都心部一極集中と思われがちなフォトグラファーの仕事だが、地域で魅力的な活動をするフォトグラファーは多い。そんな人々の仕事や作品、活動を紹介していく。
連載第1回目は、北海道で活動する鑓野目 純基さんが登場。



鑓野目 純基
Yarinome Junki
1992年生まれ 北海道網走市出身。北海道文教大学大学院 健康栄養科学研究科修士課程修了。大学院卒業後の2017年から弟子屈町に移住、アウトドアガイド(カヌー、トレッキング)として活動を始める。2021年よりOutdoorguide YARI NOMEとして独立、ガイド業と写真の仕事をスタート。
Web:www.junki-yarinome.com
Instagram:@junki_yarinome
使用カメラ:ソニー α9 II 、α7R3、マキナ67、キヤノンオートボーイ、Insta360 X2
左のプロフィール写真は屈斜路湖畔にて、相棒(愛犬)のラックとともに。
風景撮影ではなく、動きの中で風景を
スナップシュートしている感覚です
――ご出身が北海道だそうですね。
鑓野目 生まれは釧路、育ちは網走です。今はその中間くらいの位置にある弟子屈町に住んでいます。北海道といえば雪が多いイメージですが、豪雪地帯は西側で僕が住む道東地域は雪というより氷の世界です。最も冷え込んだ朝にはマイナス30°まで下がるんですよ。自分の育った土地ですし、生活面での不便も楽しみながら好きで暮らしています。
――活動拠点として選んだ理由を教えてください。
鑓野目 ひと言でいえば、「自分にとって大事なものや良いと思えるものがコンパクトに詰まってるから」ですね。
もともとはアウトドアガイドの仕事から写真へと広げていったこともあり、「生き方/ライフスタイル」を求めた結果なんです。
僕たちガイドは常にフィールドに出ている分、美しい瞬間に出会えるチャンスはすごく多いと思います。朝起きて良い雰囲気だろうな〜と思ったらすぐ撮影に行けますから。北海道の自然は自分にとっては身近なものですが、他の地域に住む人にとってはどこか海外のような風景に感じるものがありますよね。そんな北海道の素晴らしさや、自分自身もまだ知らない世界(山岳)、共に過ごす仲間たちや僕自身の生き方も知ってもらいたいという想いもあって、写真を発表するようになりました。
コロナ禍の時期、自分がやりたいこと、表現したいことはなんだろうと改めて考え直したことがあったんです。漠然とですが、自分なりに目指したい方向性、やってみたい仕事のイメージがあって、それに対して自分が今どう行動して、どう発信していくかを考えて今の形になりました。まだまだこれからではありますが…。


――写真は以前から撮っていたのですか?
鑓野目 写真を見るのは好きでしたが、撮るのは趣味の範囲でした。かといってアマチュア写真家というほどでもなく、好きな風景や周りの仲間たちをiPhoneで撮る程度。
でも、どんどん撮るのが楽しくなり、一旦ハマったら突き詰めたくなる性格なので、4年ほど前に本格的に機材を揃え始めました。撮影していくごとに出てきた疑問などは身近で写真をやっている人たちに教えてもらいながら、知識や技術を増やしていったんです。
自分は周りの方達に恵まれています。最近では、作品を気に入ってくださった方からの額装の依頼も増えて銀塩プリントも始めています。良い機材も買ったし、写真も増えてきたので、フォトグラファーとしても写真の仕事も受けることにしたんです。
――フォトグラファーとしての仕事内容を教えてください。
鑓野目 地域メディアのコンテンツやパンフレット撮影、スノーボードブランドのWebページで使用する写真を提供することもあれば、個人の家族写真をお願いされることもあります。大口の仕事はまだまだですが、色々な出会いがあるのがとても楽しいです。
Instagramの写真を見て、ご連絡いただくことも増えてきました。本当にありがたいですよね。





「全てオーダーメイドでその人に合わせたスノーボードを作ってくれる北海道発のハンドクラフトのスノーボードメーカーです。僕自身もMOSIRITAのライダーとしても活動しています」(鑓野目)
――フォトグラファー以外のアウトドアガイドの仕事について教えてください。
鑓野目 夏は屈斜路湖でカナディアンカヌーのガイド、冬はスノーシューやスキーを使ったスノーハイクのツアーと1年中、お客さんと自然を楽しんでいます。ガイドとして1人立ちしたのは2021年です。独立前はご縁があったカンパニーで働かせていただき、4年間ガイドとしての基礎を学びました。写真の世界と同じように、ガイドの世界でもこの人の仕事を学びたい、と下積みの時代があります。
人の命をお預かりする責任ある仕事なので、簡単な気持ちだけではやっていけないと僕は思っていて、安全管理面など学ぶことが多くあります。そのようなことを吸収していくうちに、自分のやりたいことが明確になってきました。ガイドと写真の仕事もしたいし、スノーボードでの活動にも重点をおきたかったので、独立し活動することにしました。



左:夏季限定の屈斜路湖、釧路川源流部のカヌーツアーで使うカナディアンカヌー。ガイド1名+ゲスト2名ほどが乗れる長さ。「オールドクラシックなシェイプで自然に馴染みやすいカヌーです。僕のお客さんは野鳥を眺めたり、写真を撮ったりされる方が多いです」(鑓野目)。
中央:アウトドアガイドのフライヤー。写真はもちろん、デザインも鑓野目さんが自作している。
右:北海道のライフスタイルマガジン『northern style スロウvol.76』では、その暮らしや仕事について取材を受けた。
――風景写真以外も撮影しますか?
鑓野目 風景や自然を撮っていますが、僕は自分の写真を「風景写真」とは思っていないんです。僕の中の風景写真のイメージは、カメラを据えて、構図も詰めて、光のタイミングを狙う作り込むイメージがありますが、僕は割と動きながら撮影しています。その場の瞬間や雰囲気を重視して撮っているので、スナップしている感覚に近いと思っています。
山で景色を撮る時も、仲間たちを撮る時も、瞬間的に感覚で撮っていることが多いです。街中でのスナップも好きですし、イベントでの撮影をすることもあります。
東京を拠点に活動しているフォトグラファーさんがこちらにきて、北海道らしい写真や美しい風景を撮影することも多いですよね。それは素敵なことですし、とても勉強になります。僕らのような現地ならではの視点を持った者と、キャリアを重ねたフォトグラファーの方たちの洗練された視点がうまくコラボするような仕事ができたら、良いなあと思います。いろんな視点からここの魅力を伝えられますからね。


「Instagramなどを通じて作品購入したいと連絡をくれる方もいます。額は元建具師でもあるMOSIRITA代表の鈴木さんがフルオーダーで作ってくれています。窓から森を見るようなイメージで作っていただいています。本当に素敵な額縁です」(鑓野目)
――活動の発信方法は?
鑓野目 メインはInstagramです。北海道内の他のエリアに住んでいる方や東京から移住した方などなど、いろんな方からリアクションいただきます。
SNSでの影響力が欲しいわけではなく、「いいね」の数より自分の写真を通して誰かと縁がつながっていくのが楽しいです。フォロワーやDMをくれた方と、後々イベントや誰かの紹介などリアルな場でお会いしたり、不思議といろんなご縁で繋がることが多いです。
マーケティングとして需要に合わせた写真を増やすという意味ではなく、僕が目指す方向性や、やってみたいことが間違ってなさそうだぞ、と確認できるのも良いところですね。
いろんなご縁が今の活動につながっているので、皆さんに感謝しながら自分の写真を撮り続けていきたいです。
コマーシャル・フォト2024年6月号より転載

コマーシャル・フォト 2025年6月号
【SPECIAL FEATURE:TAKAY】
撮り下ろし:ドリアン・ロロブリジーダ
TAKAYインタビュー/作品紹介
NYと東京を拠点としファッション誌からラグジュアリーブランドの広告、アーティストのジャケットワークまでを手掛けるTAKAY氏。ドラァグクイーン、ドリアン・ロロブリジーダ氏とのフォトセッションを皮切りに作品紹介とインタビュー、写真展紹介で綴る22ページ。
【特集】
この春、編集部が選んだ「今、注目すべき5人のフォトグラファー」。彼らがシャッターを切る理由は? 写真で何を語ろうとしているのか?キャリアの原点から最新作までを深掘りし、それぞれの”視点”に迫る。未来の一枚をつくるヒントが、きっとここに。
大野隼男/クロカワリュート/杉田知洋江/Miss Bean/Leslie Zhang
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Vol.10 「オールドレンズ」 金村美玖
ほか