2013年07月17日
キヤノンEOS 5D Mark IIIの新しいファームウェア Version 1.2.1と新ピクチャースタイルファイル「ビデオカメラXシリーズ風」が公開された。プロの現場でどのように活用できるのか、実写テストで検証を行なった。
最新ファームウェアを搭載したEOS 5D Mark IIIでテスト撮影。カメラを構えているのが筆者。
取材撮影:坂上俊彦
撮影中の外部モニタリングが今まで以上に簡単に
かねてからインフォメーションされていたように、EOS 5D Mark IIIの機能を向上させる新ファームウェアの無償提供が、4月30日より始まった。そこで、特に目玉である「HDMI出力対応」について検証していきたい。ちなみに、このHDMI出力機能は、キヤノンのDSLRとしてはEOS-1D Cに続いて2機種目となる。
これまでは、カメラにHDMI端子を接続すると液晶モニターは消灯していた。しかし、今回の新ファームウェアでは液晶モニターと外部モニターに同時出力が可能となり、撮影しながらでも映像のモニタリングが可能となった。早速、検証してみよう。
検証① 液晶モニターと外部モニターで映像を同時に表示
「HDMI出力+液晶」のメニューで「同時表示する」を選択すると、カメラの液晶モニターと外部モニターに映像を同時表示できる。従来、複数のモニターで見るには、HDMI/SDIコンバーターや同機能を内蔵する小型モニター等が必要だった。
まず、同時表示を行なうには、EOS 5D Mark IIIの設定が必要だ。「HDMI+液晶」を「同時表示する」に設定して、あとはHDMIケーブルを差すだけ。筆者はこれまで、HDMI/SDIコンバーター付きの5.6インチ小型モニターを通して、外部モニターに出力していたが、これが不要になる。実にシンプル。簡単にモニタリングできた。
ライブビュー中でも、カメラの液晶画面に現れる、絞りや感度といった撮影情報やAFフレームは、外部モニターには一切表示されない。また、MENUを操作している時、外部モニターは黒味になる。クライアントには余計な情報は見せたくないという、ユーザーに対する配慮が感じられる。
「機動性やコンパクトさを重視しながらも、クライアントにモニタリングしたい」といった撮影に適している、と感じた。
注意すべきなのは、収録後、カメラで動画を再生する際は、同時表示されないこと。カメラ側だけ再生される。
外部モニターへ再生するには「同時表示しない」に設定することで、従来通り、カメラの液晶が消灯したまま外部モニターで再生、となる。
EOS 5D Mark IIIで撮影した動画から抜き出した画像。ピクチャースタイルは、ふだん筆者が使用している「ニュートラル」。コントラストをマイナス4にしている。
モデル:渡辺早織(ABP)
HDMIから出力した映像を外部レコーダーで収録可能に
今回、ユーザーが一番注目しているのは、やはり、外部レコーダーでの収録だろう。HDMI端子から高画質の非圧縮映像YCbCr 4:2:2、8bitが出力可能となり、外部レコーダーへの収録や、画質劣化が少ない映像データでの編集など、制作現場における効率化が期待される。
実際に試してみよう。まず、先に解説したように「HDMI+液晶」を「同時表示する」に設定。次に、出力フレームレートの選択だ。すべての動画記録サイズで、外部レコーダーに合わせて「自動/24p/50i/60i」から出力フレームレートを選択できるようになった。今回は「HDMI出力フレームレート」を「60i」に設定。(動画記録サイズは1920×1080 30fps ALL-I)
さらに、今回、HDMI出力した映像には、タイムコードを付加することが可能となっている。そこで「タイムコード」を「入」に。
そして、HDMIの記録コマンドを設定する。「タイムコード」→「HDMI」→「記録コマンド」を「入」に設定。これにより、HDMI出力した映像を外部収録する際、5D Mark III側の撮影開始/停止と、外部収録側の記録開始/記録停止を同期させることができる。このとき、Ki Pro Miniを使う場合は「HDMI機器制御」を「切」に設定しておく。
検証② HDMI出力の映像信号を外部レコーダーで収録
[Ki Pro Miniでの記録]今回使用した外部レコーダーはKi Pro MiniとNINJA2。それぞれ用途と特長に違いがあり、重さや大きさにも違いがある。
コンパクトさ、軽さで言えばNINJA2に軍配が上がる。モニター兼レコーダーとなっていて、タッチパネル操作が直観的で、項目も少ないので、わかりやすい。
それに比べ、Ki Pro Miniはややプロ仕様となっている。これは、業務用カメラからDSLRまで幅広い用途に対応しているためだが、そのぶん大きく、重くなっている。
また今回、Ki Pro Miniをカメラの後ろに設置したので、液晶を正面から覗くことができなかった。MENU操作や、手持ち撮影にはちょっと不便かもしれないが、Ki Pro MiniからSDIアウトが可能なので、モニタリングには重宝すると思われる。
どちらのレコーダーも、HDMI端子で入力できること、Apple ProResやAvid DNxHDで収録できることは共通している。状況に合わせ、工夫してもらえたらと思う。
では、実際に撮影してみよう。EOS 5D Mark IIIのSTARTボタンを押すと、Ki Pro MiniのRECボタンが点灯し、液晶画面のタイムコードが回り始め、録画が開始された。
NINJA2はEOS 5D Mark IIIの映像をモニタリングさせた状態で、STARTボタンを押すと、上下に赤い帯と、小さなRECの文字、タイムコードが現れ録画が開始される。また、画面をタッチすることで、全撮影情報を消すことができた。そして、どちらのレコーダーも、カメラ内のCFカード、またはSDカードに同時録画されていた。
一つ注意したいのは、HDMI出力には音声がエンベデッドされないこと。今後の改善に期待したいところだ。
Ki Pro MiniはCFカードに、NINJA2はHDD(撮影はSSDを推奨)に記録する。撮影後すぐに、カードリーダーや専用のリーダーを使ってPCに取り込める。今回は、どちらもProRes 422 HQで収録したので、撮影後のコーデック変換が不要になり、時間の節約になった。Final Cut Pro7に直接取り込むこともでき、すぐに編集が始められる状態になる。さらに、タイムラインに持っていくとタイムコードも問題なく付加されていた。これはかなり画期的なことだ。
検証③ 外部レコーダーで収録したらすぐにPCで編集
外部レコーダーのファイルを編集ソフトに取り込んだところ。コーデックなどが表示されている。タイムラインに動画を配置すると、タイムコードが付加されているのもわかる。
映画やドラマ撮影を意識した新しいピクチャースタイル
新ファームウェアの提供に加えて「ビデオカメラ Xシリーズ風」というピクチャースタイルファイルが新たに追加された。キヤノンの業務用デジタルビデオカメラ(Xシリーズ)で撮影した映像に近い色調になっているようだ。
検証④ コントラストがやや低めの新ピクチャースタイルファイル
[スタンダード]
「スタンダード」のピクチャースタイルで撮影した動画は、コントラスト、色の彩度ともに高めなので、そのままではプロの現場には適していない。
[ビデオカメラXシリーズ風]
「ビデオカメラXシリーズ風」のピクチャースタイルは、キヤノンの業務用ビデオカメラ(XF305/XF300)のようにコントラスト、彩度ともに低めの仕上がりとなる。
「スタンダード」のピクチャースタイルに比べてかなりコントラストが低めで、ハイライト側は抑えられ、シャドー部側は持ち上がり、全体的に圧縮されてる。また、中間部はやや暗部側にシフトし、かなり抑制の効いたガンマになっているようだ。撮影した画を見ると、黒い階段や植え込みの暗部がそれなりに持ち上がっていて、最暗部の黒いパンツや黒髪も、ディテールがあるかは疑問だが、若干持ち上がっている。
彩度は、花や服を見るとblueとcyanにあまり変化がないのに対し、redとyellow、greenは大きく抑えられている。個人的には、もう少しred側の彩度が高い方が好みではある。とはいえ、映画やドラマ撮影を意識したピクチャースタイルとなっているのは事実で、動画としてはかなり使いやすくなっているのではないだろうか。詳細設定やWB補正も使って、より積極的に活用してみたいと思う。
最後にもう一つ、主に写真向けの新機能となる「F8クロス測距対応」を紹介しよう。新ファームウェアでは、開放F8になるレンズを使用した状態で、中央測距点でのAFが可能となった(従来はF5.6まで)。
これにより、より遠くの被写体でもAFが対応するようになり、望遠レンズを使用したスポーツやネイチャーなどの撮影に威力を発揮する。例えば、エクステンダーを装着して開放F8になるEF600mm F4L IS II USMとエクステンダーEF2XIIIの組み合わせでもAFが使えるのだ。「F8レンズでのAFの撮影領域拡大」に貢献するものと思われる。
[新製品情報] 軽量・小型の高画質標準「L」ズームレンズと、EOS 5D Mark III を組み合わせた「EOS 5D Mark III・EF24-70L IS U レンズキット」が6月13日に発売。従来からの「EOS 5D Mark III・EF24-105L IS U レンズキット」に加え、EOS 5D Mark IIIのラインナップが強化される。
協力:キヤノン(株)・キヤノンマーケティングジャパン(株)