2017年02月01日
光と影を駆使して絵作りしてきたフォトグラファーにとって、目に見えないサウンドは未知の領域。リニアPCMレコーダー「TASCAM DR-701D」をメイン機材に使い、一眼ムービー撮影時に失敗しない、サウンド収録のノウハウを見ていこう。
TASCAM DR-701D
多チャンネルでのインタビュー収録
マイク1はラベリアマイク(通称:ピンマイク)を使い、インタビュー相手の声を収録。マイク2はダイナミックマイクを使いインタビュアーの声を収録。
マイク3、4は、DR-701D内蔵ステレオマイク。現場音を録る。
内蔵マイクを使用する場合、カメラのタッチノイズを防ぐため、左写真のようにカメラからDR-701Dを独立させた方がよい。
またDR-701Dのミックス音声をカメラ側にも送ることで(DR-701D カメラOUT→カメラのマイク端子)、カメラ記録映像にもDR-701Dの収録音声をつけることができる(編集時のガイド用)。
サウンド収録はマイクの使用本数が増えるほど、録音レベルのバランス調整が複雑になる。撮影者が音声まで担当するワンマンオペレーションでは、収録が始まってからの音声レベルの微調整は、なかなかに難しい。小さな筐体に4つの入力チャンネルを持つDR-701Dは、現場での複雑なバランス調整を軽減してくれる強い味方だ。モノラル・マイクなら最大4本、4つの個別チャンネル(トラック)に記録できる。
収録時、それぞれの音にバラツキや変化があっても、多チャンネルで記録しておけば、編集時に各レベルを調整して全体のバランスをとることも可能だ。映像収録に集中できるため、ワンマンオペレーターには大いに助かる機能だろう。
今回はその多チャンネル収録を使って、ひとり語りのメッセージ(1チャンネル)、質疑応答のインタビュー(2チャンネル)、臨場感を出すための現場音収録(4チャンネル)について解説する。
ニュース番組のアナウンサーやアーティストのメッセージといった“ひとり語り”の場合は、ラベリアマイク(通称ピンマイク。無線、有線がある)をメインマイクとしてチャンネル1に入力する。このマイクはほとんどが無指向性(360°全方位からの音声を捉える)なので、マイクの向きは多少ルーズでも構わないが、口元からの距離には注意が必要だ。周囲の音が大きいとついついマイクを寄せたくなるのだが、近づけ過ぎるとわずかな頭の振りでもマイクとの距離が変化して、録音レベルが不安定になる。相手の体格にもよるが、口元から20〜25cmを目安に襟やネクタイに装着する。長髪の場合は、髪の毛がマイクに接触しないよう配慮が必要。
ちなみにピークレベル(音声の最大値)は-12dB前後。ラベリアマイクはコンデンサーマイクというタイプで、電気的に音波を増幅する機構により、非常に高感度で細かい音まで拾ってくれる。しかし、ファンタム電源(ケーブル経由でマイクに給電する)や乾電池が必要なため、事前チェックは万全にしたい。
ピンマイクを仕込む方法は?
ラベリアマイクを映り込まないように隠す場合、スーツの襟裏側や胸ポケット、Yシャツの襟の中やネクタイの裏側、時には胸部素肌に直接接着することもある。よくある接着方法は、ガムテープを数回三角折りして、三角形の頂点(装着場所によっては底辺でも良い)から1〜2ミリほどマイクの頭を出して止める。そしてもう1枚、同様の三角折りガムテープでサンドイッチして両面テープ状態にする。装着時に最も注意するポイントは「衣擦れ」だ。マイク頭部を出し過ぎることはもちろん、動きが激しい箇所は避けた方が良いだろう。ただ、衣擦れを恐れてテープでマイクを塞いだり、衣装深くに仕込むと音声がこもってしまうので注意が必要。
次にインタビュアー自身の音声も合わせて収録する場合だが、マイクを2本用意して、2チャンネルで収録するのが理想的。入力先はチャンネル1とチャンネル2。
対談ならば双方にラベリアマイクを付ける方が自然だが、聞き手と話し手が分れるインタビューでは、聞き手がインタビューマイクを手にして、話し手がラベリアマイクを付けることも多い。プロのインタビュアーのように1本のマイクを振って、双方の声を漏らさず拾えれば良いのだが、タイミングを外すと、話し始めが途切れてしまう。結果的に2つのマイクで話し手をフォローするのは、そんな失敗を防ぐためだ。
このインタビューマイクのタイプはダイナミックマイクといい、電源を必要としない。その代わり高い音圧が必要なので、できるだけ口元に近づけて使用する。街頭インタビューやカラオケで使われるマイクだ。
インタビューで映像の中に聞き手の質問や相づちなどの音声が入っているのに、その本人が映っていないと視聴者はフラストレーションを感じる。しかし1カメのワンマンオペレーションでは、カメラを振って聞き手までフォローするのは大変だ。そんな時はインタビュー収録後に同じセットのままカメラを切り返して、聞き手による同じ質問と、その表情も収録し、後で編集でつなげるという手がある。注意するポイントは顔の向き。編集後に聞き手と話し手が相対して見えるよう、目線の方向に注意して撮影すること。質問の内容は一言一句同じである必要はないが、声のトーンや話のリズムは同じになるよう心掛ける。
最後は現場音の収録について。インタビューでは2本のマイクをチャンネル1と2に個別収録した。DR-701Dは4つのチャンネルに同時記録できるので、未使用のチャンネル3と4に、内蔵ステレオマイクを使って現場音を録る。小川のせせらぎや駅の雑踏+電車の音、イベント会場の喧騒、レース場の歓声+排気音など、インタビュー時に周囲で発していた現場音は、臨場感を伝えるためにとても重要だ。
ただし内蔵マイクを使う場合、DR-701Dの上にカメラを取り付けて収録すると、どんなに注意していてもカメラ操作によるタッチノイズが出てしまう可能性がある。しっかりと現場音を録りたければ、ケーブル類を延長し、スタンドや三脚を使ってDR-701Dを独立させるのが良いだろう。
また、インタビューの収録後は、DR-701Dの内蔵マイクを使って、現場音だけを長めに録っておくことをお勧めする。
収録時には現場音を感じなかった会議室などでも、編集時に映像クリップを切り貼りした際、背後の現場音(特にベースノイズと言う)が途切れて、不自然に聞こえることがある。そんな時は会話以外のノイズを編集ソフトを使ってキャンセルや軽減処理し、あらかじめ録っておいたベースノイズをサウンドトラックとしてタイムライン全体に敷くことで、“音声の途切れ感”が軽減できる。さらに特徴のある現場音は映像を演出するサウンドキャッチやエフェクトとしても使える。
インタビュー撮影の録音
映像では「1:DR-701D内蔵マイクのみの音声/ステレオ2チャンネル」「2:聞き手のダイナミックマイク+話し手のラベリアマイクの音声/2チャンネル」「3:1と2をミックスした音声/4チャンネル」を比較している。
映像クリップと音声クリップの同期
DR-701Dで4チャンネル収録をした場合、4チャンネル分のトラックと、チャンネル1〜4をミックスしたステレオ(L/Rの2トラック)の計6トラックが記録される。カメラ映像とDR-701D音声との同期は、HDMIからのタイムコードを認識することも可能だが、簡単な方法はDR-701Dで収録中の音声を、カメラのマイク入力に返しておき、そのトラックをガイドにFCP-Xなどの「クリップの同期/オーディオを使用」を使えば一発で同期する。
カチンコ代わりに、手拍子を2回
映画のフィルムでの収録時に、カメラ前で各カットの最初に「カチン!」と打ち鳴らすカチンコ。DR-701Dなどの外部レコーダーで音声を録音し、後から映像と合わせる場合、カチンコ代わりに手拍子を2回打つ音を、カット頭に入れておく。2回打つのはシーンの中に別の拍手や平手打ちが入っている場合に、それらとのシンクロミスを避けるためだ。
VideographersOnline ビデオグラファーズ・オンライン
2011年に安友康博と小島真也で結成したビデオグラファー・ユニット。豊富な写真家のキャリアを背景に、主にWebコンテンツのリクエストに動画と写真の両面から応え、現在も進化中。
http://www.thevideographersonline.com
取材協力
インタビュー相手はkomariさん。17歳からギターを弾き始め、作詞作曲活動を行なう。「隣に居られるような音楽」として出会いや日常を歌い、下北沢を中心にライブ活動中。
http://mikubbckbb.wix.com/komari
関連情報
CP+2017 プロ向け動画セミナー「一眼ムービーのための音録講座」
講師:小島真也(フォトグラファー)/安友康博(フォトグラファー)
日時:2月23日(木) 13:15〜14:45(入場無料)
詳細/事前登録:www.cpplus.jp/visitor/event03.html#day23