【第1回】レタッチで「目元」「まつげ」「眉毛」を美しく仕上げるための基本ワザ

解説:濱中英華(ヴォンズ・ピクチャーズ レタッチャー)

ゴールを設定しないでレタッチを始めてしまうというのは、非常に危険なことです。なぜならレタッチをやり過ぎたり、写真の勢いを消したり、別人になってしまうことがあるからです。かつて、アシスタントにタレントさんのレタッチを任せて、2時間後にチェックをしてみたら全然別人に仕上がっていた、ということがありました。

そこで、誰もが正しいゴールに到達するための「16ヵ所のチェックポイント」というものを設定しました。

気を付けるべき所はどこか、そしてどんな仕上がりが美しいとされているのか。チェックする箇所が沢山あるとはいえ、そのポイントさえ理解していれば、実は誰にでも良いゴールが目指せるのです。最終形を想定せずに、やみくもにレタッチし時間をかけても、良いゴールに到達するとは限りません。

16ヵ所のチェックポイントをしっかり頭に入れて、良いゴールを目指しましょう!


それでは、チェックポイントを見てみましょう。この16ヵ所に分解することこそが、実は非常に重要なポイントなのです。

ひと口に顔の修正と言っても、パーツは沢山あります。目を修正するのか、まつげを調整するのか、唇を美しくするのか。何をすれば良いのかを認識することが大切なのです。そしてそのパーツごとの修正が調和した時に、ゴールが見えてくるのです。

ボディも同じです。全体に細くするのか、腕だけを細くするのか、バランスを見ることが大変重要なのです。

この連載では、16ヵ所のチェックポイントを4回に分けて細かく解説していきます。

第1弾の今回は、メソッド1〜3の目元・まつげ・眉毛について細かく説明していきます。1つ1つのポイントは個別にチェックするのですが、チェックポイントごとに、必ず全体のバランスを確認することを忘れないでください。

またモデルさんの持っている素材、骨格を生かす(もしくはキープする)こともとっても大切です。その骨格にライトが当たって陰影ができるわけですから、皮膚の下にある骨や筋肉の存在をよく見つつ整えていく必要があります。

今回は、ヘアメイク宮澤さんが作った、生々しさを極力控え、無機質っぽいけれども透明感をもった肌の印象をキープしつつ整えていきます。ファンデーション、リップやチークの色味など、メイクを触る時にはへアメイクさんと話をしてきちんと色の意図をつかんでおきましょう。リップの色などは、ちょっと変えただけでグッと印象が変わるので気を付けています。

それでは、まずはじめに目元から見ていきたいと思いますが、本題に入る前に下の画像を見てください。今回の連載のためにヴォンズ・ピクチャーズで制作した撮り下ろし作品です。鏡の中に自分とは違う女性の姿を見つけて、それを主人公の女の子が追いかけていくという物語になっています。

VONS pictures Original Photo Story I

この連載では、ただ人物レタッチのポイントやテクニックを解説するだけでなく、この作品をケーススタディとして、その制作過程で必要とされるテクニックを紹介していくという、より実践的な記事として展開していくつもりです。

作品は全部で5点の連作を予定していて、順次この連載で発表していきますので、こちらも合わせてお楽しみいただければ、と思います。

それではいよいよ、目元のチェックポイントから見ていきましょう。

1/a…
白目の濁り、キレイに!

1/b…
白目の血管浮き、取りましょう!

1/c…
目頭や目尻の粘膜部分の肉々しさ、なじませてスッキリ!

1/d…
Eyeキャッチ、片目が映ってない時ありますよね? 作りましょう!

1/e…
目の周りの髪の毛、消してスッキリ!

1/f…
目の上下のシワ、たるみ、涙袋の濃さ、両目のバランス、目頭&目尻のシワ、調整しましょう!!

レタッチのBefore & Afterをサンプルで見ていきます。
★マークがついているものは、追って使用ツールの解説があります

★1/a. 白目の濁り、キレイにしたいですね!
★1/b. 白目の血管浮き! 取りましょう

⬇︎


1/c. 粘膜部分の肉々しさ、赤みを抑えましょう!
1/d. Eyeキャッチ、こちらの目にも欲しいですね!

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1/e. 目の周りの髪の毛は鬱陶しいので取りましょう。
★1/f. 目の下のたるみスッキリ!疲れた印象が一掃されます。

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白目の濁りは、理想の色をスポイトツールで拾ってブラシツールで描きます!

赤枠部分をアップにして解説しましょう。

ブラシツールの設定は、データサイズによりますが、直径は消したい部分に合わせて(今回は11pix)、硬さは0%にします。不透明度を100%で流量を10%くらいにして、何度も描き重ねる方法で調整します。

その際、ブラシツールのオプションバー「エアブラシの効果を使用」ボタンを「on」にすると、自然な馴染みが生まれるのでうまく描けます。

レタッチ全てに言えることですが、修正は背景(ベースの写真)に直接するのではなく、新規レイヤーや調整レイヤーを新たに作成して、そこで作業します。なぜなら、レタッチが気に入らなくてやり直したい場合、いつでも元に戻れるからです。

目の血管は、スタンプツールを使ってキレイにします。

赤枠部分をアップにして解説しましょう。

スタンプツールのブラシ設定は、データサイズによりますが、直径はできるだけ小さめが良く(今回は4pix)、硬さは0%にします。不透明度を100%で流量を10%くらいにして、何度も描き重ねる方法で血管を消していきます。

目の下のたるみ・くすみは、明るめトーンカーブにマスクを作成して、大きめブラシひと筆でクリアになります。

目の下のシワは、スポット修復ブラシを使用します。

気になる部分をなでるだけで、肌の質感を損なわずに簡単にシワを消すことができます。ブラシのサイズは、消したいシワの細さに合わせてください。

赤枠部分をアップにして解説しましょう。

スポット修復ブラシの設定は、データサイズによりますが、直径は消したいシワの細さに合わせて(今回は3pix)、硬さは0%にします。シワなどの修正は、「種類」で「近似色に合わせる」をセレクトします。一気に一発で仕留めてください!

ちょっとブレイク シワの話】

シワはヘタに無くしてしまうと、その人らしさが失われてしまうので要注意です。その人らしさをキープしつつ、美しい仕上がりにするには試行錯誤が必要です。

理想の状態に最短時間で到達する、とっておきのルールをいくつか紹介しましょう。全部やってしまうと too muchなので、いくつかチョイスしてやってみてください。やり過ぎ注意です!・シワは残すがたるみはなくす


・シワが3本あったら1本消す

・シワは残すが長さを短くする

・細かいシワを抑えて目立つシワは残す

・涙袋の濃度を淡くする

・涙袋は残してシワだけをなじませる

・目の上の細かいシワはくぼんで見えたりカサついて見えたり、疲れた印象になるのでなじませる


良いシワを見極めて、悪いシワだけ取り除きましょう!!
重力でできたたるみは、ゆがみツールで持ち上げます。ほんの少し調整しただけで、印象がグッと変わるのを実感できます。
次は、まつげです。

2/a…
ダマがあったら取りましょう!

2/b…
逆さまつげ、流れにあっていないまつげ、目立っていたらなじませましょう。
(白目にシャドウを落としてしまう可能性があります)

2/c…
下まつげも同じくチェック!

2/d…
下からのアングルの時の粘膜注意!肉々しく見えるなら赤みを取りましょう!

2/e…
ビューティ系でなければ、整え過ぎず、自然な仕上がりを目指しましょう。

レタッチのbefore & afterをサンプルで見ていきます。ここでは目元も復習しながら一緒に見ましょう。

2/a. ダマをとって美しく!
2/e. まつげはなるべく等間隔に生えているのが理想です!やりすぎるとコワいので気を付けましょう。
1/a. 白目の濁り!キレイにします。
1/e. 髪の毛を消してスッキリ!!

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2/b. 逆さまつげは白目に影を落とすのでスッキリさせましょう!
2/c. 下まつげもチェック!
1/c. 肉々しい赤みは自然に取りましょう!
1/f. 目の下のシワやたるみもなじませます。

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2/d. 粘膜注意!ピンクが強いと目立ちます。彩度を落とすと落ち着きますよ。

⬇︎


今回の最後のチェックポイントは、眉毛です。

3/a…
色ムラ & トーンムラ、直しましょう!

3/b…
左右の濃度差は違和感のない程度に抑えましょう!

3/c…
左右の長さの差、バランスが良くなければ調整します!

3/d…
短く切りそろえた毛 or 産毛、シャドウっぽく見える時は払います。

レタッチのbefore & afterをサンプルで見ていきましょう。

3/a. 色&トーンのムラは整えます。
3/b. 生え方のムラや左右のトーン差は極力整える。
1/a. 白目のシャドウは払いましょう。
1/f. 目の下のシワを取ると疲れた印象を消すことができます。

⬇︎


★3/b. 左右の濃度差を合わせると整います。
3/d. 産毛などはキレイにしちゃいます!

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眉毛のムラは、暗めトーンカーブを作成してエアブラシで本当に眉毛を描くように1本1本書き足していきます。

赤枠部分をアップにして解説しましょう。

レイヤーマスクはこんな感じ

エアブラシの設定は、データサイズによりますが、直径や硬さが眉毛の毛になじむか試しながら進めます(今回は直径 2pix・硬さは0%)。本物の眉毛になじむように、流量も試しながら進めます。

少し難しいですが、ブラシ設定も凝っていくと本物の眉毛が描けますよ!

それでは、イメージカットの目元、まつげ、眉毛のチェックポイントを修正してみましょう。

⬇︎

before & afterで確認すると、整った印象になるのが分かりますね。ですが、あまり整え過ぎないように気を付けます。あくまでも別人にならないように。。。

今回はここまで。
次回は鼻、口元、歯、あごのチェックポイントを解説していきます。


スタッフリスト
Art Director:石川翼(VONS Pictures)
Photographer:片岡竜一(VONS Pictures)
Stylist:廣田美保子
Hair & Make-Up:宮澤結弦
Retoucher:濱中英華(VONS Pictures)
Producer:高橋永利香(VONS Pictures)
出演:喜野ベリ・初音ナチ


ヴォンズ・ピクチャーズ VONS pictures

撮影、画像処理、3DCG、動画など、異なる技術を融合して広告ビジュアルを提供する制作会社。

コマーシャル・フォト 2025年7月号

【特集】レタッチ表現の探求

写真を美しく仕上げるために欠かせない「レタッチ」。それはビジュアルを整えるだけでなく、一発撮りでは表現しきれないクリエイティブな可能性を引き出す工程でもある。本特集では、博報堂プロダクツ REMBRANDT、フォートンのレタッチャーがビジュアルの企画から参加し、フォトグラファーと共に「ビューティ」「ポートレイト」「スチルライフ」「シズル」の4テーマで作品を制作。撮影から仕上げまでの過程を詳しく紹介する。さらに後半では、フォトグラファーがレタッチを行なうために必要な基本的な考え方とテクニックを、VONS Picturesが実例を通して全18Pで丁寧に解説。レタッチの魅力と可能性を多角的に掘り下げる。

PART1
Beauty  石川清以子 × 亀井麻衣
Portrait  佐藤 翔 × 栗下直樹
Still Life  島村朋子 × 岡田美由紀
Sizzle  辻 徹也 × 羅 浚偉

PART2
フォトグラファーのための人物&プロダクトレタッチ完全実践
講師・解説:VONS Pictures (ヴォンズ・ピクチャーズ)

基礎1 フォトグラファーが知っておくべきレタッチの基本思想
基礎2 レタッチを始める前に必ず押さえておきたいポイント
人物レタッチ実践/プロダクトレタッチ実践

ほか