フォトグラファー渡邉成美が9月27日から10月2日まで期間、東急プラザ表参道「ハラカド」3Fにて『未録写真展』を開催する。
この作品を手がけた広告写真を中心に活動する フォトグラファー渡邉成美氏、ビジュアルアーティスト、アートディレクターとして活動するmidori氏に作品について話を語ってもらった。また、ここでは先行して作品の一部を紹介する。
ーーー作品について教えてください。
渡邉 社内の企画でビューティフォト作品を制作することになったのがきっかけです。フォトグラファーとアートディレクターが組んで作品を制作するのですが、私としては何よりまず写真として面白い、斬新な作品を作りたいと考えたんです。
そこで以前お仕事でご一緒したmidoriさんにお声がけしました。
せっかく一緒に作れるなら、普段から興味を抱いていることからテーマを広げたくてmidoriさんに話を振ると「植物」と「架空の世界」の話をしてくれました。
midori 僕は「植物」と「メカ」が好きなんです。緑とメカニカルなデザイン、どちらも男子が好きなそうなものなんですが(笑)。この2つは物質としては真逆だし相入れないもののようですが、この2つが重なる「ソーラーパンク」という世界観があるんですよ。
ーーー「ソーラーパンク」…。SF映画や小説の「サイバーパンク」とか「スチームパンク」的なものですか?
midori 簡単に説明すると、行き過ぎたテクノロジーによって退廃した世界を描くのが「サイバーパンク」ですが、「ソーラーパンク」はテクノロジーと環境が共存して成り立つ世界です。
ディストピア的なイメージの「サイバーパンク」の世界と違って、「ソーラーパンク」は結構理想的な世界なんですよね。
具体的にはテクノロジーが発展した未来の世界線で、そこではメカも植物も共存していてソーラー発電など持続可能なエネルギーで全てが賄われる…みたいな。
個人制作でもこの世界観を取り入れ始めたタイミングだったので、成美さんからお話いただいたときにたくさん語らせてもらいました(笑)。
渡邉 そうでしたね(笑)。midoriさんが語ってくれた「ソーラーパンク」の世界と元々の企画である「ビューティフォト」。その2つに加えて、私自身はやっぱり写真にこだわりたかったので「ポートレイト」の3つを掛け合わせて面白いものを作ろうと話が進みました。
渋谷を舞台にしたソーラーパンクの世界
ーーー今回は作品の一部を紹介させていただきましたが、展覧会に先駆けて少しだけ解説いただけますか?
渡邉 ソーラーパンク化した渋谷を舞台に、職業やキャラクターを設定し写真と3DCGで作品を制作しています。背景などもCGで制作してもらい写真と融合してもらいました。
この作品で言うと「未来都市のFarmer」がテーマです。今の時代には存在しない職業ですが「ソーラーパンクの世界線ならこんな人がいそう」と想像を膨らませて設定しました。
midori 例えば、今の僕らの暮らしには電力が必須ですがこの世界線では植物を育てる過程で生まれるエネルギーを電力に変えることができて、彼女はそのエネルギーを育てている…なんてストーリーを作りました。
そんな世界だから、都市のそこかしこに植物が生えているし「Farmer」の衣装もよく見ると肘や膝に芝が生えています。作品の中には風力発電やソーラーパネルが隠されたり…、展示作品ではこういったストーリーを作品の所々に散りばめています。
渡邉 そういった設定に合わせてヘア、メイク、スタイリングもそれぞれ担当に考えてもらっていました。現実に近しい未来を想定していたので、髪型や衣装も現実離れしすぎないものを探っていただいてます。
ヘアアーティスト、メイクアップアーティスト、スタイリスト、レタッチャー、CGクリエイターといろんなジャンルのクリエイターとコラボレーションしている点も見所のひとつだと思います。
写真とCGの融合によってクリエイティブに対して能動的になれる
ーーーこの作品はクリエイターたちが描いた理想の未来の世界なのかもしれませんね。
渡邉 これまで写真は「かつて存在していた」という過去を証明するものでしたが、CGやAIの発展によって写真は過去だけでなく近未来の世界さえも提示ができるんじゃないかとも思っています。
タイトルを「未録写真展」とした理由も「記録写真ではなく、未だにないものを写真として撮影する」というコンセプトからきています。
ーーー写真とCGのコラボで未来を示すと言うのは面白いですね。
渡邉 本音を言うと、写真を撮る者としてはCGで作品を作ることに初めから全く抵抗がなかったわけではないんです(笑)。
写真って、既にあるものを見つめて切り取る行為から始まるじゃないですか。
でもCGやAIが世の中に浸透する中で、既にあるものを切り取るだけじゃなくて、まだないものをゼロの状態から想像して作り上げられるCG技術と組み合わせたら、もっとクリエイティブに対して能動的になれると考えたんですよね。
常に「あるものを受け止めて切り取る作業」から、「ないものを想像して作り上げ出て見たことが世界を開示する」って面白そうだなと思えるようになってきました。
CGやAIによって写真という媒体が脅かされるんじゃないか、という意見もありますが、フォトグラファーやクリエイターがさらにクリエイティブの領域や表現の幅を広げることもできるんじゃないかと思っています。そう言う意味では今回の作品はチャレンジですね。
ーーー最後に来場者に向けてメッセージをいただきたいです。
渡邉 やっぱり写真作品としてたくさんの方に楽しんでいただけたら嬉しいですね。
展覧会会場のハラカドも植物との共存しているようなビルなんです。
展覧会会場は3Fですが、その上の4Fではアートと植物を楽しめる原っぱのようなパブリックスペースがあって、今回の『未録写真展』のイメージともマッチするかなと。
3Fで作品を鑑賞された後、4Fで植物を楽しんでいただけるとまた面白い体験になるかもしれません。
写真展初日の9月27日(金)18:00〜22:00には会場にて、オープニングパーティーも開催される。
ぜひ足を運んでほしい。
【制作スタッフ】
P:Narumi Watanabe @nabemono
AD:midori @midori_save_the_world
3DCG+AI:Kloph by Daisuke Hijikata @kloph.zip
Model:Yui Okamoto @yui_okamoto_
Ret:Tomoyuki Kato @_tomoyuki_kato
Hair:HIRO @hir0_hair_
Makeup:Shinya Kumazaki @shinya_kumazaki
ST:KANI @kntkfm
【プロフィール】
渡邉成美(わたなべ・なるみ)
フォトグラファー
1996年 神奈川県出身
2018年 早稲田大学国際教養学部卒業
2019年 博報堂プロダクツ入社
Instagram:@nabemono
midori(ミドリ)
ビジュアルアーティスト・アートディレクター
Instagram:@midori_save_the_world
【展覧会概要】
『未録写真展』
会期 : 9月27日(金)〜10月2日 (水)
会場 : 東急プラザ表参道「ハラカド」
入場料:無料
オープニングレセプション : 9月27日(金) 18:00〜22:00
Web:https://harakado.tokyu-plaza.com/
コマーシャル・フォト 2024年10月号
■特集「令和の時代に、フィルムで写真を撮るということ。」
写真家・石田真澄がフィルムを使い、ハウススタジオやフェリー、海辺で自然体の齋藤飛鳥を11Pにわたって撮り下ろした。また、これまで石田が積み重ねてきた仕事の数々から一部を抜粋して紹介する。
また、中森 真、大野隼男、木村和平、竹中祥平、三部正博という5人のフォトグラファーがフィルムを使って撮影した仕事例、作品を紹介。フィルム撮影に関する考え、使用機材やよく利用する現像所などを伺った。
■連載「撮影を楽しむスペシャリストたち」
写真業界には数多くの撮影ジャンルがあり、それぞれの分野で活躍するスペシャリストたちがいる。この連載では、フォトグラファー中野敬久氏が毎回気になるスペシャリストにインタビューを行ない、その分野ならでは魅力や、撮影への向き合い方を聞くことで、“撮影を楽しむ”ためのヒントを探っていく。今回のゲストは新津保建秀氏。
■連載「GLAY CREATIVE COLLECTION 2024- VOL.03」
GLAY 30年間のクリエイティブを網羅した書籍「GLAY CREATIVE COLLECTION 1994-2024」が好評につき連載化!今回紹介するのは9月18日発売の「GLAY 30th Anniversary GLAY EXPO 2024-2025 in BELLUNA DOME Blu-ray & DVD」のアートワーク。アートディレクターの吉野晋弥氏、フォトグラファーの岡田祐介・田辺佳子氏に取材した。