撮影を楽しむスペシャリストたち
写真業界には数多くの撮影ジャンルがあり、それぞれの分野で活躍するスペシャリストたちがいる。
この連載では、フォトグラファー中野敬久氏が毎回気になるスペシャリストにインタビューを行ない、その分野ならではの魅力や、撮影への向き合い方を聞くことで、“撮影を楽しむ”ためのヒントを探っていく。
Vol.01
横浪 修の視点が気になる
▼今回のSPECIALIST
横浪 修(よこなみ・おさむ)
1967年京都府舞鶴市生まれ。1989年文化出版局写真部入社。自身の作品制作を行ないながら、ファッション写真・広告写真・CDジャケット、ムービー、ドローン撮影などを手がけている。
yokonamiosamu.jp
蜃気楼のようなものを追いかけてきてわかったのは、
自分なりのスタイルで写真が撮れれば一番ということ。
中野 回の連載を始めるにあたり、横浪さんにお声がけをさせていただきました。作品が素晴らしいのはもちろん、視点の独自性に興味が沸いてお話を伺いたいと思ったんです。中でも、僕は集合写真に着目していて。以前、『US ELLE』で東京で撮影されたモノクロ写真が、横浪さんらしくなかったのが強く印象に残っています。たくさん服を見せるという雑誌の縛りがありつつ、複数の女性モデルを絶妙な配置でまとめられていて。本当に集合写真を上手に撮られていると感じました。
横浪 当時は30、31歳くらいで、背伸びをしていたと思います。『US ELLE』のファッションディレクターの人がTokyoのイメージとして画面の中にゲーム&ウォッチを入れたいという要望があったんです。僕らからしたら慣れ親しんだゲームだから、わざわざそこをフィーチャーするんだと驚いた記憶があります。
中野 背伸びをしていた時期でもあるんですね。でも、王道の撮り方というよりは、横浪さんならではの“おかしみのある視点”はあって。延長して今の作品群に繋がっていると感じました。そんな視点について、昔から変わっていない意識があるのか、いつその視点を見つけられたのかお聞きしたいです。
横浪 ファッションの場合、ライティングやシチュエーションなど撮り方の流行はありますが、根本にある好きなことは10代から変わっていないと思います。子どもの頃はちょっと変というか、人と変わったことをやるのが好きだったんですよ。仕事になっても、若い頃は雑誌に名前が載るからには爪痕を残したいという気持ちで、怒られそうなギリギリを意識的に狙って毎回トライしていました。
中野 それは横浪さんならではの独特のモデルの動かし方だったり?
横浪 そうですね。あとは変な間を入れたり。小さい頃から変な言動をわざとしていたから、ひねくれた性格が写真に現れているかもしれません。
中野 僕がカメラマンを始めたのが2000年くらい。当時は横浪さんもファッション誌を撮影されていて、外しの美学が入っているイメージがありました。
横浪 師匠がパリで仕事をしていたんですけど。ヨーロッパの貴族のように美しいものを知らない日本人は、ファッションカメラマンになれないという空気があったんです。師匠は東京でパリやロンドンに見えるシチュエーションを探して、『VOGUE』を模倣した撮影もしていたけど、アシスタントながらに違和感は感じてました。
中野 かといって90年代後半ストリートカルチャーの代名詞であった『CUTiE』みたいな方向にも行ってないじゃないですか。ヨーロッパ的なものは好きだけど真似はかっこ悪いし、東京を押し出すカルチャーも逆に恥ずかしい、みたいな?
横浪 恥ずかしいというより、本当はそっちに行きたいけど行けないみたいな。『CUTiE』の撮影をしていた時期はあるけど、駆け出しだったこともあり僕の提案は断られることも多く。そうすると、いつか見返してやるみたいな反骨精神が生まれてきて、独自の感覚で撮影したいと思うようになったんです。
中野 それでうまく表現できた1枚はあるんでしょうか?
横浪 僕が以前勤めていた文化出版局の『装苑』ではカメラマン主導で作れるページもあったので、何かしら手応えはあったと思います。そういうことを積み重ねていくと仕事も徐々に増えていったんですけど。『FIGARO』や『SPUR』のタイアップで“王道のリチャード・アヴェドンみたいな撮影にしたい”など、誰々のようにと言われるのが何だかモヤモヤして…。
中野 横浪さんにはそういうイメージはないですから。
横浪 でも、見よう見真似で撮影はしたけどあんまり納得はできなくて(笑)。30代前半くらいまでファッションしかやってなかったけど、それを境に気持ちは広告の方にシフトしていきました。
中野 どういうシフトでそうなったのでしょう?
横浪 元々、広告をやりたかったというのは前提であるんです。今はもう少しボーダレスだけど、昔は広告とファッションでジャンルが分かれていましたよね。僕のアシスタント時代はファッション畑で育ったから、なかなか広告に関わるチャンスもなく。代理店へ営業に行っても邪魔者のように扱われることも多かったです。
中野 広告畑ではないからという理由ですね。
横浪 まずブックも見てくれない。そんな状況に難しさを感じ、自分のスタイルを打ち出して、クライアントから仕事が来るようにしないと駄目だと考えるようになりました。作品を積極的に撮るようになったのはそれがきっかけです。
中野 作品撮りを始めた当初と今を比べて、変わったところはありますか?
横浪 基本は変わっていないですね。人がそこに立った時の好きな表情や雰囲気は一緒ですが、変わったというなら辛抱強くなりました。
中野 話は変わりますが、「Assembly」シリーズを象徴とする集合写真の作品群で、横浪さんならではのディレクション方法はあるんですか?
横浪 あの作品を撮り始めたのは街で学生の子たちを見て、彼女たちを大自然の中に連れて行ったらどうなるんだろう、という興味本位だったですけど…。あえてディレクションというなら、決め過ぎずに撮るいうこと。撮影中は自然の中で起こるハプニングみたいなものを期待していて、同時に歩いていてもひとりが躓いたりすると個性が出てくる。それが人間らしさだと思うんです。いつか起こるハプニングを逃さないよう集中して撮る、だけですね。
中野 それこそ忍耐強くないとできないことですね。
横浪 忍耐強さはありますし、集中力がいるからすごく疲れる(笑)。僕、釣りが好きなんですけど、釣りって竿先に集中しながら、忍耐強くアタリを待つ行為じゃないですか。結構撮影のトレーニングになるんですよ。
中野 釣りですか(笑)。
横浪 経験から言えることは、飽きそうでも同じことを繰り返すことです。例えば、撮影したものが60%の出来だったとしても、それが100集まると違った見え方が生まれて説得力になる。
中野 実際に飽きないですか?
横浪 飽きる瞬間はあります(笑)。ちょっと義務で撮ったりもするんです。でも、それは逆算して越えていけることかなと。例えば子どもを1,000人分撮る作品を作るとして。1年で8回は撮影が出来るなら、1日30人撮って1年で240人。1,000人を撮るには約4年必要。といった具合に逆算してスケジュールを決めて募集をかけちゃいます。
中野 横浪さんの話を聞くと、僕も作品というものに向き合っていかないとなと改めて感じます。僕の場合、企業とコラボするといったパフォーマンス方向に考えが向きがちで。ずっと続けていけるものを見つけた方がいいなと感じてはいましたが、横浪さんのおっしゃる逆算式には納得します。
横浪 無理やりでも負荷をかけた方が行動しますよね。先に決めちゃうと後になって乗り気じゃなくてもやらざるを得ない(笑)。挑戦したら良かったと思えることが多いし、結果自分の作品になるという事実がある。
中野 横浪さんが広告を目指して作品撮りをしたように、成果を形にすることが次の何かに繋がることもあるということですね。
横浪 仕事撮影だけやっていても良いのかという葛藤があったのと、広告の仕事を獲得するためのブランディングとして、作品を撮り始めましたけど、結果として自分の中のバランスは良くなったと思います。作品もやって、広告もやって、ファッションもやって。それぞれに違いがあるので、良いところも悪いところも活かせるというか。それにジャンルを問わず、気持ちが乗って撮影にのめり込めると楽しいです。
中野 ファッションも広告も現場を知れると、色んな楽しさがありますね。フォトグラファーとしてポイントが貯まっている感じです。
横浪 僕自身、もっといい写真を…と、蜃気楼のようなものを追いかけてやっていたら、結果完璧なものはないとわかり。若い頃は広告っていいと思っていたけど、表現できるフィールドはそれだけじゃない。写真は何を撮ってもその人なりのスタイルが出ればいいし、それが一番だと感じます。
NAKANO’s COMMENT
初めてお会いした横浪さんは、とっても丁寧にこちらの質問に答えていただき、少しだけですが秘密を垣間見たような気分になりました。「幼い頃の自分がストレートに出ている」と言われていた不思議な視点の写真が印象的でした。
スペシャリストに聞く6つの質問
Q1 業界を目指す人へ
真剣にフォトグラファーを目指すのであれば、スタジオマン時代や直アシ時代を全力で写真に向き合えば、自ずと結果がついてくるはず。中途半端にやっているとそこそこまでしかできないと思います。
Q2 被写体への向き合い方
意識しているのはニュートラルに接すること。自然光での撮影を求められることが多いので、そこに光があって、服とメイクとその人を見て感じたインスピレーションで撮ります。
Q3 影響を受けた人
定番ですが、広告では上田義彦さんや藤井 保さん。作家では森山大道さん、ホンマタカシさんなど。海外フォトグラファーの真似ではなく、日本人のオリジナリティがある方々に憧れます。
Q4 気になっていること
雑誌が減ってきて、若い人がどこを目指していくのか気になります。SNSで作品を発信できる時代なので、海外で評価されて逆輸入されるなど、狭い写真業界とは別のアプローチも起こりうるかもしれませんね。
Q5 撮影中のBGM
面白い雰囲気にしたい時はRotterdam Termination Sourceの「Poing」。朝、メイクを待ってる間はMatt Costaなどアコースティックギターのゆったりした曲をチョイス。
Q6 キーアイテム
PENTAX 67とCanon F-1です。仕事だと故障が怖いので、現場には必ず複数のカメラを持っていきます。わかりやすいようにABCD…と記載したテープでラベリングしています。
撮影・インタビュー
中野敬久(なかの・ひろひさ)
1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。
VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージ
シャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/
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