2012年06月13日
東京オフラインセンターでは、Adobe Creative Suite Production Premiumが入ったノートパソコンのレンタル業務を行なっている。映像制作の現場でどのようにこのサービスが活用されているのか。CM制作会社「リフト」の事例を紹介する。
東京オフラインセンターの「Adobe CS ノートレンタル」サービス
撮影機材やオフライン編集室などのレンタル業務を行なっている東京オフラインセンターでは、編集ソフトをインストールしたノートパソコンもレンタルしている。特に最近力を入れているのがAdobe Creative Suite Production Premiumが入ったノートだという。
同社がアドビ製品に力を入れている背景としては、テレビ局やCM制作会社ともテープレス化が進んでおり、RED ONE、SONY F3、デジタル一眼レフなど、様々なファイルベースのカメラが使われるようになったことが挙げられる。Premiere Pro、After Effectsなど、アドビの映像制作ツールは様々なビデオフォーマットにネイティブに対応しており、どんなカメラの撮影データでもそのまま読み込んで作業することができるのだ。そのほかにもPhotoshopやIllustratorなどのソフトウェアも入っており、1台のパソコンで様々な作業を完結できるというメリットもある。
Adobe CS ノートレンタルのサービスを行なっている東京オフラインセンターの問合せ先は電話03-3589-1647、www.toc-net.jp 。上のコンピュータのはめ込み画面はAdobe Premiere Pro CS6。
実は、このような形態でのレンタルが認められているのは、世界中を見渡してみても東京オフラインセンターだけである。ソフトウェアの利用規約はアドビに限らず、ソフトウェアを購入した人だけが使えるというのが通常だが、アドビと東京オフラインセンターは2011年にレンタルに関して特別な契約を交わし、晴れてアドビ公認のサービスとなったのである。
Adobe CSがインストールされたマシンは、17インチのMacBook Proが100台、同じく17インチのWindowsノートが20台。そのほかにAvid Media Composerも一緒にインストールされたものが10数台。アドビとの契約により300ライセンスが導入されているので、今後さらにマシンの数は増えていく予定だが、2012年5月現在Adobe Creative SuiteのバージョンはCS5.5。7月からは最新版のCS6が入ったマシンも用意されるという。
このAdobe CSノートレンタルを利用するユーザーは、実際にどのような使い方をしているのだろうか。CM制作会社「リフト」のチーフプロダクションマネージャー河村慎也氏に話をきいた。
Production Premiumは紙の資料も動画の資料も簡単に作れる
― リフトさんでは以前からこのサービスを利用しているんですか。
河村 そうですね。弊社はプロデューサーとプロダクションマネージャー合わせて約40名くらいが在籍しており、TV-CMを中心に様々な映像コンテンツを制作しています。自社内にもパソコンやソフトはあるんですが、東京オフラインセンターさんのレンタルPCを利用すると最新の製品を利便性よく使用できるので、社内で多くの人が利用しています。
僕のように制作進行の仕事をしているプロダクションマネージャーは、CMの企画を紙資料としてまとめたり、衣装はこういうふうにします、撮影地はここです、イメージカットはこんな感じですといった資料を写真入りで作るんですが、そういうときにIllustratorやPhotoshopを結構ヘビーに使います。ここ2、3年は、それが進化した形で動画を活用した資料も作るようになって、Premiere Proもさわるようになりました。
まだまだ勉強中の身ではありますが、僕らプロダクションマネージャーがもっともっと高度なスキルを習得して、制作の準備や、現場での仕事の流れを円滑にしていければと思います。
リフト チーフプロダクションマネージャー
河村慎也氏
― 使うのはプロダクションマネージャーの方が中心ですか。
河村 そうですね、僕らの仕事のよきアシスタントというか強力なツールとして使っています。そのほか、最近の若いディレクターさんは映像ソフトを扱える方も多いので、そういう方はご自身で編集作業をされます。
― 1回あたりどれくらいの期間借りるんですか。
河村 最小で1日単位でレンタルできるのですが、期間についてはケースバイケースで、1つのジョブが終わるまで2〜3ヵ月ずっと借りていることもありますし、撮影データを現場で確認をするために撮影当日だけ借りたり、編集作業を行なう数日間だけ借りたり 。東京オフラインセンターさんは24時間営業ですので、いつどこでどういう作業が発生するか分からない僕らにとっては、非常に頼りになる存在です。
プロダクションマネージャーならではのPremiere Proの活用法
― 動画の資料とはどういうものですか。
河村 たとえば、主演候補のタレントさんの資料をクライアントさんに提出するにあたって、紙資料だけではなく動画をつけるようにしています。出演しているドラマがあれば、表情や演技力がわかるような場面を選んでプレゼンしますし、共演者の方のオーディション映像なんかも一緒にお見せします。
商品カットもイメージ写真だけだと想像がつかないので、海外のCMのいろんな映像を見てもらったりして、だいたい方向性が決まったら自分たちでテスト撮影をしています。そういう時は東京オフラインセンターさんからEOS 7Dなどをお借りするんですが、一昔前のビデオカメラよりクオリティは高いですし、ちょっとしたハイスピード撮影などもシミュレーションできますから重宝しています。
簡単なビデオコンテも作ります。最初、プレゼン用の初期段階の企画コンテがあって、そこから演出家の方に演出コンテを描いていただくのですが、その絵をパソコンに取り込んでつなぎます。アニメーションとして動かすところまではしないんですが、音楽が決まっている場合は音楽を入れて、全体の流れをシミュレーションします。
― CM制作の資料だったら、やはり動画の方がわかりやすいですよね。
河村 とあるクライアントさんのブランド広告で、過去のCMから名シーンを抜き出して新しいCMに仕立て直すという案件がありました。通常、CMの企画提案は紙コンテでプレゼンするのが一般的なのですが、この企画はビデオコンテを作成してプレゼンしましょうという話になり、早速広告会社のクリエイティブスタッフさんと相談しながら、過去CMを元にビデオコンテをPremiere Proで編集しました。
それをクライアントさんに見ていただいたら、結構評判が良くてゴーサインが出たんです。やはり映像そのものが持っている強さというものを感じましたね。こういうCMを作ることができたのも、アドビのソフトで簡単に編集してプレゼンできたからこそだと思います。
準備段階の使い方としてはそんなところですが、CMのメイキングビデオなどを作ってWebで公開したこともあります。僕自身はビデオ編集のスキルがそれほどないので、そういうことが得意な広告会社の方にお願いしたんですが 。あとはCMの記者発表会で上映する関係者のビデオメッセージなんかは、僕の方でカメラを回して編集したことがあります。
― なるほど、CM制作会社で使うといっても、編集作業そのものではなく周辺の作業のほうが多いんですね。
河村 僕の立場からすると資料用の映像やシミュレーションが多かったりしますね。今はCM本体だけでなく、こういった細かい映像も求められる時代ですが、それを自分たちで作業できるのは10年前では全く考えられなかったと思います。
でも、本来ならば非常に高性能なソフトウェアで、フィニッシングまでできるようなクオリティなので、ポスプロさんの受け入れ体制さえ整えばProduction Premiumだけで完結することも可能だと思います。
様々なフォーマットにネイティブで対応していることが最大のメリット
― リフトのプロダクションマネージャーさんは皆さんアドビ製品が使えるんですか。
河村 こればっかりは一人一人の好みがあるので、全員が1つのソフトウェアだけとはいかなくて。やっぱり自分の使いやすいものを使いますね。Premiereを使っている者もいれば、Final Cut Proを使っている者もいれば、すごく昔のAvidのエクスプレスがまだ社内にあるので、それも使っていたり。
Production Premiumはプロダクションマネージャーにとってよきパートナーだと語る河村氏。
― その中で、河村さんがアドビ製品を使っているのはなぜですか?
河村 Premiere Proは様々な動画のフォーマットにネイティブで対応しているので、REDやEOS、AVCHDで撮ったりした映像をそのまま読み込んで作業できます。Final Cut ProだったらポスプロでProResに変換したりするんですけど、膨大な作業量になってくると一昼夜とか2〜3日かかるような場合もあります。そういう作業が不要なのは非常に大きなメリットだと思います。
ちょっと調べてみたんですが、リフトで制作したCMでどのカメラを使っているのか集計をとってみました。2011年4月から今年3月までの1年間は、ARRI ALEXAが一番多くて約25%、続いてフィルムとソニーF3がそれぞれ20%強、一眼レフが約17%、ソニーF35/F23とREDがそれぞれ約8%という結果でした。
― ALEXAがかなり台頭していますね。F3もCMでこんなに使われているとは思いませんでした。
河村 そうですね、今まではF35が結構多かったんですが、この1年で大きく変わりましたね。こんな感じですでに7割くらいはファイルベースのカメラになっていますが、じゃあテープレスで運用しているのかと言うと、実はそうでもない。きっちりと集計したわけではありませんが、僕の実感からするとその半分くらいはカメラ本体ではなく、外部出力端子からHDCAM SRのテープで収録しているような状況です。
ただ、ファイルベースの仕事が多くなりつつあるのは事実なので、今後Premiere Proの活躍する場面が増えるのは間違いないと思います。最近話題のキヤノンEOS C300もすでにCS5.5で正式対応していますし、ALEXAのRAWファイルにもCS6で対応したという話なので、非常に信頼のおけるソフトウェアだなと思います。
― After Effectsはどうですか?
河村 僕らのレベルではAfter Effectsまでは使わないんですが、ワークフロー全体で考えると、Premiere ProとAfter Effectsが連携できるのは非常に心強いですね。CMだとどうしても商品のディテールをきれいにしたり、映ってはいけない背景の看板を消したりという作業が発生するので、今まではInfernoやFlameの部屋に入って作業をしていましたが、現在ではAfter Effectsのチームを作りましたっていうポスプロさんもいくつか出てきています。
もちろんハイエンドの機材より時間はかかるんですけれど、ちゃんとスケジュールを組めば、After Effectsで修正を行なっても何ら問題ありません。After Effectsと連携しながら、Premiere Proでフィニッシングをすることも、近い将来は可能だなと思います。
― 最新版のCS6についてはどうですか?
河村 やはりALEXAのRAWファイルに対応したのが一番大きいですね。それから、ソニーF65 RAWのPremiere用プラグインがソニーさんで開発中という話なので、ほとんどのデジタルシネマカメラのファイルがそのまま読み込めるようになると思います。
そのほかにSpeedGrade CS6というカラーグレーディングのツールや、Prelude CS6という新しいソフトにも期待しています。Prelude CS6はファイルベースの収録フォーマットを現場で変換したり、バックアップを取ったりするツールなので、撮影現場でのデータ管理が楽になると思います。そういったツールが現場レベルでも本当にマストになってきているので、CS6を早く使いこなせるようになりたいですね。
写真:竹澤宏
今回の訪問先
リフト
CM制作の草分け的存在、日本天然色映画株式会社の伝統と若々しいパワーを併せ持つニッテンアルティ。ユニークな企画力と提案力で成長著しいサーマル。二つのプロダクションが2009年に合併して誕生したリフトは、あらゆるニーズ、あらゆるメディアに対応したワンストッププロダクションを目指している。
http://www.liftcm.co.jp/