デジタルフォト&デザインセミナー2015

写真はもっと自由になれる

レスリー・キー (フォトグラファー)

今年で10年目を迎えた「デジタルフォト&デザインセミナー」が、5月20日に大阪、5月22日に東京にて開催された。今回はイベントが10周年、Photoshopが25周年の記念の年ということで、恒例のセミナーに加え、特別ゲストによる基調講演(東京のみ)も行なわれた。まずは基調講演の1人目として登壇したレスリー・キー氏の講演をレポートする。

Photoshopとの出会い

img_event_dpds2015_leslie_01.jpg レスリー・キー(フォトグラファー)
シンガポール生まれ。東京ビジュアルアーツ専門学校を卒業後、フォトグラファーとしてデビュー。アート、ファッション、ドキュメンタリー、広告、CDジャケットの撮影、PV映像監督などを中心に東京、PARIS、NY、アジア各国で活動。世界中のスーパーモデルやセレブリティを撮影し続けている世界で知られる写真家の一人。

皆さん、おはようございます。元気ですか? 今日は皆さんを元気付けるためにここに来ました。僕と写真との出会いについて、そしてPhotoshopとの出会いについて、皆さんとシェアできたらと思います。

ちょっとこの写真を見てください。この写真は、去年の今頃ここで撮影しました。「TED TOKYO」という、世界中のいろんなスピーカーが集まるイベントで、私はスピーカーとしてここに立ったんです。その時はとても緊張しました。だって、15分しか時間がなかったんです。言いたいことをちゃんと話せるか不安だったんです。結局3分オーバーして、ちょっと怒られました(笑)。

それに比べると今日は40分あります。でも、最初に4分間の映像を見てもらったからもう36分しかないね(笑)。早口で話さないと。私の日本語はちょっと聴きづらいかもしれないけど、がんばって、わかりやすいように話します。よろしくお願いします。

img_event_dpds2015_leslie_02.jpg 2014年のTED×TOKYOでの講演の様子。

まずはこの話から。Photoshopとは私にとってどういうものだろう。今回アドビさんとコマーシャル・フォトの編集長からこのキーノートスピーチの依頼を受けてから、改めて考えてみました。

私はPhotoshopをどのくらい使っているか、考えてみました。すると、1日24時間のうち、寝る時間がだいたい2〜3時間だから、残りは21時間。その時間の、ひょっとしたら半分くらいの時間を、Photoshopを使って過ごしているとわかりました。撮影している時以外はほとんどPCに向かっていますから。食事の時間よりも、寝ている時間よりも、遊ぶ時間よりも長く、私はPhotoshopと一緒に過ごしています。

ただし、Photoshopも簡単な使い方しかしていません。もともとパソコンが得意じゃないからです。アナログ人間だし、複雑な操作をするのがちょっと苦手‥‥これは内緒話ですが、自転車に乗るのも苦手なくらいなんです(笑)。だからPhotoshopでするのも、写真を開いて、チェックして、セレクトして、あとはデザイナーに自分のイメージを伝えるために写真の上に文字を入れたり、そこに色を付けたりするくらいなんです。

初めて「Photoshop」を使ったのは2001年のこと。いまはもう、みんなデジタルで写真を撮るけれど、当時の私はアナログの写真のほうが好きでした。デジタル写真は硬すぎるし、コントラストも強すぎる。正直、違和感を抱いていたんです。

その印象がガラッと変わったのが、ニューヨークに行ってからのこと。ニューヨークにはすごいレタッチャーがたくさんいて、Photoshopを使いこなしていました。彼らと知り合って、Photoshopを使えば、デジタルの写真を頭の中で描いたイメージ通りに仕上げることができることを知ったんです。

それともう一つ、私がPhotoshopを使う大きな理由があります。私は雑誌の表紙を撮ることが多いのですが、表紙写真においては、文字との関係性がとても大切だと思っています。だから私は、写真をアートディレクターや編集者に渡す前に、Photoshopを使って簡単にデザインするようにしているんです。こんなこと、Photoshopがなかったらできなかったと思います。

そう考えてみると、私にとってのPhotoshopは、レタッチツールというより、コミュニケーションツールだと言えるのかもしれません。私が自分の理想とする写真が撮れるのも、Photoshopのおかげだと思っています。

そんなPhotoshopが誕生25周年。今日はPhotoshopの生みの親の一人であるトーマス・ノールさんと一緒に、こんな場でそれをお祝いできるなんて、とても光栄です。改めて、Photoshopにその気持ちを伝えたいと思います。

Photoshop25周年、おめでとうございます。

写真、そして日本との関わり

img_event_dpds2015_leslie_03.jpg レスリー4歳の時の一枚。

ここからは自分と写真の関係について話をしようと思います。そのために、まずは、私がどうしてここにいるのか、日本の皆さんとたくさんの仕事をさせてもらっているのか、日本とどういう縁があるのか、そこから話したいと思います。

この写真を見てください。これは私が4歳の時の写真。実は、子どもの頃の写真はほとんど持っていないんです。10歳から13歳の頃の写真もたった1枚しかありません。

私にはお父さんがいません。だから、お母さんは大変な思いをして私を育ててくれたのだと思う。写真が少ないのはたぶん、それが理由だと思います。

そういう理由もあって、十代になって、私はカメラがどうしても欲しくなりました。13歳の頃、お母さんにお願いして買ってもらいました。忘れもしない「ミノルタX-700」。まだデジタルカメラのない時代。だからカメラにフィルムを詰め込んで、たくさん写真を撮りました。

img_event_dpds2015_leslie_04.jpg お母さんに買ってもらったミノルタX-700でセルフショット。

でもそのすぐ後、お母さんが亡くなってしまって‥‥。私はシンガポールにある日系の工場で働くようになったんですが、それをきっかけに、日本の素晴らしいものと出会いました。音楽、テレビ、雑誌。その中に、私の人生を変えた特別なものがありました。それがユーミン、松任谷由実さんの音楽です。

img_event_dpds2015_leslie_05.jpg img_event_dpds2015_leslie_06.jpg レスリーにとってユーミンは特別な存在。

このアルバム「ダイアモンドダストが消えぬまに」は日本にいる友人にお願いをして、買ってもらいました。いまでも私の宝物です。私のファーストランゲージは英語と北京語なんですが、初めて素晴らしいと思った音楽が日本の音楽。言葉の意味はわからなかったのだけど、そのメロディや世界観が心に響いたんです。

ユーミンのアルバムは、音楽はもちろんですが、レコードジャケットも素晴らしい。こうして見るたびに、誰がこの写真を撮ったんだろう、どうすればこんなに素晴らしい写真が撮れるのだろうと思いました。いま振り返れば、写真に深い興味を持ったのはこの時だったと思います。

音楽というともう1枚、強い影響を受けたレコードがあります。それは「We Are The World」です。知っている人も多いと思いますが、これはさまざまなアーティストが集まって、アフリカで苦しい生活を強いられている子ども達のために、チャリティを目的に作られた曲です。僕はこの時、音楽に“Save The World”、世界をよりよいものにするための力があることを知ったんです。

img_event_dpds2015_leslie_07.jpg 「We Are The World」(1985年、USA for Africa)

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ユーミンの音楽と「We Are The World」。この2つが、私に勇気を与えてくれました。勇気づけられた私はその後、旅に出よう、と決めました。バックパッカーになって、ネパールやインド、チベットなどたくさんの場所を訪れました。

そこでは子ども達の写真をたくさん撮りました。撮り続けて気が付いたのは、「写真には魔法がある」ということです。写真を撮ると、彼らとコミュニケーションがとれる。写真を撮ったら町に戻ってそれをプリントして、もう一度彼らに会いに行く。写真を渡すと、皆とても喜んでくれました。彼らの顔を見ていたら、私は写真で世の中に貢献できるかもしれない。そんなふうに思えてきたんです。

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決定的な経験をしたのは、インドのガンジス川でのことでした。ガンジス川は、インドの人たちにとって特別な場所です。生活も希望も、すべてがそこで始まるんです。太陽が昇り、沈んで夜になって、その繰り返しの中に命、人生、そしてライフがあるんです。そこで写真を撮りながら、私は写真を目指す決心をしました。そして写真を目指すなら、愛する日本へ行こうと決めて、1993年の終わり、22歳の時に東京に来ました。そしてフォトグラファーになりました。

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フォトグラファーになって私の人生は変わりました。尊敬するデザイナー、アーティスト、モデル、スポーツ選手、そして私が大好きな音楽のアーティスト、写真家、映画監督といった多くの皆さんと、写真を通じてコミュニケーションをとることができるようになりました。クリエイターとして、ピース・アクティビストとして尊敬するヨーコ・オノさんも撮影することができました。

img_event_dpds2015_leslie_11.jpg img_event_dpds2015_leslie_12.jpg img_event_dpds2015_leslie_13.jpg img_event_dpds2015_leslie_14.jpg

それに、今日みたいにステージに立って皆さんに語りかけることができるのも、さまざまな人々とデスティニー、運命のような出会いを得ることができるのも、写真のおかげです。私がそういった出会いの中で、どんな作品を作ってきたか、それをちょっと、皆さんに見てもらいたいと思います。

撮影とライフワーク

先ほど、映像で見てもらった雑誌『Vogue』の撮影をはじめ、私はたくさんの雑誌の表紙撮影をしてきました。写真家になってからの17年間で、日本、アジア各国、ニューヨークなどで、ほぼ1,000冊の雑誌の表紙を撮影しています。

『流行通信』は大好きな雑誌です。実は2007年にいったん休刊したのですが、私はどうしても表紙が撮りたくて編集部を訪ねて、いつか撮らせてほしい、とお願いをしました。その後、復刊した2010年から50回、表紙を撮影しています。大切な作品です。

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次は『歌劇』です。これは宝塚歌劇団の機関誌ですね。2009年にポスターを撮影したのをきっかけに、毎月1回、公演が終わった後の役者さんを4時間くらいかけて撮影しています。もう6年も続けてきましたから、ライフワークみたいになってきました。今年は宝塚歌劇団101周年ということもなって、5年分の写真をまとめたアーカイブも作っています。

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ライフワークというともう一つ、いま、とてもハマっているのが『美術手帖』の連載です。尊敬するアートディレクターの井上嗣也さんと仕事をしています。井上さんは皆さんご存じかと思いますが、コム・デ・ギャルソンのアートワークをはじめ、80〜90年代のパルコやサントリーの素晴らしい広告を手がけてきた方です。

彼と一緒に手がけているのは、アートとファッション、エンターテイメント、私が大好きなの3つの要素をかけあわせたような作品です。たとえばルイ・ヴィトンとコラボレーションして作った作品では、女優の沢尻エリカさんに、アンディ・ウォーホル作品の中のマリリン・モンローのイメージを重ねて撮影しました。

これは私自身をステップアップさせてくれる作品になるだろうと思っています。皆さんにもぜひ見てほしい作品です。いま11回目だから、あと1年やったら本にまとめたい。展覧会もできたらいいなと思っています。

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そして1999年から16年間、いまも毎月必ず10〜12ページ撮影しているのが『Vogue Taiwan』です。ちなみに本家のVogueには110年以上の歴史があるんですが、アジアのVogueはまだ20年も経っていないんです。『Vogue Taiwan』は96年、『Vogue Korea』は97年、『Vogue Japan』は2001年、『Vogue China』は2008年、『Vogue India』が2009年、そして『Vogue Thailand』が2012年。アジアに写真の波が来たのが90年代の終わりなんです。だけど日本をはじめアジアの写真は、世界と比べても引けをとらないところまで来ていると思う。

そんな中で、毎月撮影できたことは、とてもラッキーだし、私にとってとても大切なこと。全部見せられないけれど、一部見てもらおうと思います。見ればわかるとおり、ロケもあれば、スタジオ撮影もあります。私の撮影がどんな感じか、ちょっと感じてもらえると嬉しいです。

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だんだん時間がなくなってきました。ちょっと先を急がないと(笑)。

こんな写真も見てください。先ほど私は、十代の頃に「We Are The World」という曲に大きな影響を受けたという話をしました。実は、いまも「We Are The World」を僕なりにイメージして写真を撮っているんです。1人の写真もあれば、2人の写真もあるし、100人の写真もあるけど、私から見ればどれも「We Are The World」。

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2000年に私が初めて写真集を作った時も、裏のテーマは「We Are The World」でした。だからたくさんのグループショットを撮りました。合成ではなく、実際にみんなで顔を合わせて、並んで一緒に写真を撮るんです。

もうすぐ発売される『WWD Japan』でも、モデルを集めてグループショットを撮っているし、スポーツ選手や音楽アーティストも撮りました。ビヨンセのパンフレットでも、ヨージ・ヤマモトのキャンペーンでも、40名のモデルがプラダの洋服を着て撮ったものもあるし、ベトナムで撮った写真もあります。みんな「We Are The World」!

img_event_dpds2015_leslie_20.jpg img_event_dpds2015_leslie_21.jpg img_event_dpds2015_leslie_22.jpg img_event_dpds2015_leslie_23.jpg img_event_dpds2015_leslie_24.jpg

こうしてあらためて自分の写真を見ていくと、私の原点はドキュメンタリーなんだなと思います。ファッションも音楽も大好きだけど、心の中ではドキュメンタリーとして撮っている。ファッションモデルと、撮影で訪れた現地の人たちと一緒に撮った写真がとても好きなんです。インドでもモデルさんと現地の人たちとで一緒に作ったし、日本で広告写真やCDジャケット、アートのポスターや舞台のポスターを撮影している時も、ドキュメンタリーとして撮っているんだと思います。

自分の中の「We Are The World」が私の中で蘇って、写真と強く結びついたのは、2004年の12月26日のことなんです。私はその時33歳でニューヨークに住んでいたんですが、ふとテレビをつけたらスマトラで大地震と大津波が起きたことを知りました。とても悲しくなって、何かできることがないかと考えた時に、「We Are The World」の曲を思い出したんです。それで自分の「We Are The Asia」をやろうと決めて、それから約2年かけて、日本、中国、韓国、東南アジアのいろいろな国の人たちを撮って写真集にまとめました。

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2011年3月11日の地震の後にも被災地の宮城で写真を撮りました。その時撮った写真をまとめた『COLORS OF HOPE』という写真集は、売り上げをすべて赤十字社に寄付しています。

img_event_dpds2015_leslie_26.jpg img_event_dpds2015_leslie_27.jpg 写真集『COLORS OF HOPE』(2012)。国際協力NGOジョイセフを通じて、被災地支援金として全額が寄付された。

ああ、もうちょっとしか時間がない。もう一つ、どうしても皆さんに見てもらいたいのがあります。私がたくさん作った写真集の中で特別なものというと、それは私が写真を始めるきっかけになったユーミンの、40周年写真集ということになります。いまから2年前に出版したものです。新しく撮った写真と、18年間にわたって彼女を撮り続けた写真とをまとめたものなんです。今日はそのメイキング映像を持ってきました。ぜひ見てください。

img_event_dpds2015_leslie_28.jpg img_event_dpds2015_leslie_29.jpg 写真集『YUMING FOREVER by LESLIE KEE』(2012)。表参道ヒルズで同名の展覧会も開催された。

私はユーミンという音楽アーティストに、さまざまなクリエイターに、そして日本に対して感謝と尊敬と、誇りの気持ちがあります。こういうふうにコラボできたのはとても光栄なことです。これからもっとがんばって、これまで出会った日本や世界のたくさんの人たちに、写真を通していろんな形で恩返ししたいと思っています。そしてPhotoshop。Photoshopがなかったら、などということは想像ができません。

最後にこれからのことについてお話しして終わりにしたいと思います。私はこれまでいろいろな写真展をやって、いろんな仕事をしてきました。そのなかでもいちばん作りたいのは「本」、写真集が大好きなんです。いろいろなクリエイター、いろんなアーティスト、いろんな企業とコラボレーションした写真集がたくさんありますが、今後もライフワークとして続けていけたらと思っています。

インスタグラムやFacebook、ツイッターを使って、みんなとコミュニケーションを取るのも楽しいね。いろんなインスピレーションをもらっています。

img_event_dpds2015_leslie_30.jpg img_event_dpds2015_leslie_31.jpg img_event_dpds2015_leslie_32.jpg

次の夢に向かって

そして最近、新しいことを考えています。実は先日、カンヌ映画祭に行って、私がとても尊敬する映画監督である河瀬直美さんを撮影しました。彼女を撮って、話を聞いているうちにいつか映画に挑戦してみたいな、と思うようになりました。映画を作ることは人生に似ています。私の人生はこれから写真から映画、ということになるのかもしれない。すごく楽しみです。

img_event_dpds2015_leslie_33.jpg img_event_dpds2015_leslie_34.jpg

今日はここに参加できて本当に嬉しいです。次はPhotoshop生みの親のトーマス・ノールが登場します。きっとサプライズがあると思います。皆さんもぜひ楽しんでください。

今日はどうもありがとう。Thank You!

取材:小泉森弥
会場写真:竹澤宏

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