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「SPACE BATTLESHIP ヤマト」山崎貴監督トークセッション ― Autodesk 3December 2010 レポート ―

オートデスクが2010年12月7日に開催した、3DCGユーザー同士の「交流」をコンセプトとしたイベント「Autodesk 3December 2010」の詳細をレポートする。その1回目は、話題の映画「SPACE BATTLESHIP ヤマト」の山崎貴監督のトークセッションにスポットをあてる。

日本では2年ぶりの開催となった3December。数多く行われたセッションの中で、もっとも注目を集めたのは、12月1日公開されたばかりのVFX超大作映画「SPACE BATTLESHIP ヤマト」の山崎貴監督のトークセッション。オートデスクの城戸孝夫氏が聞き手となって進行したこのセッションの内容を再現しよう。

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映画「SPACE BATTLESHIP ヤマト」は全国東宝系にて公開中。
(C)2010 SPACE BATTLESHIP ヤマト 製作委員会

「ヤマト」では今までとはケタ違いの作業量が要求された

城戸:山崎さんはVFXクリエイター出身の映画監督として知られていますが、VFXクリエイターの道へ進むことを決意した経緯を教えて下さい。

山崎:「スターウォーズ」と「未知との遭遇」は人生を変えられた作品です。大事件だったんですが、実は一番大きなきっかけというのは、「スターウォーズ」の次の「帝国の逆襲」のメイキングをテレビで見たことです。それまで「スターウォーズ」や「未知との遭遇」は、すごい人たちがすごいものを作っているという感じで、ものすごく距離を感じてたんです。でもメイキング映像を見たら、みんな楽しそうに、プラモデルを作ってるみたいな風景が映し出されて。しかもタミヤの模型の箱がすごく並んでたんですよ。それを見て、タミヤでやってるんだったら自分にもできるんじゃないかと思いました。

城戸:山崎監督が在籍されている白組にはいつ頃入社されたのでしょうか。

山崎:83年~84年頃、調布スタジオができる1年くらい前に会社に入りました。入社してからは、調布スタジオで自由に遊ばせてもらいながら基礎を勉強するみたいな感じでした。最初の頃、僕はミニチュアメーカーで、絵コンテやデザイン周りの仕事もやっていました。ウチの島村社長という人はものづくりに対して理解があるというか懐が大きい人で、僕が「ジュブナイル」で監督デビューする前、ビジネスにならない企画を延々とやっていた時期でも、好きにやっていいよと言われて、会社の機材を使っていろいろなことやっていました。それについては全然お咎めなし。おかげさまでその後、蓄積が役に立ったと思っているのですごく感謝してます。

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山崎貴監督はTVCMや映画向けの各種アニメーション制作と特殊効果で知られる白組に所属している。

城戸:「SPACE BATTLESHIP ヤマト」を制作した感想はいかがですか。

山崎:アニメの「宇宙戦艦ヤマト」は自分の中でも大きな作品なので、それをやらせてもらえる、しかも実写でやらせてもらえる。ものすごくうれしかったです。でも、とにかくたいへんな目にあいました(笑)。これまで自分が監督した作品の中にもSF映画の範疇に入るものはありますが、基本的には現代劇の中にSF的要素が入っているというものです。でも「SPACE BATTLESHIP ヤマト」は100%何から何まで作り上げなければならないっていうフルサイズのSF映画。今までとはちょっとケタが違う作業量が要求される作品で、ちょっとSFなめてましたね。大変な目に遭いました。必死に作ったという感じです。

プリビズによって撮影、CG、コンポジットの連携がうまくいった

城戸:シナリオからビジュアルをくみ上げる作業で苦労した点はどんなところですか。

山崎:宇宙を三次元的な空間として描きたかったので、絵コンテは描きづらいかったですね。平面的な絵では意味が伝わらないっていうか。絵コンテは力をいれないで、プリビズ(※)の段階とか、最終的な絵を作る時にきちんとやっていくことにしました。

※プリビズ:プリビジュアライゼーションの略。撮影に入る前に3DCGソフトで作られる、動く絵コンテのようなもの。簡単なCGアニメーションながら、人物やカメラ、CGの動きなどを把握できる。

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「SPACE BATTLESHIP ヤマト」のプリビズ

城戸:それは宇宙が誰も体験できない空間だからですか。

山崎:宇宙って真っ暗で上も下もない空間。惑星の近くだとある程度の方向性はわかるんですけど、惑星から離れちゃうと何も目印がないので、非常に作りづらい世界なんですよね。で、僕自身がAutodesk Mayaが多少使えるので、その中で戦闘機を置いてみて、三次元的な空間で考えることはかなりやりましたね。ヤマトの出現の仕方や、どういうふうにカメラの前を横切っていくのかに関しても、まずは模型を使ってシミュレーションしてたんですけど、最終的にはCGの中でラフに動かしてみて、どういう角度だと意図が伝わりやすいかを検証していきました。設計図とまでは行かないんですけど、最初のアイデアを検討する場所として、CGの空間を使ったという感じです。

城戸:たとえば戦闘機のコスモタイガーが宇宙空間で急速後退するシーンでは、原寸大のコクピットのセットをグリーンバックで撮影し、残りの機体や背景はCGで足していくという複雑な映像設計になっています。

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グリーンバックで撮影されたコックピットのセット

山崎:実際のセットを使ってどこまで撮影すればいいのか、それ以外のところはどのようにCGで見せればいいのかは、プリビズを作ることでいろいろわかってくるんですね。プリビズをカメラマンに見せると「実際にはカメラはこんなに急激には下がれないですよ」と言われるので、「じゃあこのへんまでは実写で、このへんからはCGにしよう」という判断が可能になって、撮影、CG、コンポジットなど各部署の連携がすごくうまくいくんです。

城戸:役者にもプリビズを見せて立ち位置やカメラのポジションを説明したそうですね。

山崎:前半のほうは基本的にプリビズができていたので、それを見てもらいながら、「これこれこういうシーンで、周りはこんな状況なので、そのつもりで演技してください」と言っていました。グリーンバックのセットの中にいると、役者さんは自分で何をしてるかわからなくなっちゃうんですよ。そういう時、プリビズは役に立ちましたね。

ヤマトが浮上するシーンのために3ds Maxを導入

城戸:これは古代機のコスモゼロですが、実写の素材に窓ガラスが入っていないですね。

山崎:戦闘機の窓ガラスは大変でしたね、量が多くて。グリーンバック合成でやるとクオリティが保てなくなっちゃうので、後づけのCGの方がいいんじゃないかっていう結論に達して、実写の素材にはガラスは一切入っていません。でも戦闘機のシーンがすごくたくさんあって、それを全部処理しなくちゃいけなかったので大変でした。

城戸:ヤマトはオリジナルのアニメでは大きさが265メートルだったのが、今回534メートルになっていますね。

山崎:ブリッジの大きさの問題ですね。265メートルのままだとブリッジがのすごい狭くなっちゃって。ワンカットでカメラがブリッジの中に入っていくとか、ブリッジに人がいてヤマトの全景が見えるというシーンが結構あったので、アニメーションだったらごまかしがきくんですが、実写は辻褄を合わせておかなきゃいけないということで、逆算したらこんなことになりました。

城戸:「SPACE BATTLESHIP ヤマト」は総カット数が500カットあって、うち白組が450カットを担当。白組のCGチームは9名、コンポジットチームが6名+α。この少人数でCGは8ヵ月というタイトなスケジュールだったそうですね。

山崎:今回は作るものが多くて、「三丁目の夕日」みたいに街を一つ作っておけば済んじゃうみたいな内容じゃなかったので。いろんなシチュエーションがあって、それぞれに物量が必要でした。物を作ったり練習しているうちに三ヵ月ぐらい経っちゃったんですよね。だから最初のカットができてくるまでにずいぶん時間がかかって、かなりどきどきする仕事でしたね。

城戸:エフェクトについてはいかがでしたか。

山崎:僕ら白組のチームはずっとAutodesk Mayaでやってるんですけど、Mayaはエフェクトが弱くて苦労しました。煙とかはいいんですけど、破壊が弱いんですよね。ヤマトが大地を割りながら浮上するシーンはものすごく重要なので、うちのエース級のスタッフに任せたわけですが、結局Mayaではいい映像ができなかった。どうしようかとなったんですが、当時、Autodesk 3ds MaxのRay Fireというプラグインもてはやされていたんです。試しにYouTubeで検索してみたら、なかなかいい感じの映像が沢山あった。それで3ds MaxとRay Fireを導入したんですが、Mayaと似ているんだけど微妙に違う。そこが非常につらかったんですが、3ds Maxが得意なチームに基礎だけを教えてもらって、なんとかRay Fireで破壊シーンを作りました。言うなれば、3ds MaxをMayaの高級プラグインとして使わせてもらった(笑)。

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Autodesk 3ds MaxとRay Fireで作られたヤマトが浮上するシーン

城戸:CGではMaya、3ds Maxを使ってもらっていますが、コンポジットではAutodesk Infernoの出番はありましたか。

山崎:イマジカのチームはInfernoでした。映画を見ていただいた方はわかると思うんですけど、後半のほうに、髪はスローモーションなのに顔はリアルタイムっていう場面があって、そこはCGで作った顔を合成したんですよ。それを体に完璧に合わせるのは、トライ&エラーを何回もやらなけれないけなくて、しかもフルデータでやらないと微妙なズレとか検知できないので、Infernoの高速性がものを言いました。トライ&エラーをやればクオリティが上がるカットに関しては、Infernoは優秀です。

城戸:最後にあらためて「SPACE BATTLESHIP ヤマト」について一言お願いします。

山崎:12月1日から公開になり、観客動員数もいい感じで推移してるみたいです(5日までに動員数79万人)。劇場用サイズに作っているつもりではありますので、大きなスクリーンで大音響で見てもらえたらと思います。いろんな苦労があったということは豆知識として入れながら、ぜひ劇場で見ていただければと思います。

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