【蒼井ゆい 短期集中連載】 “楽しい”を信じて撮る。 ――原点がくれる自由

▪️はじめに 
「写真って、楽しい」から始まった。

【蒼井ゆい 短期集中連載】

初めて心が動いたのは、たぶん――カメラを構えた瞬間、心地よいシャッター音と共に、モニターに映し出された、クリアな一枚を見たとき。
その一枚を残したのは、Nikonのカメラ。ただ写すだけじゃない、“感じていた景色”をそのまま映してくれた。

どれもが、ただの記録ではなく、“私の見ていた世界”だった。

「きれい。」

その静かな感情が、自分の中の何かを確かに動かした。

けれど、その少し前、私は別のカメラ――Sonyのカメラを使っていた。

当時の私は、写真に夢中になれていなかった。その理由はいくつかあるけれど、ひとつは“そのカメラが本当に好きで選んだ”わけではなかったこと。

当時は、写真の知識も少なくて、「流行っているから」という理由で選んでいた。人気モデルを、そのまま手に取っていた気がする。

もうひとつは、構図や光の基礎がまだ身についていなかったこと。その状態で色味の設定をいろいろ試してしまったから、うまく写せないことにばかり目がいってしまった。

今思えば、カメラの性能ではなく、写真に向き合う“自分の準備”が整っていなかったのだと思う。
そんな中で、ある日ふとNikonのカメラに触れる機会があった。それが、私の写真との向き合い方を大きく変えることになる。

カメラが見せてくれる世界に、
私は惹かれている

【蒼井ゆい 短期集中連載】

そのときの私は、まだ技術も知識も持っていなかった。

でも――
このカメラは、こんなにも美しく世界を切り取ってくれるんだ、と純粋に感動した。それは、自分が写真を“作った”というより、カメラと一緒に“発見した”感覚に近い。その感動は、今も私の中にある。

ただシャッターを切るだけで、新しい気持ちに出会える。それがうれしくて、今も私はカメラを持ち続けているのだと思う。

「今日はどんな景色に出会えるだろう?」
「この空気感を、どんなふうに写してくれるだろう?」

そんなふうに、大好きなカメラと会話するようにして撮影している。

カメラを持つことがくれる高揚感

【蒼井ゆい 短期集中連載】

写真が好きという気持ちと同じくらい、「カメラを持つこと」自体にも喜びがある。

手にしたときの質感や、ダイヤルを回す感触、精密な機械の存在感。ただ持って歩くだけで気分が高まるような、そんな“かっこいい道具”が生活の中にあることがうれしい。

趣味という枠を超えて、日常をちょっと豊かにしてくれる存在だと思っている。

決まりごとに縛られず、
もっと自由に楽しめる

【蒼井ゆい 短期集中連載】

写真を撮っていると、よく聞く言葉がある。「このレンズは人を撮るのに向いている」とか、「このカメラは風景用だ」とか。

でも、私はその“決まりごと”にあまり興味が持てなかった。

たとえば、「これは人を撮るレンズだよ」と言われたもので風景を撮ってみる。「広い景色向き」とされているもので、小さな雑貨を撮ってみる。

“当たり前”を少し壊してみると、レンズやカメラが、思いがけない表情を見せてくれる。

誰かが決めた正解より、「自分が楽しい」と思える撮り方のほうが、私はずっと好きだ。

そんなふうに、“決まりごと”に縛られず楽しむようになった私が、本格的に写真と向き合うきっかけとなったのが、Nikonのカメラだった。

クセのない、リアルで正直な色味。何も足さず、引かない描写に心を奪われた。それまで“どう撮ればいいかわからない”と感じていた時間が、Nikonでは“ただ切り取れば伝わる”と感じられた。

そこから私は、写真の世界にのめり込んでいった。

撮るたびに、光や構図に対する理解が深まり、表現の引き出しが少しずつ増えていく。レタッチも覚え、色をどう“味付け”するかという楽しみも見つけた。

-レタッチ前
-レタッチ後

そして最近、もう一度SONYのカメラを手にしてみた。

すると、かつては難しく感じていたその描写が、今ではとても面白く感じられた。以前は使いこなせなかった色の表現にも、自分なりのアプローチで向き合えるようになっていた。

あのときには見えなかったものが、今は見える。

同じカメラなのに、違う世界を映してくれるようだった。カメラではなく、私の感じ方が変わったのだと思う。

▪️おわりに
「機材にとらわれない」ということ

【蒼井ゆい 短期集中連載】

“写真を楽しむ”という気持ちは、カメラの価格でも、スペックでも決まらない。

自分の目で見て、自分の心が動いた瞬間を、どう切り取るか。その自由さの中に、写真のいちばん大切な魅力があると思う。

誰かの決めた正解じゃなくて、自分の中の「これ、いいな」を信じて撮る。

それが、私の“原点”であり、これからも変わらない楽しみ方だ。

Last Message

写真にのめり込んでいったあの頃、私は毎日「もっと世界を見たい」と思っていた。

まだ知らない光、まだ見ぬ景色、気づかなかった感情。Nikonのカメラと過ごす日々の中で、一つずつ見つけていく時間が、とても愛おしかった。

そして今、もう一度Sonyのカメラと向き合ってみて、気づいたことがある。カメラを通して見えているのは、世界だけじゃない。自分自身の変化や、成長、そして今の自分の感性。

写真はいつだって、私がどんなふうに世界と関わっているかを教えてくれる。

もし今、少しでも「撮ってみたいな」と思っているなら、“いいな”と思った瞬間を、シャッターでそっとすくってみてほしい。
それがきっと、あなたの原点になるかもしれない。

【PROFILE】
蒼井ゆい(あおい・ゆい)
写真家。スナップ、ミニチュア、自然、風景、動物など、ジャンルを横断しながら「どこを見るか、なぜ撮るか」を大切に撮影。作品だけでなく、撮るまでの視点や思考も含めて写真だと捉えている。YouTubeではPOV視点を通じて構図や判断のプロセスを発信。SNSフォロワー数は20万人以上。「カメラをもっと身近に」をコンセプトに、日々写真の楽しさを発信している。自身が運営するオンラインコミュニティ「蒼い彗星」では、作例や講座を通じて表現の奥深さを共有している。
X:x.com/_aoi_yui_
Instagram:www.instagram.com/_yui.aoi_/

コマーシャル・フォト 2025年5月号

【特集①】
「ソニーα1 II×映画『SUNA』スチル&ムービーシューティング」


2025年5月公開を控える加藤シゲアキ監督映画「SUNA」。スチル・ムービーの撮影に使用されたソニーα1 IIの高画素、高感度耐性、AF性能を遺憾なく発揮した現場からレポート。(撮影:末長 真)
W主演を務める加藤シゲアキ・正門良規(A ぇ! group)がカバー&巻頭を飾る。

【特集②】
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回答者:小暮和音/瀧本幹也/長山一樹/南雲暁彦/吉田明広/李 有珍

【連載】
長山一樹流 違いを生むコマーシャル・ポートレイト
「 ポートレイトisブラックアンドホワイト」
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Vol.9 「風景写真」 金村美玖

ほか