アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。
Vol.09
柿﨑裕生とオルタナティブなクリエイティブ
▼今回のSPECIALIST
柿﨑裕生 (かきざき・ゆうせい)
2006年 東京藝術大学 油画科卒、同年博報堂入社。現在 HAKUHODO DESIGN チーフアートディレクター/執行役員。主な仕事に、サントリー「THE PEEL」、日本郵政「#NEXTJP」、Yahoo! Japan 防災啓蒙広告「ちょうどこの高さ」、Mondo Grosso や YUKI のジャケットワークなど。東京 ADC、ACC グランプリ、D&AD など受賞多数。

挑戦的で実験的、勢いがある。そういうものを提案するのが僕のやりたいこと。
中野 柿﨑さんはアーティスティックなカルチャーを背景としていると思わせる広告作品が多く、写真の扱い方もその文脈をすごく意識されていると感じます。カルチャーとしての写真を、最初に意識した頃のことを教えていただけますか?
柿﨑 多分、CD ジャケットだと思います。僕は 81 年生まれで、ブリットポップや90年代のオルタナティブロックに熱狂した世代なんです。そのあたりのカルチャーには特に影響を受けていて、写真やジャケットデザインは刺さるものが多いですね。当時は、洋楽版の『rockin’on』を見て、スタッフクレジットを興味深く眺めてました。
中野 ジャケット写真的にも名盤が多い時代ですよね。
柿﨑 名盤のデザインは何十年経っても魅力があります。オアシスのジャケットって必ず端にロゴが入るじゃないですか。10 代の頃、あのフォーマット感に惹かれて、デザインの視点から興味を持ちました。
中野 音楽シーンが好きなデザイナーさんは、割とその業界を目指す印象があるのですが、あえて広告を扱う分野を選んだ理由はあるのでしょうか?
柿﨑 単純に、色んな仕事ができたら楽しいなと思ったんです。今でこそアートディレクターですが、大学の専攻はデザイン学科ではなく、油絵学科だったんです。でも、入学してみたらしっくりこなくて、この道で生きていくのは性に合わないと思ったんです。
中野 代わりに別のことに熱中を?
柿﨑 当時、コンビニで捨てられるのぼり広告をもらってきて、切り貼りして服やカバンを作って作品にしていました。ひとりの世界で完結するのではなく、世の中と接点のあることを仕事にしたいと思い始めるようになったんです。将来を模索していくなかで、当時の広告業界は佐藤可士和さんが現役バリバリで、他のクリエイターさんもとにかく派手に暴れ回っている印象が魅力的に映ったんだと思います(笑)。
中野 あの頃の業界はクリエイターを目指す若者にとって刺激的でしたよね。
柿﨑 働いてみて実感しましたが、こんなに仕事の幅を持てる業界はあまりないし、広告はそこが魅力だと思っています。
中野 柿﨑さんの広告作品には、ユーモアを感じることが多いです。そこにカルチャー感が絡んでいる気がしていて。
柿﨑 自分の性格もあるのかもしれないです。「かっこいい」にも色んな捉え方があるじゃないですか。その中でも、自分は飾ってない感じが好きなので。
中野 奥田民生的な。
柿﨑 民生さん、素敵です(笑)。ユーモアを入れられる余地があれば極力そうしますし、成功すれば間口が広くてレベルの高いものが作れるかもしれないと考えています。この考えは広告業界にいるからかもしれませんね。ファッション業界にいたら、別の「かっこいい」に振り切ると思います。
中野 「かっこいい」以外にも基準としている要素はありますか?
柿﨑 この取材を機に自己分析してみたんですけど、自分は「オルタナティブ」をキーワードにして仕事にしていると感じています。
中野 興味深いです。音楽ジャンルでも使われる言葉ですよね。
柿﨑 まさに、オルタナティブロック的な考え方とつながってくるんですけど。オルタナティブとは「既成概念に代わる新しい選択肢」という意味で、挑戦的で実験的、勢いがある。そういうものを提案するのが僕のやりたいことだと思っています。フォトグラファーを指名する場合も、存在がオルタナティブだなって思う人を選ぶことが多いです。
中野 オルタナティブ同士でくっつくと、インディーになってしまう気もしますが、広告というメジャー感に落とし込む意識は強いのでしょうか。
柿﨑 掛け合わさることでマイナスにならないように心掛けています。
中野 バランスを保ちながら撮影に臨んでいると。
柿﨑 盛り上がって脱線し過ぎないよう、客観的視点は絶対必要ですね(笑)。片足はメジャーに置いておいて、もう片足の方で遊ぶとか。そのバランスは常に考えながら楽しむようにしています。
中野 そうすると、オルタナティブな写真の定義って何なのでしょう?
柿﨑 例えば、戎 康友さんは存在がオルタナティブだと思います。柔軟で新しいことを取り入れてらっしゃいますし、「ナタでざっくり切って、ナイフで削って仕上げていく」みたいな写真の仕上がりも秀逸だなと感じます。
中野 大胆さと繊細さを併せ持つということですね。ちなみに、デザイナー目線で素材としての写真の良し悪しはどう考えていますか? 柿﨑さんに自分の写真を扱ってもらいたい人たちが意識しておくことはなんだろうなと。
柿﨑 先程のそのナタで切る的な勢いに加えて、「提案性」があるのが一番のポイントなのかなと。おそらくこの「提案性」という要素がクリエイター全般に求められるとても重要なものでもあり、そこに大胆さがかけ合わさっている所が、オルタナティブという概念の最大の魅力なのかなと思います。最近、仕事で AIを使うのですが、トーンなど含めて、提案時の解像度が格段に上がり過ぎてしまっていて。
中野 カンプのクオリティ問題は良く聞きますね。
柿﨑 こういった高いクオリティのカンプが良くないのは、思考が行き切っちゃう所だと思うんです。その思い込みを壊してくれる、このアングルじゃなくて良かったとか、色味はこんな選択肢があったのかとか、思考を刺激してくれる素材の方が、次に行ける可能性がありますね。
中野 それもオルタナティブが持つ側面ですね。
柿﨑 良い意味で疑いの視点を持っていて、こちらが作ったカンプを超える提案性を兼ね備えている方は最高だと思います。なので、撮影準備のフェイズでフォトグラファーから否定されることも、結果的に新しいものを作る上ではプラスに働くんです。
中野 そういった感覚を持つフォトグラファーはどこで探しているんですか?
柿﨑 Instagramは良く見ますけど、展示会にも行きます。先日、イギリスとドイツを旅行してきたのですが、バウハウスのある街などで、現地でさらに調べて全て見尽くせるようにしていました。
中野 その中で気付いた最近の傾向はありますか?
柿﨑 今や誰でもクリエイターになれて、ネット上でいくらでも作品を発表できてしまうので、その分デジタルではなくフィジカルで見た時の強さが重要になっていると思うんです。体験による刺激はひとつキーワードになるのかなと。
中野 面白いヒントですね。表現する上で「エクストリームであれ」みたいなことだと思いますが、すごく難しいですよね。特に人物撮影において何がエクストリームなんだと。
柿﨑 何を見ても驚かなくなっちゃってる感じはありますから。
中野 別方向ですが、若い子たちは古いものに新鮮さを感じていますよね。彼らが考える80年代は、ドラマ越しの80年代になっていたりするから、知らないスポットを引用してあげることで新しさを感じてくれる。繰り返すって大事なんだなとも感じています。
柿﨑 時代だけでなく、別の島にあったものを持ってくると新鮮に見えますよね。音楽の島にあったものを写真に取り入れてみたり。それを戦略的にやることは表現として効果的です。
中野 習慣化するためのトレーニングはありますか?
柿﨑 後輩には良く言うのですが、例えば映画を見て良かったと思ったら、何が良かったのかを因数分解することで理解が深まるんです。この作品はこの要素が組み合わさって、ここは他の作品とイコール、ここが新しい要素だ…、といった具合に紐解いていく。これは持って生まれたセンスではなく、努力で埋められるものだと思います。
中野 感覚的に受け止められるものでも、言語化することで別の視点が生まれてくる。フォトグラファーにも必要な行為かもしれませんね。
柿﨑 本音を言うと、知識量も必要になるので最初は上手くいかないと思います。でも、続けることでストックが増えていく、この写真とこの写真はつながっているんだと理解できる。その組み立てができると、色んな作業が楽になります。デザイン、映像、音楽でもそう。作品の方程式を考えることはとても大切なことだと思います。
雑誌『広告』

「うれしい事件を。」をスローガンにリニューアルした雑誌広告。3タイプある表紙と、巻頭約30ページに及ぶストーリーページなど、雑誌のトーンを決定づけるパートをフォトグラファー山谷祐介さんに担当いただきました。事件を記号化した×マークが表紙のど真ん中に鎮座するデザインにしたので、それに負けない存在感のある写真を求めていたところ、山谷さんの動的なフィルム写真がバッチリはまりました。(柿﨑)
NAKANO’s COMMENT
写真を相手にしていると他の視覚的メディアを意識しがちですが、そこで自分の思考を言語化して紐解いていく行為は中々できないことです。柿崎さんならではの多方面のカルチャー知識を言語化して作品に落とし込むアドバイスは、全てのクリエイターに必要なプロセスだと感じました!
スペシャリストに聞く6つの質問
Q1 写真の好きなところ
古びていくというのが、魅力だと思います。偉大なフォトグラファーの写真は素敵ですが、過去の作品だとわかる。過去を記録している、そこに代わりの効かない魅力があると思います。
Q2 最近気になるフォトグラファー
最近、雑誌『広告』(P90)のリニューアルをしたのですが、表紙と巻頭を撮影してくださった山谷佑介さんはめちゃくちゃ良かったです。「ONSEN」シリーズの写真は秀逸ですよね。
Q3 業界を目指す人へ
フォトグラファーと仕事をしていてすごいと感じるのは、その人なりの信念が表れている点です。長く活躍する人には必ずこだわりがあるので、それを探してみるといいかもしれません。
Q4 衝撃を受けた写真
アーケイド・ファイアの『WE』のアルバムジャケット写真です。目のどアップ写真で、デヴィッド・ボウイのジャケットで有名なテリー・パストールがデザインした作品です。
Q5 フォトグラファーと出会う場所
Instagramは良く見ますし、実際にDMで仕事を発注をしたこともあります。知り合いからの紹介も多いですね。信頼できる人からの紹介なら、安心して発注できますから。
Q6 キーアイテム
96年に発売された G-SHOCK です。現在はデッドストックになっている、トム・ヨークが『The Bends』くらいにつけていたシリーズで、初心を忘れないためにいつも身につけています。

撮影・インタビュー
中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/

特集「LEDライト最新活用術」&別冊付録「CM・映像 キャメラマン&ライトマンファイル 2026」。
巻頭特集ではフォトグラファー福岡秀敏が俳優・田中麗奈をLEDで撮り下ろし。さらに倭田宏樹、森山将人、川村将貴、須藤絢乃による現場事例や機材検証を通して、LEDライティングの実践的な活用方法を解説。「Aputure LED 4機種 実践検証」ではCOB型、パネル型、スポット型、ストリップ型という異なる光源を用い、静物撮影で検証。光の質や質感表現の違いを比較しながら、LEDライトの特性を具体的に探る。撮影と解説は中村雅也氏が担当した。
【広告特集】King & Prince「STARRING」のクリエイティブ
2025年12月24日発売のKing & Prince 7thアルバム「STARRING」。本企画では、収録曲それぞれを“架空の映画の主題歌”に見立て、1曲につき1本の特報映像を制作するという前例のないプロジェクトを徹底取材。本編は存在しないにもかかわらず、長編映画を想定した設計で10本の特報映像とポスターを制作。さらにレッドカーペットイベントや映画館での上映会まで展開するなど、アルバムの枠を超えた大規模なプロモーションとして構築されている。特報・ポスター制作全体のプロデューサー加藤諒氏をはじめ、3人の映像監督、アートディレクター、フォトグラファーが参加。企画設計の背景と制作プロセスをそれぞれの立場から語る。
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ほか