CP+プロ向け動画セミナー 2017

Webから印刷までマルチユースで4Kを活用する

南雲暁彦(凸版印刷 チーフフォトグラファー)

CP+2017において、プロのフォトグラファーを対象にした「プロ向け動画セミナー」が行なわれた。フォトグラファーの南雲暁彦氏が登壇した実践編では、4K動画をWebから印刷までマルチユースで活用する方法を紹介したセミナーの内容をレポートする。

印刷会社所属のフォトグラファーとして写真や映像を撮影

皆さん、こんにちは凸版印刷映像企画部の南雲と申します。どうぞよろしくお願いいたします。今日は「Webから印刷までマルチユースで4Kを活用する」というテーマでお話をさせていただこうと思います。CP+のイベントということで、ここにいらっしゃる方の多くがフォトグフラファーの皆さんかと思います。そこで、皆さんもお使いであろう、デジダル一眼カメラを使って動画をマルチユースに展開するにはどうすればいいのか、その点を考えてみたいと思っています。

img_event_cpplus2017_nagumo_01.jpg南雲暁彦 氏

本題に入る前に、まずは簡単に自己紹介をさせていただきます。私はこれまでフォトグラファーとしてコマーシャルフォトの撮影を中心に、写真や動画の撮影をしてきました。なかでもキヤノンさんで多くの仕事をさせていただいており、デジタルカメラが発売される前の作例写真、例えばキヤノンのオフィシャルサイトで公開されるサンプル写真の撮影などを手がけています。

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カメラを紹介するサンプルは、ただきれいな写真が撮ればいいというわけではありません。新しいカメラが最大のパフォーマンスを発揮する作例を撮るというのが命題ですから、データや機材に関する知識、そしてプロフェッショナリズムが求められます。デジタルカメラの性能やスペックを証明するのは1枚の写真でしかありません。ノーレタッチで完璧なデータが求められますから、撮影は真剣白刃取りのような緊張感のもと行なわれます。

映像のサンプルもご覧いただこうかと思います。1本はEOS M5で撮影した映像で、もう1本はEOS-1D X Mark IIでダンサーを撮影したものです。

EOS MOVIE:“Southern Wind” with EOS M5

Canon EOS-1D X Mark II:Momentum

もうひとつ作品の紹介をさせてください。昨年、凸版印刷は創業して116年にもなるのですが、その歴史上初めてテレビCMを作りました。テレビ放映が1回だけという幻のCMなのですが、このCMの制作に携わりました。こちらも紹介をさせていただきたいと思います。

このCMは弊社の社員でもあります高橋栄樹が監督をし、私は撮影を担当しました。高橋監督はミュージシャンのPVやAKB48の映画などの監督をしている人です。このCMはCGなし、ワンカットで30秒、というちょっと変わった作品になっています。

凸版印刷 企業CM「印刷テクノロジーで、世界を変える。」

お手元に『idea note』という冊子をお渡ししていますが、それは凸版印刷の広報誌です。こちらはWebで見ることもできます。この100号で「4Kマルチユース」というテーマの記事が掲載されています。この時にやはり高橋監督と一緒にコンテンツを作ろうという話になり、こちらもまた一風変わったプロモーション作品を作りました。こちらはまさに今回のテーマ同様に、4Kでさまざまな利用を考えての撮影を行なっています。

『idea note』100号 P4〜5
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http://www.toppan.co.jp/solution/ideanote/paraly/ideanote_vol100/pc.html

さまざまな違いがある4Kデータ

さて、本題に入ります。ここからまずは「4Kデータ」とはどういうものか、さらには「マルチユース」に取り組む際にどんなことを頭に入れておけばいいのか、そしてそれを理解した上での「ワークフロー」はどういうものか、といった順に話を進めていこうと思います。ちゃんとした4Kデータが用意できれば「見る」から「感じる」へと表現を進化させることができると思います。

まずは4Kデータの中身を知るところから話を進めていきます。今では小さなカメラから大きなカメラまで、さまざまなカメラで4K映像が撮影できるようになりました。ただし、その中身にはいろいろと違いがあります。そもそも「解像度」すら1つではありません。

「4K」と呼ばれているフォーマットには実は2つのサイズがあるんです。ひとつは「DCI 4K」と呼ばれる、デジタルシネマ規格の4Kです。これは「4,096×2,160」ピクセル、アスペクト比17:9のデータとなります。もうひとつが「4K UHDTV」と呼ばれる「3,840×2,160」ピクセル、こちらはアスペクト比が16:9のサイズとなります。テレビで4Kといった場合はこちらになります。

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機材の選定がクオリティを決める

では、用途にあった4Kデータを作っていくにはどうしたらよいのか、何がデータのクリオティを決めるのかを知っておく必要があります。単純に4Kサイズのデータならばクオリティが高いというわけではありません。白とび、黒つぶれ、フォーカスといった要素がデータ容量に反映されることはありません。

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まず「ダイナミックレンジ」ですが、これにはセンサーサイズが大きく影響をします。少々極端な事例ですが、同じ4K映像を撮ることのできる2つのカメラで考えてみましょう。1つは2,020万画素フルサイズセンサーを搭載したキヤノンを搭載したキヤノン EOS-1D X Mark II。もう1つが1,200万画素1/3インチサイズのセンサーを搭載したiPhone 7。センサーサイズが大きく異なる2つのカメラで比較してみると、その違いがよくわかります。

これら2つのカメラはセンサーサイズが異なりますので、1画素あたりのサイズも大きく違ってきます。計算してみるとEOS-1D X Mark IIの画素サイズは、iPhone 7の約50倍もあることになります。では、画素サイズが大きいと何が違うのかというと、再現できる明暗の幅広さ、つまりダイナミックレンジに大きな差が出ます。また、画角が一定であると大きなボケを得やすいというのがあります。このように、同じ4Kでももともとのセンサーサイズが違えば画質に差が出るわけです。

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続いてはセンサーに光を供給する「レンズ」の話です。デジタル一眼レフカメラのレンズは、4Kよりもはるかに高い解像度である4,000万画素、5,000万画素にも対応していますから問題はありません。さまざまなタイプのレンズがあり、撮影適応能力は非常に高いと言えます。

一方、iPhone 7のような小型レンズも美しい映像が撮影できます。単焦点レンズはセンサーに合わせた設計ができるために画質を上げやすいという有利さがあるんですよね。ちなみにiPhone 7は解放絞りが1.8と非常に明るいレンズで、iPhone 6に比べて1.7倍明るくなっています。だからといってボケないのは焦点距離が非常に短いからなんですね。iPhone 7のレンズを35mmフルサイズに換算すると、おおよそ28mm F12.8というスペックになります。ボケを活かした撮影は難しいということが、これでわかると思います。

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次にお話ししたいのが色の話です。動画の場合はカラーサンプリング方式と呼ばれる方式を採用してデータを軽くしています。これは人間の目が輝度に対する感度が高い一方で、色に対する感度が低いという特性を持っていることを利用したもので、まったく情報を間引いていない「4:4:4」に対し、放送用の素材として使われる「4:2:2」、テレビなどの放送で使われる「4:2:0」と、だんだん間引かれていきます。どの方式で映像を保存しているのかはカメラによって異なりますので、性能の目安として確認しておくのがよいかと思います。

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フォーカスや露出などの設定に注意する

さて、ここまでのは機材の選定でしたが、ここからはその選んだ機材の使いこなし、撮影時に注意すべき点を見ていきましょう。マルチユース・マルチデバイスを前提とした撮影では、動画だけの撮影の場合よりも注意しなければならない点がいろいろとあります。

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そのひとつが「フォーカス」です。静止画は動画よりも画をじっくりと見ることになりますので、マルチユースを考えている場合にはフォーカス精度を十分に高めることが必要となります。そのためには撮影時にフォーカスを確認できるモニターを用意する、さらには信頼のできるAFを搭載するカメラを使用するといったことが大事になると思います。例えばキヤノン EOS-1D X Mark IIなどのカメラが採用している「デュアルピクセルCMOS AF」は非常に精度が高く、特に動く被写体に合わせ続けるような場合は人の目よりも正確にフォーカスを合わせてくれます。

「露出」はレンジにしっかりと収めることを意識する必要があります。写真をRAWで撮るように、logで撮っておけばいいと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、一眼レフカメラの動画撮影ではあまりlogを使えるカメラがありませんし、ワークフローが重くなります。やはりヒストグラムで確認をしながら、しっかりと決め込んで撮影をすることが大事だと言えます。

次に「シャッタースピード」ですが、動画の場合はシャッタースピードを速くしすぎると画面がチラチラしますので、1/30秒が基本になるわけですが、マルチユースを考える場合にはやはりきちんと設定して撮影をしないといけません。

なおフレームレートの落とし穴なのですが、通常は30P、なめらかな画像や若干のスローモーションを撮りたい場合に60Pを使うわけですが、例えばEOS-1D X Mark IIの場合、120Pでも撮影ができます。その場合、解像度がFHDサイズに落ちてしまいますので注意が必要です。こういった機能をきちんと理解して撮影に望むのもとても大事なことになります。

あとは「感度」とノイズの関係です。これはカメラによってまったく特性が違うので、注意が必要です。例えばISO6400でどれくらいの画質なのか、動画では許せても、静止画では気になってしまうということがあります。このあたりは自分のカメラの性能をよく理解して臨まないといけないと思います。

デバイスピクセルとCSSピクセル

さて、こうして機材を選び、設定も行なった4K映像の活用という点でさらに知っておくべき点を押さえておきたいと思います。まずはディスプレイについてですが、以前はMacが72dpi、Windowsが96dpiと決まっていました。1ピクセルをモニターの1ドットで表現するドットバイドットの考え方が成り立っていたわけです。

しかし、いまはRetinaディスプレイのようにディスプレイの1ドットが極めて小さな「高精細ディスプレイ」が増えてきました。iPhoneなどで使われているRetinaディスプレイもそのひとつですね。そういった高精細ディスプレイでは、物理的なハードウェアのピクセルである「デバイスピクセル」と、データとしての理論上のピクセルの「CSSピクセル」の2つのピクセル数に対する考え方が存在します。データサイズとモニター解像度は一致しない場合があるのです。

ですので、たとえハードウェア的に4Kサイズで表示できるディスプレイを持っていたとしても、実際には4K解像度で見ている人は少ないというのが実際のところかと思います。4K動画は非常に重いですしね。つまりディスプレイ向けの動画を作成する場合、本当に事前に4Kが必要なのか考える必要がある。その点をよく検討してから撮影をする必要があるでしょう。

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印刷する場合に知っておくべきこと

次に「紙」に出力する場合に触れていきたいと思いますが、まず知っておいていただきたいのが、印刷の場合とインクジェットプリンターで出力する場合とでは、同じ大きさに出力する場合でも必要とされる画像のサイズが異なるという点です。印刷で必要となる解像度は、標準的な175線は350dpiに相当すると言われています。一方でインクジェットの場合は、およそ200dpiあればそれ以上に解像度を上げてもそれほど変化がないと言われています。

ではA3で印刷をしようという場合にどれくらいの解像度のデータが必要となるでしょうか。A3は長辺が420mm、短辺が297mmです。それぞれをインチに変換して350をかけると5,787×4,093ピクセル、およそ2,368万画素のデータが必要になるというわけです。

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ではなぜ印刷はここまで多くのデータが必要なのでしょうか。印刷データは先ほど申し上げたように175線、つまり1インチの中に175個の点を打ちます。それなのになぜ350dpiのデータが必要になるのかというと、印刷が網点を使って色を表現する方式を採用しているからなんです。

印刷では50%のグレーを作ろうと思ったら、塗りつぶす場合と比較して、50%の大きさ(面積)の点を打ちます。それを遠くから見ると50%のグレーに見えるというのがその基本的な考え方となります。この考え方に基づいてCMYKそれぞれの版を作り、色を表現するというのが印刷の基本です。

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ディスプレイのように、1つのドットごとに色を出せるというわけではないのです。印刷の世界では、この点のことを「網点」あるいは「ハーフトーンセル」と呼びます。この濃淡を面積で表現するハーフトーンセルは非常に細かな点で構成されるのですが(縦横16ピクセル)、1つの網点(ハーフトーンセル)は縦横4つのピクセルデータから作られます。そのために倍の350dpiのデータが必要になるというわけです。

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さて、印刷の際に注意しないといけないのは「色」です。印刷の色空間の話をします。色空間というとsRGBとかAdobe RGBがあるというのは皆さんご存知のことかと思いますが、印刷のCMYKで再現できる色空間はそれらと比べてとても狭いんですね。

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図を見ていただくと、sRGBやAdobe RGBの色空間の中で、印刷の色空間に入っていない色というのがあります。CMYKのインクを使っている以上出ないものは出ないので、CMYK変換をする際に、ない色を似た色に割り振っていく作業を行なうことになります。ガマットマッピングと言って、ここが印刷データを作る際のポイントとなる部分です。この変換は印刷会社の仕事ですが、CMYKに近いsRGBからやるほうが色域が近いのでやりやすい、ということは知っておいていただけたらと思います。なおこの変換はPhotoshopで「CMYKシミュレーション」をしていただくことで、色がきちんと表現できるかどうかがわかります。事前にチェックをしていただくのがいいと思います。

まとめとして、4Kデータがどれくらいのサイズで出力できるのかを見ていただこうかと思います。インクジェットプリンターであれば52.02×27.43cm、印刷であれば29.73×15.78cmで印刷が可能になります。

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実際のワークフローで注意すべき点

さて、ここまでの知識を背景にワークフローを考えてみたいと思います。ここではソニーのα7R IIとEOS-1D X Mark IIの2台を使いました。この2台は動画はもちろんスチールがしっかりと撮影できるカメラでもあります。スペックも高く、非常に戦闘力が高いカメラです。もちろん4K映像が撮影できます。そしてもうひとつiPhone 7。こちらもとてもよくできたカメラだと言えます。

まずEOS-1D X Mark IIですが、これはDCI 4Kでの撮影ができます。スーパー35という動画の世界でよく使われるフォーマットより少し大きいサイズにクロップされドットバイドットで撮影されます。このスライドの赤字のところが各々のカメラのいいところです。4Kで60Pが撮れること、デュアルCMOS AFがついているところも素晴らしいですね。

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次にα7R II。こちらで撮影できるのはいわゆるTVサイズの4Kですが、35mmフルサイズとスーパー35を切り替えて撮影できる点が大きなメリットです。どちらで撮るか、それぞれメリット・デメリットがあるのですが、例えばフルサイズは大型であるメリットが当然あるのですが、その一方でローリングシャッターなどの問題がある。それを避けるためにスーパー35に切り替えてクロップして撮るといったことが可能です。

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環境光だけという暗い条件で撮影をしています。こちらはソニーの90mmのマクロで、ボケもいいですね。ISO6400という高感度でもノイズは少ないです。途中から1D X Mark IIに切り替えて60Pを撮っています。シズル感を出したい時に便利です。ちょっとざらつくのかなという気がします。

ではここから印刷物に切り取ってみたいと思います。こちらはα7R IIの映像です。Photoshopで動画ファイルを開くとタイムラインが出てきますので、レイヤーとして扱われます。このレイヤーを画像統合とすると1枚のTIFFデータになります。こうして簡単にデータが作られていきます。

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次に1D X Mark IIのデータです。こちらも作業方法は同じです。主に調整したのはシャープネスです。Photoshopのスマートシャープで少しノイズを取りつつシャープネスを高めています。こうしてみると1秒間に30コマ、60コマがあるわけですから、いいカットを選ぶこともできる。そういう感覚で使えると思います。

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これを書き出すと1枚の画像になります。では実際にこれを印刷してみるとどうなるか。実際のデータから切り出したものをご用意しましたのでご覧いただければと思います。サイズの問題がなければ十分に利用できるものになることがお分かりいただけるかと思います。

α7R IIの4K動画から切り出した画像
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※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

EOS-1D X Mark IIの4K動画から切り出した画像(下も同じ)
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※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示

次にiPhone 7で撮影した動画を見てみましょう。最初にも言いましたが非常にきれいです。映画などでも使われているようです。小さいのでアングルに工夫ができたり、複数台使うといったことができたり、この作例のようにパースのついた寄り絵が得意です。ノイズが若干気になりますが、これは考え方次第という気もします。この4K動画から印刷物を作ることは十分可能だと思います。

ただし、絞りやシャッタースピードなどを自由に設定できないので、悪条件の撮影では切り出しに適したクオリティにすることは難しいと思います。動き物は切り出した画像がブレているので、使用には注意してください。

iPhone 7の4K動画から切り出した画像
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※画像をクリックすると別ウィンドウで元データを表示


さて最後に、ワークフローでポイントになる部分をまとめておきたいと思います。ここまでお話ししてきたとおり、以下のような点に注意しつつ、データを作成していただければと思います。

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フルハイビジョンはたかだか200万画素でしたが、4Kはその4倍、表現力の部分でも圧倒的に良くなっています。フォトグラファーにとっては、これまでの経験が活きる分野になっていると思います。ぜひとも挑戦していただけるといいと思います。

それでは今日はここまでにさせていただきます。どうもありがとうございました。

取材:小泉森弥表示

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