
毎年春、京都市内各地で開催される国際的な写真フェスティバル「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。
13回目を迎えるKYOTOGRAPHIE、今年は2025年4月12日(土)から5月11日(日)までの期間で開催された。
期間中は、メインプログラムと、サテライトイベントKG+(ケージープラス)と合わせて160を超える写真展の他、ワークショップ、ポートフォリオレビュー、アーティストによるトークイベントなど、写真にまつわるさまざまな企画が行なわれていた。
プロ・アマ問わず、写真に関心のあるすべての人にとって刺激に満ちた時間が過ごせる。

展覧会の種類は大きく分けて2つ。
目印になるのは会場入口に立つフラッグの色だ。
赤色が目印のKYOTOGRAPHIEメインプログラムは国内外のアーティストが「HUMANITY」のテーマのもと作品を発表する。寺院や歴史的建造物、近現代建築などを会場にしている点も大きな魅力の1つだ。
黄色が目印のKG+(ケージープラス)はサテライトイベントとして開催される公募型アートフェスティバル。KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭との連携・同時開催を通して、フェスティバル全体を盛り上げている。
この記事では5つのメインプログラムと、20のKG+ プログラムをそれぞれ分けてレポートする。

作家名、作品タイトル上の数字はプログラムナンバー。
レポート記事では、実際に訪問した順番に掲載する。
1
Adam Rouhana アダム・ルハナ 「The Logic of Truth」
八竹庵(旧川崎家住宅)
キュレーター:タウス・ダマニ
セノグラファー:Spinning Plates
サウンドデザイナー:ジュリーヌ・ハダヤ


エルサレムとロンドンを拠点に活動するパレスチナ系アメリカ人のアーティスト兼写真家のアダム・ルハナ。
メディアではなかなか取り上げられることのないパレスチナの人々の暮らしを捉えた作品が並ぶ。子どもたちや家族、友人との穏やかな時間など、占領下においても確かに存在する“普通の日常”。
作中の登場する人々は一見すると、穏やかに自由に日々を過ごしているように見えるのだが、その背後には、軍事占領という現実が横たわっている。
ステートメントを読んで初めて、作品に込められた象徴的なモチーフや視線、さりげない仕草のひとつひとつが、抑圧に対する静かな抵抗の表現であると気づかされた。
作品を前にしてもその意図を読み取れない自分の無知や視野の狭さを痛感する。作家のまなざしの先にあるのは、報道写真とは違った手法で見せる“真実とは何か”という問いだ。
2
土田ヒロミほか 「リトルボーイ」
八竹庵[旧川崎家住宅]
同じく八竹庵ではもう一つ、展示が行なわれている。
今年で戦後80年となるが、戦争や核の脅威は未だ…いや以前よりリアルに感じるのではないだろうか。その恐ろしさを2枚の写真で、現実のものとして伝えている。
この作品は撮影記録なし。
13
Eric Poitevin エリック・ポワトヴァン 「両忘—The Space Between」
両足院
セノグラファー:小西啓睦
Presented by Van Cleef & Arpels

京都最古の禅寺、建仁寺の中にある両足院で展示されているのは1961年フランスのロングイヨン生まれのアーティスト エリック・ポワトヴァン。
森や朽ちていく植物が、襖にプリントされていて建物の雰囲気と違和感なくマッチしている。什器は使わず、本来の姿をできるだけ活かした展示スタイルのようだ。
その裏側にあるのは白い空間の中に骸骨と静物(果物やサッカーボールなど)を並べ、真横から撮影した作品。フラットな光が印象的。
プリントも美しいと思ったら、フランスのラボでプリントして京都の職人が襖に設えたそうだ。
海外アーティストでありながらタイトルに禅の言葉である「両忘」(世の中を分断する物事の二面性を忘れること、両側面の対立を忘れることを示しているという意味だそうだ)を入れたポワトヴァン。建築物や文化へのリスペクトを感じる展示であった。
14A
Laetitia Ky レティシア・キイ 「LOVE & JUSTICE」
ASPHODEL
セノグラファー:team raw row
Supported by Cheerio


出町桝形商店街では、アーティスト・イン・レジデンスの成果として京都の文化を楽しみながらチャーミングな笑顔を見せていたレティシア・キイ。
ASPHODELで開催されている「LOVE & JUSTICE」では、彼女がなぜ髪を彫刻のように仕立てたセルフポートレイト作品を撮り始めたのかが明かされている。
コートジボワールで育った彼女にとって、ストレートな髪質や明るい肌の色が「美しさ」の象徴だったという。自身も薬品を使って髪をまっすぐに伸ばしていたそうだ。
しかし16歳のとき、薬剤の処理の失敗で髪が抜け落ちてしまったことが、大きな転機となる。
「なぜ自分は髪を矯正しようとしていたのか?」という自分自身に問いかけを始めた。
植民地支配以前のアフリカ女性の伝統的な髪型からインスピレーションを受け、自身の髪で彫刻のような形を作り、写真に収めるようになったということだ。
展示は3フロアにわたり構成され、「自身を愛すること」をテーマにアフリカの伝統的な髪型を再現した作品、「正義と男女平等を求めて」では女性たちが直面する社会的暴力や差別に焦点を当てた作品、そして「Self Love」では自己愛の重要性を語る作品が並ぶ。
出町桝形商店街ではアーティスト・イン・レジデンス作品として京都の文化を楽しみながらチャーミングな笑顔を見せていたレティシア・キイだが、この「LOVE & JUSTICE」のステートメントでは彼女が髪の毛を彫刻のように仕立て上げたセルフポートレイトを撮影し始めたのかが語られている。
9
Eamonn Doyle イーモン・ドイル 「K」
東本願寺 大玄関
With the support of the Government of Ireland
キュレーター:ナイル・スウィーニー
セノグラファー:ナイル・スウィーニー


イーモン・ドイルは1969年、アイルランド・ダブリン生まれ。東本願寺 大玄関で展示されている「K」は、喪失と祈りをテーマにした深い静けさを湛えた作品だ。
入り口では、「K」の文字を象った暖簾がゆらゆらと揺れ、訪れる人々をこの特別な空間へと誘っていた。
イーモン・ドイルの今は亡き実母が、若くして亡くなった息子(イーモン・ドイルにとっては兄)に宛てて綴り続けた何百通もの手紙を重ね合わせて布にプリントし、さらに発展させたのが今回発表された「K」シリーズ。
展示空間の作品には、鮮やかな色彩の大きな布をまとった「何か」が登場する。布が風にたなびきそびえ立つ姿は厳かな雰囲気を漂わせている。霊(たましい)の姿を表しているという。
会場に流れる音は、1951年に録音されたアイルランドの伝統的な死者への哀歌を基に、ミュージシャンのデイビッド・ドノホーが再構築したもの。

この記事では5つのメインプログラムを紹介した。訪問ができなかった人、KYOTOGRAPHIE 未体験の人にとって、参考になれば幸いだ。
<イベント概要>
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025
会期:2025年4月12日(土)〜5月11日(日)
主催:一般社団法人KYOTOGRAPHIE
パ スポートチケット:一 般 6,000円(前売り5,500円)学生 3,000円(前売りも同額)
単館チケット:一般 600〜1500円
https://www.kyotographie.jp/

コマーシャル・フォト 2025年7月号
【特集】レタッチ表現の探求
写真を美しく仕上げるために欠かせない「レタッチ」。それはビジュアルを整えるだけでなく、一発撮りでは表現しきれないクリエイティブな可能性を引き出す工程でもある。本特集では、博報堂プロダクツ REMBRANDT、フォートンのレタッチャーがビジュアルの企画から参加し、フォトグラファーと共に「ビューティ」「ポートレイト」「スチルライフ」「シズル」の4テーマで作品を制作。撮影から仕上げまでの過程を詳しく紹介する。さらに後半では、フォトグラファーがレタッチを行なうために必要な基本的な考え方とテクニックを、VONS Picturesが実例を通して全18Pで丁寧に解説。レタッチの魅力と可能性を多角的に掘り下げる。
PART1
Beauty 石川清以子 × 亀井麻衣
Portrait 佐藤 翔 × 栗下直樹
Still Life 島村朋子 × 岡田美由紀
Sizzle 辻 徹也 × 羅 浚偉
PART2
フォトグラファーのための人物&プロダクトレタッチ完全実践
講師・解説:VONS Pictures (ヴォンズ・ピクチャーズ)
基礎1 フォトグラファーが知っておくべきレタッチの基本思想
基礎2 レタッチを始める前に必ず押さえておきたいポイント
人物レタッチ実践/プロダクトレタッチ実践
ほか