9月27日から東急プラザ表参道「ハラカド」3FのBaby The Coffee Brew Club (Instagram:@baby.thecbc)で開催中の『未録写真展』。
『未録写真展』では自然とテクノロジーが共存する架空未来「ソーラーパンク」化した渋谷を舞台に、そこで生きる女の子を描いた作品群が展示されている。
写真は今そこに在るものを記録するメディアであり、撮った瞬間にそれは過去となり記録となる。しかし3DCGやAIが発展する中で、写真は記録や証明としてだけでなく、未だ見たことがない未来の風景を提示するメディアになりうるのではないか。
展覧会タイトル『未録写真展』にはそんな意図が込められている。
前回のインタビューでは、作品制作のきっかけやテーマについてフォトグラファー 渡邉成美氏とアートディレクター midori氏に語ってもらった。今回はレタッチャー 加藤智行氏にも参加してもらい、少し踏み込んで作品制作について語ってもらった。
ーーーこの作品は架空の未来、ソーラーパンク化した渋谷で生きる1人の女の子が登場します。風景の作り込みはもちろんですが、女の子がいろんな姿を見せてくれて見応えがありました。
渡邉 1人のモデルさんに3つのシチュエーションを演じ分けてもらいました。会場に展示している「素の状態」でのポートレイトとあわせて観ていただけると、それぞれのストーリーの違いがより明確に出てくるのかなと思います。
学生、ファーマー、バンドマンと全く違う肩書きの彼女をスタイリストさん、ヘアアーティストさん、メイクさんがそれぞれに合わせてしっかりと作り込んでくれました。
ーーーこの作品では、誰も見たことがない未来の世界…「実在しない世界」を作り出していますが、実際にどんなふうに作っているか教えてください。3DCGを使っていると気が付かない人もいそうなくらい自然です。
渡邉 写真と3DCGをレタッチャーが合成して1枚絵に仕上げています。
元になっている人物写真も全てスタジオで撮影しています。人物と背景自体は写真で、一部の建物や乗り物、植物がCGです。一度撮影場所近辺の街並みを3DCGで起こしてもらい、そこに3DCGで作った植物などを元の背景写真に戻しています。
この作品は現代の渋谷を元にした「未来の渋谷」を舞台にしているので、実際に渋谷の街で人物や風景を撮影し、そこでの光をスタジオライティングで完全再現しました。
ポートレイト撮影はロケかスタジオか迷いましたが、今回はそもそもビューティフォトの企画からスタートしているので、ロケスナップ的に撮るよりスタジオでのポートレイト撮影が適していると判断しました。
midori 背景撮影のロケでは成美さんが撮影するほか、CG制作担当者が4種類の3Dスキャンアプリで撮影し、3DCGソフトで立体化しています。
3DCGの中で再現した「渋谷の街」にスタジオで撮影した人物写真などを組み合わせています。実際には存在しない建物やアイテムも全て3DCGで制作してもらいました。
加藤 その全てのデータをマルっと僕が受け取って、人物写真と背景写真を合成処理ではめます。その上から3DCGで作った建物やプロップといったCGデータをはめてなじませる。その後、細かい映り込みもレタッチ上で作っています。
僕が作品を仕上げる上で、まずレタッチャーとして渡邉さんに確認したのが、この作品は【CG感を残したまま構成する】のか、それとも【フォトリアルを目指す】のかでした。
渡邉さんと話す中でやはり写真作品として見せたいという話があったので、レタッチの方針は徹底的に作り込んで【フォトリアルを目指す】で進めることになりました。
渡邉 写真と3DCGを融合すると、どうしても違和感が生まれがちです。でも、今回はその違和感を超えられるぐらいリアルに作ってみようという意図もありました。
「Farmer」メイキング
「女子高生」メイキング
ーーー制作期間はどのくらいなのでしょうか?
渡邉 撮影はロケハン、背景撮影、スタジオでの本番撮影でだいたい1ヶ月ほどです。
midori CG担当者は半年間ずっと作り続けていました(笑)。
加藤 レタッチは2ヵ月くらいですね。背景の消し込みも含めると結構時間がかかっちゃいました(笑)。
でもスタジオライティングの細かい工夫がめちゃくちゃ効いてるんです。
リアルな背景とスタジオ撮影した写真を合成する時は、結構無理矢理合わせなくちゃいけないことも多いのですが、今回は僕のところに届いたデータは、スタジオ撮影での光の角度や細かい作りがきちんと整合性があって、切り抜いてはめるだけで良いくらいに完璧にでき上がっていてレタッチャーとしてはやりやすかったです。
瞳の中の映り込みも、実際はスタジオで撮ってるので、機材やスタッフといったスタジオの風景が映るものですが、ロケ撮影で被写体が見ているであろう風景を撮った写真を撮ってきてもらい、はめ込んでいます。
ーーー1点、1点にものすごく時間と手間と技術が掛かっているし、見どころが多いです。
渡邉 そうですね(笑)。確かにたくさんの過程を経て生まれた作品ですが、会場で作品を見てもらう時は、エフォートレスに見てもらえたら嬉しいです。
この作品はポジティブな未来の世界を描いたものでもあるし、若い方たちにも気軽に見て共感していただいたり、楽しんでいただけたらいいなと思っています。
midori 当初は少し退廃したようなダークなイメージも入れることを想定していましたが、これからの渋谷をポジティブに表現するとテーマが定まった時に、自然とテクノロジーがうまく共存してる社会っていうのを素敵に描きたいねとなったんですよね。
僕らなりに描いた未来を観ていただけると嬉しいです。
会期は10月2日(水)まで。写真作品は会期終了後、同施設3Fでの常設展示が決定したそうだが、物販やその他メイキング展示などは会期中のみ。
機を逃さずサイバーパンクの世界に浸ってほしい。
【制作スタッフ】
P:Narumi Watanabe @nabemono
AD:midori @midori_save_the_world
3DCG+AI:Kloph by Daisuke Hijikata @kloph.zip
Model:Yui Okamoto @yui_okamoto_
Ret:Tomoyuki Kato @_tomoyuki_kato
Hair:HIRO @hir0_hair_
Makeup:Shinya Kumazaki @shinya_kumazaki
ST:KANI @kntkfm
【プロフィール】
渡邉成美(わたなべ・なるみ)
フォトグラファー
1996年 神奈川県出身
2018年 早稲田大学国際教養学部卒業
2019年 博報堂プロダクツ入社
Instagram:@nabemono
midori(ミドリ)
ビジュアルアーティスト・アートディレクター
Instagram:@midori_save_the_world
加藤智行(かとう・ともゆき)
レタッチャー。1996年京都府生まれ。
日本大学藝術学部写真学科を卒業後、
2019年 株式会社 博報堂プロダクツREMBRANDTにレタッチャーとして入社。
Instagram:@_tomoyuki_kato
【展覧会概要】
『未録写真展』
会期 : 9月27日(金)〜10月2日 (水)
会場 : 東急プラザ表参道「ハラカド」
入場料:無料
オープニングレセプション : 9月27日(金) 18:00〜22:00
Web:https://harakado.tokyu-plaza.com/
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【特集】フォトグラファーたちの これまでとこれから
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