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INTERVIEW 上田義彦 いつでも夢を

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上田義彦写真集『上田義彦 いつでも夢を』。

本写真集は1990年から2011年まで続いた

サントリー ウーロン茶の中国シリーズの広告写真と

その中国ロケで撮影されたスナップ写真で構成されている。

「どこかで見たような、それでいてどこにもない」

そんな遠い夢のようなシーンを描いた広告写真と

当時の中国で出会ったさまざまな風景を

まるで呼吸をするかのように撮ったスナップ。

それらが混然となった写真集には、

1992年のCMで使われた楽曲名と同じ

「いつでも夢を」と、タイトルがつけられた。



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この写真集では、20年以上続いたキャンペーンの広告写真と、そのロケで撮影されたスナップ、風景写真がまとめられています。そのボリュームもさることながら、広告写真とパーソナルな作品を1冊の作品集としてまとめるというのは、とても珍しい形だと思うのですが。

 ウーロン茶の広告の撮影を続けていた時、自分の中にはずっと中国の「遙かな風景」というものがありました。ウーロン茶の広告と言うと、まず、そんな中国の広大な風景が思い浮かぶのです。遥か向こうはかすんでいて、その先は想像をするしかないのですが、もっと先に行けば何かあるのではないか。

 ウーロン茶の撮影は、そんなロケの先々で出会う光景や人々の姿の向こうにある「何か」を探すような旅でした。何に出会うかわからない…その感覚はとても気持ちがよく、延々とクルマで走り続けてそれが徒労に終わったとしても、どこか幸せな感覚なのです。そしてその旅の間、僕はずっと35ミリのライカを握ってスナップを撮り続けていました。

 ウーロン茶の中国シリーズが終了して12年、もうひと昔前のことですが、そのスナップを見ると、さまざまな記憶が鮮明によみがえってくる。今では広告で撮影した写真もその時に撮ったスナップ写真も、自分にとって同じくらい大切なものになっています。だから写真集をまとめるにあたり、両方の写真を同じように見せることは、とても重要なことでした。 

 写真集に収録したスナップは最終的に185点になります。撮影した写真はその十数倍はあって、「あの時、あの風景を撮った」という記憶を辿りながら、写真を探してプリントをしていきました、記憶を辿って見ていくと、自分にとって焼かなくてはいけない大切な写真ばかりで、やり始めたら、ちょっと気の遠くなるような作業でした(笑)。

 ただ、それは「自分にとって大切」ということですから、写真集にはそこから「誰かと共有したい」「何かを伝えられるだろう」という写真だけをピックアップしています。


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ロケ先で出会った風景は、広告の撮影にも影響しているのですか?

 そうです。たとえば、男女の2人乗りのバイクが、ロケ地に向かう僕たちの乗ったバスを追い越して行くんです。ヘルメットもかぶらず、恋人なのか夫婦なのか、女性がギュッとしがみついていて。それを僕が車窓から撮るのを見て、「今度、こういうのを撮りたいね」「今のはよかったね」とか…。ロケバスの中ではADの葛西(薫)さん、CDの安藤(隆)さん、そして演出の前田(良輔)さんと窓の外を見ながら、よくそんな話をしていました。

 街に出ても、道で碁を指している人がいたり、体操している人がいたり、写真を撮りながらそんな風景をずっと眺めていました。そうした人々の姿が、広告の中で「人の佇まい」を描くときにも影響していたのだろうと思います。

振り返ってみて上田さんにとってウーロン茶の広告とはどのようなものだったのでしょうか? また、なぜこれほど長く撮り続けることができたのでしょう?

 実はキャンペーンが始まって3、4年目くらいでしょうか。1年間、撮影を降りていた時期がありました。色々と事情はあったのですが、その時は「今回を最後にウーロン茶の撮影はやめよう」と考えていました。  

 そしてその最後の撮影が全て終わって、翌日はフリー日だったのですが、出演者のバレエをやっている女の子たちに、「明日、同じ衣装で撮れないかな」と誘ったんです。それはプライベートの撮影で、翌朝、宿泊していた宿舎の裏庭で、スナップと同じライカで撮影をしていました。

 彼女たちには「自由に何をやってもいいから」と言って撮っていると、葛西さんか安藤さんが最初だったと思いますが、数人が裏庭に降りてきて、僕のうしろで見ているんですね。そのうち「これ、お正月の広告にいいんじゃないか」という話になり、「8×10カメラ、持って来て」と(笑)。それで本格的に広告の撮影が始まってしまいました。

 それからムービーも回したいねとなって、休日で既に出かけていた前田さんをスタッフが探しに行ったりして(笑)。それが、そのシーズンの正月広告になりました。


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とてもウーロン茶の広告らしいエピソードですね。ラフをきっちり決めて撮る最近の広告撮影からは考えられない。

それから1年間は、ウーロン茶の撮影はお休みしていたのですが、自分の中にはその間もまだ、中国の「遙かな風景」がありました。1年後、また撮影に誘われて、そこから十数年、キャンペーンが終了する2011年まで撮り続けてきたわけです。

 その当時はわかりませんでしたが、今になって考えると、やはりウーロン茶の中国シリーズは「奇跡的な広告」だったのだと思います。

安藤さん、葛西さんをはじめとしたクリエイティブのスタッフ、そして重要なことは「いい広告を作りたい」「いい写真を撮って来て欲しい」というクライアントの期待。キャンペーン自体をサントリーがとても大切に思ってくれていたこと。「このスタッフの中から沸いて出てくる何かがあるはずだ、それがブランドのイメージに繋がる」と信じてくれていました。

ウーロン茶のシリーズを僕が撮影していた1990年から2011年の20年間は、中国という国が大きく変わっていった時期で、そんな時代的なタイミングもあったのかもしれません。

 車窓から見た風景だとか、街の人々の様子だとか、ほんのささいな出来事なのかもしれませんが、やはりそれは当時の中国にしかないもので、撮影に行くといつも何かを感じさせてくれる。そして、僕らが感じたこと、じわじわと湧き出てくるものを膨らませて広告にしていた。それが、また次の広告に繋がっていきました。

今回、写真集をまとめてみてサントリー・ウーロン茶の広告撮影は自分にとってとても大きなもの、大切なものだったと改めて実感しました。キャンペーンが終わってから、いつかまとめたいと考えていたのですが、これでようやく一つの区切りがつけられたと思っています。


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UEDA02.jpg 上田義彦 写真集 いつでも夢を / 永遠要憧憬
サイズ:H257mm ×W182mm  584 ページ 布製上製本
ブックデザイン:葛西薫・中本陽子  赤々舎 刊
定価:13,000円+税

都内2カ所で写真展を開催中。

代官⼭ヒルサイドテラス・ヒルサイドフォーラム、gallery ON THE HILL

小山登美夫ギャラリー 六本木

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   gallery ON THE HILの展示より



※インタビューはコマーシャル・フォト2023年9月号より。




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