2017年04月25日
4K一眼ムービー導入編の講師を務めるのは、Shuffleの連載「一眼ムービーなんて怖くない!」でもおなじみの鹿野宏氏。各社から出揃った4K動画に対応した一眼カメラの中から7機をピックアップ、それぞれの機能や撮影・編集に際しての注意点などを解説した。
連載「一眼ムービーなんて怖くない!」の筆者でもある、フォトグラファーの鹿野宏 氏
最新の4Kカメラ7台を比較する
皆さん、こんにちは。昨年に引き続きこの場でお話をさせていただくことになりました。今回も、動画撮影の観点から最新カメラのテストをしてみたいと思います。今年は4Kのカメラが出揃いましたので、それらに焦点を当てて見ていきたいと思います。今回扱うのは以下の7機のカメラです。すべて4K撮影ができるカメラです。
キヤノン EOS 5D Mark IV
ソニー α6500
ソニー α99 II
オリンパス OM-D E-M1 Mark II
富士フイルム X-T2
パナソニック LUMIX DMC-FZH1
それぞれの映像の解像度は?
それではさっそく比較を始めましょう。まずはチャートを使い、それぞれの解像度を確認しました。ここで使ったのは「電塾CCD解析能力評価用チャート」で、カメラが記録する1ピクセルが、どれくらいきれいに撮れているのかを検証するための特殊なものです。これまで静止画で活用してきたものなのですが、動画も4Kで解像度が高くなりましたので試しに使ってみました。
このチャートでは、線の1本が1ピクセルに対応するようにできています。どこまで解像しているのかだけを見るのはもちろんですが、モアレや偽色が出るなどして画質が落ちるのを、どう処理しているのかも観察することができます。
それぞれのカメラで電塾CCD解析能力評価用チャートを撮影し、解像度を確認。
電塾CCD解析能力評価用チャート:http://denjuku.org/old/index.htm
結果を見て、まず気が付くのは、EOS 5D Mark IVとD500の映像が、一見、ぬるいように見えることです。実はこれには理由がありまして、この2機種は「ドットバイドット」で映像を撮影しているからなんです。
それと比較してソニーの2台(α6500、α99 II)は、ひと回り大きく撮影し、それを4Kサイズに落とす「オーバーサンプリング」を行なっているために、比較的シャープに見えるわけです。そのかわりに斜めの線のジャギーなどが若干目立ちます。ドットバイドットの2機種は、そのあたりは滑らかです。
私としては特に4KからFHD映像を切り出して使用することが多いので、ドットバイドットではややシャープさが足りないな、と感じることがあります。ただし、動画の場合はシャープすぎると見るのが辛くなりますので、4K撮影した動画をそのまま納品するというのならば、オーバーサンプリングよりもドットバイドットのほうが、良いかもしれません。
動きの評価
次に「動き」の評価をしてみましょう。ここでは「genie」(http://www.studioshop.jp/productnews/680-syrp)というモーションコントロール・イメージキャプチャデバイスを利用しています。動くモデルさんに合わせてカメラを動かすための機材です。窓の後ろに映る葉や、モデルさんの肌などを見ていくと、違いが見えてきます。4Kともなると、FHDでは出なかった肌の質感や髪の毛などにも違いがあることがわかります。
各カメラの動画を比較してみると、背景の葉の動きやモデルの肌の表現などに大きな違いが出てくる。
画質について
次に注目したいのが画質なのですが、それを見る際にはどんなカメラプロファイルを採用しているのかも合わせて紹介をしていきます。カメラプロファイルによっても色が大きく変わるからです。なおカメラプロファイルは、「ピクチャースタイル」「ピクチャーコントロール」など、カメラメーカーによって呼び方が異なるのですが、ここではカメラプロファイルに統一したいと思います。
まずはOM-D E-M1 Mark IIとD500ですが、これは「フラット」というカメラプロファイルを使っています。フラットの特徴は、トーンカーブが寝ていることです。なぜカーブが寝ているのかというと、動画の場合は静止画と違って刻々と状況が変わりますので、いかに「飛ばない」「潰れない」映像を撮影できるかが大事になります。コントラストは後で調整すればいいのですが、飛んだり潰れたりしてしまうともう直しようがありません。編集時に色を修正する前提で考えるならば、とても使いやすい映像だと言えると思います。
それら2機種に比べ、カーブがやや立っているのがα6500です。設定しているのは「CINE ONE」というカメラプロファイルです。さらにカーブが立っているのがEOS 5D Mark IVです。これはおそらく調整せずにすぐに使える映像を目指しているということの表れでしょう。撮ったままでも、絵の力が強いです。
画質面で非常に印象深かったのは「XT-2」です。実に素晴らしい映像を撮影することができました。肌色はややマゼンタ寄りですが、とてもきれいです。さらに言うと、髪の毛、肌、背景に至るまでもが美しい。使い勝手はまだまだですが、画質の面では非常に注目すべきカメラだと言えると思います。
各カメラで撮影した映像を並べて比較してみると色味の傾向に違いがあることがわかる。色の調整を前提にしたもの、そのままで使用できるものがある。
それぞれの特徴を一覧で比較する
さて、4Kカメラに関する機能の表を作ってみました。ニコンはビットレートの情報が公開されていないので、私自身の推測値を記してあることをお断りいたします。また、そもそもこの表で取り上げている項目は、私が特に関心を持っている部分です。その点もご了承いただければと思います。
各機種の特徴を比較するための表。動画を撮る際に気になる部分のスペックを中心にまとめた。
※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示
例えば「5軸手ブレ補正」。これはオリンパスのOMD-EM1 Mark IIで話題の機能ですが、使ってみると素晴らしい進化を遂げていることに驚かされます。他のカメラを一歩リードしていると言えるでしょう。
そして「AFスピードコントロール」も注目の機能です。これは動画撮影中にピントを切り替える場合に、ゆっくりと緩やかにピントが動く機能です。静止画の場合場AFは速いほうがいいということになると思いますが、動画の場合はスーッとゆっくり動くほうが自然に見えるんですね。
「無段階絞り」もあると嬉しい機能です。動画は撮影時に明るさが変わることがあります。その際に絞りを無段階で変えることができると、こちらも映像が自然に見えるんです。似たような意味合いで「低速電動ズーム」も注目していただきたい機能の一つです。
さて、カメラの「高感度」がどこまで実用的に使用できるのかについても注目してみたいと思います。薄暗い雰囲気をいかにきれいに撮影できるか。最近のカメラは非常に性能が上がっていますので、どのカメラも十分に実用的だと感じました。個人的にはISO3200で使える映像が撮れればいいと思っているのですが、これについては、今回のカメラはどれを使っても問題ないと思います。
各カメラの紹介
ここまでカメラの機能に触れてきましたが、テストの結果を踏まえ、改めてそれぞれのカメラを紹介していきたいと思います。順不同で進めます。
キヤノン EOS 5D Mark IV
まずはEOS 5D Mark IVから見ていきましょう。このカメラをひと言で説明するなら「飛び道具こそないけれど、素晴らしいポテンシャルをもったカメラ」だと表すことができると思います。特に優れているのがAFの制御です。動画撮影のときに被写体に対して常にピントを合わせ続ける動画サーボAFという機能があって、被写体が動く時や、メインの被写体の前を人が横切った時などの動作をあらかじめ設定しておくことができます。ピントを見失った時すぐに他の被写体に反応することもできるし、そのまま留まることもできる。現場で大変に役に立つ、優れた機能と言えると思います。
動画サーボAFの設定画面
動画サーボAFの速度は10段階で設定可能
被写体追従特性は7段階で設定可能
パナソニック LUMIX DMC-FZH1
DMC-FZH1は一眼タイプのカメラではなく、一体型に分類されるカメラだと思いますが、こちらも4K撮影ができます。センサーサイズは1インチということもあってか、アマチュア向けという印象を持つかもしれませんが、実はこの表で取り上げている項目のほとんどをクリアしている優秀なカメラです。しかも、4K撮影の時間制限がないのはこのDMC-FZH1だけ。電動ズームも優秀、NDフィルターも3段分内蔵していますし、ないのは5軸手ブレ補正くらいでしょうか。注目に値するカメラと言えると思います。
ソニー α6500、ソニー α99 II
ソニーの2機種はどちらも5軸手ブレ補正を搭載しています。自分が三脚になる場合、つまり自分が動かないケースでは非常に効果的です。ただしスタビライザー効果、歩きながら使ってみると、OM-D E-M1 Mark IIほどうまくいかない。これはセンサーサイズが大きいことが関係しているのかなと思います。ただし高感度は本当に素晴らしいですね。ISO6400くらいまでは感度を変化させていることに気が付かないのではなでしょうか。ISO25600くらいまでなんとか使えてしまうのは驚きです。10絞り近いダイナミックレンジを持っており、飛んだり潰れたりしにくいというのも特徴の一つです。
ソニーの2機種はともに高感度に強く、ISO6400程度までであれば画質に変化が感じられないほど。
オリンパス OM-D E-M1 Mark II
手ブレ補正については他を一歩リードしている。ジンバルがなくても撮影できるケースが多いはず。
先ほども触れたとおり、なんといっても5軸手ブレ補正が素晴らしい。歩きながら手持ちで撮影をしてもかなり自然な撮影ができます。チューニングが素晴らしいこともあって、映像が非常に自然です。前モデルでは、5軸手ブレ補正と電子手ブレ補正を同時に使うと、不自然な動きをすることがあったんですが、本モデルではそれを感じなくなりました。
ニコン D500
このカメラは、専用のキャプチャソフトを使うと動画のライブビューができます。ひとりで撮影する場合などには非常に役に立つ機能です。無段階絞りが可能ですし、ソニーの2機種にもついている「ハイライト重点測光」も搭載されています。ダイナミックレンジが広く、操作性にも優れた良いカメラだと言えるかと思います。
D 500はCamera Capture Proを使うと動画のライブビューが可能だ。
富士フイルム XT2
静止画ではプロビア、ベルビアなどのフィルムモードが人気のカメラですが、そのカメラプロファイルが動画でも使えます。ただしこれらは写真向きで、むしろ「プロネガスタンダード」というカメラプロファイルが好ましい味付けになっています。ほどよいコントラストをもっていて、曇りの日などに使うと良さそうです。画質に関しては先ほど申し上げたとおりで、非常に素晴らしいと感じました。特に人肌の表現などは本当に優れたものです。
【おまけ】 パナソニック LUMIX DC-GH5
最後に少しだけ、テスト時にはまだ発売前だった、LUMIX DC-GH5に触れておきたいと思います。非常に期待されているカメラですね。この映像は袋田の滝で撮影したものです。吊橋の上から撮っているのですが、手ブレ補正がしっかりと効いています。OM-D E-M1 Mark IIほどではないにせよ、なかなか使えそうです。
袋田の滝を撮影した。4Kで撮影ができるカメラとして期待を集めるGH-5。特に4K60Pなどの撮影で効果を発揮するカメラだ。
画質についてはまだ評価ができるほど使い込んではいないのですが、このカメラで撮った映像はかなりいい素材になると感じました。特に4K60Pなどのハイスペックな領域でそのポテンシャルを発揮するのだろうなと感じています。ただし4K60Pは情報量が非常に多いので、保存用メディアについても編集用PCについても、相当のポテンシャルを要求します。その点は頭に入れておくほうがいいのではないかと思います。
というわけで、ここまで駆け足で各カメラの特長に触れてきました。そろそろお時間となってしまいました。同じ4Kカメラと言っても、その中身はずいぶん違うということがわかっていただけたかな、と思います。自分の目的にあったカメラをじっくりと選んでいただければと思います。
今日はどうもありがとうございました。
取材:小泉森弥