2010年08月31日
広告ビジュアル制作の世界ではいまや、Photosopだけでビジュアルを完成させるのではなく、3DCGを組み合わせた"ハイブリッドフォトレタッチ"が広がりつつある。ここではその先駆者として、Autodesk 3ds Maxなどの3DCGソフトを駆使するレタッチカンパニーを紹介する。
写真の代わりではなくスパイスとして3Dを活用
広告ビジュアル制作において、ここ数年急速に存在感を増しているのが、レタッチャーという職種である。
フォトグラファーやアートディレクターとチームを組んだり、デザイナーと印刷会社を橋渡しする役割を担っているので、Photoshopはもちろん写真や印刷、デザインなど、幅広い知識と技能が要求される。それに加えて最近では、3DCGについてもレタッチャーの守備範囲となりつつある。
とはいえ、3DCGに精通しているレタッチャーは、まだそう多くはいない。そこで、数多あるレタッチカンパニーの中でも、早くから3DCGに取り組んできたフォートンを訪ね、同社代表の甲斐彰、レタッチャーの西山慧、同じく林俊之の3氏に、レタッチャーと3DCGとの関係について話をきいた。
— フォートンが3DCGを導入したのはいつ頃でしょうか。
甲斐 今から14〜15年前、1990年代の半ばでしょうか。まだデジタルフォトや画像処理の意義も十分に理解されていない時代でしたが、これからは写真と3Dが融合して新しい表現が可能になるはずだと予感したんです。
最初の頃は、3DCGソフトの草分けLINKS(IMAGICA)から始まり、他のソフトを使っていた時期もありますが、あるとき「クリエイティブで使うのなら3ds Maxだ!」と閃いて、それ以来Autodesk 3ds Maxを使っています。
西山 当時の3DCGソフトはものすごく操作性が悪くて、画像処理マシンの直感的な操作に慣れていた私たちは、なかなかなじめませんでした。でも3ds Maxは全然違っていて、これなら使える!と思いましたね。
3ds Maxで作業中の林俊之氏。
撮影:竹澤 宏
Toshiyuki Hayashi
フォートン デジタルアーティスト
スチルにおける3DCGのクリエイティブ表現をまとめ上げるセンスに定評あり。千葉大学工学部工業意匠学科卒。NYADC賞、広告電通賞等。
— 3DCGソフトを使える人は何名いらっしゃるのでしょうか。
西山 現在フォートンには9名のレタッチャーがいますが、そのうち3DCGを扱えるのは私を含めて3人。中でもここにいる林が最も使いこなしています。
林 広告ビジュアルにおける3DCGというと、最近では、実際に商品やインテリアを撮影する代わりに使われるケースが多いと思うのですが、弊社ではそういう使い方はあまりしていません。むしろ、カメラやPhotoshopでは難しいビジュアルを作る際に利用しています。
たとえばZENITHのレンズのビジュアルのように、3DCGだからこそ可能な表現を追求したいと思っています。また、ビジュアルのすべてを3DCGだけで制作するよりも、写真表現のスパイスとして3DCGを使う方が面白い表現ができると思います。
3ds Maxでレンダリングされたレンズの画像。
3DCG は、Autodesk 3ds Max で制作されている。レンズのように単純な形態の透明な物体を、背景が単色の黒という条件で制作するのは、レンズの向こうにあるものが屈折して見えたり写り込んだりしないため、予想以上に技術的には難しいテーマだ。この作品では、凸レンズを3枚重ねることでレンズ同士の屈折を入れ複雑さを出し、さらにライトを写り込ませることでレンズらしいイメージを表現した。
経済効率ばかりではなく、もっと表現を大事にすべき
— 最近3DCGが注目されている大きな理由は、撮影よりCGの方がコストも時間もかからないからだと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
甲斐 広告制作もビジネスだから、そういう経済効率面が重視されるのは仕方ない。
でもこの10年間は、誰もが「写真の代替品としてのCG」について語るばかりで、CGの可能性や表現力については置き去りにされてしまった気がする。
本来3DCGは、写真の物理的な制約、レンズの制約を飛び越えて、まったく新しい表現を追求するためのものなんです。それが今、忘れられてしまっていることがとても残念です。
左からフォートン代表の甲斐彰氏、林俊之氏、西山慧氏。
西山 でも、ここにきて、その状況がまた大きく変化するのではないかという期待もあるんです。
— と言いますと 。
甲斐 デジタルサイネージってご存知でしょう? 大型の液晶ディスプレイに写真や映像を表示する広告媒体です。
これは、写真も映像も3DCGもすべて等しく表示するシステムです。言い換えれば単なる写真でもない、映像でもない、3DCGでもない、それぞれをミックスした表現が可能になります。インタラクティブという特長を考えると、むしろ3DCGなくしては一歩も進まない。
このデジタルサイネージを知ってからは、久しぶりに面白いことができそうだと、やる気が湧いてきました(笑)。
西山 今から20年ほど前、フォートン創業の頃、広告代理店の方に画像処理の必要性を説いても全く理解してもらえませんでした。そこで自主的に作品を作って、それを元にプレゼンして回ったという経験があります。
デジタルサイネージも、今はまだハードだけがあってコンテンツがない状況です。それならば20年前と同じように、「これがフォートンが考えるデジタルサイネージ」というコンテンツを作ってしまおうと考えているところなんです。
— なるほど、大いに期待しています。
企画制作=foton CD&P=甲斐彰 デジタルワーク/DI=西山慧/3DCG=豊田祥子
髪の毛を3DCGで制作し、実写のモデルの髪の毛と差し替えた作品。オリジナルのモデルの髪の毛の太さや本数に合わせてモデリングをしていくため、ポリゴン数が膨大になってしまい、制限を超えてしまうのが難しいところ。この作品では、数回に分けてレンダリングしたものをPhotoshop上で合成している。CG制作の段階では茶髪だったが、最終的にはPhotoshop上でプラチナブロンドに仕上げたもの。
髪の毛は3ds Maxで制作している。1本1本作らなくても、スプラインを描き、髪の流れのガイドラインと本数・太さを指定するだけで補完演算してくれる。
フォトグラファーだからこそ可能な3DCGもあるはず
— 話を少し戻しまして、グラフィック広告と3DCGの関係についてもう少しお話を聞きたいと思います。
林 広告業界では3DCGを理解している人がまだまだ少ない。一方CGは分かっているけれど、写真やグラフィックデザインについてはよくわからないというのがCG業界です。その両方が分かっていたら、3DCGでどんなグラフィック表現ができるのか、怖がらずにいろんなことに挑戦できるはずです。広告業界の人には、もっとCGを知ってほしいと思います。
西山 3DCGで結構難しいのがライティングです。これはレタッチャーの素養だけではわかりずらい。でも幸いなことに、すぐ近くに甲斐彰というフォトグラファーがいたので、教えてもらうことができた。フォートンという会社が3DCGをうまく使いこなせているとしたら、多分それが最も大きな理由です。
林 最近の3DCGソフトは、昔よりも簡単に、写真的な表現ができるようになったので、もう少しインターフェイスが改善されれば、フォトグラファーの方にも使えるようになると思います。そうすると、レタッチャーとはまったく別の視点で作られた3DCGが生み出されるのではないでしょうか。
甲斐 ただし、写真的なものを追求しすぎるとキリがないし、写真の品質を追いかけるだけではCGの意味はない。グラフィック広告でCGを使う場合は、やはり写真とは違う表現を大切にすべきだと、改めて強調しておきたいね(笑)。
Autodesk 3ds MaxとAdobe Photoshopを使ったフォートンのグラフィックワーク
LUNASEA AD=中島英樹
GFF(Man Learns Pleasure Before Language)企画制作=電通九州 CD=伊藤敬生
NYADC賞受賞作品