動画コンテンツは都市生活に何をもたらすか
2015年7月16日に開催された文化経済研究所 第78回定期セミナー「特徴都市の形成」 第2部「動画コンテンツは都市生活に何をもたらすか」の再録です。
動画の市場動向
はじめまして、コマーシャル・フォトの編集長をしております、川本康と申します。2011年から編集長を務めていますが、写真や映像表現はテクノロジーなくしてはあり得ない表現なので、表現とテクノロジーは表裏一体に考えています。デジタルカメラ、画像処理、デジタル一眼ムービー、プロジェクションマッピング、4Kなど、ジャンルにこだわらず表現とテクノロジーの最前線を取材しています。
『コマーシャル・フォト』は広告クリエイティブとその制作現場に焦点を当てた雑誌なので、市場動向やマーケティング要素は、それほど意識はしていないのですが、今日は動画の市場動向について調べてきました。ここでは「動画」という言葉を使っていますが、よく似た言葉で「映像」があります。明確に使い分ける必要はありませんが、映像は映画、テレビ、テレビCMのようにしっかりと作り込まれたものを指すことが多く、それに対し動画はもう少しお手軽で、PCやスマホで見る映像のことと受け止めていただければよいかと思います。
【テレビの視聴状況】(2015年7月NHK放送文化研究所発表)
日本人がどれだけテレビを見ているか。5年ごとに調査をしていますが、今年の調査ではテレビを見ない人が増え、20歳代の16%、30歳代では13%の人たちが「ほとんど/まったくテレビを見ない」そうです。
【テレビとネットの平均利用時間】(2015年5月総務省発表)
全体ではテレビの方が圧倒的に多いですが、10~20歳代は「インターネット利用時間」の方が長くなっています。年齢の高い人ほどテレビを見る時間は長いのですが、インターネットの利用時間は短くなっています。
【動画サイトの利用者数】(2015年4月コムスコア発表。対象は15歳以上)
日本には15歳以上は1億1000万人いますが、YouTubeの利用者数は5100万人。大体半分くらいです。続いて利用者数が多いのはGYAO、ニコニコ動画となっていますが、YouTubeは断トツに多いです。ちなみにYouTubeは全世界で10億人のユーザーがいます。
【YouTube利用者の年齢層】
YouTubeの利用者は比較的インターネット全体のユーザーの年齢構成に近いと言われていますが、15~44歳で過半数を占めています。これを日本人口の年齢構成と比較すると、その違いは明確です。テレビを見ている人はほぼ日本人口の年齢構成に近いですが、YouTubeは若い人たちがよく見るメディアだと、お分かりいただけると思います。
【動画サイトの視聴端末】(2015年2月ニールセン発表)
動画サイトはPCで見るか、スマホか。1年前はほぼ同じでしたが今ではPCは横ばいか、やや下がり気味。スマホが伸びて、両者の差は広がり始めています。動画サイトはスマホの普及とともに、視聴されています。
以上をまとめますと
- テレビを見る人が減っている
- 10代、20代はテレビよりもネットを長く見ている
- 日本人の約半数がYouTubeを見ている
- YouTubeはテレビの視聴者よりも若い人が多い
- 動画を見るのはPCよりもスマホの方が多い
これが今の動画の視聴者の動向です。
動画広告とブランデットコンテンツ
動画広告について簡単にご説明します。YouTubeをご覧になるとき、見たい動画の前に勝手にテレビCMのような映像が流れますね。これをインストリーム広告と言います。5秒見ると「広告をスキップ」することができて、最後まで見ればYouTubeにお金が支払われる仕組みです。途中で広告がスキップされてしまうと支払われないので、企業側も安心して広告を出せます。もう1つはインバナー広告といって、Yahoo等のサイトのバナーに動画が埋め込まれた広告があります。動画広告は他にもありますが、主にこの2つが主流です。
【動画広告の市場規模】(2014年10月サイバーエージェント/シード・プランニング発表)
この調査によると、市場規模は急成長しています。2012年に比べ2015年は10倍。以下は見込ですが2017年は18倍弱と、かなりの勢いで伸びている市場です。ここでもPCとスマホの区分けをしていますが、2017年にはスマホの方が動画広告において売上が多くなるとみています。
【テレビとネットの広告費】
電通発表の「2014年 日本の広告費」を見ますと、インターネットの広告費はかなり伸びてはいますが、それでもまだ地上波テレビ広告費と2倍近い差があります。動画広告費はインターネット広告費の中に含まれますが、2014年で比べますと、テレビCMに対して1.7%くらいの規模しかありません。動画広告は流行ってはいますが、まだまだこれからの市場と言えます。
【動画によるブランディング】
このように企業はまだ動画広告を試している段階だと思いますが、特徴について考えてみました。広告なので「目的」は商品を知ってもらうこと。「動画の尺」は、長くても30秒。ただし「ユーザーの視聴態度」は、見たい動画の前に流れるものなので自分から求めて見ているものではなく、視聴態度は受動的です。「SNSでの拡散」は、話題になりにくい側面がありますが、動画広告のテクノロジーを使えば「視聴人数」は保証可能で、10万人に見せたいと広告会社に言えば、10万人に見せられる仕掛けはできています。
これに対して、ネットで話題になるような動画は全く違う特徴を持っています。最近は企業が面白い動画を作るようになってきましたが、いわゆる動画広告とは違い、もっと時間が長くてエンターテイメント性があるものを、企業が競って作っています。これは「ブランデットコンテンツ」と呼ばれています。企業がブランディングのために制作する動画です。
動画広告との違いとしては、まず「目的」は、商品を知ってもらうことも大事ですが、見る人を楽しませることを優先して作っています。「動画の尺」も30秒では足りないので、短くても60秒以上。「SNSで拡散」し話題になれば、自ら検索をして探すので「ユーザーの視聴態度」は能動的。ただし、何人に届けられるかまではコントロールできないので「視聴人数」は保証不可能。でも大ヒットすれば何百万viewで、話題になりやすいので、テレビや新聞に取り上げられることもよくあります。何よりもユーザーが好んでその動画を見たいと思って検索するわけですから、面白ければユーザーが企業を好きになるという、広告とは違った性質を持っています。ブランデットコンテンツも企業が製作費を出して作りますから、広い意味では広告のうちに入るのですが、どちらかというと情報よりもコミュニケーションやコンテンツに力を入れていると思ってください。
今日はこのブランデットコンテンツと言われる動画コンテンツを中心にお話します。
動画環境のトレンド
動画環境のトレンドとしては3つあります。1つ目はYouTube、iPhone、SNS等の普及により、面白い動画がネットを通じて世界中に広がっていることです。
2つ目は撮影機材の進化です。何百万円もの豪華な動画専用カメラよりも、スチルカメラの動画機能で撮った方が場合によってはきれいな動画が撮れることが分かり、圧倒的にコスト削減ができるようになりました。GoProというカメラは、ヘルメットや肩につけてスポーツ選手の目線を追ったり、お笑い芸人がバンジージャンプを飛んだりするときにつける小さなカメラです。最初はアマチュアがスケートボードや自転車などにつけて遊んでいたのですが、今ではプロが使うようになりました。ドローンは、それ自体は無人で空を飛ぶ飛行機のことを指しますが、最近は一眼レフや小さいカメラを載せて空撮するのが流行っています。
3つ目は都市空間へとスクリーンが広がっています。どこでもスマホで映像を見ることができるようになり、電車の中や駅にも「デジタルサイネージ」と称するスクリーンがあります。また「プロジェクションマッピング」は建物に映像を映し出して楽しめ、勢いよく拡大しています。動画や映像は今や家の中で見るものではなく、街の中でも見るものになっていると言えます。
時系列でこれらの技術を見ると、YouTubeは2005年に最初に登場し2007年に日本語化、Facebook は2006年に登場して2008年に日本語化、Twitterも同じです。iPhoneは2007年にアメリカで発売され、2008年に日本で発売、2009年には動画撮影機能を搭載。
GoProは 2007年に登場し、2010年ハイビジョン化。2008年発売のEOS 5D MarkⅡ(キャノンのデジタルカメラ。動画機能付き)で、初めて一眼レフでフルハイビジョン映像が撮影可能になりました。当時のテレビ関係者、映像関係者、映画製作者に大受けし、あっという間にプロの現場でスタンダード機種になり、その後キャノン以外のカメラメーカーも動画機能に力を入れるようになりました。
ドローンは2010年にAR Droneというおもちゃのようなものが発売され、スマホでコントロールできるので、一気に知名度が上がりました。このように2005年から2010年の非常に短い間に、いまの動画環境を支えるさまざまな技術が集中して表れているのが、面白いなと思います。
ネットで広がる動画
一つ目のトレンド「ネットで広がる動画」について、実際に動画を見ていただきながらお話を進めていきたいと思います。
【JR九州 九州新幹線全線開通CM】(2011年)
2011年3月12日の全線開通に合わせて作られていましたが、東日本大震災が起こりオンエアは自粛。ただしYouTubeの公式サイトには動画がアップされていたので、「この動画は面白い」「勇気をもらえる」とTwitterで知られるようになり、4月には全国放送のテレビの情報番組で放送されました。もともとは全線開通の喜びを九州全体で分かち合うキャンペーンとして企画されたもので、事前に沿線に集まることを呼びかけて、集まった人々を走る列車から撮影したものです。
CMを作った人に話を聞くと、本当に人が集まるのだろうかと心配したそうですが、蓋を開けてみたら250kmの区間に推定3万人が集まりました。震災で日本人全体が元気のないときに、この映像をネットで見て元気が出て、また共有し日本人の絆が再認識されました。
九州ローカルのCMが日本全国で知られるようになったのはYouTubeのおかげ。2011年のYouTubeで音楽や震災関係以外の再生回数で第1位になり、カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルでも金賞という高い評価を得ました。それまでCM関係者はネットやYouTubeの力を見くびっていましたが、このCMをきっかけに認識が変わりました。歴史的に意義のある映像です。
【AKB48「恋するフォーチュンクッキー」サマンサタバサSTAFF Ver.】(2013年)
AKB48によるオリジナルのミュージックビデオが公開される前に、AKB48の裏方スタッフが踊るバージョンが公開され話題になりました。そしてファンバージョンがアップされ、他にサマンサタバサ、サイバーエージェント、ジャパネットタカタ、日本交通、神奈川県庁、佐賀県庁など企業や官公庁の職員が踊る映像が公開されました。
人気のある動画はファンが自発的にパロディ動画を作って楽しむ傾向がありますが、これはAKB48サイドから仕掛けています。AKB48は人数が多いので、企業や官公庁のスタッフも大勢で出演して親しみやすさをアピールできるというメリットがあり、彼らも積極的にタイアップに乗りました。タイアップで作られたビデオはAKB48公式ビデオとして認定され、そうした公式ビデオは100本くらい、それ以外にファンが作ったものも多くあります。
最終的にAKB48のオリジナルミュージックビデオは7800万回再生され、曲も大ヒット。このようにインターネットの口コミ効果に狙いをつけ成功させた、見事な戦略的動画です。
【サントリー 忍者女子高生】(2014年)
タイトルからして突っ込みどころ満載ですが、忍者は外国人が大好きなネタで、女子高生はネットユーザーに受けるキーワード。最初からネットで、しかも海外でも話題になることを狙っています。実はサントリーが製作したネット限定の企画で、2人の女子高生が忍者のように驚異的な身体能力を発揮しながら追いかけっこをする動画です。あえて素人動画風に作っています。
最後の最後にやっとC.C.Lemonが出てくることでもわかるように、企業色を前面に出さずにエンターテイメントに徹しています。撮影はほとんどをiPhoneとGoProで撮って、あたかも本当の女子高生が投稿したかのよう見せているところも巧みです。750万回再生され、今年のカンヌライオンズで銀賞を受賞しています。
【NTTドコモ 3秒クッキング】(2014年)
NTTドコモのLTE回線が早いことを、3秒でエビフライが料理できることに掛けています。調理器具や装置はこの撮影のために開発・制作し、CGを使わずすべて実写です。とても好評で1500万回再生され、続編の餃子が実際に作られ550万回再生。これもカンヌライオンズで金を3つ、銀を2つ取っています。
忍者女子高生も3秒クッキングも2014年に作られた動画ですが、2014年は日本の映像業界の中で非常に画期的な年で、本格的に企業がコンテンツを作る時代に突入したことが分かる動画でした。
【安川電機 武士道プロジェクト】(2015年)
安川電機は産業用ロボットで世界1位を誇る世界的企業です。武士道プロジェクトは安川電機100周年事業で、居合抜きの達人の動きをロボットが真似るという動画。同社は北九州にある会社ですが、日本国内で知名度はそれほど高くなくても、動画がテレビや新聞で大きく取り上げられ、媒体費をかけずとも事業紹介ができる良い事例かと思います。海外での売上が3分の2なので、海外にも分かりやすい作り方で、公開1週間で300万viewを獲得しました。
このようにネット空間を通じて日本全国あるいは世界中の人とつながり、海外から日本の産業や文化が評価される時代になってきています。
撮影機材の進化
2つ目のトレンドは「撮影機材の進化」です。
【ドローンによる空撮:OK Go 「I Won’t Let You Down」】(2014年)
OK Goはアメリカのアーティストで、動画制作は日本人クリエーター、撮影地は千葉県。規模の大きいミュージックビデオでエキストラは2000人、普通はカットを割るところが5分間まったくカメラを止めないワンシーン・ワンカット、その間ずっとドローンで空間を移動しながら撮影し続けているのが驚異的です。
OK Goのメンバーが乗っているのはホンダのUNI-CUBという体重移動だけで人の歩行のように自由自在、縦横無尽に動ける乗り物で、まだ研究段階なのですが、クリエーターがホンダをくどいて貸してもらいました。最初に出てくる女性たちはPerfumeの特別出演で、これもネットで話題になるための仕掛けです。
最新のテクノロジーを駆使して、しかも企業を巻き込むことで面白いミュージックビデオが作られ、それもアメリカのアーティストのミュージックビデオを日本人クリエーターが作り、それが世界中に広がるという、新しい可能性を感じさせます。
【スチルカメラによるタイムラプス:トヨタ アクア CM】(2013年)
先ほどスチルカメラで動画が作れるとお話ししましたが、これは動画機能を使わないで数百枚の写真を撮り、それをつないで動画にしたテレビCMで、タイムラプスという手法を使っています。スチル写真を長い時間をかけて撮影し、それを素材として数十秒に圧縮して見せるので、15秒のCMでは大体450枚くらい、60秒だと1800枚の写真が必要になります。
タイムラプスはYouTubeでも人気の動画ジャンルですが、これは他の人には真似のできないハイレベルなタイムプラスを目指して、8000万画素の業務用スチルカメラで作られています。このCMが作られる前の年にアクアは新車販売台数で1位になり、日本一売れているクルマなら富士山を舞台にしようということになり、しかも富士山が世界遺産に登録されるというグッドタイミングでした。
テレビCMのために本当は8000万画素も必要ないけれど、どうせやるなら誰も見たことがないものを作ろうという、クリエーターのこだわりがある映像です。
【GoProによるアクション撮影:成層圏スカイダイビング CM】(2014年)
アメリカのスーパーボールの中継は全米で高視聴率ですが、そこでオンエアされたCMです。宇宙服を着てGoProをつけて高度4万メートルの成層圏からスカイダイビングするプロジェクトが2012年にありました。それをテレビCMにしたものです。でも成層圏に上がり、地球に向かって飛び出していったところでテレビCMは終わります。ネットには8分のロングバージョンがアップされていて、CMの続きの迫力ある映像が見られる仕掛けになっています。
以上のように、ドローン、タイムラプス、GoProそれぞれの表現があり、新しい技術が新しい映像体験と新しいリアリティを生んでいます。ドローンの空撮の視点は、Google Maps、Google Earthなど高いところから見下ろす目線に多くの人が慣れている、今ならではの表現だと思います。
また、街中いたるところに監視カメラがあり、iPhoneのようなカメラを皆が身に着けどこでも動画が撮れる時代だからこそ、GoProのような小さいカメラの映像はリアリティを感じます。それぞれ今の時代の気分を表している動画だと思います。
都市空間へと広がるスクリーン
3つ目のトレンド、デジタルサイネージとプロジェクションマッピングの事例です。
【デジタルサイネージ:渋谷デジタル花火大会】(2013年)

※クリックするとデジタルサイネージアワードのサイトに飛びます
渋谷のスクランブル交差点にあるQFRONTビルのビジョンです。これがリニュアルしてスマートフォンに対応したことを告知するイベントとして行われた、渋谷デジタル花火大会という映像です。スマホ画面がリモコン代わりになって、花火を大型画面に映し出します。7日間で3700人が参加し、8万6000発のデジタル花火を打ち上げました。「デジタルサイネージ・アワード2014年」の金賞を受賞しましたが、最近のデジタルサイネージにはこのようなインタラクティブな仕掛けが目立っています。
【デジタルサイネージ:六本木駅 電車連動サイネージ】(2014年)
都営地下鉄六本木駅のホームで、小学館『CanCam』のロゴと女性モデルがモニターに映し出されています。これは日本初の電車連動サイネージで、ホームに電車が入ってくるとモニターの女性の髪やスカートが風に煽られ、画面の奥に行くにしたがって少しずつズレていきます。仕掛けとしては音声センサーが、電車がホームに入る直前の音の周波数を検知して作動します。普段われわれが見る多くのサイネージは、テレビCMをそのまま流したり、静止画だけを表示するものですが、このようなアイデアがある事例も出てきています。
電車つながりの話になりますが、電車のドアの上にあるモニターもデジタルサイネージの1種で、JR東日本ではトレインチャンネルと呼んでいます。今年3月に山手線の新型車両が公開され、中吊り広告をすべてなくしモニターを増やしたことで話題になりました。2020年に向けて少しずつ車両が入れ替わっていくと思いますが、広告業界では山手線の広告がなくなると一時話題が持ち切りでした。
富士キメラ総研の調査によると、デジタルサイネージの市場規模はシステム販売・構築なども含めると2012年822億円、2020年には3倍になると予想が出ています。
中でもサイネージ広告の分野は今後の伸びが期待されており、現在の主流は交通広告ですが、2020年になるとインストアメディアがそれに取って代わると予想されています。インストアメディアとは店舗内にあるメディアのことで、大型ショッピングモールにもサイネージが入っていますし、すでにビックカメラでは売場のテレビをサイネージとして、企業のテレビCMを流すサービスをしています。こういったインストアメディアが今後デジタルサイネージ広告の市場を引っ張っていくと言われています。
【プロジェクションマッピング:TOKYO STATION VISION 】(2012年)
プロジェクションマッピングが日本で有名になったのは2012年9月22日、23日に丸の内駅舎で行われたのがきっかけです。2日間で1万人以上が集まる大成功をおさめ、人が集まり過ぎて中止になったほどです。創建当時の姿に復元された駅舎に幅120m高さ30mの映像を投影しました。これ以降、プロジェクションマッピングは企業のキャンペーンや、全国各地のイベントで採用されるようになりました。
プロジェクションマッピングの面白さは見慣れた建物・風景が、映像によって変容していく驚きだと思います。建物の形に合わせて映像を投影するので、まるで建物が動いているように見えます。1ヶ所に大勢の人が集まり、同じものを見るという体験はSNSでもシェアされやすく、今の時代に合っていると思います。
プロジェクションマッピングの市場規模も急成長し、シード・プランニングでは2012年112億、2016年は6400億と予測しています。自治体が町おこし効果を狙っていますし、成長が期待される分野です。
2014年の『コマーシャル・フォト』10月号でプロジェクションマッピングの特集をしたのですが、2013年~2014年の主要75イベントの開催場所を調べたところ、プロジェクションマッピングのイベントは東京がダントツで多いのですが、実際には日本全国で広く行われています。大阪城、太陽の塔など有名な建物だけでなく、水族館、レストラン、美術館などの室内、東京ディズニーランド、長崎ハウステンボスなどのテーマパーク、札幌雪まつりなど地方の大型イベント、映画・アニメのプロモーションでガンダムや進撃の巨人などキャラクターを使った事例もあります。
街に人を呼び込む動画
このようにプロジェクションマッピングは多くの人を引きつける力があります。イベントを記録した動画がYouTubeに上がると、実際に見てみたい、その場所に行ってみたいと思うようになるなど、映像や動画には街に人を呼び込む力があると思います。具体的なまちおこしの事例をご覧ください。
【鶴ヶ城プロジェクションマッピング】(2013年)
会津若松市の震災復興イベントとして2013年から毎年3月に定期的に開催され、今年は2万3500人を動員。観光・宿泊情報も公式ホームページに掲載され、旅行会社もツアーを開催し、プロジェクションマッピングで街に人を呼び込むことを意図的に行っています。夜に行われるので地元に飲食、宿泊が発生する。単なる人が集まるショウではなく、地元の経済を潤す意味で、復興に役立つと言えます。
【軍艦島アーカイブス】(2015年)
これは最近世界遺産に登録された軍艦島の動画です。YouTubeには軍艦島の動画が沢山上がっていますが、これは4Kカメラとドローンで撮影したところが新しい。実際に4KテレビでYouTubeを見ると、4Kで再生できます。
他にもソニーのアクションカムのCMで軍艦島ロケを行なったり、Googleがストリートビューカメラを軍艦島に持ち込んだ際のメイキング動画など、いずれもネットで話題になっています。こういった動画を見た人たちが国内外からたくさん軍艦島を訪れています。
【東京オリンピック誘致国際映像】(2013年)

※クリックするとYouTubeのサイトに飛びます
街に人を呼び込むという点では、オリンピックに勝るものはないでしょう。この誘致映像はその完成度の高さから、東京に決定した後も海外メディアで評判になり「日本はスピルバーグを雇ったのか」と言われるほどでした。制作者は広告の仕事をしているクリエーターです。マドリッドやイスタンブールの誘致映像は「街」そのものを主人公としていましたが、東京の誘致映像は「人」を主人公にしています。選手を応援する人の思いがハートの形になって、すべて東京に集まるというイメージです。
ここで最初の問いに立ち戻ります。今回のタイトルでもある「動画コンテンツは都市生活に何をもたらすか」という話です。
まず、動画はネットを通じて日本全国、また世界中とつながることができます。次に、技術の進化で新しい映像体験とリアリティを獲得できるようになりました。そして、都市にいればいつでもどこでも映像に触れられる時代になりました。そういったことを含めて、街を活性化し、街に人を呼び込む。それが今の動画コンテンツの力だと思います。
動画コンテンツの今後
最後に動画コンテンツの今後についてです。これから2020年に向けて動画広告、プロジェクションマッピング、デジタルサイネージ、すべて市場が拡大していきます。有名な企業でなくても、あるいは地方でも十分にチャンスがあるのがネットの強みです。
また動画視聴はどこでもいつでもモバイルで見られます。YouTubeだけでなく、Facebook、Twitter、LINEなどSNSが動画対応を強化していますので、さらに動画がコミュニケーションのツールになっていくと思います。
ただし、動画サイトを過信しない方がいい部分もあります。YouTubeの利用者数の円グラフを見ていただきたいのですが、YouTubeのサイトに直接訪問して見ている人は9%、SNSのシェアや埋め込み動画を見ているのが81%。実際にYouTubeのサイトに直接訪問して見ている人は多くないのです。わずか9%の人がYouTubeの動画再生回数の85%を見ている。つまりヘビーユーザーがYouTubeを見ているのが実態だと『ウォールストリートジャーナル』は記事で明らかにしています。動画広告のコンテンツを作るときはこのようなことも考慮に入れた方が良いと思います。
では誰に動画制作を頼めばいいのでしょうか。これまで通り広告代理店という選択肢もありますが、ネット時代なので新しいやり方があります。クラウドソーシングと言われるサービスがそれで、インターネット上に様々なクリエーターが登録しているネットワークがあり、そこで最適なクリエイターを探すことができます。このような新しいやり方を採ると、コスト面でもテレビCMを作るよりも合理的に作れます。
あるいは『コマーシャル・フォト』の10月号付録「CM・映像ディレクターズファイル」には、フリーの方を含めて600人くらいを掲載していますので、こちらを活用いただいてもよろしいかと思います。
これから動画はますます街を活性化していく時代ですので、今日お話しさせていただいたことを参考にしていただければと思います。ご清聴ありがとうございました。













