春の京都が写真一色に染まるイベント KYOTOGRAPHIE 2025 レポート! メインプログラム篇 その1

毎年春、京都市内各地で開催される国際的な写真フェスティバル「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。

13回目を迎えるKYOTOGRAPHIE、今年は2025年4月12日(土)から5月11日(日)までの期間で開催された。

期間中は、メインプログラムと、サテライトイベントKG+(ケージープラス)と合わせて160を超える写真展の他、ワークショップ、ポートフォリオレビュー、アーティストによるトークイベントなど、写真にまつわるさまざまな企画が行なわれていた。
プロ・アマ問わず、写真に関心のあるすべての人にとって刺激に満ちた時間が過ごせる。

会場周遊に便利なKYOTOGRAPHIE公式アプリののスクリーンショット。KYOTOGRAPHIE、KG+の全会場がマッピングされている。クリックすると展示詳細が見られる。会場によって開催期間・時間が異なるので事前チェック必須だ。

展覧会の種類は大きく分けて2つ。
目印になるのは会場入口に立つフラッグの色だ。

赤色が目印のKYOTOGRAPHIEメインプログラムは国内外のアーティストが「HUMANITY」のテーマのもと作品を発表する。寺院や歴史的建造物、近現代建築などを会場にしている点も大きな魅力の1つだ。

黄色が目印のKG+(ケージープラス)はサテライトイベントとして開催される公募型アートフェスティバル。KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭との連携・同時開催を通して、フェスティバル全体を盛り上げている。

この記事では5つのメインプログラムと、20のKG+ プログラムをそれぞれ分けてレポートする。

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作家名、作品タイトル上の数字はプログラムナンバー。
レポート記事では、実際に訪問した順番に掲載する。

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Graciela Iturbide グラシエラ・イトゥルビデ 
京都市美術館 別館

Presented by DIOR

キュレーター:エレナ・ナバロ
セノグラファー:マウリシオ・ロチャ・イトゥルビデ

Our Lady of the Iguanas, 1979, Juchitán, Oaxaca, Mexico © Graciela Iturbide

東山駅から徒歩10分程度、平安神宮の大鳥居をくぐり抜けてすぐの京都市美術館 別館で開催されているのは、メキシコを代表する写真家グラシエラ・イトゥルビデの日本初の回顧展。

会場に入ると、まずはイトゥルビデの経歴を年表形式で紹介するコーナーが設けられており、彼女の歩みを時系列で追うことができる。

ハッセルブラッド国際写真賞、ウィリアム・クライン賞、ユージン・スミス賞、東川写真賞海外作家賞、メキシコ市芸術科学国家賞といった数々の受賞歴や活動がまとめられている。マヌエル・アルバレス・ブラーヴォの助手としてメキシコ各地の旅に同行もしていたそうだ。

50年以上にわたる制作活動の軌跡が丁寧に並べられており、観る者を静かに引き込む。

メキシコの先住民であるセリ族やサポテカ族の女性たち、そしてムシェと呼ばれる女装の男性たちの力強いポートレイトが並ぶ。被写体をやや下から捉えることで、被写体の存在感と尊厳が引き立てられている。

また、植物や岩、動物といった静物、『Vogue Mexico』「ディオール」などのファッションフォトも。

イトゥルビデの作品には、鳥・ヘビ・魚といった象徴的なモチーフが頻出するが、なかでも鳥の存在はとりわけ印象深い。

会場では、イトゥルビデ本人の語りを含むインタビュー映像も上映されている。
鳥をモチーフとするようになったきっかけ、作品制作の背景、コンタクトシートやスタジオの様子も少し見られるのが嬉しい。
息子や展覧会のキュレーターも登場している。

静謐でありながら強さを秘めたグラシエラ・イトゥルビデの写真世界に浸れる濃密な展示だった。

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Laetitia Ky レティシア・キイ 「A KYOTO HAIR-ITAGE」 
出町桝形商店街 ― DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space

KYOTOGRAPHIE African Residency Program

セノグラファー:team raw row

出町桝形商店街のアーケード街では、天井から吊るされたユニークな作品に目を奪われる。コートジボワール出身のアーティスト、レティシア・キイによるレジデンス作品「A KYOTO HAIR-ITAGE」だ。
この作品は、出町桝形商店街とKYOTOGRAPHIE 常設スペース「DELTA」で展開している。

レティシア・キイは、ヘアスカルプチャーで造形を作り、自分自身を被写体にする作風。このシリーズでは、釣竿、かご、包丁などを形どり、京都の街を舞台に撮影を行なった。

2週間にわたる滞在制作の中で、地元の人々と交流しながら、寺院やお茶屋、料亭、鴨川沿いなど、京都らしい風景の中で作品を生み出した。作品には、京都という場所へのリスペクトと、そこに溶け込むアーティスト自身の喜びがにじんでいる。

出町桝形商店街での展示は、2020年から続くアーティスト・イン・レジデンス・プログラムの一環。アフリカの若手アーティストを招き、京都の街で滞在制作を行なう取り組みであり、今年もその成果が活き活きと展示されていた。

ヘアスカルプチャーのユーモアと造形美、色鮮やかなビジュアルが商店街の空間を一層彩っている。

アートと日常が交差するこの場所で、彼女の作品は多くの人々にポジティブなエネルギーを届けた。

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Martin Parr マーティン・パー 「Small World」  In collaboration with Magnum Photos
TIME’S

セノグラファー:寺田英史 + 的場愛美 (tamari architects)

Athens, Acropolis, Greece, 1991 © Martin Parr/Magnum Photos

高瀬川に面した場所にあるビル「TIME’S」。ここでは、マーティン・パーの「Small World」と𠮷田多麻希「土を継ぐ—Echoes from the Soil」の展示が開催されている。


入口を入ると、すぐに始まるマーティン・パーの「Small World」。このシリーズは、写真集初版が約30年前に発表された後も何度も改訂版が出版されている作品(2024年も出版されている)。

世界各地の観光地でカメラを構える人々、撮影スポットでの様子、溢れる土産物、どこに行っても人、人、人の混雑……観光に対する期待と現実。マーティン・パーの視点によってユーモラスかつ風刺的に切り取られている。

観光が持つ“滑稽さ”と“普遍性”、そしてその背景にある消費のあり方への問い。

展示作品では、世界遺産の前でポーズを取る団体観光客や、ピサの斜塔をトリックアート的に“手で支える”あるあるな構図、人工プールに密集する人々など、観光という行為そのものを捉えた写真がずらりと並ぶ。思わず笑ってしまう光景の中に、「観光とは何だろう?」という疑問が生まれる。

観光地では非日常を味わいたいと思いながらも、実はそこで行なっている行為はあまりにも“よくあるもの”。
(…この京都滞在中、あちこちで撮影をしまくっている自分自身も作中の登場人物たちと全く同じだ)

また、京都の観光地で撮影した新作もスライドショー形式で紹介されていて、「Small World」が現在進行形のシリーズなのだと実感させられる。

S01 
SIGMA Pop-up Library
TIME’S

マーティン・パーの展示を抜けると、目の前にあるのがSIGMAのPop-Upライブラリー。中には写真集がズラリと並ぶ。
KYOTOGRAPHIEゆかりの写真家の選書を始め、SIGMAが収集する写真集コレクションの一部(1,500冊以上!)を閲覧できる。
展覧会を巡る合間に立ち寄りたいスポットだ。

その横には、KYOTOGRAPHIE& KYOTOPHONIEインフォメーションセンターとBook Shop.

フェスティバルに関する情報や、チケット購入、周辺の観光情報や交通情報などを提供してくれるほか、関連書籍やグッズも購入できる。

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𠮷田多麻希 「土を継ぐ—Echoes from the Soil」 
TIME’S

Ruinart Japan Award 2024 Winner
Presented by Ruinart

セノグラファー:小髙未帆(APLUS DESIGNWORKS)

©︎ Tamaki Yoshida

階段を降りて次の展示へ。

扉を開けると広がっている暗がりの空間。
𠮷田多麻希「土を継ぐ — Echoes from the Soil」。2023年のRuinart Japan Awardを受賞し、フランス・シャンパーニュ地方にてアーティスト・イン・レジデンスとして滞在した際に撮影された作品だ。

展示室に足を踏み入れると、壁や床に写真が点在し、暗がりの中スポットライトによって静かに浮かび上がる。目を凝らすと、写真には土の上に落ちた葉、木の実、きのこ、虫、動物の痕跡…、生命が朽ち、やがて土へと還り、それがまた新たな命を育む自然の循環が写し出されている。

𠮷田の滞在したシャンパーニュ地方の土壌は、何層にも重なる石灰岩で構成され長い時間堆積された養分と時間によって作られたものだ。「土を継ぐ」というタイトルが示すように、この作品は「シャンパーニュの大地に刻まれた記憶を探る」ことから始まったのだという。

「写真は過去を固定するものなのか。それとも、時間の中で意味を変え、未来へと響くものなのか」

そんな問いから、撮影した写真をシャンパーニュの土に埋める行為へと展開した。

その後、次の部屋では自然光が差し込む空間へ。そこに立ち現れるのは、霧の中に佇む雄鹿の写真。滞在の終わりに偶然出会った鹿だそうだが、どこか幻のような佇まいで、静かな余韻を残してくれる。これらの写真は自ら漉いた和紙が用いられているという。
そのほかにも、羽ばたく無数の鳥、イノシシといった動物たちが登場。

𠮷田が静かに紡いだこの物語は、土の記憶とこれからに思いを巡らす時間を与えてくれる。


この記事では5つのメインプログラムを紹介した。訪問ができなかった人、KYOTOGRAPHIE 未体験の人にとって、参考になれば幸いだ。

メインプログラム篇-その2はこちら

メインプログラム篇-その3はこちら

メインプログラム篇-その4はこちら

KG+篇-その1はこちら KG+篇-その2はこちら

KG+篇-その3はこちら KG+篇-その4はこちら


<イベント概要>

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025

会期:2025年4月12日(土)〜5月11日(日)


主催:一般社団法人KYOTOGRAPHIE

パ スポートチケット:一 般 6,000円(前売り5,500円)学生 3,000円(前売りも同額)

単館チケット:一般 600〜1500円

https://www.kyotographie.jp/

コマーシャル・フォト 2025年7月号

【特集】レタッチ表現の探求

写真を美しく仕上げるために欠かせない「レタッチ」。それはビジュアルを整えるだけでなく、一発撮りでは表現しきれないクリエイティブな可能性を引き出す工程でもある。本特集では、博報堂プロダクツ REMBRANDT、フォートンのレタッチャーがビジュアルの企画から参加し、フォトグラファーと共に「ビューティ」「ポートレイト」「スチルライフ」「シズル」の4テーマで作品を制作。撮影から仕上げまでの過程を詳しく紹介する。さらに後半では、フォトグラファーがレタッチを行なうために必要な基本的な考え方とテクニックを、VONS Picturesが実例を通して全18Pで丁寧に解説。レタッチの魅力と可能性を多角的に掘り下げる。

PART1
Beauty  石川清以子 × 亀井麻衣
Portrait  佐藤 翔 × 栗下直樹
Still Life  島村朋子 × 岡田美由紀
Sizzle  辻 徹也 × 羅 浚偉

PART2
フォトグラファーのための人物&プロダクトレタッチ完全実践
講師・解説:VONS Pictures (ヴォンズ・ピクチャーズ)

基礎1 フォトグラファーが知っておくべきレタッチの基本思想
基礎2 レタッチを始める前に必ず押さえておきたいポイント
人物レタッチ実践/プロダクトレタッチ実践

ほか