都心部一極集中と思われがちなフォトグラファーの仕事だが、地域で魅力的な活動をするフォトグラファーは多い。そんな人々の仕事や作品、活動を紹介していく。
連載第3回目は、青森県八戸市で料理写真を中心に活動する山本貴士さんが登場。

「八戸市の水産物加工会社マルヌシのヒラメ漬け丼の素は、解凍してご飯の上に載せるだけの簡単さ。撮影の後、僕もいただきましたが悶絶するほどの美味しさです」(山本)。


「八戸サバで作られたサバ缶です。津軽海峡の塩、アヒージョ、ゆず胡椒など7種類の味付けがあります。
おすすめはグリーンカレー、トムヤムクンです」(山本)。

山本貴士
Yamamoto Takashi
大阪府吹田市生まれ。八戸大学(現・八戸学院大学)を経て、1995年「フォトセンター惣門」に入社。2023年独立、KodikaStudioを設立。モットーは「撮る前に食べる、撮ったら食べる」。最近は主治医に指導を受けがち。
Web:kodikastudio.com
Instagram:@kodika._.yamamoto @yama_kodikas
八戸のおすすめポイント:「おすすめとは少しズレますが、海鮮・畜産・野菜に果物、米に地酒、どちらを向いても美味しそうな食材やお店ばかりでうっかりすると財布がスカスカに(笑)。観光の際はお財布をパンパンにしてお越しください!」(山本)
広告写真全般を撮影しますが、
料理写真は僕のメインだし、好きなんですよね
――青森県八戸市で広告写真を専門に撮影されています。2023年に独立されたそうですね。
山本 八戸市の撮影スタジオで広告フォトグラファーとして20年勤めた後、「Kodika Studio(コディカスタジオ)」を立ち上げました。
メインは料理写真ですが、企業や学校案内など人物撮影も同じくらいのバランスでご依頼いただいています。クライアントは地元が7割、3割は東北6県に加えて東京が多いです。
――YouTubeチャンネルを開設されていますが、始めたきっかけは?
山本 スタジオに勤めていた頃、コロナ禍の自粛で撮影がストップした時期に始めました。
スタジオを使わないのはもったいないし、撮影しない時期が長引くと腕が鈍ってしまう。何か手を動かしたくなるタイプなんですよ。
再生数を伸ばして収益化を狙うより、「スタジオ撮影手帖」と題して、調理から撮影、完成までの様子を見せることで、どんな人がどんな手順で撮影しているのかお客さんに訴求できればいいなと会社のブランディングとして始めました。
2020年4月に立ち上げたYouTubeチャンネル。独立後は「KodikaStudio」チャンネルとして心機一転スタートした。チャンネル内では、キッチン+6畳ほどの撮影スペースを使った「Kodika(狭小スタジオ)徒然日記」として、調理、盛付け、スタイリング、ライトセッティング、撮影後、美味しくいただくまでを見せている。




「料理系のYouTubeや映画や映像が好きなので、好みのトーンや質感に仕上げられるので楽しいです」(山本)。
山本 ただ、始める前に撮影技術を無料で出すことを嫌がる同業の方もいるかもしれないということは悩んだんです。
でも、すでに海外サイトではたくさんのチュートリアル動画が出ていたし、フォトグラファーはもちろん、これから学びたい人たちにとっても、どこかで必ず学ぶ技術なので、悩んで手を止めるよりお客さんに訴求できるものを、と立ち上げました。
独立後は「Kodika(狭小スタジオ)徒然日記」として続けています。
撮影依頼は広告代理店やデザイナーやWebディレクターからもいただきますが、最近はYouTubeやInstagramを見たという個人経営のお店や生産者側の農家さんなど、クライアントから直接お声がけいただくことも増えました。映像を通して撮影者の顔がわかると、依頼する方も安心して頼みやすいみたいです。


下:タスクフーズ みやさかや 「米沢牛麻婆豆腐の素」パッケージ・KV
「山形県米沢市の老舗タスクフーズ みやさかやさんのお仕事です。米沢牛を使った贅沢な牛丼と麻婆豆腐の素。どちらもシビれる美味しさです」(山本)。
――私が山本さんを知ったきっかけもYouTubeでした。八戸で活動されていますが、ご出身は大阪だそうですね。
山本 大学入学を機に八戸に引っ越して以来、32年暮らしています。初めて来た時から「暮らしやすそうな街だな」と、フィーリングが合ったんですよ。
元々広告の仕事がしたくて、大学で広告論のゼミに入ったんです。ゼミの先生が写真部の顧問で、僕も写真を始めたくてバイト代を貯め、質屋を巡って一眼レフを買ってから沼にハマるように写真が面白くなっていきました。ただ、感材費がかかるんですよね(笑)。バイトを頑張ってもフィルム代や現像、プリント代が追いつかなくて、学生時代は写真とバイトに明け暮れていました。
本格的にフォトグラファーを目指すと決意したものの、上京するかどうかの選択肢以前に両親から「実家に帰ってきなさい」と。でも、若さもあって反発したんです。
夢を諦めるかの崖っぷち状態の中、電話帳で八戸の写真スタジオ・写真家の欄を調べて上から順番に電話しまくって(笑)。断られ続けて最後に電話したスタジオから「0時頃に撮影が終わるので、その後でいいなら面接してあげる」と言っていただきました。面接で「うちが経営するDPEショップで2年間店長として働けるなら、その後スタジオに入れられるよ」と提案があって、二つ返事で引き受けたんです。
DPEショップで働くまではユーザーとしての知識しかなかったので、写真で商売する上でのフィルム単価やプリント品質、廃液の産廃業者手配まで管理するのは勉強になりました。




「Webサイトのリニューアルのために撮影しました。職人の現場とそこで使われる道具の美しさを撮りました」 (山本)。
――その間も写真は撮り続けていた?
山本 学生からいきなり店長職になった身としては、日々に追われて全く撮っていませんでした。
でも、DPEショップには家族や友人・カップルの写真や、花・風景・ペットといった趣味の写真など、たくさんのお客様がいろんな写真を持ってきてくれるんです。人の生活に根付いた写真に直に触れることが刺激になって、「生活に寄り添うような写真を撮りたい!」と、より色濃く頭に染み付いちゃいました。
――その後はスタジオスタッフに?
山本 “スタジオアシスタント経験者あるある”ですが、その頃の記憶がぶっ飛んでるんですよ(笑)。記憶に残せないほどのスピード感で過ごした後、30代前半から広告専門のフォトグラファーとして働いていました。
――独立されてからのお仕事は?
山本 撮影ジャンルも特に変わりませんが、お客さんからの依頼内容が少し変化してきたように思います。コロナ禍以降、ECサイトをお持ちになる企業や小売店が増えて、商品撮影を内製化するために撮影レクチャーや社内スタジオ監修の問い合わせも入るようになりました。
時代の流れなのかもしれないですね。商品イメージに合った小物を一緒に買いに行ったり、スタジオ内装の打ち合わせに同席したり…お客さんと一緒に最適な撮影空間を作っている最中です。


「八戸市のパティスリーの撮影です。商品カットや季節ごとに出されるカタログ撮影を担当しています」(山本)。


「野菜ソムリエ欠畑睦子さんと弘前大学の共同研究から生まれたビーツの甘酒です。パッケージデザインは十和田市で活動するデザインユニット『字と図』のよしだすすむさんが手がけました」(山本)。
――調理やフードスタイリングもされていますね。
山本 調理の先生が入られる場合はお任せしますが、自分でも簡単な焼き菓子くらいなら作れます。地方だとフードスタイリスト職の方が多くないので、自分でやるしかなくて(笑)。僕なりに研究を重ねて覚えました。独立前から私物の皿や小物を使って撮影していたので、今の事務所にはぎっしり食器類や小物のストックが詰まっています。
調理やスタイリングのほか、食材調達も含めたフードコーディネートもやっています。例えば、東京から「珍しい肉の食材で撮影できないか」と相談を受けたら、ジビエならこの店とか、羊の一頭買いならあの店など、地元のお店やシェフを紹介することもできます。
撮影を依頼されたショップから、自社店舗以外でも商品を販売したいと相談されたら、地元スーパーなどをご紹介をすることもあるんです。僕の周りには、同じようにコーディネーターも兼業しているデザイナーさんもいるので、情報を持ち寄って相談しあうこともあります。
「一体、何屋なんだろう(笑)」なんて思うこともありますが、料理はメインジャンルでもあるし、何より好きなんですよね。お客さんからご要望があれば、ヒアリングしながら、できる限りのフォローアップをしたいと思っています。
コマーシャル・フォト2024年8月号より転載

コマーシャル・フォト 2025年7月号
【特集】レタッチ表現の探求
写真を美しく仕上げるために欠かせない「レタッチ」。それはビジュアルを整えるだけでなく、一発撮りでは表現しきれないクリエイティブな可能性を引き出す工程でもある。本特集では、博報堂プロダクツ REMBRANDT、フォートンのレタッチャーがビジュアルの企画から参加し、フォトグラファーと共に「ビューティ」「ポートレイト」「スチルライフ」「シズル」の4テーマで作品を制作。撮影から仕上げまでの過程を詳しく紹介する。さらに後半では、フォトグラファーがレタッチを行なうために必要な基本的な考え方とテクニックを、VONS Picturesが実例を通して全18Pで丁寧に解説。レタッチの魅力と可能性を多角的に掘り下げる。
PART1
Beauty 石川清以子 × 亀井麻衣
Portrait 佐藤 翔 × 栗下直樹
Still Life 島村朋子 × 岡田美由紀
Sizzle 辻 徹也 × 羅 浚偉
PART2
フォトグラファーのための人物&プロダクトレタッチ完全実践
講師・解説:VONS Pictures (ヴォンズ・ピクチャーズ)
基礎1 フォトグラファーが知っておくべきレタッチの基本思想
基礎2 レタッチを始める前に必ず押さえておきたいポイント
人物レタッチ実践/プロダクトレタッチ実践
ほか