FEATURE

HIRO KIMURA 『HERO』

HIRO KIMURAが、ポートレイト写真展「HERO2」を7月19日〜24日の6日間 開催する。 「HERO2」は、2021年に開催された「HERO」展の続編にあたる展覧会だ。 その開催にあわせて、コマーシャル・フォト2021年6月号 特集 HIRO KIMURA 『HERO』から、インタビューを掲載する。


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INTERVIEW HIRO KIMURA


広告、ファッション撮影のほか、近年では映像ディレクター、クリエイティブディレクターとしても活動するHIRO KIMURA。彼は20代の10年間をスタイリストとして活動し、30歳直前でフォトグラファーに転身した。

そのきっかけは、撮影者と被写体の間で繰り広げられるセッションに魅了されたことだった。アシスタントを経て独立後、NY/ロンドンへ。日本で本格的に活動を始めたのは帰国後の2012年。デビュー当時からの目標としていたポートレイト写真展。
そこには、日本人男性を被写体にした重厚なモノクロポートレイトが立ち並ぶ。


フォトセッションで生まれた
人間の美しさ、熱い魂の形


──どのくらいの期間で撮影されたものですか?

HIRO 独立後、ロンドンから帰国してからの8年間、走り続けてきた中で生まれたセッション・ポートレイトです。最近のものもあれば、駆け出しの頃に撮影してきたものもあります。

ご登場いただいた方々には、僕の想いをお一人お一人に伝えた上でご協力いただき、今回開催に至りました。キャリア年数自体、実はそれほど長くありませんが、濃密な時間を過ごしてきた。ここには確実にHIRO KIMURAらしさが詰まっています。

hirokokuchi.jpg2021年開催の『HERO1』のメインビジュアル

── 被写体は役者、ミュージシャン、スポーツ選手など、どの分野でも一流の方々で、被写体として、とても「強い」存在だと思います。その「強い」存在のポートレイトでありながら、どの作品にもHIROさんらしさがありますね。

HIRO 僕は、ポートレイトフォトとは撮影者自身を写す行為だと思っています。それは写真を撮る上で、僕が一番大切にしていることです。

撮影状況も本当に様々だし、被写体となる方々の年齢層も幅広く、いろんな立場の方がいらっしゃいます。シャープな雰囲気の方もいれば、柔らかい方もいる。そんな人達と、自分がいかに対峙するか。

僕らフォトグラファーは、ポーズを決めた彼らを前にして、シャッターを押すだけではダメなんです。フォトグラファーは彼らと「セッション」をさせていただかなくちゃならない。


被写体とのセッションを楽しむ

 
HIRO 単なる「ポートレイト撮影」ではなく「セッション」をするために、僕の場合は、撮影の数日前から万全な準備をして、この撮影で何が生まれるのか、まで想定して現場に臨みます。

現場では僕の態度はもちろん、そこに漂う空気感、流れる音、湿度…その全てに神経を張り巡らせながら場を作っていく。

普通、誰かと人間関係を作る時は、会話を重ねたり一緒に過ごした時間の中で、強固な信頼やフレンドシップを作っていきますよね。

しかし、撮影現場では短い時間で、時には無言で人間関係を作らなくてはならない。撮影までの準備や、僕の挨拶の仕方ひとつ、言葉ではなく「今日は最高の写真を撮りたい」という思いを態度でしっかり表していく。

そうすると彼らが「お前だったらいいよ、好きにやれよ」と言ってくれているかのように、フッと扉が開く瞬間がある。普段はしない表情を見せてくれたり、撮られる者・撮る者、お互いの歯車が噛み合っていく。

そして、僕はその瞬間の表情を切り取る。瞬間が来たときにシャッターを切るのではもう遅い。お互いの間合いの中で、次の表情や動き、相手の感情の流れさえも「読む力」も必要ですよね。

魅力的なポートレイトが撮れるかは、撮影テクニックだけでなく、自分が磨いてきた価値観を肝に据えて、どう彼らと向き合うのか。そこに相手とのセッションの要素が加わって、僕と被写体50/50で表現が生まれる。それが本来の意味でのセッションであり、ポートレイトを撮るということだと思っています。

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HIRO KIMURAポートレイト


──セッションならではのライブ感も重要なポイントですよね。事前準備や想定を裏切られることもあるのかな、と。

HIRO もちろんありますよ(笑)。でも、それはネガティブには捉えていませんね。むしろ、それを楽しんでいます。

僕が事前準備や想定を重ねるのは、現場や被写体全てを、自分の思い通りにコントロールするためではありませんから。

以前、僕の尊敬する大切な人から「もし、晴れを想定していたロケ撮影で雨が降ってしまった時、HIROはどうする? まず状況を受け入れて、喜ぶんだよ。受け入れて、居合のように斜めに受けて前に返す。その時こそ、本当に素晴らしい被写体とのセッションが待っているんだ」と教えていただいた。

実際、想定していなかった場面に出くわした時、僕の中でスイッチが切り替わり、良いセッションが生まれることが多いです。

ただ、想定外が起こった時に力を発揮するには、鍛錬が必須です。僕の場合、ライフワークであるサーフィンがフィジカルとメンタルのトレーニング場所になっています。

コントロールが効かない潮の満ち引きや大きな波に、生身の身体と板だけで対峙する。一歩間違えば、命の危険もある状況で、僕らは波にあらがったり身を預けたりしながらも向かっていく。そういった経験を通じての鍛錬が、ポートレイト撮影の現場ともリンクしているように感じます。


特異な経験から生まれる男の色気


──これまで多くのポートレイトを撮られていますが、今回全て男性ポートレイトのみですね。

HIRO 僕にとって、女性は崇高な女神のような存在。一方で男性は同性同士、遠慮なく挑める心地良い存在であり、憧れの対象でもあります。

今回、作品で見せたかったのは、人間の美しさなんです。それは容姿やスタイルではなく、魂の姿…。僕はこの「HERO」展のステートメントで、男性のセクシャリティという言葉を使いました。

セクシーや色気って、女性に向けて使われがちな言葉ですが、僕は男性のセクシャリティほどセクシーなものないと思っているんです。

例えば、普段は物腰が柔らかく優しい雰囲気なのに、一旦スイッチ入った途端頂点めがけて嵐のごとく邁進するような人はすごくセクシーだし、性別に関係なく人間として惚れられる人だと思う。

それは、特異な経験から生まれる色っぽさなのだと思います。そして、経験を積むために不可欠なのは、チャレンジすること。人はチャレンジして、はじめてありのままの己を知る。チャレンジには、大なり小なり必ず失敗がつきまとうものです。

その中には、悲しみ、苦しみ、いたたまれなさなど、心の中でいろんな感情が充満している。でも、人はそこからもう一度立ち上がろうとしますよね。

僕はその立ち上がろうとする瞬間にこそ、人間の美しさがあると思っています。そして、立ち上がる力の元になるのは、人の愛である、と。人から助けてもらって、もう一度、自分自身を奮い立たせる。

そして立ち上がった後、今度は自分がまた別の人を助ける立場になる。そういった経験を積み重ねた人は本当に魅力的で、より輝きを放ちます。

この写真展に登場している方たちは、職業や年齢は違えどそれぞれの分野で日本を代表する方たちばかりです。そこに辿り着くまでには、多かれ少なかれ、かなりの頻度や深さで、さっき僕が話したような経験を重ねてきた人たちでもあると思います。

そしてその美しさや魂の中にある熱さを表に出している。これは非常に勇気がいることですよね。身体からほとばしる生命力の美しさ。僕はそれを撮りたい。コロナ禍の今だからこそ世界中が大変な時期だからこそ、写真から発するエネルギーを感じて欲しいです。


人が生きていく上で、大義のある生き方を目指すのはとても重要なことです。写真家として、誰かのために何かを形にしたいと思った。

この「HERO」展は、僕にとって大きなチャレンジです。この展覧会は世界規模で見たら、小さなモーメントかもしれない。

でも、誰かがこの展覧会を見終わった後、素晴らしい映画を観た後のように、「明日頑張ろう」と感じてくれたら嬉しい。そう感じてもらえる作品を作ることができる人間を目指しています。


ヒロ・キムラ
1999年渡米、スタイリストとして活動開始。その後フォトグラファーに転向し、操上和美氏に師事。独立後NYでの活動を経て、現在は広告・ファッション・ミュージシャン撮影を中心に幅広く活躍中。
http://hirokimura.com/

※インタビュー記事はコマーシャル・フォト2021年6月号から転載しています。





「HERO2」日本人男性のポートレート展 -熱狂の男達-

会期
2022年7月19日(火)〜24日(日)
10:00-20:00 ※19日のみ10:00〜17:30

会場
ヒルサイドフォーラム
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟


入場料:無料
図録(パンフレット)販売
※図録は期間中、会場でのみ販売
※写真展の収益は公益財団法人東日本大震災復興支援財団に全額寄付


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