写真を楽しむスペシャリストたちVol.10 徳野佑樹が語る“嘘じゃない広告”の作り方

アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。

徳野佑樹 (とくの・ゆうき)

1983年生まれ。2007年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。2007年博報堂入社。2013年 TBWA\HAKUHODO 在籍。2023年 TOKU 設立。主な受賞歴、東京 ADC 賞/カンヌライオンズ デザイン部門:ゴールド/ ACCデザイン部門:ゴールド/ ACC イノベーション部門:グランプリ/ 2018 年クリエイターオブザイヤーメダリストなど。

中野氏が組んだセットを使用して、本人が iPhone でリモート撮影。

中野 近年、写真を使用した広告の求心力が落ちていると感じます。というのも、世の中にはたくさんのメディアが溢れていて、消費者が写真を見ることに慣れてしまった。そんな時代に、写真を使ったデザインの利点はどこにあるんだろうと考えるんです。

徳野 あくまで私見ですが、写真を使うことで「本当に見える」みたいな感覚を与えられると思います。例えば、タレントを起用した広告で、「本当の笑顔」という人間らしい表現ができるのは写真だけ。企業やブランドや商品を好きになってもらうのが、アートディレクターとしての僕の仕事で、見ている方々に「好意」を伝播させていきたいわけです。タレントの気持ちが乗ると、結果として見ている人に伝わりやすいメッセージとなります。その人の話を聞きたくなる感覚に近い。この速度は文字やイラストに比べて、写真ならではの強みだと思います。

中野 「嘘じゃない感覚」というものがクリエイティブの根幹にあり、「嘘じゃない広告」を作りたいと考えているということですよね。

徳野 そうです。タレント広告でも、宣伝する商品を好きじゃなさそう、ブランドを信頼していなさそうという気持ちは受け手に気付かれる。その商品やブランドを好きになってもらうために、一緒に応援してくださるようなタレントが好きです。だからこそ、僕には「撮影現場の空気づくりをする」という責任もあるので、それを実現できるかどうかが勝負だと考えながら現場に入ります。

中野 「本当の笑顔」を写真で表現するために、フォトグラファーに求める資質は何でしょう?

徳野 楽しく撮影に向き合えているかどうかは大切だと思います。そのためには、現場の心地良さも重要ですし、優れたフォトグラファーほどよく下調べをしていますよね。コミュニケーションを取りながらアプローチしていき、被写体がそれに返すことで撮影が心地良く進んでいく、この構造を作れるフォトグラファーはすごいです。被写体がそのフォトグラファーに撮られたいという気持ちがなければ、結局成立しないと思っています。

中野 僕もタレントの撮影が多いので、コミュニケーションを取るのは当たり前ですが、そこに自分なりのアングルを付け加えたくはなります。透明人間にはなれないというか。

徳野 ご自身のアングルを加える、ある種のワガママさがあることはとても大事だと思いますし、頼りになりますよね。その一方で、資質でいうと「自分の取り分」を多くしたい人は少し信用できない。

中野 どういうことでしょう?

徳野 クリエイターにも言えることなのですが、仕事を自分の作品として捉えていて、商品や企業よりも自分が有名になりたいという人が一定数存在するなと思っていて。

中野 広告と作品に対する向き合い方の違いですね。

徳野 やりたいことを実現するのにクライアントやタレントを利用するのは違うと思うんです。それは人の良さとかではなく、世の理としてそうあるべきだと。「優れたかっこいいもの」という自分なりの基準ってクリエイターなら誰しも持っているものですが、その価値観が世の中と接着するかは分かりませんからね。

中野 難しい部分でもあります。自分なりのアングルを持ち続けることが弊害になる可能性もあると。

徳野 「アングル」がない人はダメなんですけど、その人なりの表現やこだわりがあった上で、変化をつけられることが求められるってことですよね。

中野 フォトグラファーは自己完結してしまうことが多いんですよね。

徳野 ただ、実を言うとフォトグラファーにその能力は求めてないというか。俯瞰でバランスコントロールするのは僕の仕事で、思い切り撮影をしてほしい気持ちもあるんです。フォトグラファーが自分の想定を超えてくれるのは嬉しいですし、カンプでは絶対に作れない、言語化できない領域だと思うから。

中野 クライアントと共通認識を持ちながら、ある意味彼らをコントロールする必要もありますよね。

徳野 コントロールというよりは「並走する」意識が近いかもしれません。当たり前のようですが、仲良くなるにつれて色んなことがスムーズになった経験があり、逆にずっとかしこまっていると、どこまでいっても提案する側から抜けられない。お互いの信頼が深まったら、意外性のある表現でも理解してくれる。「徳野さんなら大丈夫」と思ってくれるまでが勝負です。

中野 フォトグラファーには、どのタイミングから並走してほしいですか?

徳野 「並走」という意味だと、テスト撮影をするところぐらいからですけど…。勘のいい人って、企画意図を理解した上で一つ二つ上乗せしたクオリティを一瞬で提案してくださるんです。もちろん、そのジャンプがマイナスになるなら難しいのですが、広告を見慣れた皆さんを惹きつけるために、フックは必要になります。意外性のある表現は常に求められています。

中野 フックを作るってフォトグラファーなら誰もがやりたいことだと思うんですけど、その資質を持っているかどうかはどうやって判断しますか?

徳野 大量の試行錯誤を積み重ねてきた方が信頼できます。撮影現場で別のベクトルに舵を切りたいと思った時、トライ&エラーを重ねた人じゃないと「こっちがいい」で終わってしまう。色んな引き出しを持っているのは、地力があるフォトグラファーの証拠だと思います。

中野 豊富な経験の賜物ですね。

徳野 若い人も素晴らしいのですが、本当に失敗できない時はキャリアのある人を選んでしまいがちです。

中野 写真を一つのツールとして考えるのではなく、徳野さんは写真を起点としたコミュニケーション方法を追求されているなと作風を見ていて感じます。

徳野 ありがとうございます。本当に、笑顔の写真が悪いと思ったことは一度もないんですよ。

中野 最近は完成された作品だけではなく、ビハインド・ザ・シーンも含めた色々なビジュアルが提供されるので、ポジティブオーラを醸し出すためには笑顔が一番強いのでしょうね。

徳野 最高のコピーがあれば、真顔で伝わるかもしれない。でも、その読解力を一瞬で求めるのは酷だろうと思うんです。だからこそ、僕はポジティブなコミュニケーションが最も効率的だと思う。

中野 昔からそう思ってますか?

徳野 むしろ、かっこいい表情でスマートな作品を作りたいと思っていました。先ほどの話にも関連しますけど、この仕事を始めて5年目くらいの時期は、自分の取り分だけを求めている側でした。商材の性質が全く違うのに、ファッションみたいなことをしたいと無理やり自己表現を合わせようとしていた。だから、上手くいかなかったんです。

中野 そんな時代があったんですね。

徳野 ある時、笑顔をとても素敵に撮るフォトグラファーの撮影を経験して、徐々に考え方が変わっていきました。

中野 その考え方は、時代とすごくマッチしたコミュニケーション方法だと感じます。世の中には斜に構えた表現もあってしかるべきだけど、ポジティブなオーラを伝えるには笑顔がわかりやすい。昔は洗練された笑顔のファッション写真も多かったですし、あの世界観を思い出すとかっこ良さはポジティブなものにしか宿らないんだろうと思います。

徳野 実は、笑顔で成立する写真はレベルが高いと思うんですよね。

中野 笑ってもらうために道化を演じるフォトグラファーもいると聞いたことがあります。それも一つの方法だと思いますが、やっぱり笑われるではなく笑わせたいじゃないですか。どんなタレントでも無理なく笑うポイントみたいなのって絶対にあると思いますし、徳野さんの現場で大切なのはコミュニケーション能力に尽きるなと。先ほどおっしゃっていたリサーチ能力しかり、短時間で人の気持ちを掴むための努力は怠ってはいけないということですね。

徳野 さらに言うなら、ベースのクオリティが高くないと笑顔は成立しないと思います。写真としての良さが担保された上での笑顔だったら相乗効果になる。

中野 本当の意味で一番いい笑顔なら、事務所も OK するということですね。

徳野 タレントさんも得する構造じゃなきゃいけない。みんなが好きになっちゃうくらい素敵な笑顔の広告がいいですよね。大きな笑顔じゃなくても、その人なりの嬉しい顔って絶対あるじゃないですか。本当の表情なら伝わると思います。

UNIQLO「Masterpiece」2024 SS

企画制作= Uniqlo Global Creative Lab AD =徳野佑樹 P =間仲 宇・草場雄介 D =松崎 賢・矢野麻子 Pr =髙橋佑馬・宮城洋祐 AssistantPr =奥野 楓・松浦 嵩・末弘一穂・井上智絵・廣島あかり Art + ST = Art Position Ret =首藤智恵 Ret Pr =小川亮輔

ユニクロの定番商品の工夫や裏側を見せていくシリーズ。見慣れた定番商品を、いつもとは少し違った視点で切り取りました。(徳野)

NAKANO’s COMMENT
多種多様な新しい表現がある中、真っ向から演者さんありきの写真、広告と向き合っている徳野さん。自然とそこに行き着いたと仰っていたのが印象的でした。笑顔写真が人を幸せにするためのコミュニケーションツールである部分を改めて見つめ直す金言と捉えました!

Q1 写真の好きなところ
言葉を読む、映像を観るというコミュニケーション方法と比べて、圧倒的に速く伝わるのが写真。良し悪しが一瞬で伝わってしまうという速度を含めて、写真ならではの要素だと思います。

Q2 最近気になるフォトグラファー
熊谷勇樹さん。お仕事をしたことはないのですが Instagram を拝見して、素敵な写真を撮る方だなと思っています。人への距離感が絶妙で、ポートレイトがすごく自然でいい空気感なんです。

Q3 業界を目指す人へ
あまり近道をしない方がいいです。デジタル加工や AI が流行していることもあり簡単にものを作れる。でも制作過程を簡略化することに慣れると、クオリティの上げ方がわからなくなる気がします。

Q4 衝撃を受けた写真
服部一成さんの、初期のキユーピーハーフの広告写真です。広告業界を目指すか迷っている時にこの写真を見て、本心や本質を捉えるとはこういうことかもしれないと感銘を受けました。

Q5 フォトグラファーと出会う場所
フォトプロデューサーの方など、人から紹介されることが多いです。直接持ち込みの連絡もいただくのですが、信頼している方からの紹介だと、より安心感があると思います。

Q6 キーアイテム
尾道で売られている紅茶とコーヒー。茶筒も気に入っています。家ではこれを飲みながら仕事することが多いですね。尾道は個人的に何度も訪れている町で、人の空気や文化や気候が好きです。

撮影・インタビュー

中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/



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4人のフォトグラファーが撮り下ろす グラス撮影のアイデア&テクニック。光をどう設計し、どの角度から見せ、どこにフォトグラファーの発想を差し込むか。
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【EXHIBITION REPORT 】
高木由利子 写真展 「Threads of Beauty 1995-2025 ― 時をまとい、風をまとう。」

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