2009年08月06日
デジタルカメラの時代になって、露出計やカラーメーターを使うフォトグラファーが減っているという。もし使っていても、フィルム時代のメーターを使っている場合は、デジタルカメラに適した結果を得られていないかもしれない。そこで、基本的な使い方から最新情報まで、フォトグラファーの必需品である露出計とカラーメーターについて学んでいこう。
デジタルカメラになったら露出計は使わなくてよい?
広告や雑誌の世界ではフィルムカメラ時代には中判カメラが主力機でした。しかしデジタルカメラの普及によって35mm一眼レフタイプが主流となってきました。
このタイプは進化したTTL露出計を内蔵しているので、定常光による撮影では精度の高い露出計測ができます。特に割測光方式(評価測光)モードでは、測定結果をコンピュータで計算します。中にはシーン認識まで行なっている機種もあって、露出補正などを考えない方が良い結果になることが多いくらいです。撮影後すぐに結果が確認できるデジタルカメラと、この精度の高いTTL露出計のおかげで、見たままのシーンを記録する撮影は、熟練者でなくても失敗することが少なくなりました。
定常光だけのオープンロケ、高い精度のTTL 露出計が活躍するシーン。
もちろん露出とフォーカスが合っているだけで、良い写真が撮れるわけではありません。フォトグラファーに要求されるテクニックや能力は数多くあります。その中で撮影時に大きな部分を占めるのは「シーンを切り取る力」と「光を読み、操る力」でしょう。
「シーンを切り取る力」とは、構図やアングルを決定する能力で撮影のコンセプトに合った絵を構成する力です。ルポタージュ・報道・スポーツでは、これに加えて一瞬を切り取る力も大切ですね。
さて、もう一方の「光を読み、操る力」とは、求める表現に最適な光を演出することです。自然光の下では、適切な向きと時間を見つけ出すことがそれに当たります。ストロボのような人工光源であれば、適切な質の光源の選択とセット位置を見つけることになります。またこの両方を組み合わせて利用することも多いでしょう。
ストロボがメインになるスタジオ撮影では、フラッシュメーターが必要。
広告や雑誌の写真は記録ではなく、見る人に感動を共有(共感)してもらうことが目的ですから、シチュエーションだけでなく光にも効果的なデフォルメが必要となります。もちろん撮影後の画像処理をふまえた適正露出を見つけることも「光を読む」ことの一部です。
このように光の演出が必要な場合やストロボを使用する場面では、外部露出計(フラッシュメーター)が欠かせません。カメラ内蔵のTTL露出計ではシーン全体の露出を計ることはできても、部分的なコントラストや光のバランスまでは計測できないからです。
撮りたい写真のイメージに近づくために露出計を使おう
たしかにフォトグラファーによっては、露出計がなくても大丈夫という意見もあると思います。デジタルカメラを使えば、大まかにセッティングをした後に撮影をして、画像を開いて、ライトを確認しつつ微調整することもできるからです。またベテランのスタジオフォトグラファーは、フィルムの時代から同じスタジオで同じ照明を使っていれば、露出計に頼らずに照明をすることが可能でした。
一見自然光に見えるが、バックからのライトはストロボ光とのミックス。バランスを見極めるには露出計を使う方がスピーディ。
一見自然光に見えるが、バックからのライトはストロボ光とのミックス。バランスを見極めるには露出計を使う方がスピーディ。
しかし、照明機材が変われば同じ出力でも光量は変わります。撮影するロケーションが変われば、光の回り方も変わります。撮影環境が変わった時や新しいセッティングを試す時に、撮影画像を見て修正する方法ではかえって時間がかかってしまいます。また、いくらモニターの品質が向上したとはいえ、撮影現場のモニターをそこまで信用できるでしょうか。撮影現場はモニターを見る環境として十分ではないので、私自身はモニターだけで判断することはせず、必ず露出計を使うようにしています。
透過光の撮影では、反射光式露出計を使用してライトセッティングを決める。テスト撮影を繰り返すよりスマートだ。
露出計を使ってライティングをする時は、まずモニターに出てほしい写真を頭の中でしっかりとイメージします。そして自分が納得できるまで何度も計測し、ライトとレフを調整します。
シャッターを切る前にこのように試行錯誤することで、自分が欲しい絵が明確になります。もしモニターに出てきた絵がイメージと異なっていたなら、どこかが違っていますから、セッティングを修正をして自分のイメージを作り直します。
こうして繰り返し露出計を使うことで、自分の頭の中のビジュアルイメージを、EV値(シャッタースピードと絞り値)の差として認識し、記憶できるようになります。次回に同じようなセッティングが必要になったときや、被写体のサイズが変わってしまいセット大きさを変更しなければならなくなったときにも、この記憶はあなたを助けてくれるでしょう。
カメラのダイナミックレンジを調整できる露出計L-758D
さてライティングを決定する上でもう一つ大事な要素があります。それは、デジタルカメラのダイナミックレンジです。
ダイナミックレンジは、写真表現の上で大きな影響があります。たとえば、被写体の立体感を出すためには陰影が重要になりますが、カメラのダイナミックレンジを正確に把握していなければ、ライティング時にどの程度の明暗差が必要なのかわかりません。しかし、ダイナミックレンジはデジタルカメラの機種ごと、あるいは使用しているRaw現像ソフトとの組みあわせで大きく変わります。また同じ機種でも個体ごとにいくらかの差があります
写真上はニコンD3(f9 で撮影)、写真下はキヤノンEOS-1Ds Mark (II f6.3 で撮影)。メーカー・機種ごとあるいはソフトによってにダイナミックレンジが変わる。デジタルカメラは、メーカーのチューニングによってハイライト& シャドーの表現が異なる。フィルムで言う公称感度と実効感度の違いに近い。
写真下の線画のように黒く見える部分がダイナミックレンジ外だ。あえてこのまま撮影して迫力を出しているが、肉眼ではこのように見えない。車のサイドの露出をメインに撮影。
通常の露出計ではこのダイナミックレンジの問題を簡単にクリアできませんが、セコニックの露出計「デジタルマスター L-758D」は、デジタルカメラのダイナミックレンジを露出プロファイルとして記録し、測定時にスケールに表示することができます。これまで、ハイライト&シャドーの限界を判断するには勘に頼るところが大きく、長い経験が必要でしたが、L-758Dによるカメラごとのプロファイルを利用することで、正確な調整ができるようになりました。メイン露出に対するEV値の差を表示する「ゼロ目スケール」を併せて利用することで、コントラストの調整がスムーズになります。
セコニックのL-758Dは、光球周りのリングを回すと平板モードになる。内蔵の反射光方式も備えていて使いやすい。
セコニック L-758D
- 受光方式:入射光式および反射光式
- 入射光式:光球が平板機能を兼用
- 反射光式:一眼式で受光角1°
- 測定範囲:入射光式・定常光=EV -2(F2.0、15秒)〜EV22.9(約F31、1/8000秒) 反射光式・定常光=EV 1(F2.0、2秒)〜EV24.4(約F52、1/8000秒)(ISO100) 反射光式・フラッシュ光=F2.0〜約F161.2
- 寸法:90×170×48 mm
- 質量:約2,700g
- 価格:73,500円(税込)
- Webサイト:http://www.sekonic.co.jp/meter_l_758
これ以外にもデジタルマスターL-758Dには、露出を計測する上で便利な機能が満載です。たとえば、1/3ピッチでのシャッタースピード&絞り表示はもちろんのこと、絞り値の数値表示に切り替えもできます。定常光とフラッシュ光のミックス度合いをパーセント(%)表示してくれる分離測光は、ロケでストロボを多用するフォトグラファーには欠かせない機能です。ファインダー内に計測値を表示するスポットメーターも、遠景や透過光の計測に威力を発揮します。ダイヤルを回すだけで光球と平板を切り替える機能は、部分的な計測を容易にしてくれます。
ここでご紹介した機能はほんの一部です。高機能な道具は使いこなしが難しいと思われるかも知れませんが、デジタルマスターL-758Dは、基本機能を便利に使えるようにしただけなので、少し慣れれば簡単に使いこなせます。
ライティングを勉強したい方は、ぜひ露出計からスタートしてください。露出計は、カメラのシャッタースピードと絞り値を決定するだけの道具ではありません。ライティングをデザインし、眼には見えない光を読み取るためのものなのです。あなたもぜひ露出計を使いこなして、1枚目のシャッターを切った瞬間に、自身がイメージした通りの絵が飛び出す快感を味わってみてください。
関連情報
セコニック L-758D 製品詳細ページ
http://www.sekonic.co.jp/meter_l_758
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BOCO塚本 BOCO Tsukamoto
1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。