2016年03月16日
デジタル写真に関わる仕事には、もはや欠かせないツールとなっているPhotoshopやLightroom。ユーザーはこれらを当然のようにPC上で使用してきたわけだが、この数年でタブレットやスマートフォンで使用できるモバイルアプリがアドビ システムズから続々リリースされている。モバイルアプリもデスクトップアプリと同じく仕事に必須のツールとなっていくのか? ヴォンズ・ピクチャーズ所属のレタッチャーやフォトグラファーが検証する。第1回は、レタッチャーの大里宗也氏がLightroom mobileを使った。
先日、会社のiPad ProでLightroom mobileを使ってみたらいろいろ出来ることを知って一気にテンションが上がり、iPad Proを買う気満々になった私は直後、ディスプレイの色の問題にぶつかり意気消沈。しかし上司と話すうちに話は意外な方向へ。VONS picturesに所属する私、大里が、アドビ社のモバイルアプリLightroom mobileについて、弊社代表片岡と話しました。
Lightroom mobileの使いどころ
大里 Lightroom mobileを使い始めて僕が最初に持った疑問は、重いRAWデータをクラウドにわざわざ上げる?ってことでした。モバイルってことは、クラウド上にあるRAWデータとiPadやiPhoneのアプリが通信するわけですよね。撮影データは1回の撮影で数十ギガから多いときは百ギガ以上になることもあるから、ストレージ容量の問題ももちろんありますけど、アップロードに時間がかかりすぎるんじゃないかと。
片岡 デスクトップアプリのLightroom CCから上げる必要はあるけど、クラウドに上がっていくデータは生のRAWデータじゃなくて軽いデータみたいだよ。あと個別のAdobe CCのストレージ領域を使っているわけでもないみたい。
コレクションを同期することでLightroom mobile上でコレクションを見ることができるようになる。
大里 じゃあ上がったデータは何処にあるんでしょう? その辺は謎ですね(笑)。でも使ってみて素直に感動しました。RAW現像は色温度をいじれるでしょ? 他のモバイルアプリでも、Photoshop CCでいうところのトーンカーブとか色相・彩度に似た機能はありますけど。色温度調整で変わる色の変化は、トーンカーブとかで再現するの難しいですから。あとレタッチャーとしては、Photoshop CCのCamera Rawと互換性があるので精神的な安心感がありますね。
片岡 そうだね。レーティングも付けられるし、変更するとすぐ同期しはじめる。現像時に色を調整するのに必要な機能はひと通り揃っているけど、修復系のレタッチツールはないから、Lightroom mobileでは色を作って、レタッチ作業が必要なときはPhotoshop FIXやPhotoshop MIXを使えばいいし、もっと複雑な作業がしたいならデスクトップのPhotoshop CCに戻ってやればいい。
Lightroom mobileの現像画面。色の調整に必要な調整項目はデスクトップ版Lightroom CCと共通しているため互換性がある。
大里 便利だと思ったのが、共有リンクの公開をLightroom mobileからもできる点。これでLightroom mobileアプリを入れていない人やAdobe IDを持っていない人でも、Safariとかのブラウザで簡単に写真を見られるようできるんですけど、公開後に現像をやり直したり、新たにファイルを追加してもちゃんと反映されるところがスゴく便利です。
片岡 Adobe IDを持っている人だったらログインしてコメントも付けられる。
大里 あとはファイル名表示ができるようになれば、仕事で使う上での効率もさらに上がると思います。
Lightroom mobileのコレクション画面右上のアイコンをタッチして、「コレクションを共有」を選ぶ。
「共有」をクリックして公開する。
「リンクを共有」でリンク先をメール等で送れるようになる。
公開したコレクションをwebブラウザで表示。公開後に変更を加えても反映される。
色の問題、今後の考え方
大里 ただよく考えてみたら、iPadやiPhoneの画面って色温度調整できないですよね。確か6500~7000ケルビンと聞いたことがあります。レタッチャーのモニタは印刷に最適化するために5000ケルビンに合わせていることが多いので、iPadとかiPhoneで色作っても無駄なんじゃないですか?
片岡 紙に印刷するという前提ではそうだね。でも本は電子書籍化されることが多くなったし、ポスターもどんどんデジタルサイネージに置き換わっている。フェイスブックやツイッターはほとんどの人がスマホで見るよね? SNSに入る広告も増えてきてる。
大里 たしかに5000ケルビンにどうしても合わせる必要があったら、アプリ側にその機能を組み込むことぐらいアドビだったら簡単にできそう。そんな機能が無いということは 。
片岡 アドビは紙媒体をレガシーメディアとして捉えている、とコマフォトの連載で堂々と言ってみる。ここShuffleだし(笑)。
冗談ぽく言ったけど、これは各媒体別に広告費がどのくらい使われているかを見ればよくわかる。2014年の日本の広告費は6兆円ちょっと。媒体別ではテレビメディアが1.9兆円、新聞が6,000億、雑誌が2,500億、インターネットが1兆円。新聞と雑誌を足してももうインターネットには勝てなくなってきている。広告という枠組みだけで考えても、アウトプット先は紙からデジタルデバイスへ確実にシフトしている。
大里 一般的にもスマホで撮って、アプリで加工して、SNSにアップの時代ですからね。そういえばAdobe MAX 2015の基調講演でも、デスクトップアプリよりモバイルアプリのプレゼンのほうが盛り上がっていて、デスクトップアプリユーザーとしてはちょっと寂しい感じがしました。
片岡 開発のトレンドが、デスクトップアプリでB倍ポスター用の写真をレタッチすることよりも、モバイル端末に最適化されたヴィジュアライズのためのワークフローをモバイルアプリでどう定義するか? という方向に向いている気がするね。
大里 アンドロイド版のLightroom mobileは、アンドロイドスマホでのRAW撮影に対応したそうでして(2016年2月24日現在)。そうするとモバイル環境だけでRAW撮影→RAW現像(andレタッチ)→SNSアップが完結しちゃうんですよね。僕iPhoneなんですよ 。
片岡 俺、アンドロイド。
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モバイルアプリっていうとオモチャ感覚でつい軽く見がちですが、気がついたらいつのまにかパラダイムが変わっていた、なんてことにならないためにも、今後もLightroom mobile、使っていこうと思います。iPad Pro購入はもう少し考えます。
今回のまとめ:Lightroom mobile
RAWデータをサクサク表示・修正・同期
RAWデータをクラウドに上げているわけではないので、閲覧・表示は軽く、色修正も素早く行なえる。
他のモバイルアプリと連携することで作業を分担
レーティングの付与や、現像時に色を調整するための機能はひと通り揃う。修復などレタッチ作業が必要なときはPhotoshop FIXやPhotoshop MIXへ。
モバイルデバイス特有の色温度
iPadやiPhoneの画面は、印刷に適した5000ケルビンに合わせることができない。が、今後のメディアの変化を見据えた対応、とも考えられる。
Lightroom体験版・Lightroom mobileのダウンロード
記事はLightroom、Lightroom mobileの最新版を使って説明しています。Lightroomの最新版を試したい場合は、アドビ システムズのWebサイトから無償体験版をダウンロードしてください。Lightroom mobileは、App StoreまたはGoogle Playから無償でダウンロードできます。
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