2010年06月15日
広告ビジュアル制作の世界ではいまや、Photosopだけでビジュアルを完成させるのではなく、3DCGを組み合わせた"ハイブリッドフォトレタッチ"が広がりつつある。ここではその先駆者として、Autodesk 3ds Maxなどの3DCGソフトを駆使するレタッチカンパニーを紹介する。
動画と静止画の3DCGの違いとは?
「3DCG」というと動画の世界の話と思っている人は広告業界でも意外に多いが、現在は静止画の世界でも欠かせないものになっている。それでは、静止画における3DCGの役割とは何なのだろうか。今回は、広告ビジュアルの撮影から画像処理、そして3DCGの作成まで手がけるヴォンズ・ピクチャーズを訪ね、同社代表の片岡竜一、レタッチャーでありCGデザイナーの新谷貫志、磯崎大介、大槻昌平の4氏に静止画の3DCGについて聞いた。
— ヴォンズ・ピクチャーズは、静止画を中心としたレタッチカンパニーとお聞きしていますが、静止画と動画の3DCGを比べた場合、どのような点が異なるのでしょうか。
片岡竜一
代表・CG ディレクター
新谷貫志
CG ディレクター
磯崎大介
チーフCG デザイナー
大槻昌平
CG デザイナー
片岡 データサイズや作成ワークフローの違いなどいろいろありますが、一番の違いは創り手の意識の問題です。我々静止画のクリエイターは、当然ながら1枚の絵にこだわります。最終的に広告で使われた場合、1枚の作品として凝視されるのでごまかしが利きません。しかし、動画のクリエイターはたくさんの画像を扱い、全体としての動きにこだわります。何にこだわるかという意識が微妙に違うのです。加えて、静止画のクリエイターなら、最後に「Adobe Photoshop」に持って行ってフィニッシュを細かく仕上げることも可能です。
— フォトレタッチャーだからこその、3DCGの使い方があるということでしょうか。
新谷 3DCGを使えると、発想が変わってきます。レタッチャーは全員3DCGが使えた方がよいと思いますね(笑)。実物を撮影することにこだわるクライアントやADもいらっしゃいますが、逆に3DCGを使ったほうがより自然な絵になる場合もある。3DCGをわかっていれば、撮影がいいのか、描くのがいいのか、3DCGがいいのか、という判断がつくようになります。
大槻 スタジオ撮影では難しそうな大がかりなセットを3DCGで作り、撮影したモデルと合成することもできます(上の作品参照)。一方で、より自然に見せるために小物を3DCGで作成するなど、部分的な使い方もできるわけです。
磯崎 以前、写真の中に桜の花びらを飛ばすという仕事があったので花びら素材を撮影したのですが、撮影したものを変形させて飛ばしてみてもうまくなじまない。それよりも、3DCGで作ってパーティクルで散らしたほうがより自然にできました。クライアントに提案したところ、結局こちらの案が採用されたこともありました。
3DCGをツールの一つとして使いこなす
— レタッチソフトだけではなく、3DCGソフトを使う利点はどのようなことがあるのでしょうか。
新谷 弊社では3DCGソフトは「Autodesk 3ds Max」を使っています。例えばPhotoshopでもある程度3DCGは作れますが、ライティングやカメラアングルといった設定は3ds Maxを使ったほうが圧倒的に速くて楽ですよね。
大槻 一度作ったモデルを動かせば、簡単に角度違いのイメージを作ることもできます。例えば、クライアントの立ち会い時に違うアングルを指定されてもすぐに対応して見せることができるので、納期が厳しい我々にとっては心強いソフトですね。また、3ds Maxは、やり方の選択の幅が広いことやプラグインが豊富という利点もあります。
新谷 3DCGソフトを使えるというのは、作品を作る時のツールが増えるということです。ツールが増えれば、作品の完成度を高めることができますよね。
— 完成度という意味では、Photoshopとの連携も欠かせないのでしょうか?
大槻 そうですね。やはり我々静止画専門のレタッチャーとしては、最終的にはPhotoshopで仕上げます。3ds MaxのデータはPhotoshopに問題なく持って行くことができますし。
磯崎 タイトなスケジュールの時など、3DCGとフィニッシュのPhotoshop作業で違うレタッチャーが作業することもあります。レタッチャーが3DCGを扱えると、そういったワークフローもスムーズに行なえるのも利点ですね。
3DCGは大槻氏、Photoshop での仕上げは磯崎氏、背景の写真撮影は片岡氏が担当。
車などのハードな質感のものの全体のフォルムを際だたせるには、タイヤの溝をしっかり再現したり、一つ一つのネジを作り込んだりといった細かいディテール作りが重要になる。
上左は3ds Max から出力した画像、右は背景の写真。色の調整は最終的にはPhotoshopで行なうので、3ds Max では追い込みすぎないようにして「何となく夕日を感じているかな」というところで止め、その後Photoshop で仕上げた。煙はPhotoshop のブラシで描いている。
静止画の世界にも3DCGの波が確実に来ている
— 最後に現在、そしてこれからの3DCGについてお聞きしたいと思います。ヴォンズ・ピクチャーズでは設立当初(1997年)から3DCG部門を設けていたとのことですが、その頃に比べて広告業界での3DCGに対する意識は変わってきたのでしょうか。
片岡 動画の世界では3DCGの認識がかなり進んでいますが、静止画では実は思ったより進んでいないと思います。クライアントは広告ビジュアルで使う静止画の3DCGをどこに発注したらよいのかわからない。「3DCGなら動画のプロダクションだろうか?」と思ってしまうわけです。しかし、それでは冒頭でお話しした動画と静止画の3DCGの違いがあります。つまり、クライアント側とプロダクション側とのミスマッチが生まれてしまうのです。それを防ぐためにも、クライアント、AD、フォトグラファー、そしてレタッチャーも静止画の3DCGへの意識をもっと持つべきだと思います。
— 3DCGはこれから「標準」になっていくということでしょうか。
片岡 そうですね。特にレタッチャーにとって、3ds Maxを扱えるというのは強力な武器になると思います。
すでに、Photoshopは使えて当たり前の「母国語」です。それなら、「第二言語」を何にするか。私のように撮影ができるという人もいますし、「Adobe Illustrator」や「Adobe Flash」を得意とするなど、さまざまな第二言語を持つ人がいます。
しかし、これからのビジュアルエリートの第二言語は、確実に3ds Maxになるのではないでしょうか。(会社設立の)13年前にフォトレタッチの時代の始まりを予感したように、静止画においてもいよいよ今、3DCGの時代が来ているように感じます。
Autodesk 3ds MaxとAdobe Photoshopを使ったヴォンズ・ピクチャーズの仕事
三菱電機 A&P=電通 AD=沖宗光明
日本宝くじ協会 A&P=A・C・O AD=金子隆
JCB A&P=電通 AD=村野崇行・大嶌美緒
競艇 A&P=電通+アンクル AD=浜崎明弘