ゼウスのスチルライフマジック Vol.28

クリスタル香水ボトルの基本カットとイメージカット
Photo&Words: Tetsuro Takai   Photo: Tsubasa Kawamura 

高井哲朗が
スタジオスチルライフ撮影の
アイデアと 愉しみを 伝授
創造主ゼウスのように
光を操って 宇宙を創造しよう
スチルライフ それは あなたが
神になれる世界

ゼウス高井が、知人の福岡英一氏から預かっていた香水ボトルの試作品。
今回は川村 翼さんと「これを撮影しよう」ということになった。
仕事ではEコマース用の商品撮影をしているという川村さん。
3灯でクリスタルの複雑なディテールを描写していく。
一方、ゼウスは何やら写真のプリントを始めた。
香水ボトル デザイン制作:glass –  P.P★★★CRYSTAL 協力:STUBBINS,LLC

Photo:川村 翼




クリスタルガラスの撮影は光で作る彫刻

翼くんは 仕事で 毎日 大量の商品を 撮影してるらしい

“撮影商品を見て 素早く それぞれに合う ライティングを組み立てる
光を回して トバさない ツブさない 大切なのは スピード”

少し前 アガイ商事での セミナーの後の懇親会で
そんなことを言っていた

“カタログ的な 商品説明写真を 効率よく撮影する方法を
毎日のように 考えているんだけど
光のあたり方を ちゃんと見て じっくり撮る撮影も やってみたい
ポスターのような1枚の絵のような 写真も やってみたい”

ということで スタビンズ福岡さんから預かっていた
香水ボトルの試作品 一緒に撮影することになった

さぁ どう組み立てていくのかな?
ハイライトを どう作っていくんだろう?
バックライトで輪郭 透明感 これが 基本のメインライト
ピコボックスで ハイライトを入れ ガラスのカーブを演出
ガラスのキラキラは 直のストロボ光 
物との距離感で 変化させていく

その バランスだよね
光で作る彫刻 スチルライフは完成形がない そこが 魅力的
まず 一つの光から だね



ライティングの組み立て             

ライト:❶ broncolor Pulso G Head+Standard Reflector P70 
❷broncolor Pulso G Head+Conical Snoot 
❸broncolor Picolite+Picobox 
カメラ:Canon EOS 5D Mark II レンズ:TS-E90mm F2.8L 1/160秒  f16  ISO100


背景から乳白アクリル越しライト❶でボトルの透明感を出す。
左上からのライト❷。スヌートを使い、
絞った光で部分的にハイライトを加える。
右サイドからのボックスライトでボトルキャップに
縦長のハイライトを入れて完成。

 

撮影の様子。






Photo:高井哲朗


調香師のように光をブレンドして

香水を 調べてみたら
麝香鹿(ジャコウジカ)の 雄の香嚢(こうのう)から得られる 生殖腺分泌物「ムスク」
ジャコウネコの アソコ近くにある「会陰腺」から採れる香料「シベット」
ビーバーの 肛門付近からも 同様に 香料を採ることができるとか

尿と獣の臭いを 掛け合わせたような かなり動物的な臭いが
アルコール希釈し 熟成させることで
甘くねっとりとした 優雅な香りになることが判明

なんとも 誰が作ったのか まさに 錬金術それは マジックだね 
素晴らしい 人間の知恵

動物的な 匂い
だから それは きっと メスを 引き寄せるための
フェロモンの香り ってことなんだ
現在は ワシントン条約で 取引が 禁止されているため
天然のものは 入手困難
天然香料や 合成香料で 代替されてるらしいけどね

まぁ 香水は 動物的なものだけでなく
果物 花 草木 いろんなものから 匂いを抽出して
うまく 調合して作るらしい 調香師って 芸術家だね

香りがもたらす 心理効果(アロマコロジー)
メンタル治癒力 鎮静と興奮 愛の誘い
香料のブレンドは 情景やイメージなどを基に作られる
ということはそこにも 物語があるってことなんだ

僕の お気に入りは ね 森のように爽やかな「ウッディムスク」
やわらかく 甘い 優しい 深い香り
ケダモノの匂いを 森の中の深い緑で
柔らかく包み込んで エロチックな香りに

それを想像しながら 光の中の 赤と緑と青
調香師のように ブレンドして 香水瓶に 閉じ込めたんだ
香りも 光も バランスよく 調合するのさ
命の力は そこから

匂いは ダイレクトに 官能を 直撃する
光は そこまで ダイレクトには 響かない
だから ストーリー 考え 明かりを 調合する
スチルライフマジック それは 小さな物語からの出発
光は 命の輝き




ライティングの組み立て

ライト:❶ broncolor Striplite 120 Evolution 
❷❸ broncolor Pulso G Head+Standard Reflector P70 
❹❺Aputure amaran PT 4c
カメラ:Canon EOS R6
レンズ:EF24-105mm F4L IS USM(マウントアダプター使用)
1/4秒  f8  ISO100
 

背景ライト❶。
左右のボックスライト(ライト❷❸)を加える。
LEDスポットライト❹を、右斜め上の少し離れた位置から、ボトル下側を狙って照射。
ボトル内の反射と撮影台の乳白アクリル板からの反射で、ボトル内部を明るくして完成。


セット全体。
乳白アクリル後ろの背景ライトは、直トレの上からさらに淡いイエローと
ブルーのカラーフィルターをずらしてかぶせて、背景色に青〜黄のグラデーションを作っている。
背景乳白アクリルは、被写体真後ろの位置に10円玉ほどの穴が空いていて、
そこだけ直の光がボトルを透過する。これによりボトル表面にできる小さな光芒がやや強くなる。
右のボックスライトには森林の風景写真をプリントしたOHP透明フィルムを貼り、
天窓のイメージで画面内に入れた。ボトルにも森林のグリーンが映し込まれる。
左のボックスライトには連載第22回で撮影した「女体蝋燭」の写真。
画面には写らないが、香水にエロッチックなニュアンスを入れたかったので映し込んでみた。


高井哲朗
たかい・てつろう/1978年 フリーとして活動開始。1986年(株)高井写真研究所設立。広告写真を中心に活動するかたわら、ゼウスクラブを開催し、写真の可能性を伝導する。
www.kenkyujo.co.jp/
twitter.com/TetsuroTakai


コマーシャル・フォト2023年8月号記事より

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