2022年07月12日
フォトグラファー てんてんが、2021年秋、写真集『GREEN GREEN』を発表した。 撮影し続けてきた写真を見つめ直すことで、自らの内にある生と死や光と影の眼差しを見出した。 今回は、コマーシャル・フォト2021年12月号で掲載したインタビューを紹介する。
写真集『GREEN GREEN』
INTERVIEW tenten
──写真集制作までの経緯は?
てんてん 写真集を作るために撮り続けてきたものではなかったんです。写真集の制作と言えば、まずテーマやコンセプトをしっかり固めて、それに合った写真を撮っていくべきものだと考えていました。
でもその一方で、テーマを決めて写真を撮ることを窮屈に感じていました。僕は、被写体との偶然の出会いが好きなんです。日常生活でカメラを持ち歩いて、撮りたいものを見つけた瞬間にドキドキするようなトキメキがある。それが写真の面白さだと思っています。
ほとんどの写真は、大学生の時にハッセルブラッドスクールフォトコンテストでグランプリを獲得していただいたハッセルブラッド503CWで撮影しているんです。カメラをいただいて以来、出かける時はいつも持ち歩いて、被写体との出会いを求め撮影してきました。
僕にとっては、長い時間を共有した相棒と呼べるカメラです。非常に愛着があるカメラだし、撮りためてきた写真にも思い入れがあるので、次第にどうにか形にしてあげたいという気持ちが芽生えてきたんです。
まずは、あえてテーマは設けずに、今まで自由に撮ってきた写真の中から、好きな写真を選んで構成した方が純粋に自分の本当に表現したいことが写っているのではないかと考えるようになりました。
そこで3年前、これまで撮ってきた写真を一気に見直すことにしたんです。これだっ! と思う写真を集めて、半切の印画紙にプリントして本で綴じてみたら、テーマと言えるようなしっかりとしたものではなかったけれど、作りたかったものの輪郭が見えてきて、過去と未来、生と死、光と影、そんな言葉が思い浮かんだんです。
そこから、写真集を意識して写真を撮るようになりました。
──写真集からは生命の輝きと切なさも感じました。
てんてん タイトルにも関わってくる話ですが、幼少期に初めて「死」を意識した時に世界の見え方が少し変わった気がしています。
子どもの頃は何もかもが新鮮でキラキラしていました。でもある時「人はいつか必ず死んでしまうんだ」と気が付いてしまった。
その時の漠然とした怖いという感覚が、頭の端にこびりついていて、恥ずかしい話ですが、いまだに、ふとした時に深く考えてしまい、どうしようもない気持ちになる時があります。
季節の移ろいや、毎日の天気、子供の成長、同じ日は1日も無いと思いながら日々を大切に過ごしているつもりですが、幸せだと感じる時もあれば、辛かったり、不安になる時もある。光があるところに影ができるように、全ての感情は表裏一体だと思っているので、写真集ではそういう光と影や人が生まれてから死ぬまでの有限な時間を表現できたらいいなと考えるようになりました。
──写真集の軸となった写真は?
てんてん 前半と後半の写真の並びはイメージが伝わりやすい写真にしようとは考えていて、その中でも今、まさに家族で写真を撮ろうとしている写真が一番好きです。
撮影時には手応えを感じていませんでしたが、現像・プリントしたら、良い写真だと思いました。 本当は全てこういう気持ちで、日常で見過ごしてしまいがちな風景を、呼吸するように撮れるようになると最高ですね。
僕もプロですから、ほかの写真は撮った瞬間に手応えを感じるものが多いんですよ(笑)。でも、手応えのあるものは、上がりの絵の予測がつきやすく、ある意味退屈なんです。この写真には見た人が共感できるような、それでいて、僕の想像を超えた家族の温もりみたいなものが写っていました。
人生を肯定してくれる普遍性を感じたし、この写真を見た時に写真集のゴールが見えた気がしました。
──写真集制作で感じたことはありますか。
てんてん ハッセルブラッドという相棒との目的を持たない長い旅が終わったような少し寂しい気持ちと、新しい旅が始まる予感でワクワクしています。写真集になった自分の写真たちを見直して、いまだに学生みたいなピュアな気持ちで写真と向き合えている自分に嬉しくなりました。
時代によって、写真の流行も変化しますが、流されず、生まれ持った自分の眼差しはこれからも大事にしていきたいです。
てんてん
1981年宮城県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、アマナ (現アマナ ホールディングス) に入社。 2013年 独立、 広告を中心に活動。NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」メインビジュアル担当。
www.tenten.jp.net
※インタビュー記事はコマーシャル・フォト2021年12月号から転載しています。