アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。
Vol.01
加藤建吾に聞く「いい写真」とは
▼今回のSPECIALIST
加藤建吾( かとう・けんご)
2000年「TUGBOAT2」設立後、2016年「TUGBOAT DESIGN」設立。東京ADC賞、CLIO AWARDS、 THE ONE SHOW、ニューヨークADC賞、他受賞多数。
ブランディング、広告等を中心に幅広いクリエイティブワークを展開。

写真って、自分が見ている景色ではないものが
生まれてくるから面白い。
中野 加藤さんはアートディレクター(以下AD)として、タレントを起用した広告の制作に数多く携わられていますよね。広告と写真の関係性、特にタレントを広告の被写体として落とし込んだ際に、大切にしていることをお聞きしたいと思っています。ちなみに、昨今の広告を取り巻く現状に対して、変化を感じることはありますか?
加藤 コロナを挟んで明らかに変わりましたね。駅貼り広告は減り、バナー広告が増えるといったように、広告の仕方が変わってきました。さらに、訴求の仕方も変わってきて、コミュニケーションに比重を置くより、わかりやすく数字に繋がる即効性のある訴え方をする広告が増えてきてます。広告における、写真の扱いも自然と変わってきているのではないでしょうか。
中野 求められる写真が変わってきているのは、撮影現場でも感じることはあります。例えば、縦位置に収まるように、なるべく引いて撮影してほしいというオーダーが多くなるなど。
加藤 フォトグラファーとしては、すごく嫌なんだろうなとは思います。
中野 解像度など、技術的な意味でも気にはなりますが、多くのパターンを撮影する時間がない場合もありますね。加藤さん自身、そういったやり方についてどう感じていますか?
加藤 現場でのAD の” 握り方” が問題だと思います。広告制作の現場環境も変化しているので、クリエイティブに対してAD が主張しづらくなっているんだろうなと。そもそも、広告として使うなら「この距離感が欲しい」という写真は事前に想定できますよね。効率的に撮影すれば、汎用性の高い距離感の写真も含めて押さえることは可能だと思うんです。AD の欲しい距離感の写真を、クライアントやクリエイティブディレクターと握れていないから、都合の良い距離で撮影してしまうのかなと。
中野 現場でのAD とフォトグラファーの関係はどうあるべきだと思いますか?
加藤 現場を仕切るのはAD であるべきだと思っているので、フォトグラファーとは撮影の全てを共有できる関係がよいと思っています。その上で、僕らは写真の知識を学んだり、撮影のモチベーションを高める必要がありますよね。例えば、フォトグラファーからレンズの提案があれば、理解している方がいいわけですし。
中野 どのような現場でもクオリティを担保するのは、プロのフォトグラファーとして当然ですが、写真や撮影に関する知識や理解を持っているクリエイターが相手だと、こちらもコミュニケーションしやすくなります。
加藤 コミュニケーションが取りやすいかどうかは重要だと思ってます。いい写真を撮る人でも、コミュニケーションがとれないと不十分な気がするんです。
中野 そのコミュニケーションには何が含まれるのですか。
加藤 行き先や求めているものが同じでも、「これがいい」というものに対して差異があると擦り合わせに時間がかかるので、言葉のニュアンスが合うかどうかは大きいです。ただ、任せておいた方がいいタイプのフォトグラファーや、言葉を多くしてオーダーした方がいいフォトグラファーもいます(笑)。
中野 よくわかりますし、多くの人と仕事をしていると経験することですよね。
加藤 どちらかが迎合するのも変なので、やりやすい関係性をお互いに探るのがいいですよね。事前に飲みにいけるのが一番いいですけど(笑)。
中野 確実にお互いの理解も早まりますね(笑)。
キャスティングについて、もう少しお聞きしたいのです。AD がフォトグラファーをキャスティングする際、写真の中の何を見ていますか?
加藤 基本は、フォトグラファーの作風、広告の企画、被写体との相性、といった様々な変数を掛け算した中で噛み合うところを探します。たまに強めのトップダウンで進める人がいますけど、僕はスタッフ内のコミュニケーションはとった方がいいと思うから、なるべくハレーションが起こらない方法を選びます。
中野 コミュニケーションを重視している加藤さんにとって、打ち合わせについ
てはどう考えていますか?
加藤 少ないに越したことはありませんが、企画に対するズレがないようにいです。企画書を読み込んでくれたけど、全然違う解釈をされているなら、再度打ち合わせをしたい。ただ、企画への回答が必ずしも一緒でなくていいとは思っています。
というのも、「いい写真」という基準も、「写真的にいい」のか「広告的にいい」のかで異なりますから。
中野 そこを読むのは難しそうです。さらにそこにタレントが入ると、「タレントにとっていい写真」という価値基準も出てきます。フォトグラファーは色んな要素を頭に入れ、それを整理して当てはめていく能力が必要ですね。
加藤 でも、前向きに捉えると、僕が意図している以上のディレクションを、フォトグラファーがする場合もあります。そうすると、上乗せされてさらに「いい写真」にもなり得ます。実を言うと、上乗せを期待しているところもあります。最低限キープした枠の中で、どれだけ振り幅をつけるかは僕にはできない。
それこそが、フォトグラファーのディレクションであるべきだと思います。
中野 それぞれの領域の中で最大限のパフォーマンスが出せるのが理想ですね。
加藤 逆にお聞きしたいのですが、撮影中、タレントへの要望を直接ではなく、伝言ゲームみたいに、フォトグラファーを通して指示出しするタイプの人がいますよね。あれってどう思いますか?
中野 僕は撮影の流れを止めたくないタイプなので、耳打ちのほうが助かりますが、現場のスタッフが一枚岩になっていることが前提ですね。そこに様々な人の思惑が挟まって伝言の過程でズレが生まれて何度も繰り返すことになると、いい加減にしてくれってなりますけど(笑)。あまりにもクライアントが気にしているぞ、という雰囲気の時はタレントに「確認しますね」と一声かけてから待機してもらいます。
加藤 確かに、無理に流れを止める必要性ってないですよね。若いAD がそれで失敗しているケースを聞くことがあるので、参考になります。
中野 最後に写真というメディアの可能性について、どう感じているかをお聞きしたいです。歴史的に様々な写真表現があったと思いますが、今の時代だとこれが面白いといった表現はありますか?
加藤 写真というメディアの考え方が変わりましたよね。SNS が普及して、フォトグラファーと名乗る人達もたくさん出てきたりして。悪い意味ではなく、写真って全般的に「雑」なメディアだと思うんです。だからこそ、親しみやすいし、受け入れられる。高貴なものではないのが良さであり、みんなが写真を好きになる理由なんだと思います。それに対して、我々がどれだけ丁寧に扱って、アウトプットをプレゼンできるか。それで仕事が
成り立っているような気がします。
中野 プレゼンテーションにプロフェッショナリズムが出てくるという考えには納得です。それこそ写真のプロじゃない人が、こういう視点で写真を撮って集めました、というものがアートになったりしますから。昔から、写真自体は雑でも、目線やプレゼンテーションによって価値が出てくるわけですね。
加藤 デザインも同じです。ツールが便利になって、誰でもボタンを押したら、ポンとできちゃうみたいな。作るのは楽になったけど、その先があるんじゃないかなと思います。ちなみに、昨今AI 問題が話題ですが、いつかAI 画像が写真になる日が来るかもしれない。
中野 本当にあり得ますよね。撮影ではコントロールできないものもあるので、AI ならではのビジュアルが生まれたり
加藤 いま「いいと思われている写真」が、昔の解像度が追いついてないデジタル写真みたいなものに置き換わったり、AI 画像と写真の見分けがつかなくなったり。結局誰がどう咎めるの、みたいな話になっちゃいますよね。
中野 「写真を楽しむ」というテーマで始まった連載ですが、個人的には写真には発見していくことの楽しさがあると思うんです。だから、広告として「いい写真」という別軸で考える脳の違いのお話はすごく興味深かったです。
加藤 そもそも写真って、自分が見ている景色ではないものが生まれてくるから面白い。強烈だったり、美しかったり。広告でもアートでも、同じ景色を見ていたのにフォトグラファーの目を通して、こうなったんだよというのが楽しいところですね。僕らの想像を超えてくる、本当に楽しいメディアだと思います。
三井住友銀行/三井住友カード Olive 登場篇


最近ではかなり大規模な撮影だったので、多くのスタッフと共に1枚の写真として仕上げる工程は、楽しくもあり、改めて発見の多い仕事でした。特に写真表現を選択したアウトプットには、様々な人々の共通認識が重要ということも再認識しました(加藤)。
NAKANO’s COMMENT
アナログ、デジタル関わらず写真が持つ偶然性を信じていらっしゃる加藤さんならではの視点。そこにフォトグラファーとして如何に上乗せして説得力を発揮できるか。写真においての正しさよりもアウトプットする場所での正しさを追求する姿勢は改めて心に刻まれました。
スペシャリストに聞く6つの質問
Q1 写真の好きなところ
情景がそこに焼き付いている、そんな「ライブ感」が好きですね。家族写真だったり、風景写真だったり、ある瞬間が切り取られていると感じるメディアは唯一無二で、動画にもないものだと思います。
Q2 最近気になるフォトグラファー
フォトグラファーかどうかというところは置いておいて、昨年、AI 生成した画像で写真コンテストに応募し、入賞したボリス・エルダグセンさん。どんな思いで応募をしたのか聞いてみたいです。
Q3 業界を目指す人へ
時代にあった回答を出せるかが、大切になってくると思います。そのために広告の勉強も必要です。まずはいろんな広告を見て「好き・嫌い」で仕分けし、その理由を考えてみてください。
Q4 衝撃を受けた写真
BENETTON の広告写真シリーズです。写真だけで成立していますし、毎回テーマが変わっても企業のカラーは伝わってくる。こんな広告を作れたたら楽しいだろうなと、衝撃を受けました。
Q5 フォトグラファーと出会う場所
最近はメールで作品を送ってくださる人が多いですが、個人的には直接会って見せてほしいです。写真を見るだけでは得られない情報も多いので、やっぱりコミュニケーションを取りたいですね。
Q6 キーアイテム
女優で映画監督のダイアン・キートンの写真集『MR. SALESMAN』です。若い頃によく見ていた写真集で、掲載されている写真がすごく広告的なんです。今の時代でも通用すると思います。

撮影・インタビュー
中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/

特集「LEDライト最新活用術」&別冊付録「CM・映像 キャメラマン&ライトマンファイル 2026」。
巻頭特集ではフォトグラファー福岡秀敏が俳優・田中麗奈をLEDで撮り下ろし。さらに倭田宏樹、森山将人、川村将貴、須藤絢乃による現場事例や機材検証を通して、LEDライティングの実践的な活用方法を解説。「Aputure LED 4機種 実践検証」ではCOB型、パネル型、スポット型、ストリップ型という異なる光源を用い、静物撮影で検証。光の質や質感表現の違いを比較しながら、LEDライトの特性を具体的に探る。撮影と解説は中村雅也氏が担当した。
【広告特集】King & Prince「STARRING」のクリエイティブ
2025年12月24日発売のKing & Prince 7thアルバム「STARRING」。本企画では、収録曲それぞれを“架空の映画の主題歌”に見立て、1曲につき1本の特報映像を制作するという前例のないプロジェクトを徹底取材。本編は存在しないにもかかわらず、長編映画を想定した設計で10本の特報映像とポスターを制作。さらにレッドカーペットイベントや映画館での上映会まで展開するなど、アルバムの枠を超えた大規模なプロモーションとして構築されている。特報・ポスター制作全体のプロデューサー加藤諒氏をはじめ、3人の映像監督、アートディレクター、フォトグラファーが参加。企画設計の背景と制作プロセスをそれぞれの立場から語る。
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ほか