デジタルフォト&デザインセミナー2012

3DCG Session「WOW 流 ヴィジュアルの作り方〜映画『宇宙兄弟』のオープニングムービーメイキング〜」

講師:高野直樹(WOW.inc ビジュアルデザイナー)
聞き手:宋明信(オートデスク メディア&エンターテインメント シニア アプリケーション エンジニア)

「デジタルフォト&デザインセミナー 2012」の3つ目のセッションでは、ビジュアルデザイナーの高野直樹氏(WOW)による3DCGを駆使した映像制作手法が披露された。「Autodesk 3ds Max」と「Adobe After Effects」を連携させ、どのように映像を作成するのか。手がけた数々の作品と、現在公開中の映画「宇宙兄弟」のオープニングムービーのメイキングも解説された。

3Dを使った映像作品制作の流れとは

高野直樹 WOWの高野直樹と申します。デザイナーです。

宋明信 オートデスクの宋明信と申します。今日はよろしくお願い致します。

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高野 直樹 氏
東京と仙台に拠点を置く、ヴィジュアルデザインスタジオWOWのビジュアルデザイナー。CMやVP、映画などのCG製作、CM演出を行なう。

高野 まずはざっくり、我々がどんな仕事をしているのか説明させていただきます。うちは映像がメインの会社ですが、今はいろいろな案件をやっています。業務形態で言うと、CMや広告関係が3割です。そして展示系、インタラクションとか、毎回仕事ごとにフォーマットが違うものが3割。その次が開発ですね。携帯電話だったり、いろいろなもののUI(ユーザーインターフェース)やアプリケーションの開発が3割。残りの1割が海外案件です。会社としては東京と仙台、あとは海外案件用の事務所がロンドンにある、全部で40人弱の会社です。

CMのように代理店さんがいて制作会社さんがいて、監督がいて、監督から弊社にCGの発注があるということもあるんですけど、最近ではクライアントさんと直にお仕事をさせていただくことも増えてきました。ディレクションを含めてトータルでお願いしますという案件ですね。そういうことで最近のお仕事をいくつか紹介させていただきましょう。これは、Bang & Olufsenというドイツのオーディオメーカーですね。


 高級オーディオですね。

高野 そうですね。Bang & Olufsenが新しいテレビ「BeoVision 4」を出すので、日本での発表会用の映像を何か作ってくださいというお話がうちに来ました。これは筐体がアルミの削り出しのようになっています。ですので、その質感を活かしてそれをアピールする映像を作ってくださいということで、うちのほうでディレクションして作りました。


 製作期間が短かったと聞いたのですが、実際どれくらいだったんですか?

高野 短かったですね。10日もないです。CG作業的にがっつりやったのは2、3日です。あとはちょっとずつ修正や調整をしました。では、どういうふうにしてこういうものを作ったかということをざっくり説明してみます。

 これは「Adobe After Effects」ですか?

高野 そうです。まずは1回、簡単にラフでもいいので全体の流れがわかるものを作ります。アニマティックスとかプリビジュアライゼーションですね。こうすることによって、何カット作業しなきゃいけなくて、どういうふうに見えるんだというのが叩き出されるので、あとは逆算して何日でやろうかとか、ここはどういう作り方でやろうかとかを決めます。これがないと作業ができないですね。

img_event_dpds201203_02.jpg実際の作業に入る前にAdobe After Effectsを使ってラフを作り、全体の流れを掌握する。

 無駄な作業をしないように、ということでしょうか。

高野 そうですね。無駄な尺を作らないようにする意味がありますね。その上で、3Dソフトで作業をします。

 今開いたのがオートデスクの「Autodesk 3ds Max」ですね。

高野 はい。説明しにくいのですが、この映像は基本的には3Dで箱を作ってそれを動かすということを、ちょっと複雑にしているだけです。ブロックを割った状態が一つ一つのピースとなり、それに物理計算をかけて飛ばしています。それを逆再生して集まってくるアニメーションにしているということですね。そして、これをレンダリングをしてAfter Effectsに持っていきます。

img_event_dpds201203_03.jpg3ds Maxでブロックを作成する。ピースの一つ一つの動きを手で作るのではなく、ブロックが割れた状態をアニメーションにする。

高野 元のアニメーションは何にもない、グレーの地味な画です。これに対して、After Effectsでどんどんレイヤーを重ねてあげます。After Effectsは、Photoshopにタイムライン、つまり時間軸の概念があるものだと思っていただけるのが一番わかりやすいですね。これのよいところは、レイヤーになっているのでエフェクトをかけてもいつでも戻れることです。一番最後にここをああしたい、こうしたいという問題が出てくると思うんですが、そういう時にいつでも戻れることは大切です。クライアントからリテイクが来た時にも対応しやすい。1枚1枚やり直していたのでは間に合わないですから。

 基本的には、高野さんの仕事としてはまず3Dで素材を作って、それからAfter Effectsで仕上げるということですか。

高野 そうですね。一番大事なのは、全体を見ながら作業することです。アニメーションは速いほうがいいか遅いほうがいいかとか、このカットはもうちょっと立たせたほうがいいとか。細かいことは見ないで全体を見ながら作業したほうが上がりがよくなりますね。細かいことに時間をかけるのは後でやればいいと思っています。

img_event_dpds201203_04.jpg3ds Maxで作成したCGをAfter Effectsで調整する。レイヤーが多くなると、入れ子にして階層を作ってわかりやすくするという。

実写とCGを融合させて1つの作品に

高野 もう1つ、フルオーダーで依頼された広告の案件を紹介します。富士重工業のスバル インプレッサのCMです。これはわかりやすいCGの部分もあると思いますけど、よく見ないとわからないCGというのが結構あると思います。これをどうやって作っているかをお見せしたいと思います。


img_event_dpds201203_05.jpgスバル インプレッサのCMの案件。インプレッサが夜の街並みを走り、ヘリコプターのライトで照らされるという映像だ。

 一般の人から見ると、どこがCGというのがわからないでしょうね。

高野 映像をやっている方が見ると、ヘリコプターがCGというのはわかると思います。それ以外はどうやっているの?というのがあると思います。例えば、車へのライティングとかですね。こういうものをCGでやらないと実写の映像となじまないんです。

 これ、車は実写ですか?

高野 いや、これもモデルですね。メーカーさんからCADデータをいただいて、CGソフトで読めるように変換して作業しました。

 撮影している時は、実際に車を走らせているんですよね。

高野 そうです。これが3ds Maxで、実写の背景にCADのモデルを読み込んでいる状態です。まず、撮影しているカメラがどういう動きをするかをトラッキングしてからCGの作業に入ります。

img_event_dpds201203_06.jpg実際に撮影した車に3Dのモデルを合わせていく。

 トラッキング作業は何でやったんですか?

高野 これは「boujou」というトラッキングソフトですね。カメラの動きをここで追っかけて、その後に車の動きは実際に撮影した動きに手で合わせています。地道な作業ですけど、目合わせですね。例えば、この部分は車にヘリからの光が当たっている部分です。でも、撮影の時はヘリコプターを飛ばしていないので、撮影した車にも光が当たっていません。そこで、3Dで作成した車にハイライトを入れていきます。しかもこれ、途中でちょっと光をゆがませているんですよ。デフォームをかけていて、形をぐにゃぐにゃして合わせます。

img_event_dpds201203_07.jpg3dx Maxで光が車に当たる様子をざっくり合わせておいて、あとはAfter Effectsのコンポジションで調整する。

 このボリュームライトとかの軌跡なんていうのは、After Effectsでの後処理ですか?

高野 はい、そうですね。後処理です。

 ライトの位置とかも手で合わせたりしているんですか?

高野 ライトの位置なんかは3ds MaxからAfter Effectsにそのまま書き出せるんで、それに対して追従させています。After Effectsであとからやっちゃったほうが速いですね。なるべく3Dの作業は軽くして、2Dでできるところは2Dでやってしまおうという。それが結果として一番速かったりします。3ds MaxとAfter Effectsはうまく使い分けていますね。

 ちょっと宣伝になっちゃいますが、3ds Maxでのライトの位置とかカメラの情報というのが、After Effectsで取り込めるようになっています。2つを使うことが今やりやすくなっていいですよね。

無駄な手間なく広告案件を進めるには

高野 こういった広告案件の進め方の流れですが、最初どういうものを作れるか?ということから始まります。まず頂いた車のモデルデータのチェック。変なものがないか、ポリゴンがバキバキしていないか、そういう確認をするために、映り込みだけを入れて計算して様子を見てみます。次に、今度はCGとなるヘリコプターのモデルを作って、テクスチャやイメージを貼り付けてレンダリングします。どういう形でどういうふうに見えるか、どういうデザインなのかということを監督に見せるためです。ここで、最初のチェックに出します。この形でいいですか、ということですね。

img_event_dpds201203_08.jpgヘリコプターはCGで作成するので、どのようなデザインになるかを最初に確認する。

OKが出ると、今度はそれをどういうふうに合成できるのか?という話になるので、サンプルを1枚静止画で作ります。これは実際に青山通りで撮ってきた写真です。ここに、CGで作ったヘリを乗っけているんですね。壁へのライトの影響を作っておいて、手前にヘリコプターを置いて、どんどんエフェクトをかけていくと。

img_event_dpds201203_09.jpg撮影してきた写真の中央のビルの壁に、ヘリから照らされたライトの光を作成する。

さらに、色味を合わせて、ライトや映り込みを合わせます。このへんは、写真で細かくレフ板の位置を変えるというのと、ほとんど考え方が同じだと思います。それがタイムライン上で動画でできるよというだけで。そして、個々に対してフォーカスを入れて終わりということですね。こんな雰囲気でどうですか、と監督に出すわけです。

img_event_dpds201203_10_a.jpg上空にCGで作成したヘリを配置し、色味などを合わせて作成する映像のイメージを大まかに作成した。

 被写界深度もAfter Effectsでの後処理ですか?

高野 基本的にそうですね。3Dでも付けることができるんですけど、いかんせん時間がものすごくかかるので、修正があった場合に大変になります。クライアントからの修正は必ずどんなケースでも入るので、修正が入ることを前提にワークフローを組むというのは必然です。それがないと仕事が終われないので。

そのほかにも、例えば地面を濡らしたいという要望がありました。でも、この撮影はロスで行なわれたんですが、それを撮影時にやると水をまいたりする必要があってすごくお金がかかってしまいます。ですので、CGでお願いしますということになりました。これもレイヤーに重ねていったんですね。

 このレイヤーもCGですか?

高野 そうです、映り込みのレイヤーですね。どうやって作るかというと、こういう設定で作っておいて、カメラの動きを合わせる。そこに対して背景の街並みなんかを置いていくわけです。

 これは街並みとかはプロジェクションマップですか?

高野 そうですね。BOXを背景のビル群に合わせて配置して、イメージを投影して、その上で地面に対してそれらを映り込むようにして出したのがこれです。

img_event_dpds201203_11.jpg濡れた地面に車や背景が映り込む様子をCGで再現し、レイヤーで重ねる。

高野 2Dで上下反転してやっちゃえばいいと思われる方もいるかと思いますし、ぼくも最初そう思っていたんですけど、やっぱり全然映り込み方が違ってリアルにならないんですね。だから物理世界のことをちゃんと正しくシミュレーションしてくれるという意味で便利ということですね、こういうソフトがあると。

これもみなさん、気づかれている方もいらっしゃるかと思うんですけど、最終的なCMとしての上がりと、作業している時の色が全然違うということがあります。

img_event_dpds201203_12.jpg左が最終的なCMでの色味で、右が製作時の色味。

これは、最終的にこの色にしたかったんでしょうね。僕らは、いただいた背景映像のトーンに合わせて全部作っていきます。そして最後、素材をばらしてポストプロダクションに入って組み上げてもらって、最終的にカラーコレクションしてもらってこうなります、ということなんです。最初から僕らがこの色味に合わせてやってしまうと、全部潰れた状態になり、色情報がなくなった状態で納品することになってしまいます。そうすると、もうちょっと階調を出したい時に出せないことがあります。ですから、色調整は一番最後にやりましょうということになるわけです。

 そういうのを見越して画作りをしているというわけですね。

高野 そうですね。広告の作成の流れはこんなかんじです。

「宇宙兄弟」オープニングムービーでの苦労

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©2012「宇宙兄弟」製作委員会

WOWが制作したオープニングムービーの一部が公式サイトのトレーラーに使われています


 では、今日のタイトルにもなっていましたが、そろそろ「宇宙兄弟」のオープニングムービーをどうやって作ったかをご紹介いただきたいのですが。かっこいいですよね、このムービー。

高野 ありがとうございます。

 これも、アイディアのところからWOWさんで?

高野 一応、「宇宙史を見せたい」というオーダーと(これまでの宇宙飛行士の)「写真を使う」というオーダーが先方からあったのですが、具体的にどういう写真を選んでどういうふうにやるのかというのはおまかせですね。実は、いろいろ難しかったのが、昔の宇宙飛行士の写真の素材の版権です。誰に許可を取ったらこの素材使っていいの?というのがありました。

 ここに出てくる、宇宙に行ったサルの写真も許可を取ったんですか?

高野 はい(笑)。サルも、所有者の方の孫に使っていいですか?と。このガガーリンの左にいる人も誰だかわからない。わからないんで、最終的にちょっと左にレイアウトして黒く潰しちゃえということになりました。なんとなく、人だというのが分かる程度に。そういう権利問題ではいろいろあったんですけど、作業自体はスムーズに進みましたね。先方の1回目のチェックで、「とてもいいです。あとは詰めていってください」というぐらいでした。

この映像は、実際に動かして音と合わせながら「どう見えるんだ」というのを突き詰めていく感じですね。やっていることはとてもシンプルなので、ちょっと経験されている方だったら「ここは全部After Effectsでできちゃうよね」ということがわかると思うんですよね。ですから、あとは動きの気持ちよさを大切にしました。テンポよく動かしてあげるのがとても大事なので。いろいろ試行錯誤して、いいように見えるようにしています。これは3人で作ったのですけど、作業時間もひと月だったのかな。そんなに長くかかっていないですね。

 3Dを使っているのはロケットの発射のところですか?

高野 そうです。ほかのカットで部分的に使っているところもありますが。ロケットのところの映像をちょっと見てみてください。まず、3Dのシーンを作りますね。発射台とロケットがあるという。

img_event_dpds201203_13.jpgロケットと発射台のところのカットでは、モデリングから行なっている。

高野 これは一番キモになったロケットの発射のところのテスト計算です。当然、最初は失敗しますよね。どこのパラメータいじるとスモークがどうなるとか、そういうのをテストしています。

img_event_dpds201203_14.jpgロケット発射時のスモークのシミュレーション。

 これは「Phoenix FD」(3ds Maxのシミュレーションプラグイン)ですか?

高野 はい、そうですね。これが最終段階ですけど、ここにたどり着くまでの試行錯誤の時間が一番かかっています。硬いものを作るというのはCGは得意なんですけど、柔らかいものを作るというのが苦手なんで。最近結構いろいろできるようになってきたんですけど、やっぱり試行錯誤がどうしても必要です。

img_event_dpds201203_15.jpgこのワンカットのシミュレーション計算では、1台のPCで24時間ほどかかったという。

さらに、After Effectsでいろんなレイヤーを重ねていきます。前後のカットが時代がかった写真なので、最終的にそこに合わせるようにコントラストを上げて、彩度も下げて、ノイズも入れて、ということをレイヤーで行ないます。リアルというより「ありそうなんだけどない」、そういうものを作るかんじですね。

img_event_dpds201203_16.jpgAfter Effectsで色の調整を加えていく。地面のところはPhotshopを使ってテクスチャを貼り込んでいる。

高野 ただ、これは最終的にはカメラが上がっていて右に行くので、見えないであろうところは作り込みをしていません。無駄な作業をしないようにしないと、クオリティがいつまでたっても上げられなくなってしまうと思います。ものすごく優秀な人はまた違うんでしょうけど、僕はそこまでできないんで、なるべく手間を省いて、もっと時間をかけるべきところにかけるということです。…これはどんどんレイヤーを重ねていっているので、階層が深くなっちゃっていますね。

 すごいレイヤーの数ですね。

img_event_dpds201203_17.jpgさまざまなパーツや効果をレイヤーで重ね、画を作っていく。

高野 これは多いですね。今だったらもっと減らせると思います。多くしすぎると管理できなくなって、失敗も多くなるので。…今思えばこれはやりすぎちゃいましたね(笑)。

レイヤーを重ねて、どんどん思う画に近づけていきます。これが映り込みのレイヤー、これがハイライトのレイヤー、これがライティングのレイヤーですね。そういったものを分けることができます。例えば、写真でレフ板を当てずに真っ暗にして撮る、レフだけ被写体に写り込ませて撮る、それをPhotoshopで重ねるというようなことがありますよね。CGの場合は、3ds Maxでレンダリングした時に別々に出すようにできるわけです。

 動画であっても、基本的な作業の考え方としては、スチールでやっていることと同じような感覚ということですね。

高野 そうです。それだと一番失敗しないように思います。

CGって、技術がどうこうという話がとても話題に上がるんですけど、結局自分の想像しているもの以上のものは作れません。技術よりも、「上がりをどうしたいか」という、そこを一番大事にして作業していれば結果は必ず出ます。難しそうだということを、あまり考えなくていいと思うんです。一番最初に自分がやりたいと思ったことをやれば、結果としていい作品が作れるということになると思います。

今日はありがとうございました。

 ありがとうございました。


取材:丸山陽子 講師写真:黒川英治

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