPO 2024-2025 GRAND FINALE  DVD & Blu-ray
ゼウスのスチルライフマジック 高井哲朗 vol.56 華やかな光の「ブレ」を添えてハイブランドコスメを撮る