FEATURE

上田優紀「空と大地の間、夢と現の境界線 ─EVEREST─」

世界中の極地・僻地の撮影を行なうフォトグラファー上田優紀が、世界最高峰となるエベレスト登頂に成功。登山能力と撮影技術を両立している同氏だからこそ切り取れるエベレストの圧倒的な風景。そのビジュアルの数々を1冊の写真集としてまとめた。ここでは、なぜエベレストに挑んだのか、どのような挑戦だったのかを聞いた。

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INTERVIEW UedaYuki

─あまり人が踏み入れることのない場所での撮影を、パーソナルワークにしている理由を教えてください。

上田 写真を仕事にする前、世界一周をしていました。そのとき、初めて一眼レフを買って、様々な土地を記録していました。旅の過程でアイスランドの子どもに砂漠の写真を見せたら、まるで好奇心が爆発したような反応をしたんです。アジアの山奥の老人にニューヨークの摩天楼の写真を見せたときも同じでした。

見たこともない風景は人の心を豊かにするものなのだと感じたんです。絵や物語ではなく、事実を写す写真だからこその魅力です。それを生業とし、自分の生きる理由にしたら、満足のいく人生になると考えるようになりました。それから写真を学び、広告撮影をしながらパーソナルワークとして、世界中で撮影をするようになったんです。

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─今回はなぜエベレストを被写体に選んだのですか。

上田 パタゴニアやアラスカなど、世界中の見たことのない風景を追い求めてきましたが、横軸だけではなく、縦軸にも視野を広げてみることにしたんです。

まずは、標高約6,800mのアマ・ダブラムに挑戦することに。無事、登頂に成功したのですが、頂上からエベレストが見えたんです。世界で最も高い場所、そこから見える世界に興味をそそられてしまい、目標になりました。

─標高約8,800mのエベレストに登山しながら撮影を行なうのは、命知らずともとれる過酷な行為ですよね。

上田 登山するだけでも死者が出る山ですからね。少しでも荷物を軽くするべきなのですが、僕の場合は登山用の荷物に加えて、カメラ2台にレンズ3本、バッテリー20本、三脚1本、合計10kgほどプラスすることになります。肉体的に限界ギリギリの状況でした。

撮影する際も時間をかけるわけにはいかないので、本当に一瞬です。せっかくいい写真が撮れても、帰ってくることができなければ意味がないですからね。なので、エベレストを登る写真家は多くはありません。

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─その一瞬の撮影でどのようなことを意識しているのですか。

基本的に自分の意図はなるべく排除して撮っています。エベレストが持つ美しさ、厳しさといった魅力をディテールとして撮ることで、見た人が思いを馳せるようなビジュアルが理想なんです。ポストカードの世界観に近いと思います。

もちろん、あれこれ考えながら撮る余裕はないので、多少なりとも僕の目線が入ってしまうこともありますが、それは意図して入れているものではなくて、自然と出てくるものなので、個性とも言えますね。

─被写体の持つディテールやシズルを写し取るという点では、広告撮影に近いところもありますね。

上田 作家性ではなく、商品や人物の魅力を技術で表現し、そこに自分のニュアンスを適度に加えるというところは、まさに広告撮影ですね。

今回のような過酷な状況で、とっさにカメラを構えたとき、無意識に光の状況を判断したり、ベストな構図づくりができたりするのは、広告撮影の経験があるからだと思います。

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─エベレストにこれだけたくさんの表情があることに驚きました。登山能力と撮影技術を両立しているからこそ撮れるビジュアルだと思います。

上田 それが僕の強みだと思っています。どちらかが優れている人はたくさんいますが、幅広いフィールドできちんと写真を撮ってこられることは大きな武器なので、これからもありとあらゆる場所で撮影にチャレンジしていきます。

─今後の予定を教えてください。

上田 実はスキューバのライセンスも持っているので、次は海でクジラを撮影するつもりです。これも縦軸ですね。僕は山岳写真家ではないので山に縛られず、これからも活動範囲をどんどん広げていって、たくさんの人に写真を届けたいです。


うえだ・ゆうき
写真家。1988年、和歌山県出身。京都外国語大学を卒業後、24歳の時に世界一周の旅に出発し、1年半かけて45カ国を周る。帰国後、株式会社アマナに入社。2016年よりフリーランスとなり世界中の極地、僻地を旅しながら撮影を行なっている。
yukiueda.jp

※この記事はコマーシャル・フォト2022年9月号から転載しています。

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