OTAMIRAMSのクリエイターに効く映画学

Vol.4 『まこりんの映像メディアを介した多彩な表現に迫ります!』ゲスト:AV女優 戸田真琴

解説+デザイン:白玖ヨしひろ(オタミラムズ)
イラストレーション:平岡佐知⌘B(オタミラムズ)
ゲスト:戸田真琴 フォトグラファー:ナオミ・サーカス

アニメーション、デザイン、イラストレーション、音楽制作など、多方面で活躍するクリエイティブ・ユニット OTAMIRAMS(オタミラムズ)が、クリエイター視点で映画を読み解く連載コラム。映像作家のみならず、あらゆるクリエイターのインスピレーションを刺激します!

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・千の顔を持つ女 まこりん・

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左:白玖ヨしひろ 右:戸田真琴

お久し振りです、クリエイティブ・ユニットOTAMIRAMS白玖ヨしひろです。

連載の第1回目では、自作である水曜日のカンパネラ桃太郎』のMVを例に”映像演出の解体”を試み、第2回3回目では、「サンダンス映画祭 ショート・フィルム部門」のグランプリを受賞された長久 允監督と、受賞作『そうして私たちはプールに金魚を、』をふたりでその”映画演出の解体”を試み、これまで計2本の映像作品から抽出された「映画」を中心にご紹介してきました。

そして、第4回目の今回では、ジム・ジャームッシュ監督『ミステリー・トレイン』に着想を得て創られた、2nd 写真集『The light always says.』を出版したAV女優の戸田真琴さんをお招きしました。

「女優業」はもちろん、”お悩み相談”を兼ねた「映画コラムの執筆業」、”ミスiD”を受賞した「アイドル業」、そして「映像監督業」と、”映像メディア”を介して軽やかに活動をくり広げる”千の顔を持つ女 まこりん”と、ざっくばらんに映像や映画について語ってみようと思います。後半では、オススメ映画の紹介も。

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戸田真琴 / 福島裕二 『The light always says.』
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・ジム・ジャームッシュの映画が写真集のモティーフになったワケ・

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白玖ヨしひろ(以下 ★ H)— 2nd 写真集『The light always says.』ジム・ジャームッシュへのオマージュが込められつつも、それだけに留まらないオリジナルな仕上がりになっていて圧巻でした。写真集を制作するにあたって、『ミステリー・トレイン』という映画のモティーフを選んだ理由はあるのでしょうか?

戸田真琴(以下 ☆ M)— 映像や写真を問わず、あらゆる表現媒体の中で目印にしたいなと思うものの一つが『ミステリー・トレイン』だったんです。「映画を写真に変換する」ということよりは、今できるやり方で、私なりの”人間愛”とか”愛情の返し方”って何だろうと考えた時に、”一番好きなモノの世界になりきって表現しよう”と思い、このようなコンセプトの写真集になりました。あと、シンプルにかわいい写真集を作りたくて、世界で一番かわいいと思っている『ミステリー・トレイン』の工藤夕貴さんをマネしてみたかった、という想いもありました。

★ H — 戸田さんは、ジャームッシュ映画のどの辺りが、”萌えポイント”なんですか?

☆ M — あの人ってものすごく”人間愛の人”で。自分がこういう映画を撮りたい、っていうエゴよりも、その場の面白さを重視したり、自分の周りにすごく魅力的な人がいたら、その人に当て書きしたりするようなところがすごく好きですね。

★ H — で、ほとんど”何にも起こらない”ですよね(笑)。

☆ M — あれがすごく理想的なんですよ! 劇的なことが何も起こらなくって…。それって、見ている側が”映像の中の歩いてる人たち”を愛することでしか、その映画を楽しむことはできないと思うんですよね。”なんかこいつ、動きが面白いな”、とか。だから、ジャームッシュ作品の登場人物からは、何かをもらったわけじゃないんだけど、”愛おしい気持ち”になって映画が終わるんですよね。その中でも、特に好きなのが『ミステリー・トレイン』なんです。

★ H — とはいえ、写真集では『ミステリー・トレイン』を正確に再現しているわけでもないんですよね?

☆ M — 大枠としては『ミステリー・トレイン』に登場する日本人カップルの”愛の形を一人ぼっちで形にしたい”というテーマで、映画の舞台になったアメリカ・テネシー州のメンフィスをさまよっています。同じテイストの衣装で同じ場所を回ったりして、聖地巡礼的な要素もあったりします。でもそれよりは、映画を触媒にして「愛のある旅」がしたかったんだと思いますね。一人じゃ治安も悪いしなかなかいけない場所に、たまたま写真やメイクが上手い、心強い仲間たちが一緒に来てくれたようなイメージです。行きたい場所に行こうと思ったら、その土地にちょっと詳しいコーディネーターさんがなぜか連れて行ってくれるような。そういうことを全部補完してもらって、自分は手ぶらで遊びまわれる、見たものをきれいって言えるだけの自由な状態で、好きだと思った服を大量に持っていって、なりたかった女の子のマネをしてっていう。クラウドファンディングの支援者様をはじめ、多くの皆さんのご協力の元に、完全な自由を謳歌することができました。

★ H — そんな素の戸田さんを、”写真集を手に取った人が、一緒に旅をしたように鑑賞してもらう”、っていうことですね。

☆ M — 本当にそれです! “旅の相手になってもらう”、というか。

★ H — クラウドファンディングのリターンも、「現地からのポストカード投函」や「お土産の手渡し」「お手製のZINEの制作」など、”旅にちなんだモノ”になっているのが印象的でした。僕が普段勤めしてる広告業界だと、力を注いで頑張って作っても、納品したクライアントの反応が薄くて凹むことが多々あります(笑)。逆に、個人で制作した、ファンの方々との距離が近いミュージシャンのMVを作った方が、「あのビデオ大好きです」という感想が届いたり…。”欲しい人のために、シンプルにモノを作って送り届ける喜び”みたいなものが、今回の写真集やクラウドファンディングのお返しにしっかり息づいていると思います。

☆ M — “自分たちの想いが、お金というものを一旦介して、好きなものを作ることにつながっていく”、というのがすごく不思議な……。これは多分クラウドファンディングならではの現象なんだと思いました。”気持ち”が”お金”になって、”お金”が”気持ち”になる、という。私自身、お金儲けがすごく苦手で、あんまりこだわらないようにしてるんですよ。でも、”ポジティブにお金を作って、それを新しいものに作り替えていくことが、正しいお金の流れなんじゃないか”、みたいな感触を得られたことは、今後活動していく上での指針になるような気がしました。

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ジム・ジャームッシュ『ミステリー・トレイン』
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・「エロ」から「純愛」まで、自分の妄想を全部詰め込んだ初監督作・

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★ H — さて、ここからはいよいよ”無類の映画好き”として知られる戸田さんに、映画や映像のことについて伺っていきます。戸田さんはポータル・メディアの「KAI-YOU」にて、映画コラム『悩みをひらく、映画と、言葉と』 (http://kai-you.net/series/108)を連載執筆されています。そこで取り上げられているタイトル群を拝見したところ、”ヒューマン・ドラマ系”が中心だなという印象を受けました。また、主演でありながら監督をつとめた「SOFT ON DEMAND」のアダルト・ビデオ作品『青春時代』は、”ひと夏のふたりの記録を映像に残す学生カップル”のストーリーで、どこか岩井俊二監督の『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』に近い雰囲気も感じられました。

☆ M — 感じましたか?(笑) イカしてるな~!

★ H — “映像のなかで、出演者たちが映画を創る/映像撮影するストーリー”といえば、ジョン・ウォーターズ監督『セシル・B ザ・シネマ・ウォーズ』吉田大八監督『桐島、部活やめるってよ』園 子温監督『地獄でなぜ悪い』などがありますよね? 『青春時代』を監督するにあたって、力を入れた部分などがあれば教えて下さい。

☆ M — 私は、たまたま『青春時代』というレーベルからデビューしたので、監督を任していただいたこのタイミングで”自分の理想の青春を具現化してみたいな”と思いました。自分自身、全然エロいことが存在しない学生時代を送っていたので、”エロありの学生時代ってどんな感じなんだろう”、って(笑)。恋人役はクラスでは”根暗な何考えてるかわかんない感じの人”で、”よく見たら映画雑誌を読んでいるような、みんなの人気者ではないけど自分だけが良さを知っているようなキャラクター”を思い描きました。そんな人と保健室でエッチしたりとか、お互いの家に行ってみたり、お互いの姿をビデオで撮ったり、自転車引きながら河川敷を歩いたり、「エロ」から「純愛」まで、自分の妄想を全部詰め込みました

★ H — …ああ、だからわざと男の子が”イモい子”だったりしたんですか(笑)。

☆ M — そうなんです! あんまりイケメンっぽい感じはダメで…。

★ H — その話を聞いて思ったのは、カナダのグザヴィエ・ドラン監督や、スペインのペドロ・アルモドバル監督のように、ゲイの監督は”自分の理想郷”としている世界を、映画メディアを介して描こうとする人が多いと思うんですね。処女としてAVデビューをされた戸田さんが、「青春時代にできなかったことを思いっきり描いた」というこの映像作品は、そこと共通する部分があるように思いました。

☆ M — グザヴィエ・ドラン監督ってゲイなんですか? 確かに、独特の感性を持っていますよね。

★ H — 初期作品は、結構男性同士で愛し合う描写が多いんですよ。あと彼は、音楽の使い方が本当に素晴らしい。『青春時代』では、撮り方や演出にはどの程度関わっているんですか?

☆ M — 画角とかアングルとか、余裕がある時には全てチェックさせていただきました。「夕暮れの教室で告白するシーン」の演出には一番こだわりましたね。”カメラ位置はこっちで、夕焼けの教室の中で掃除しているところから入って…“とか。何よりも、絡みのシーンで要望をスタッフさんに伝えながらも、自分で主役を演じるというのがめちゃくちゃ恥ずかしかったですね(笑)。普段のAVだと”アリ”だけど、実際の学生同士だと”ここまでの激しい言葉は使わない”、とか。結構モメることもあったんですけど、”なんとか完成に至った”という感じです。

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★ H — 「KAI-YOU」のコラムで、紗倉まなさん主演で瀬々敬久監督作品の『最低。』を取り上げていたじゃないですか。AV女優の先輩である紗倉さんの小説が原作で、戸田さんの普段のお仕事にも通じるテーマの映画だと思うんですけど、そういう”自伝的な映画を創りたい”、っていう気持ちはあったりしますか?

☆ M — AVをテーマにもし私が撮るのであれば、”明るい内容にしたいな”、って思います。私自身がこの仕事をやって、人生がどんどん明るくなった人間なので。都内で一人暮らしをしていて、親から仕送り貰わないで自分で生きていくんだったら毎日働かなければいけないわけで、それだと私は気持ちがすごくダメになってしまうと思うんです。”他のことを考える余裕がない”、っていうのが一番しんどくて。今の仕事だと、人と出会うことが仕事の主な時間で、普通に生きていたら出会わないような面白い人とたくさん出会うんです。「今、”これ”を放送した方がおもしろいわ!」って思いながら生きてるので(笑)、”はちゃめちゃな感じの楽しいAV女優ストーリー”を、いつか書いたり創ったりしたいです。

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戸田真琴『青春時代』
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瀬々敬久『最低。』
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・白玖ヨしひろが戸田真琴に薦める映画3本・

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★ H — さて、ここからは今回のメイン企画! 戸田さんと僕がお互いに”オススメの映画”を3本ずつ紹介し合っていきます。これ、実は『青春時代』の劇中にあったシーンのパロディなんですね(笑)。僕の方は、戸田さんの”AV女優人生”にインスピレーションを与えられそうな映画を選んでみました。前段が長くなっちゃったんで、僕の方は足早に進めることにしましょう!(笑)


[ 白玖ヨしひろ >>> 戸田真琴 / 1本目:黒木和雄『祭りの準備』

★ H — 『竜馬暗殺』も撮ってる黒木和雄監督の作品です。これはどういう映画かというと、夢を抱いている少年が主人公で、土佐のド田舎から”シナリオ作家になりたくて東京に出たい”。でも母親のしがらみが強すぎて、”出られない”んですよ、この土佐の島から。そのヤキモキした殻を自分自身で破り、最終的には親を捨て、地元を飛び出すエンディングなんですね。で、僕も戸田さんも、”地方出身者”で、僕らもいわば、”家族や地元を捨てた身”ですよね。その「自分の夢を叶えるためには、犠牲にするモノが現実世界にはあるのだ」という”通過儀礼”的なテーマを体現してくれている映画で、もっ凄いエネルギッシュなんですよ。YouTubeにUPされているトレーラーだけではそのパワフルさは伝わらないんですけど、本編では直ぐ”青姦”とかします(笑)。

☆ M — す、すごい…いきなり強烈なのキましたね。

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黒木和雄『祭りの準備』
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[ 白玖ヨしひろ >>> 戸田真琴 / 2本目:クロード・ミレール『小さな泥棒』

★ H — 次は、シャルロット・ゲンズブールが主演の映画なんですけど。これも、”どうしようもなさ”しかなくて…。シャルロット演じる主人公は、親に捨てられて親戚の家に預けられるんですけど、馴染めなくって、その親戚の家のお金を盗んだりするんです。で、ずっと盗みを働き続けて、男の人と知り合っては、またその男の人のお金を盗んだり…。最終的には、その知り合った数人のうちの”ある男の人”の子を妊娠してしまう。でも、その中で彼女は確実に、”少女”から”大人”の女性へと成長していく……という、これまた力強いエネルギッシュな成長ストーリーの映画なんです。戸田さんも、AV女優というお仕事柄、様々な男性と密に接することで影響した、一般女性には経験出来得ないような”何かしらの大きな成長ストーリー”があっただろうと思いまして、チョイスしてみました。シャルロットが、男性たちを物凄くイイ感じに”だまして愛していく”んです。その”だまし方”が、僕もされたいぐらいの…(笑)。

☆ M — “好感を与えるだまし方”ってすごいですね(笑)、勉強になりそう…。

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クロード・ミレール『小さな泥棒』
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[ 白玖ヨしひろ >>> 戸田真琴 / 3本目:新藤兼人『裸の島』

★ H — なんとこの映画は、セリフが一切ないんです。全編の約90分間にわたって。

☆ M — えー! 尖ってる…! img_cinemastudies_4_16.jpg

★ H — でも、全然観切れちゃうんですよね。瀬戸内海のとある離島が映画の舞台で、そこに住んでいる家族が”農作業している日常”がひたすら反復されるという。唯一起こる事件というのが、「我が子の病死」。でも、”病死してショックだーーーッ!”、っていうシーンが一回入った後には、またいつも通り”農作業”して終わるんですよ(笑)。これって不思議と、”僕らの毎日”と重なるんですよ! 僕らもズーッとそんな感じで毎日を暮らしているじゃないですか。まさに「生きるとは何か」を描いた映画なんですよね。「そして人生はつづく」のだと! 戸田さんの、”思い立ったことは実行する生き様”に触れて、この映画が一番最初に頭に浮かびました。

☆ M — 子供が死んでも、悲しみそこそこに”生活していかなければいけない”、という…。

★ H — やはり悲しみに堪え切れずにお母さんが一瞬、感情を大爆発させるんですけど、それをまたすぐに鎮めて、そしてまた畑を耕す……と。ものっ凄いエネルギッシュで力強い。しかもセリフがないから、ただただ”感情”だけが露わになって、鑑賞者側へ伝わってくるという…。

☆ M — ドキュメンタリーというわけではないんですね。

★ H — 違います。少ない予算と、少ないスタッフでそこで長期生活しながら撮ったフィクション作品だそうです。僕も最初、”早々に寝落ちするだろうな”、って思って観始めたんですけど、アレヨアレヨと観切れました。ぐっさ面白いです。

☆ M — 3本ともチョイスがカオス過ぎてヤバいです(笑)。

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新藤兼人『裸の島』
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・戸田真琴が白玖ヨしひろに薦める映画3本・

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[ 戸田真琴 >>> 白玖ヨしひろ / 1本目:イエジー・スコリモフスキ『早春』

☆ M — 私の方は、”戸田真琴の自己紹介”になるような選び方をしてみました。1本目が『早春』です。

★ H — あー! それ観ようと思ったけど、渋谷のTSUTAYAにも置いてなかったりするヤツなんですよ。

☆ M — 最近、デジタル・リマスター版が出たので買った方がいいですよ。主人公の15歳の男の子が高校を辞めて、公衆浴場の世話係みたいな仕事を始めるんです。お客さんに施設の案内をしたりシャンプーを貸したり。この子は童貞なので、おばさんから求められて「やめてー!」ってなったり(笑)。で、同じ世話係の女の子を好きになっちゃうんですけど、”好きになった瞬間”から、その女の子と婚約者が成人映画を観ている最中に後ろから胸を揉んだりとか、ストーカーまがいのことをし始めます。で、女の子が実はストリップ劇場で働いていて、色んな男と関係を持っている女の子だということが判明して、女の子を問い詰めたり…とか。映像の感じとか、色彩感覚とかが凄くカッコよくて、主人公が”明日死んでも良い”、って感じで生きてるところとかが最高なんですよ(笑)。…私、AV女優なんで、「KAI-YOU」さんの映画コラムから入ってくるファンの方って、「この子がAVに出てるなんて!?」って受け入れられない人もいたりして。そういう感覚とダブるところもありました。

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イエジー・スコリモフスキ『早春』
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[ 戸田真琴 >>> 白玖ヨしひろ / 2本目:山戸結希『おとぎ話みたい』

☆ M — こっちは私の『青春時代』と重なる部分があるなと思った映画です。この主人公の場合は、”最終的には踊り狂うことしか出来ない”んですけど、私はそういう気持ちをひたすら日記に書いたりしていたので…。

★ H — 例えば、”ビョー的”に日記を書いてたり…、とか?

☆ M — 「どうにもならないことを吐き出す方法」として、書いていたので。だから、すごい量ですよ、ノート。

★ H — それって、「自伝本」になり得そうですけどね。

☆ M — 読み返すの、嫌ですけどね(笑)。私自身は、”『青春時代』にこの町から出られず”、みたいな”閉塞感”はそんなに感じてなかったんですけど、家族にすごく”閉塞感”があって。あんまり外に目を向けず、本も読まないし、映画も観ないし、テレビしか観ない感じの家族で…。全然、気が合わないんですよ。

★ H — この映画の主人公の女の子も、確か、部活の先生だけが気が合う存在でっていう…。

☆ M — そうそう。”自分の世界が全部その人”、みたいな。”自分だけが、自分の正しさを知ってる“、って思っているけど、その”正しさ”だけでは”何をすることもできない”。そういう時期のエッセンスが凝縮されていて、上映が終わった後、死ぬほど泣きました(笑)。

★ H — 「青春映画」ってホント、自分の想いと重なると、とんでもない”映像力学”が発生することがありますよね。映画に”想いが宿る”から。

☆ M — その当時の自分を思い起こしちゃうことで、逆に”今の自分が救われる”時もあるし。

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山戸結希『おとぎ話みたい』
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[ 戸田真琴 >>> 白玖ヨしひろ / 3本目:ジョン・キャロル・リンチ『ラッキー』

☆ M — 私の好きな、特に”なんにも起こらない”映画です(笑)。アメリカ南西部の町で、ハリー・ディーン・スタントンが演じる90歳のラッキーが、”人生の終わりについて”悟っていくというストーリーです。劇中のセリフの端々がハリー本人の人生にも重なるようなところがあって、実際に彼は2017年に亡くなってしまいました。

★ H — いわゆる「終活」、みたいな感じですか。

☆ M — そうですね、”もうちょっとで死ぬ”、っていうことを悟りながら、でも、普段通りに過ごしているのが凄くユーモラスで。ラッキーはちょっと”変わり者”なんですけど、周りの町の人がそれをあたたかく見守っているような”優しい空気”が流れていて。「死」に対して、私は”暗いイメージ”だけがあるわけではないので、そういう意味では、この映画は過剰に悲劇的な演出をせずに、凄くナチュラルに「死」を描いてるトコロに共感しました。ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』が好きだったので、「あ、あのハリーがあんなにカッコよかったのに、ヨボヨボになってる!」っていう気持ちもありつつ、なんか愛せるように終わっていて…。”「YES。」でも「NO。」でも、「最高。」でも『最低。』でもない”っていう、「絶妙な答え」が描かれている映画です。

★ H — ちょっと違うかもしれませんけど、僕が勧めた『裸の島』とも…。

☆ M — 近いモノがありますね。同じことの繰り返しで、なんとなくそれを見続ける途中で、”こっちが勝手に「答え」みたいなものを見つける”、っていう。

★ H — 人生って、「経験」でしか物事を云えないから、”映画本来の役割”ってのはそこら辺にあるのかもしれないですね…。そして、やはり”映画の趣向/考察”は、”その人自身を表すな”って、映画談義を他者とする度に痛感します。戸田さん監督作品『青春時代』の劇中にあった、この”オススメの映画の紹介し合いっこ”は、的確に”相手を知る”には実に効率的なコミュニケーション方法ですね! 勉強になりました。

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ジョン・キャロル・リンチ『ラッキー』
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ヴィム・ヴェンダース『パリ、テキサス』
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・対談を終えて・

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今回、改めて戸田さんのお話をうかがって、”戸田真琴”という人間がやっていることはすべて、”戸田真琴”でしか成し得ない仕事を、”戸田真琴”が担ってやっていっているコトなのだと理解しました。即ち、まさに「”戸田真琴”には、代わりがいない」のだと。寺山修司の言葉を拝借するならば、「職業:”戸田真琴”」がしっくりくる人間像なのだと。

どんどん社会的な認知も高まり、多方面で活動の幅を広げていくAV女優界の中においても、きっと今後も、例えば「”戸田真琴”でしか書けない「自伝的小説」を書き、それが「映画化」されて自らメガホンを取る…」といった、”戸田真琴”ならではの「新しい映画の創り方」を、近い未来の世に提示している……。そんな独自のフィールドを築き、活躍し続けるお姿を、今日お話をお訊きしながら想像出来ました。

そして、僕は戸田さんのその映画が封切りされる”目撃者”となれることを、待ち望んでいるのだと強く感じました。これからも僕にとって、まだまだ目が離せない存在の一人です。

是枝裕和監督も戸田さんの映画コラムに注目!

「”戸田真琴”が生きると、何か起こるゾ!」、そんなエネルギッシュな生命力を感じ、こちらまで活力をいただいた気がします。今日はどうも、ありがとうございました!

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・#04_ Screening List・

 ジム・ジャームッシュ『ミステリー・トレイン』(1989)
 戸田真琴『青春時代』(2016)
 岩井俊二『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(1993)
 ジョン・ウォーターズ『セシル・B ザ・シネマ・ウォーズ』(2000)
 吉田大八『桐島、部活やめるってよ』(2012)
 園 子温『地獄でなぜ悪い』(2013)
 瀬々敬久『最低。』(2017)
 黒木和雄『祭りの準備』(1975)
 クロード・ミレール『小さな泥棒』(1988)
 新藤兼人『裸の島』(1960)
 イエジー・スコリモフスキ『早春』(1970)
 山戸結希『おとぎ話みたい』(2013)
 ジョン・キャロル・リンチ『ラッキー』(2017)
 ヴィム・ヴェンダース『パリ、テキサス』(1984)


・撮影機材・
今回の撮影に使用した機材は、カメラ:キヤノンEOS 5D Mark IV レンズ:24-70mm F2.8 DG OS HSM | Art の組み合わせ。
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レンズにはBZ100用 アダプターリング 82mmを介してEVO フィルターホルダー Lを装着し、cokin 830 ディフューザー1(Lサイズ(Z-PROシリーズ))をセット。ディフューザー1のナチュラルなソフトフィルター効果により、ストリートが幻想的な異空間に変貌した。


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OTAMIRAMS( オタミラムズ )
白玖ヨしひろと平岡佐知⌘Bからなるクリエイティブ・チーム。
映像作品では、短編アニメーション作品が「ロッテルダム国際映画祭 2010」、「香港国際映画祭 2010」などの国際映画祭にて招待上映を果たす。
また、平井 堅『ON AIR』、水曜日のカンパネラ『桃太郎』のMVなどを手掛ける。
http://otamirams.com/
戸田 真琴( とだ まこと )
1996年10月9日生まれ。AV女優として処女のまま2016年にデビュー。
愛称はまこりん。趣味は映画鑑賞と散歩。
KAI-YOUにて、映画コラム『悩みをひらく、映画と、言葉と』を連載中。
ブログ『まこりん日和』も更新中。「ミスiD 2018」受賞。
アメリカ・メンフィスで撮影した2冊目の写真集『The light always says.』を2018年1月に出版。

公式ブログ『まこりん日和』
http://blog.livedoor.jp/toda_makoto/

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