写真家・瀧本幹也氏が3年にわたり撮影を続けた「LUMIÈRE / PRIÈRE」の展示が、2024年12月5日(木)〜12月15日 (日)まで代官山ヒルサイドフォーラムで開催中。作品点数は全65点+インスタレーション作品+映像作品。
受付すぐ横、真っ暗な小部屋に設置されたのが「透過と反射 枯山水 SURFACE」。2020年のKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭のプログラムの1つとして、妙満寺で行われた個展「CHAOS 2020」でも展示された作品。枯山水を再解釈した瀧本氏はガラスを庭石に見立て、そのガラスを覗き込めば、火山活動を記録した映像作品「FLAME」が映し出されている。さらに奥に掛けられた海の作品「SURFACE」が床面の板に反射し、一歩足を踏み入れれば外の喧騒から切り離された唯一無二の禅空間が広がる。
展示会場正面には1635×1090mmの圧巻の大判プリント「SNOW MAOUNTAIN #05」。角を曲がると2022年にOGATA Paris(パリ)で展示された「En Sô Shin」が並ぶ。一滴のしずくが小さな波紋を起こし、やがて大海へと広がっていく自然の循環を円相図に見立てた作品。
表題の1つである「LUMIÈRE」。「LUMIÈRE」はフランス語で“光”を表す。今まではカメラを向けることに躊躇の気持ちさえあった花に、瀧本氏が自然と目を向けられるきっかけは、COVID-19のパンデミック。食事や睡眠と同じくらい生活の一部であった写真を撮るという行為が制限され、終わりの見えない隔離生活に沈む気持ちを晴れやかにさせてくれたのが菜の花畑だった。
子どもの頃に初めて35ミリのカメラを手にした時のように、何のてらいも気恥ずかしさもなく、ただそこにある植物や花に感動しながら撮り続けました。そのシンプルさがとても心地よかったんです。社会的な情勢が変わり、気持ちも変わり、機材や視点も変化していきました。大きな出来事に影響を受けて、ごく自然な流れで、柔軟に自分の写真が変わっていったのはとても興味深いことでした。4×5を担いでいたら気づかず通り過ぎてしまうような小さな花に気づくことができました。
ーー瀧本幹也「コマーシャル・フォト」2024年12月号より
もう一方の「PRIÈRE」は、京都のお寺を撮ったシリーズ。KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭がCOVID-19の影響で延期を余儀なくされた時、何の気なしに展示会場の近所のお寺を訪れた瀧本氏。いつもは観光客でごった返す著名なお寺は人ひとりおらず、静寂だけが広がっていた。その時、これが本来のお寺の姿なのだと思ったという。瀧本氏は展示終了後も通い続け、3年間で古都の寺社を200社くらい巡った。「PRIÈRE」の意味は“祈り”。COVID-19の1日も早い終息を祈るように、シャッターを押した作品群だ。
枯山水の庭と対峙して瞳を瞑ると、網膜に景色が浮かび上がり、もしかしたらこの座っている同じ場所で1000年ほど前にも同じ体験をした人がいたのかも知れないと思えてきました。
ーー瀧本幹也「コマーシャル・フォト」2024年12月号より
そして、エレベーターを上がり通される新設の空間は「雪の庭図 天井枯山水 SNOW MOUNTAIN」。これまで宇宙から地球の活動を見下ろすような、衛星探査機のような視点で捉えていた瀧本氏が、地面に寝転び、空に向かって背を伸ばす菜の花を捉えた。瀧本氏に新たな感動を与えた“見上げる”という視点を追体験できる展示。まるで新雪を踏み締めるような感触の床にもこだわっている。
コロナ禍を経て写真を撮る歓びを再認識して生み出されたという新作展は、良い空気を深く吸い込めるような展示だった。開催は12月15日まで。
写真展『LUMIÈRE / PRIÈRE』
会場:代官山ヒルサイドフォーラム
期間:2024年12月5日(木)-12月15日 (日)
時間:11:00-20:30(最終入場20:00) /最終日(10:00-18:00) 会期中無休
住所:〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟1F
入場料:500円 高校生以下無料
瀧本幹也(たきもと・みきや)
1974年愛知県生まれ。1998年より広告写真をはじめ、コマーシャルフィルムなど幅広い分野の撮影を手がける。また映画撮影や自身の作品制作も精力的に行ない、写真展や写真集として発表している。
瀧本幹也 写真前夜
A5判/224P /2,500円+税/玄光社刊
コマーシャル・フォト 2025年1月号
【特集】フォトグラファーたちの これまでとこれから
2024年もそろそろ終盤。フォトグラファーたちが2024年に発表した作品や仕事、取り組みを作品とインタビューとともに掲載。それぞれの写真観や作品制作、仕事についてなどたっぷりと語ってもらった。
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