撮影を楽しむスペシャリストたち Vol.02 中村和孝が撮るグラビアとは

撮影を楽しむスペシャリストたち

写真業界には数多くの撮影ジャンルがあり、それぞれの分野で活躍するスペシャリストたちがいる。
この連載では、フォトグラファー中野敬久氏が毎回気になるスペシャリストにインタビューを行ない、その分野ならではの魅力や、撮影への向き合い方を聞くことで、“撮影を楽しむ”ためのヒントを探っていく。

Vol.02
中村和孝が撮るグラビアとは

▼今回のSPECIALIST

中村和孝(なかむら・かずたか)

1971年愛媛県宇和島市生まれ。1991年東京工芸大学卒業後、単身ロンドンに渡る。1993年に帰国後、雑誌や写真集、広告等多方面で活躍。
kazutakanakamuraphoto.com

自由に被写体と向き合いつつ、旅をするようにストーリーを紡ぐ

中野 中村さんのInstagramにもポストされている1999年6月号の『流行通信』の写真が印象的でした。あのファッションストーリーは「旅」がテーマになると思うのですが、当時は海外でもユルゲン・テラーなどがストーリー性のあるポートレイトを打ち出していたんです。ちょうど僕がロンドンから帰ってきたばかりで、日本のファッション写真に免疫がない状態だったからこそ、日本のフォトグラファーであそこまでストーリーテリングの上手い人はあまりいないと感じました。

中村 懐かしいですね。自分で雑誌社に持ち込みをしていた時代です。スタジオマン時代にできた編集部との繋がりで雑誌の仕事をやらせてもらったり、映画の撮影現場に同行して1冊の写真集を作るみたいな仕事をやっていました。

中野 最近、中村さんが撮影した女優やアイドルのグラビアを拝見する機会が多いのですが、10ページくらいのグラビアだと、中村さんならではのストーリーテリングを強く感じることができます。少ないページだとエディットされてしまうこともありますが、『流行通信』のファッションストーリーのように、本来だったらグラビアでもこういったプロセスがあるんだなと。

中村 グラビアでもフォトグラファー自身でストーリーを組み立てる必要もあるとは思いますが、僕はそこまでこだわりはなく、割とフラットな状態で撮影していることが多いです。何とかなると思いながら(笑)。

中野 それは経験値があってのことでしょう、流石に(笑)。

中村 撮影については、若い頃から流れに身を任せてきたんですよ。

中野 逆説的な質問になりますが、どんな時に流れに抗いますか?

中村 よくわからないシチュエーションだと迷ってしまうかも…。例えば、ミスマッチな小物を持って来て、これを使ってどうにかしてほしいとか。頑張りますが、できないものはできません(笑)。

中野 僕は男性を撮影することが多いのですが、例えば服を脱いでいるシーンを撮影してほしいという要望があるとして、ベタすぎると感じたらなるべく回避するようになっちゃいました。

中村 抗うとは別ですが、タレントの方と2人きりにされるのは苦手です。

中野 撮影中、相手に声がけはするんですか?

中村 するんですけど、僕、しゃがれ声で声量も小さいから聞き取りづらいだろうなって…。

中野 (笑)。中村さんがファッション誌でグラビア的なものをやり始めたのは、『GLAMOROUS』あたりからだと思うのですが、どんな経緯があったのか興味があります。

中村 小嶋陽菜さんなど、AKB48の方をファッション誌で撮影するようになったくらいから、段々と似たような撮影が増えてきました。グラビアって日本独特の文化だと思うのですが、僕はファッションストーリーを撮影するようなイメージで撮っています。

中野 なるほど。ファッションをやっていた後輩がグラビアを撮影したいと言っていて、その後輩曰く、ファッション的なものを突き詰めていくと日本だとグラビアの方が近い気がするらしいのです。今のお話を聞くと、グラビアとファッションは写真的アプローチが近いんだと感じてきました。中村さんがグラビアを撮影する上で、気を付けていることも気になります。僕の感覚として、お尻からなめるように撮るとか、体が肥大化してるように撮るといった元々あったグラビアルールを中村さんが変えたと思っています。ポートレイト的なアプローチをしながら、必要なエロティシズムも含む写真がすごくファッションっぽい。どちらかというと、海外の『PLAYBOY』のグラビアに近い感覚があります。

中村 撮り続けている内にそういうテイストになったのかもしれません。そもそもグラビアってあんまり見てこなかったんですよ。

中野 わからないなりにアウトプットしていたら受けたみたいな。

中村 そうそう。ヘアメイクさんやスタイリストさんが割とファッション志向な方が多かったことも要因だと思います。

中野 この連載は「撮影の楽しさ」がテーマでもあるのですが、中村さんにとっての楽しいことは何でしょう? 

中村 例えば、『流行通信』の頃は自分で現像をしていたのですが、暗室作業は結構好きでしたね。予算がない撮影も多く、スケジュールもタイトなのでベタ焼きもその日に現像したり。

中野 カラーも自分で現像していたのですか? 温度管理がシビアで失敗することも多く大変ですよね。

中村 皿現像でやっていましたよ。すごく大変でしたが(笑)。楽しかったですね。

中野 それは好きじゃないとできませんね(笑)。ちなみに、フィルムは何を使っていましたか?

中村 カラーはKodakのEPLとかEPPとか、FUJIFILMも使ってました。

中野 今回掲載させていただく『Them magazine』の作品はポラロイドで撮影されたものだとか。

中村 『Them magazine』でアナログの特集をする時に、家に8×10(バイテン)のフィルムが残っていたんです。それを使ってポラロイドで撮影をしたのですが、かなり曖昧な描写で、それが逆に気に入りました。

中野 フィルムは結構劣化していたのでしょうか?

中村 結構ひどかったですね(笑)。

中野 1枚くらいはテストして現場に?

中村 しませんでした。

中野 (笑)。今みたいに沢山シャッターを切る撮影に反したことをやろうというアンチテーゼ的なマインドだったのでしょうか。

中村 そうですね。せっかくなので、実験的に楽しもうと多重露光もしました。

中野 多重露光だと尚更色は出ませんからね。

中村 そうなんです。でも最近で一番楽しかった撮影です。

中野 自費出版された写真集『London』も掲載させてください。

中村 若い頃1年くらいロンドンにいて、当時撮影したモノクロ写真で構成したものです。

中野 景気が悪いから、強面の方ばっかり。彼らにはどうやってアプローチを?

中村 撮影するにあたり、ロンドンの街で良さそうなスポットをいくつか把握しておきました。面白そうな人がいたらこっそり後ろをついて行って、そのスポットを通るタイミングを見計らって声をかけるんです。見かけたその場で撮影すると抜けもあんまり良くないので。

中野 最初の話では、中村さんはグラビアの撮り方にこだわりはないとおっしゃっていました。でも、中村さんの原点でもある『London』の写真集を拝見すると、実はかなり考えてロケーションを選び、その人の魅力を出すことを瞬時にやっていますよね。また、影響を受けたとおっしゃっていたヨゼフ・コウデルカが各国でドキュメンタリーを撮影していたようなエッセンスが、グラビア撮影の手法に活きてきているのだなとも感じました。

中村 コウデルカの影響は受けていると思います。他の写真集も好きなものが多いです。

中野 確かに、シルエットとして体の捉え方も海外でいうと、ベッティナ・ランスなどに共通していると感じます。多くのフォトグラファーから得たリファレンスが随所に入っていって、結果として新しいものになったのかもしれませんね。

中村 でも、写真集を見過ぎると影響を受けて、撮影している側はどこかわざとらしくなるんですよ。誰々と似ていると感じると、意図的に構図をずらしたりしてしまいます。

中野 それは良くわかります。僕もフォトグラファーを志していた頃にデヴィッド・ベイリーの初期の写真集を穴が空くほど見ていて、頭を切ったりといった構図感が自然と刷り込まれています。そういう気持ちの良い収め方は残しつつ、ワイド感みたいなものは真似しないでおこうといった取捨選択をします。

中村 頭が切れると不吉だと気にする人もいますし、他にも雑誌だとどうしてもここにタイトルを入れるとか、国内の写真は制限がありますよね。海外は結構そこが自由で、やりたいように表現できるのが魅力的です。

中野 その点、グラビアは他のジャンルと比べて、フォトグラファーの意図を純度の高い形で見てもらえることが多いので、その自由さが魅力のひとつなのかもしれませんね。

NAKANO’s COMMENT
写真集『London』の説明を聞いて、昔のファッション撮影から最近のグラビアまで、とても自由に被写体と向き合いつつ、旅をするようにストーリーを紡いでいるのがわかりました。『Them magazine』掲載作品においても、そういった中村さんの写真表現を感じることができます。

スペシャリストに聞く6つの質問

Q1 業界を目指す人へ
最近は雑誌も少ないので若いフォトグラファーにとって厳しい時代だなと思います。反面、SNSもあるので、わかりやすくお金に直結はしないけど何か新しい表現はできるのかもしれません。

Q2 被写体への向き合い方
グラビアの仕事も多いので意外に思われるのですが、そんなにグイグイといかないですね(笑)。無理してコミュニケーションを取らずに、一定の距離を保って、シャッターを押すだけです。

Q3 影響を受けた人
ヨゼフ・コウデルカですかね。COMME des GARÇONSの『Six』という雑誌に載っていたコウデルカの写真は印象的でした。あとはアントン・コービンのパキっとした感じも好きでしたね。

Q4 気になっていること
ここしばらく、グラビア撮影では「柔らかい雰囲気」を求められることが多く、実際その方向性で撮影してきましたが、実は最近、ちょっと飽きてきて。硬めに粒子感を入れるなどテイストを変えてみたいなと思っています。

Q5 撮影中のBGM
個人的にはブライアン・イーノの曲が大好きなのですが、眠くなってしまうので、撮影中にかけるようなジャンルではありませんね(笑)。アシスタントにいい感じの音楽をかけるように頼むことが多いです。

Q6 キーアイテム
映画の切り出しを集めた写真集。パリの古本屋で購入したものです。独特な発色が好きで、今でも良く見ています。高感度で撮影されているから、写真の粒子感も強くてお気に入りの1冊です。

撮影・インタビュー

中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。
VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージ
シャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/

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