
ニューヨークのロウアー・マンハッタンにあるSuperRareの新ギャラリー「Offline」で、アーティスト草野絵美による個展「EGO in the Shell: Ghost Interrogation」が開催される。本展は、サイバーパンクの金字塔『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』との正式なコラボレーションによって制作されたもので、10月8日に開幕する。
会場は『攻殻機動隊』の世界観をもとに、記憶・監視・アイデンティティが交差する空間へと変貌。生成AI時代において、自我がどのように再構築され、同時に不安定化していくのかを問いかける内容となっている。
草野氏は、サイバーパンク哲学と仏教思想における「空」や「縁起」といった東洋的な概念を融合させ、自身の顔や身体をAIに学習させたカスタムモデルを構築。実際には存在しない「架空の幼少期」を生成するプロセスから制作をスタートさせている。
展示は三つの軸で構成されており、AIによる虚構の幼少期を描く映像作品群、『攻殻機動隊』の未来像を探る作品群、そしてCRTモニター彫刻やホログラム取調室体験などの没入型インスタレーションで構成される。これらが複雑に絡み合うことで、記憶と虚構、過去と未来の境界が揺らぐ独自の空間が作り出されている。
◉アーティスト/キュレーターコメント
・草野絵美(アーティスト)

「このプロジェクトは、記憶の脆さと自我の不安定さをめぐる儀式です。AIによる再構築と私自身の過去の断片を組み合わせることで、観客のみなさんに“永続”と“無常”の両義性を体験していただきたいと思っています。『攻殻機動隊』は、これまでの私の創作に大きな影響を与え続けてきた作品です。いまの世界は情報があふれ、アルゴリズムが分断を加速させています。だからこそ、記憶すること、感じること、そして現実を生きることの意味を、あらためて考えていただければと思います。」
1990年、東京都生まれ。AIなどの新技術を取り入れ、ノスタルジア、ポップカルチャー、集合的記憶を主題に作品を制作。作品は、M+(香港)、サーチ・ギャラリー(ロンドン)、グラン・パレ・イマーシフ(パリ)、フランシスコ・カロリヌム美術館(リンツ)、金沢21世紀美術館など、世界20カ国以上の美術館やギャラリーで展示されているほか、Frieze、Untitled Art Miami、Kiafといった国際的なアートフェアにも参加している。2023年にはクリスティーズとグッチのコラボレーションオークションに参加し、2024年にはクリスティーズとUNHCRによるチャリティーオークションにも出品。2025年、世界経済フォーラムにより「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出された。
Website: https://www.emikusano.art/
X: @emikusano
IG: @emiksn
・ミカ・バル=オン・ネッシャー (Offlineディレクター/キュレーター)
「今日の世界では、精神と身体、過去と未来、有機と人工といった“自我”を区切ってきた境界が溶け出しています。『攻殻機動隊』はその解体を数十年前から予見していました。草野絵美は、そのビジョンをAIや監視、そしてデジタルな儀礼といった現代のレンズを通して再び立ち上げています。古代の追悼や記憶の作法と未来的なテクノロジーを結びつけることで、本展は“自己とは何か”、そして“失い、映し出され、機械と共に書き記されていく自己”についての瞑想の場となるのです。」
ミカ・バル=オン・ネッシャー (Mika Bar‑On Nesher) はニューヨーク拠点のライター/キュレーターで、現在 Offline のギャラリー・ディレクターとして、アート×エマージング・テクノロジーを横断する展覧会とパブリックプログラムを牽引。以前は SuperRare のキュレーター、分散型アーティスト・プロジェクト Botto のクリエイティブ・ストラテジストを務めた。
・高橋洋介(ゲストキュレーター)
「草野の作品を前にすると、存在しない虚構の記憶と知りながらも、奇妙な懐かしさを覚える。幼少期の個人的な記録や戦後日本の日常的な光景が、未来のテクノロジーと融合して現れ、ありもしない思い出への郷愁と不穏さによって私たちを揺さぶる。写真家のシンディ・シャーマンが1970年代にメディアで流通する女性像を演じて自己の虚構性を暴いたように、草野はAIを用いて存在しない記憶を捏造し、アイデンティティがいかに脆く不安定であるかを露わにする。かつて『攻殻機動隊』が突きつけた問い——脳を含めた身体すべてが機械化されても私は存在するのか——を草野は継承・発展させ、現代の政治・美学の問題としても派生させる。もし記憶までもAIによって生成されるなら、私たちはなお「過去」や「歴史」を持つと言えるのか、と。」
高橋洋介(1985年、東京生まれ)は、芸術・科学・社会を領域横断するキュレーター。金沢21世紀美術館 主任学芸員(2014–2021)、角川武蔵野ミュージアム チーフキュレーター(2021–2023)を経て、現在は京都芸術大学教員、先端領域ELSI 研究所分子ロボット倫理委員を務める。主な企画に、Ghost in the Cell(2015–2016|アルス・エレクトロニカ巡回、初音ミクの拍動する心筋細胞をiPS技術で再現)、DeathLAB(2018–2019|コロンビア大学)、 国立科学博物館の相対性理論(2018|監修)など。近年の展覧会に Liminalism(Pellas Gallery, Boston, 2023)。東京の200万人による投票で「2018年のフランケンシュタイン」展は「東京のベスト展覧会」に選出されている。
◉展示構成

上階では、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』からインスピレーションを得た世界と草野のデジタル・アイデンティティの探究をつなぐイントロダクション空間が設けられます。ここでは、「デジタルな自己」と「脆弱な記憶」との繊細な関係性が提示され、アニメ文化や日本的な追悼の形式、そしてAI時代の個人データの脆さについて来場者が考えるきっかけを提供します。
下階「Ghost Interrogation」は、サイバーパンク的な尋問室をモチーフにした没入型の展示です。積み重ねられたCRTモニターによる曼荼羅のような彫刻が、草野のプライベートな記憶やAIによる再構築を投影します。さらにホログラフィックで現れる作家自身が「尋問する者」と「尋問される者」を同時に演じ、監視カメラは観客を映し出して展示空間に取り込みます。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が深く掘り下げてきた意識や自我の哲学に基づき、この体験はAIによって形づくられる未来における記憶とエゴのあり方を問い直すものです。
草野のプロジェクトは国際的に高く評価されており、これまでにヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)、金沢21世紀美術館、FITミュージアムで展示されたほか、Christie’s × Gucciとのコラボレーションも実現しています。代表的なコレクションである Neural Fad、Techno Animism、Melancholic Magical Maiden はいずれも短期間で完売し、草野はデジタルアートの進化を牽引する重要なアーティストとしての地位を確立しています。
◉Offline
Offline は、ニューヨークにおけるSuperRare初の常設ギャラリーとして誕生し、テクノロジーが時代を規定する今日に応答する新しい世代のアーティストを紹介する場です。定期的なトーク、展覧会、イベントを通じて、アーティスト/コレクター/テクノロジストが交差するコミュニティの拠点となり、アートとテクノロジーの未来を共創していきます。
Offline Gallery
243 Bowery
New York City
Open Wednesday – Saturday, 12 – 5pm
offline.superrare.com
IG: @offllinenyc
◉SUPERRARE
SuperRare(2018–)は、デジタルアートの最前線を牽引してきたプラットフォームです。アーティストの発表とコレクターの収集を支える場であると同時に、キュレーションや展覧会を通じて、所有と創造性の意味をアップデートし続けています。単なるマーケットプレイスを超え、現代文化の中核でデジタルアートを位置づけるコミュニティを形成しています。
https://superrare.com/
X: https://x.com/SuperRare
IG: @superrare.co
◉『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』

1995年、士郎正宗の同名漫画を原作とする長編アニメ映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』が公開され、人工知能、サイバネティクス、人間のアイデンティティをめぐる議論に世界的影響を与えました。以降、ハリウッド実写版である『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2004)、Netflixシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』(2020)など、複数の映画・シリーズ・リメイクが展開。意識/記憶/人機の境界といった哲学的テーマを掘り下げ続け、SF史における最重要金字塔的シリーズのひとつとして位置づけられています。『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』は、今年で公開から30周年を迎えます。

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