春の京都が写真一色に染まるイベント KYOTOGRAPHIE 2025 レポート! メインプログラム篇

毎年春、京都市内各地で開催される国際的な写真フェスティバル「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。

13回目を迎えるKYOTOGRAPHIE、今年は2025年4月12日(土)から5月11日(日)までの期間で開催されている。

期間中は、メインプログラムと、サテライトイベントKG+(ケージープラス)と合わせて160を超える写真展の他、ワークショップ、ポートフォリオレビュー、アーティストによるトークイベントなど、写真にまつわるさまざまな企画が行なわれている。
プロ・アマ問わず、写真に関心のあるすべての人にとって刺激に満ちた時間が過ごせる。

会場周遊に便利なKYOTOGRAPHIE公式アプリののスクリーンショット。KYOTOGRAPHIE、KG+の全会場がマッピングされている。クリックすると展示詳細が見られる。会場によって開催期間・時間が異なるので事前チェック必須だ。

展覧会の種類は大きく分けて2つ。
目印になるのは会場入口に立つフラッグの色だ。

赤色が目印のKYOTOGRAPHIEメインプログラムは国内外のアーティストが「HUMANITY」のテーマのもと作品を発表する。寺院や歴史的建造物、近現代建築などを会場にしている点も大きな魅力の1つだ。

黄色が目印のKG+(ケージープラス)はサテライトイベントとして開催される公募型アートフェスティバル。KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭との連携・同時開催を通して、フェスティバル全体を盛り上げている。

この記事では14のメインプログラムと、20のKG+ プログラムをそれぞれ分けてレポートする。

作家名、作品タイトル上の数字はプログラムナンバー。
レポート記事では、実際に訪問した順番に掲載する。

12
Graciela Iturbide グラシエラ・イトゥルビデ 
京都市美術館 別館

Presented by DIOR

キュレーター:エレナ・ナバロ
セノグラファー:マウリシオ・ロチャ・イトゥルビデ

Our Lady of the Iguanas, 1979, Juchitán, Oaxaca, Mexico © Graciela Iturbide

東山駅から徒歩10分程度、平安神宮の大鳥居をくぐり抜けてすぐの京都市美術館 別館で開催されているのは、メキシコを代表する写真家グラシエラ・イトゥルビデの日本初の回顧展。

会場に入ると、まずはイトゥルビデの経歴を年表形式で紹介するコーナーが設けられており、彼女の歩みを時系列で追うことができる。

ハッセルブラッド国際写真賞、ウィリアム・クライン賞、ユージン・スミス賞、東川写真賞海外作家賞、メキシコ市芸術科学国家賞といった数々の受賞歴や活動がまとめられている。マヌエル・アルバレス・ブラーヴォの助手としてメキシコ各地の旅に同行もしていたそうだ。

50年以上にわたる制作活動の軌跡が丁寧に並べられており、観る者を静かに引き込む。

メキシコの先住民であるセリ族やサポテカ族の女性たち、そしてムシェと呼ばれる女装の男性たちの力強いポートレイトが並ぶ。被写体をやや下から捉えることで、被写体の存在感と尊厳が引き立てられている。

また、植物や岩、動物といった静物、『Vogue Mexico』「ディオール」などのファッションフォトも。

イトゥルビデの作品には、鳥・ヘビ・魚といった象徴的なモチーフが頻出するが、なかでも鳥の存在はとりわけ印象深い。

会場では、イトゥルビデ本人の語りを含むインタビュー映像も上映されている。
鳥をモチーフとするようになったきっかけ、作品制作の背景、コンタクトシートやスタジオの様子も少し見られるのが嬉しい。
息子や展覧会のキュレーターも登場している。

静謐でありながら強さを秘めたグラシエラ・イトゥルビデの写真世界に浸れる濃密な展示だった。

14B
Laetitia Ky レティシア・キイ 「A KYOTO HAIR-ITAGE」 
出町桝形商店街 ― DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space

KYOTOGRAPHIE African Residency Program

セノグラファー:team raw row

出町桝形商店街のアーケード街では、天井から吊るされたユニークな作品に目を奪われる。コートジボワール出身のアーティスト、レティシア・キイによるレジデンス作品「A KYOTO HAIR-ITAGE」だ。
この作品は、出町桝形商店街とKYOTOGRAPHIE 常設スペース「DELTA」で展開している。

レティシア・キイは、ヘアスカルプチャーで造形を作り、自分自身を被写体にする作風。このシリーズでは、釣竿、かご、包丁などを形どり、京都の街を舞台に撮影を行なった。

2週間にわたる滞在制作の中で、地元の人々と交流しながら、寺院やお茶屋、料亭、鴨川沿いなど、京都らしい風景の中で作品を生み出した。作品には、京都という場所へのリスペクトと、そこに溶け込むアーティスト自身の喜びがにじんでいる。

出町桝形商店街での展示は、2020年から続くアーティスト・イン・レジデンス・プログラムの一環。アフリカの若手アーティストを招き、京都の街で滞在制作を行なう取り組みであり、今年もその成果が活き活きと展示されていた。

ヘアスカルプチャーのユーモアと造形美、色鮮やかなビジュアルが商店街の空間を一層彩っている。

アートと日常が交差するこの場所で、彼女の作品は多くの人々にポジティブなエネルギーを届けた。

11 
Martin Parr マーティン・パー 「Small World」  In collaboration with Magnum Photos
TIME’S

セノグラファー:寺田英史 + 的場愛美 (tamari architects)

Athens, Acropolis, Greece, 1991 © Martin Parr/Magnum Photos

高瀬川に面した場所にあるビル「TIME’S」。ここでは、マーティン・パーの「Small World」と𠮷田多麻希「土を継ぐ—Echoes from the Soil」の展示が開催されている。


入口を入ると、すぐに始まるマーティン・パーの「Small World」。このシリーズは、写真集初版が約30年前に発表された後も何度も改訂版が出版されている作品(2024年も出版されている)。

世界各地の観光地でカメラを構える人々、撮影スポットでの様子、溢れる土産物、どこに行っても人、人、人の混雑……観光に対する期待と現実。マーティン・パーの視点によってユーモラスかつ風刺的に切り取られている。

観光が持つ“滑稽さ”と“普遍性”、そしてその背景にある消費のあり方への問い。

展示作品では、世界遺産の前でポーズを取る団体観光客や、ピサの斜塔をトリックアート的に“手で支える”あるあるな構図、人工プールに密集する人々など、観光という行為そのものを捉えた写真がずらりと並ぶ。思わず笑ってしまう光景の中に、「観光とは何だろう?」という疑問が生まれる。

観光地では非日常を味わいたいと思いながらも、実はそこで行なっている行為はあまりにも“よくあるもの”。
(…この京都滞在中、あちこちで撮影をしまくっている自分自身も作中の登場人物たちと全く同じだ)

また、京都の観光地で撮影した新作もスライドショー形式で紹介されていて、「Small World」が現在進行形のシリーズなのだと実感させられる。

S01 
SIGMA Pop-up Library
TIME’S

マーティン・パーの展示を抜けると、目の前にあるのがSIGMAのPop-Upライブラリー。中には写真集がズラリと並ぶ。
KYOTOGRAPHIEゆかりの写真家の選書を始め、SIGMAが収集する写真集コレクションの一部(1,500冊以上!)を閲覧できる。
展覧会を巡る合間に立ち寄りたいスポットだ。

その横には、KYOTOGRAPHIE& KYOTOPHONIEインフォメーションセンターとBook Shop.

フェスティバルに関する情報や、チケット購入、周辺の観光情報や交通情報などを提供してくれるほか、関連書籍やグッズも購入できる。

10 
𠮷田多麻希 「土を継ぐ—Echoes from the Soil」 
TIME’S

Ruinart Japan Award 2024 Winner
Presented by Ruinart

セノグラファー:小髙未帆(APLUS DESIGNWORKS)

©︎ Tamaki Yoshida

階段を降りて次の展示へ。

扉を開けると広がっている暗がりの空間。
𠮷田多麻希「土を継ぐ — Echoes from the Soil」。2023年のRuinart Japan Awardを受賞し、フランス・シャンパーニュ地方にてアーティスト・イン・レジデンスとして滞在した際に撮影された作品だ。

展示室に足を踏み入れると、壁や床に写真が点在し、暗がりの中スポットライトによって静かに浮かび上がる。目を凝らすと、写真には土の上に落ちた葉、木の実、きのこ、虫、動物の痕跡…、生命が朽ち、やがて土へと還り、それがまた新たな命を育む自然の循環が写し出されている。

𠮷田の滞在したシャンパーニュ地方の土壌は、何層にも重なる石灰岩で構成され長い時間堆積された養分と時間によって作られたものだ。「土を継ぐ」というタイトルが示すように、この作品は「シャンパーニュの大地に刻まれた記憶を探る」ことから始まったのだという。

「写真は過去を固定するものなのか。それとも、時間の中で意味を変え、未来へと響くものなのか」

そんな問いから、撮影した写真をシャンパーニュの土に埋める行為へと展開した。

その後、次の部屋では自然光が差し込む空間へ。そこに立ち現れるのは、霧の中に佇む雄鹿の写真。滞在の終わりに偶然出会った鹿だそうだが、どこか幻のような佇まいで、静かな余韻を残してくれる。これらの写真は自ら漉いた和紙が用いられているという。
そのほかにも、羽ばたく無数の鳥、イノシシといった動物たちが登場。

𠮷田が静かに紡いだこの物語は、土の記憶とこれからに思いを巡らす時間を与えてくれる。

5 
Pushpamala N プシュパマラ・N
「Dressing Up: Pushpamala N Mother India, Avega ~ The Passion and The Arrival of Vasco da Gama」
京都文化博物館 別館

Presented by CHANEL Nexus Hall

セノグラファー:石田 建太朗(KIAS)

The Arrival of Vasco da Gama (After an 1898 painting by José Veloso Salgado), 2014
© Pushpamala N

プシュパマラ・Nの展覧会。地下鉄「烏丸御池駅」から三条通りを東へ徒歩3分程度の場所にある京都文化博物館 別館。
この壮麗な建築物の中では、インドを拠点に活動するアーティスト プシュパマラ・Nの作品群が並ぶ。

プシュパマラ・Nは綿密な歴史的リサーチを経て、インドの神話、歴史、大衆文化に登場する象徴的な女性像や物語の登場人物に自ら扮し、シーンを再現したうえで撮影している。共同制作スタッフや他キャストとディテールまで詰めながら制作しているという。忠実な再現というより、あえて演劇的に作為的に演出することで、その役割を強調しているのかもしれない。

歴史的・文化的な背景を持つイメージを自ら再現し、歴史、写真、映画、大衆文化の慣れ親しんだ物語について問いかける。

展示会場は重厚な空間に設えられた曲線的な壁によって構成され、ひとつの物語の中に入り込んだかのような空間演出が印象的。強い色の壁面やフレーム、額装が作品を引き立て、絵画のように語りかけてくれる。

2階ではインタビュー映像を上映。彫刻家としてキャリアをスタートした彼女が、現在の表現方法に至った経緯や作品制作について語っている。

6月27日から8月17日の期間中開催される東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールでの展覧会「Dressing Up: Pushpamala N」では日本初展示となる3つの作品シリーズを発表する予定だ。

6 
Lee Shulman & Omar Victor Diop リー・シュルマン & オマー・ヴィクター・ディオプ 
「The Anonymous Project presents Being There」 
嶋臺(しまだい)ギャラリー

Supported by agnès b.

セノグラファー:小髙未帆 (APLUS DESIGNWORKS)

Being There_52-V1, 2024, The Anonymous Project

京都・御所南にある明治16年に再建された歴史的建築・嶋臺(しまだい)ギャラリー(国登録有形文化財)。ここで開催されている「The Anonymous Project presents “Being There”」。

ロンドン生まれでパリ在住の映像作家リー・シュルマンと、セネガル・ダカール出身の写真家オマー・ヴィクター・ディオプによる共同作品。

リー・シュルマンは、匿名の家族写真をアーカイブし続ける非営利団体「アノニマス・プロジェクト」の創設者でもある。一方、オマー・ヴィクター・ディオプは、2011年以降、歴史的な黒人偉人たちに自ら扮するセルフポートレイトで注目されてきた。

一見すると、家族や恋人たち、友人同士が過ごす穏やかな日常をとらえたスナップ写真。しかし、じっくりと目を凝らすと、どの写真にも繰り返し登場する1人の人物がいることに気づく。
それが、オマー・ヴィクター・ディオプ。

この作品は、1950〜60年代のアメリカで実際に撮影されたホームパーティーやビーチ、スキー旅行、ゴルフ場での1コマなどの写真に、オマー自身が“後から”登場人物として合成されたもの。

つまり、かつてこれらの写真に写ることのなかった黒人男性が、白人の幸福な日常に自然に“いる”風景として再構築している。

当時のアメリカは、人種差別が制度的に根強く存在していた時代。本来そこにはいなかった黒人の姿が、あたかも当然のようにそこに“いる”という表現は、痛烈な批評である。しかしそれと同時に、遊び心を感じさせる。その絶妙なバランスが、強い問いを投げかけてくるのかもしれない。

会場では展示では昔の欧米のリビングルームの再現も登場する。
来場者自身もその時代の写真の中に入り込んだかのような感覚になる。

会場の最後には、制作プロセスの一部を収めた映像も上映されていて、作品の過程の一端を知ることができる。

8A 
JR 「Printing the Chronicles of Kyoto」 
京都新聞ビル地下1F(印刷工場跡)& 1F

セノグラファー:小西啓睦(miso)

JR, The Chronicles of Kyoto, Close Up, Japan, 2024 © JR
JR, The Chronicles of New York City, Domino Park, USA, 2020  © JR

KYOTOGRAPHIE 2025を象徴する展示のひとつが、フランス出身のアーティストJR(ジェイアール)による「Printing the Chronicles of Kyoto」だ。

JRはこれまでにも、サンフランシスコ、ニューヨーク、マイアミなどを舞台に、市民の姿を巨大な写真壁画として記録・展示する「クロニク」シリーズを展開してきた。

今回の舞台は京都。会場は、京都新聞ビルの1階フロアと地下の印刷工場跡という普段は入れない特別な空間だ。

展示ではまず、これまでの各都市での作品が紹介される。

JR 「Printing the Chronicles of Kyoto」 展覧会会場の様子

このシリーズでは、被写体となる市民一人ひとりに「どう撮られたいか」をヒアリングし、ポージングや服装を含めてその人らしさを引き出すのだという。

撮影は移動式スタジオでグリーンバック・統一ライティング・固定フォーカス。

撮影後は人物を同サイズで組み合わせ、1枚の巨大な作品に仕上げている。その構成は、年齢・性別・人種・背景に関わらず「すべての人が等しく価値ある存在である」というメッセージを感じさせる。また、作品の横のQRコードをスマートフォンで読み取ると、被写体となった人々の生の声を聞くことができた。

JR 「Printing the Chronicles of Kyoto」 展覧会会場の様子
JR 「Printing the Chronicles of Kyoto」 展覧会作品の一部を寄りで撮影したもの

次に登場するのは、新作「JR クロニクル京都 2024」。
ここでは、505人の京都の人々が登場。舞妓、茶人、僧侶、職人、ドラァグクイーンなど様々だ。

壁や天井をぐるりと巡る帯状のモノクロ写真には、それぞれ異なるポーズや動作を見せる人々の姿が並び、空間にリズムと生命感を生み出している。被写体の背景には新聞記事がプリントされており、個人の存在と社会の記録の交差を感じさせる。

別室では、JR自身のインタビュー映像と「JR クロニクル京都 2024」の制作ドキュメンタリー映像が上映されている。撮影風景、機材(照明はProfotoだ)など、作品の裏側を垣間見ることができる。ちなみにこの映像は15分ごとの入れ替え制。

そして最後には、印刷工場跡へと足を進める。展示は案内人の合図とともにシャッターが開き、お披露目される仕組み。

その先に何が待ち受けているか——それはぜひ会場で、ご自身の目で確かめてほしい。

京都駅ビル北側通路壁面に登場した縦5メートル横22.55メートルの巨大写真壁画「JR クロニクル京都 2024」。

7 
Hsing-Yu Liu 劉 星佑(リュウ・セイユウ) 「父と母と私」  
ギャラリー素形

KG+SELECT Award 2024 Winner

キュレーター:黄 慕薇
セノグラファー:木村俊介(SSK)

My Parents–Stigmata I © Liu Hsing-Yu

ギャラリー素形では台湾・高雄出身の写真家 劉 星佑(リュウ・セイユウ)による写真展「父と母と私」が開催。KG+SELECT Award 2024での選出を経て、KYOTOGRAPHIE 2025のメインプログラムのひとつとして紹介されている。


本作の被写体は劉の父と母。そして撮影者として「私」がいる。制作のきっかけとなったのは、偶然見つけた両親の結婚写真だった。
展示はそこから着想を得た「My Parents(マイ・ペアレンツ)」シリーズから始まる。父にドレスを、母にスーツを着せるという演出を施している。

会場に設置されたQRコードから表示できるデジタルハンドアウトにはそれぞれのエピソードも掲載されており、家族の背景や劉自身の想いを知ることができる。

また、この「My Parents」シリーズから派生し、台湾で同性婚が合法化されたことを先祖に報告するという試みも作品として展開されている。

古民家をリノベーションした落ち着いた雰囲気のギャラリー空間もまた、静かに家族の物語を受け止めているように見えた。

4 
石川真生「アカバナ」 
誉田屋源兵衛 竹院の間

Presented by SIGMA
セノグラファー:おおうち おさむ

Red Flower: The Women of Okinawa series, 1975-1977 © Mao Ishikawa
Red Flower: The Women of Okinawa series, 1975-1977 © Mao Ishikawa

1953年、沖縄県大宜味村に生まれた写真家・石川真生。2023年には東京オペラシティ アートギャラリーで個展「石川真生―私に何ができるか―」が開催された。

本展では、1970年代に撮影されたモノクロ写真と、2021年から2024年にかけて撮影された作品という、2つの時代にまたがるシリーズが展示されている。

沖縄に駐留していた黒人の米軍兵と女性たちの姿。それは取材写真的な距離感ではなく、自身が黒人兵たちが集うバーで働きながら撮影したという背景もあり、親密でリアルな息遣いが感じられる。

一方、廊下を渡って別部屋では近年のシリーズが発表されていた。

沖縄本島、宮古島、石垣島、与那国島など琉球弧に点在する南西諸島を舞台に、基地をめぐる現在進行形の問題に焦点が当てられている。石川は各地を訪れ、その土地の声を写真に記録。

会場で配布されるハンドアウトには、各写真にまつわる現地での生のエピソードが添えられている。

3 
甲斐啓二郎 「骨の髄」 
くろちく万蔵ビル

Supported by Fujifilm
セノグラファー:木村松本建築設計事務所

シリーズ〈綺羅の晴れ着〉、岡山、 2018年 © Keijiro Kai

烏丸御池駅から徒歩10分程度にある くろちく万蔵ビルで開催していたのは、福岡県出身の写真家・甲斐啓二郎による「骨の髄」。
この作品は、世界各地の祭を撮影したものだ。

作品の出発点となったのは、イングランド・アッシュボーンで開催される奇祭「シュローブタイド・フットボール」との出会いだ。甲斐はここでの体験を通して、「祭には人間の根源的な衝動が表れているのではないか」と考え、その後、国内外のさまざまな祭を写真に収めていくことになる。

作品ではイングランドのシュローブタイド・フットボールに加え、ジョージア(グルジア)の復活祭「Lelo」、日本国内では岩手、三重、岡山、群馬の「はだか祭」や、愛知の「鳥羽の火祭り」など、過酷で荒々しい祭を捉えたシリーズが並ぶ。

肉体と肉体がぶつかり合い、群衆の熱気が渦巻く中で、祭の中心に飛び込んでいく男たちの姿が写真で表現されている。迫力がすごい。

さらに、1階スペースには3面の巨大スクリーンが設置され、映像作品も上映。

激しい動きや音、現場の緊張感や臨場感で伝わり、静止画とはまた違った角度から祭の「熱」を体感できる。
写真にも映像にも共通するのは、「生きるエネルギー」や「渇望」といった、理屈を超えた人間の本能的な欲求を掘り起こすような力強さだ。

祭という原初の表現を通じて、人間の深層を探っている。タイトル「骨の髄」には、表層ではない内なる衝動や情熱を掴み取ろうとする甲斐のまなざしが込められているようだ。

熱気と興奮に包まれた作品空間に仕上がっていた。

16 
京トマソン マラソン 赤瀬川原平/超芸術トマソン/路上観察 
京都芸術センター

赤瀬川&美学校考現学教室の生徒達
1983年、麻布谷町
撮影:飯村昭彦
純粋階段(四谷階段)、東京
撮影:赤瀬川原平

地下鉄烏丸線「四条駅」、阪急京都線「烏丸駅」から徒歩5分程度の京都芸術センター。
ギャラリー南で開催されていたのは「超芸術トマソン」をめぐる展示。

撮影NGのため、展示風景写真はない。

「超芸術トマソン」とは、行き止まりの階段や塞がれたドアなど都市の中にある「無用で不条理なオブジェ」を指すのだが、展示では赤瀬川原平の経歴紹介から始まる。個展案内状に印刷した「模造千円札」、四谷階段(純粋階段)の発見や、1980年代の路上観察学会の活動、今和次郎の考現学も交えて、その活動の歴史を振り返りながら改めて解説してくれる。

アーカイブ資料も展示してあり、見応えがある。

「京トマソン マラソン」というタイトルは来場者が京都で見つけたトマソン写真を共有し5月18日開催予定の「超芸術トマソン公開報告会」への参加を促すものだという。

i 
インフォメーション町家 
八竹庵(旧川崎家住宅)

チケット販売やグッズ、書籍なども販売している。
コンシェル ジェデスクでは展覧会や周辺観光の紹介まで幅広く案内してくれ、レンタサイクル の無料貸出も行なっているのが嬉しい。

1 
Adam Rouhana アダム・ルハナ 「The Logic of Truth」 
八竹庵(旧川崎家住宅)

キュレーター:タウス・ダマニ
セノグラファー:Spinning Plates
サウンドデザイナー:ジュリーヌ・ハダヤ

© Adam Rouhana
八竹庵(旧川崎家住宅)階段を上がって展覧会会場へ

エルサレムとロンドンを拠点に活動するパレスチナ系アメリカ人のアーティスト兼写真家のアダム・ルハナ。

メディアではなかなか取り上げられることのないパレスチナの人々の暮らしを捉えた作品が並ぶ。子どもたちや家族、友人との穏やかな時間など、占領下においても確かに存在する“普通の日常”。


作中の登場する人々は一見すると、穏やかに自由に日々を過ごしているように見えるのだが、その背後には、軍事占領という現実が横たわっている。

ステートメントを読んで初めて、作品に込められた象徴的なモチーフや視線、さりげない仕草のひとつひとつが、抑圧に対する静かな抵抗の表現であると気づかされた。
作品を前にしてもその意図を読み取れない自分の無知や視野の狭さを痛感する。作家のまなざしの先にあるのは、報道写真とは違った手法で見せる“真実とは何か”という問いだ。

2 
土田ヒロミほか 「リトルボーイ」 
八竹庵[旧川崎家住宅]

同じく八竹庵ではもう一つ、展示が行なわれている。

今年で戦後80年となるが、戦争や核の脅威は未だ…いや以前よりリアルに感じるのではないだろうか。その恐ろしさを2枚の写真で、現実のものとして伝えている。

この作品は撮影記録なし。ぜひご自身の目で。

13 
Eric Poitevin エリック・ポワトヴァン 「両忘—The Space Between」 
両足院

セノグラファー:小西啓睦
Presented by Van Cleef & Arpels

© Eric Poitevin

京都最古の禅寺、建仁寺の中にある両足院で展示されているのは1961年フランスのロングイヨン生まれのアーティスト エリック・ポワトヴァン。


森や朽ちていく植物が、襖にプリントされていて建物の雰囲気と違和感なくマッチしている。什器は使わず、本来の姿をできるだけ活かした展示スタイルのようだ。

その裏側にあるのは白い空間の中に骸骨と静物(果物やサッカーボールなど)を並べ、真横から撮影した作品。フラットな光が印象的。

プリントも美しいと思ったら、フランスのラボでプリントして京都の職人が襖に設えたそうだ。

海外アーティストでありながらタイトルに禅の言葉である「両忘」(世の中を分断する物事の二面性を忘れること、両側面の対立を忘れることを示しているという意味だそうだ)を入れたポワトヴァン。建築物や文化へのリスペクトを感じる展示であった。

14A 
Laetitia Ky レティシア・キイ 「LOVE & JUSTICE」 
ASPHODEL

セノグラファー:team raw row
Supported by Cheerio

Motherhood, 2020, Abidjan © Laetitia Ky
京阪「祇園四条」駅、阪急「京都河原町」駅からも近い会場のASPHODEL

出町桝形商店街では、アーティスト・イン・レジデンスの成果として京都の文化を楽しみながらチャーミングな笑顔を見せていたレティシア・キイ。

ASPHODELで開催されている「LOVE & JUSTICE」では、彼女がなぜ髪を彫刻のように仕立てたセルフポートレイト作品を撮り始めたのかが明かされている。

コートジボワールで育った彼女にとって、ストレートな髪質や明るい肌の色が「美しさ」の象徴だったという。自身も薬品を使って髪をまっすぐに伸ばしていたそうだ。
しかし16歳のとき、薬剤の処理の失敗で髪が抜け落ちてしまったことが、大きな転機となる。

「なぜ自分は髪を矯正しようとしていたのか?」という自分自身に問いかけを始めた。
植民地支配以前のアフリカ女性の伝統的な髪型からインスピレーションを受け、自身の髪で彫刻のような形を作り、写真に収めるようになったということだ。

展示は3フロアにわたり構成され、「自身を愛すること」をテーマにアフリカの伝統的な髪型を再現した作品、「正義と男女平等を求めて」では女性たちが直面する社会的暴力や差別に焦点を当てた作品、そして「Self Love」では自己愛の重要性を語る作品が並ぶ。

出町桝形商店街ではアーティスト・イン・レジデンス作品として京都の文化を楽しみながらチャーミングな笑顔を見せていたレティシア・キイだが、この「LOVE & JUSTICE」のステートメントでは彼女が髪の毛を彫刻のように仕立て上げたセルフポートレイトを撮影し始めたのかが語られている。

9 
Eamonn Doyle イーモン・ドイル 「K」 
東本願寺 大玄関

With the support of the Government of Ireland

キュレーター:ナイル・スウィーニー
セノグラファー:ナイル・スウィーニー

K-01 (Irish series), 2018  © Eamonn Doyle

イーモン・ドイルは1969年、アイルランド・ダブリン生まれ。東本願寺 大玄関で展示されている「K」は、喪失と祈りをテーマにした深い静けさを湛えた作品だ。

入り口では、「K」の文字を象った暖簾がゆらゆらと揺れ、訪れる人々をこの特別な空間へと誘っていた。

イーモン・ドイルの今は亡き実母が、若くして亡くなった息子(イーモン・ドイルにとっては兄)に宛てて綴り続けた何百通もの手紙を重ね合わせて布にプリントし、さらに発展させたのが今回発表された「K」シリーズ。

展示空間の作品には、鮮やかな色彩の大きな布をまとった「何か」が登場する。布が風にたなびきそびえ立つ姿は厳かな雰囲気を漂わせている。霊(たましい)の姿を表しているという。
会場に流れる音は、1951年に録音されたアイルランドの伝統的な死者への哀歌を基に、ミュージシャンのデイビッド・ドノホーが再構築したもの。


この記事では16のメインプログラムを紹介した。開催は今週末5月11日まで。

会期終了まであと少しだが、訪問ができなかった人、KYOTOGRAPHIE 未体験の人にとって、参考になれば幸いだ。

サテライトプログラムKG+(ケージープラス)についてはこちらの記事で公開する。

<イベント概要>

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025

会期:2025年4月12日(土)〜5月11日(日)


主催:一般社団法人KYOTOGRAPHIE

パ スポートチケット:一 般 6,000円(前売り5,500円)学生 3,000円(前売りも同額)
※前売りチケットはすでに終了

単館チケット:一般 600〜1500円

https://www.kyotographie.jp/

コマーシャル・フォト 2025年6月号

【SPECIAL FEATURE:TAKAY】
撮り下ろし:ドリアン・ロロブリジーダ
TAKAYインタビュー/作品紹介

NYと東京を拠点としファッション誌からラグジュアリーブランドの広告、アーティストのジャケットワークまでを手掛けるTAKAY氏。ドラァグクイーン、ドリアン・ロロブリジーダ氏とのフォトセッションを皮切りに作品紹介とインタビュー、写真展紹介で綴る22ページ。

【特集】
この春、編集部が選んだ「今、注目すべき5人のフォトグラファー」。彼らがシャッターを切る理由は? 写真で何を語ろうとしているのか?キャリアの原点から最新作までを深掘りし、それぞれの”視点”に迫る。未来の一枚をつくるヒントが、きっとここに。
大野隼男/クロカワリュート/杉田知洋江/Miss Bean/Leslie Zhang

【連載】
長山一樹流 違いを生むコマーシャル・ポートレイト
「 ハッセルブラッドで撮るポートレイト」

Create My Book -自分らしいポートフォリオブックを作る-
Vol.10 「オールドレンズ」 金村美玖

ほか