2011年12月15日
HP Workstation Zシリーズは、世界最高峰の速度と性能を誇るデスクトップマシン。レタッチカンパニーの「フォートン」ではすでに広告の制作業務に活用している。同社の林俊之さんにHPのワークステーションの使用感を聞いた。
3DCGを使った広告ビジュアルが最近増えている。3DCGはWindows、レタッチや合成はMacで作業するのが一般的だが、それが1台のマシンに集約できるとしたらどんなに便利だろうか。今回は3DCGとPhotoshopの連携という観点から、HP Workstationの実力に迫る。
Photoshopと3ds Maxを同時に立ち上げて作業できる
林俊之 Toshiyuki Hayashi
千葉大学工学部工業意匠学科卒業。2Dと3DCGの技術を駆使した新しい表現や、特殊効果を用いた提案型の仕事を得意とする。
――レタッチャーになった経緯を教えて下さい。
林 大学では工業デザインを勉強していたのですが、研究室にPhotoshopや3DCGソフトがあったので、面白がってさわっていました。それが、この道に進む最初のきっかけだと思います。卒業後はデザイン会社に入ってテレビ番組用のグラフィックなどを作っていたのですが、そこは半年くらいで辞めて、本格的にレタッチや3DCGをやり始めたのはフォートンに入ってからになります。それが2000年です。
最初の頃は、それまでの仕事との違いにけっこう戸惑いました。テレビ放送の解像度って写真に比べるとすごく小さいじゃないですか。特にフォートンがやっている広告写真の仕事はデータサイズがものすごく大きい。でも入ったばかりの頃はそんなことはわからなかったので、テレビくらいの解像度でレンダリングしていたら、先輩から「7000~8000ピクセルで計算しないとダメ」と言われて、びっくりした覚えがあります。
――そうすると、最初からPhotoshopだけでなく3DCGもやっていたんですか。
林 そうですね。以前はShadeを使っていたのですが、フォートンに入ってからはAutodesk 3ds Maxを使っています。一方レタッチの仕事ではMacを使うので、コンピュータはWindowsとMacの両方をずっと使っていました。といっても、常に3DCGソフトを使っているわけではなくて、それもできる、みたいな感じです。Photoshopだけの普通のレタッチもやりますし。
――WindowsマシンにPhotoshopは入れていなかったんですか。
林 入れていましたけど、本格的な処理というか、フォートンの仕事のレベルでPhotoshopのレイヤーを積んでいくとどうしても重くなってしまうので、そういう作業はMacでやっていました。
――Photoshopを動かすのはMacの方が向いていたんですか。
林 PhotoshopはどちらかというとMacのプラットフォームで育ってきたソフトなので、昔はMac版の方が安定している印象が強かったですね。特にOS 9の頃は明らかにそうでした。10年くらい前は、なぜかわからないけれど、Windows版は10秒くらい止まったりとか、描画のちょっとしたタイミングがMac版と違うといったことがありました。
――最近はどうですか。
林 MacのCPUがインテルに変わって、PhotoshopもCS3ぐらいになった頃かな、そういう差を感じなくなってきました。むしろ今はWindowsのほうが追い抜きつつあるのかなと思います。
――そういう状況の変化もあって、Mac ProからHP Workstation Z400に乗り換えたわけですね。
林 2010年に、会社全体としてメインマシンをHP Workstationに切り替えていくことになりました。個人的にはそれ以前からWindowsでも行けそうだなという読みはありましたが、いざ乗り換える段になると、やはり安定感や安心感の面でMacのほうがいいのかなという気持ちもありました。でも実際にHP Z400を使ってみると杞憂に過ぎなくて、Photoshopに入ってしまえばMacもWindowsも関係ありませんでしたね。
――Z400に乗り換えてから、どんなところに違いを感じますか?
林 一番大きな違いは、これまでMacとWindowsの2台でやっていたことが1台で済むようになったことですね。Photoshopはメモリを大量に消費するソフトですが、いまは24GBを積んでいるので、Photoshopと3ds Maxを同時に立ち上げても問題ありません。両方ともフルに演算能力を使うわけにはいかないのですが、Photoshopでメインの作業をしながら、裏で3DCGのレンダリングをするとか、それぐらいのことは余裕でできてしまいます。Photoshopだけに集中して使えばかなりパワフルですし、いろいろな面でありがたいです。
林さんの作業環境。HP製の24インチモニタをデュアルで使用している。
テーブルの下にHP Z400が置かれている。その横には以前使用していたMac Proも見える。
――1台でPhotoshopも3ds Maxも動かせるし、Photoshopのスピードも速くなったというわけですね。
林 そうですね。私は周りからすごくたくさんレイヤーを作るタイプと言われているんですよ。もちろん無駄にレイヤーを重ねているつもりはなくて、Photoshopに新しい機能がついたら、最初にあれこれとトライアルをしてみるんです。気がついたらレイヤーの数がすごいことになっているんですが、これまでMacではそのせいで不安定になっていたのが、HP Z400にしてからは安定するようになりました。
HP Z400ならPhotoshopの機能をフルに使いこなすことができる
――ほかにどんな場面でスピードの違いを感じますか。
林 Photoshopはメモリの容量が一杯になると、仮想メモリにデータを展開するんですが、普通はそこで性能がガクンと落ちてしまいます。HP Z400ではそんな感じは受けません。まず速くて安定したメモリをたくさん積めること、そしてハードディスクの速度がかなり速いんだと思います。
また、レイヤーをたくさん積んでいくと、何かするたびにレイヤーの重なりを再計算して描画しますが、そこでCPUの性能とかグラフィックボードの性能が関わってくると思います。コンマ何秒かの差だと思うんですけど、ペンを走らせるときの反応の差が、使っていてわかるんです。そこにストレスを感じるかそうでないかは、気分的に全然違います。
――スピード以外に、Photoshopの機能面ではどうですか。
林 Photoshopはバージョンが上がるごとに便利な機能がどんどん増えていますが、本当に重いデータでそれを使いこなそうと思ったら、安定したマシンが必要になります。スマートオブジェクトなんかがそうですね。以前に使っていたMac Proでスマートオブジェクトをごりごり使おうとすると固まってしまうことがありましたが、HP Z400では重いデータでも問題ありません。
それからPhotoshopのCS4、CS5では、グラフィックプロセッサーのOpenGLを使って描画を高速化していますが、これも最新のマシンでないと実用的には使えない機能です。
――OpenGLはオンにして使っているんですか。
林 HP Z400ではだいたいオンにしていますね。グラフィックボードの問題もあると思うんですけど、一昔前のMac Proでは処理速度が落ちてしまうのでオフにしていましたから、そこはやっぱり差がつきますね。
パンやズームの表示、カンバスの回転がスムーズになったりと、ちょっとしたことなんですけど、そのちょっとしたことをストレスなく使えるのがいいですね。ちょっと髪の毛を描こうかなと思ったときなど、絵を描く人ならわかると思うんですけど、手が動く向きに、描きやすい向きにカンバスを回しますよね。それと同じことがPhotoshopで出来る。絵を描いたことのある人ほどいいなと思える機能だと思います。
ものすごくたくさんレイヤーを積む時はOpneGLはオフにしますが、普通の仕事だったら全然問題ないので、その辺はうまく使い分けています。
――3DCGのほうで、Z400にしてから便利になったとか、スピードが速くなったりしましたか。
林 ありますね。CPUのスピードが倍になればレンダリングの時間は半分になるので、トライ&エラーの時間も短縮されますし、グラフィックボードの性能が上がると扱えるデータ量やポリゴン数も増やせます。私の使い方としては3ds MaxとPhotoshopを連携して行ったり来たりするので、両方立ち上げたままストレスなく作業できるというのは大きいですね。
――乗り換えにあたって、周辺機器等はなにか工夫をされましたか。
ワコムIntuos4のグリップペン。サイドスイッチ(人差し指がかかっている部分)には、マウスの右クリックが設定されている。
林 以前使っていた3DCGのマシンも実はHP製だったので、Z400になってもキーボードなどは特に違和感はありませんでした。工夫と言えば、タブレットのペンについているサイドスイッチに右クリックを割り当てているぐらいですかね。私は3DCGでもタブレットを使っているのですが、右クリックがないと操作ができないので、もともとそうやって使っていましたが、Macしか使っていなかった人だと慣れが必要かもしれませんね。
私以外のレタッチャーはみんな一番太いラバーグリップに付け替えていて、サイドスイッチは全然使えない状態になっているので、タブレットのファンクションキーに右クリックを設定している人もいますね。私はグリップを替えないでそのままで使っています。
1台のマシンに集約することでさらなる表現の追求が可能に
――Photoshopと3ds Maxの連携について教えて下さい。
林 3DCGの画像を3ds Maxから書き出してPhotoshopで合成する場合と、その逆に、3DCGのテクスチャなどをPhotoshopで作って3ds Maxに持って行く場合があります。Photoshopと3ds Maxの2つで1つのツールぐらいに考えていますね。
──そうすると両方のソフトが同じマシンで動くメリットは相当なものですね。
林 そうですね。以前はネットワーク越しにデータをやりとりしたり、USBメモリで持ってきたりしていましたから、1台のマシンになってすごく効率化できました。いくらUSBメモリでデータを落とすのが簡単だって言っても、抜いて差して、みたいなことがあるとやっぱり面倒だから「とりあえずこれぐらいでいいや」みたいな感じになっちゃうんですが、そういう垣根がなくなったのはすごく大きいと思いますね。
ヨコハマタイヤのビジュアルを作ったときも、Photoshopと3ds Maxを行き来しながら作業しました。3DCGの鎧武者をPhotoshopに持ってきて、空と地面の写真素材と合成しています。グローバル展開のカタログの表紙ですが、いかにも日本的なビジュアルが海外では人気があったみたいです。
横浜ゴム「TYRE CATALOGUE 2010」PART1
A&P=マッキャンエリクソン+エージー CD+C=中村猪佐武 Pl=安部雅也 AD=熊澤敢太 D=影山大祐 デジタルワーク=林俊之
――この鎧武者のモデリングもされたんですか。
林 いえ、同じビジュアルでムービーの展開もありまして、そちらはプロダクションI.G.さんが担当されているので、鎧武者のデータはI.G.さんにもらったり、タイヤはヨコハマタイヤさんのCADデータから変換しています。ムービーはI.G.さんが得意なアニメーションの表現になるので、グラフィックの方は写真的な格好良さを追求しようということで、3ds Maxでポーズとカメラアングルを決めて、Photoshopで鎧のテクスチャを作り込んでレンダリングしています。
――Photoshopではどういう作業をされたんですか。
林 鎧武者の配置はPhotoshopで組み上げています。ちょっとした変形も加えていますし、全体のバランスを考えながら光の加減も作り直しています。もちろん3DCGでもライティングは行なうんですが、もっとはっきりタイヤを見せようとか、空をもう少し明るくしたいので鎧のこっち側から光を受けるようにしようとか、そういう部分はPhotoshopでやっています。鎧は基本的に真っ黒なのですが、それでもなんとかディテールが見える状態にするために、ギリギリの部分のトーンを調整したりバックライトを入れたりして、鎧の立体感を調整しています。
――光の当たり方は、Photoshopで調整したほうがいいんですか。
林 3D的な正確性を求めるか、スピードを求めるかによりますね。3DCGは言ってみれば光のシミュレーターなので、この辺の影がこう出ますよっていうのを正確に再現してくれる。でもPhotoshopのブラシで描けるものなら描いちゃった方が早い。長年やっているので頭の中で想像しただけで描くこともできるんですけど、ある程度複雑なものだったら1回3DCGでシミュレーションして、それをベースにPhotoshopで組み上げていきます。
このビジュアルを3DCGだけで完成させようとすると、すごく時間がかかると思います。写真で言う一発撮りですね。複雑な絵柄を一発撮りしようとすると、撮影にはやっぱり時間がかかるじゃないですか、それと同じです。CGしかできない人だとそのやり方しかできないと思いますが、3DCGとPhotoshopのいいとこ取りをすることで選択肢は広がるし、時間的な制約もクリアできるし、最終的なビジュアルも違ってくる。逆にPhotoshopしか知らない人だと、このビジュアルは作れないわけです。
――Photoshopと3DCGの両方を使えるからこそ作れるビジュアルですね。
林 1台のマシンで両方の作業ができることで、効率面はもちろん、これまで以上に表現の追求ができるようになりました。もうMacの環境には戻れないですね。
マシンのスピードは新しいテクニックの開発にも直結する
撮影:坂上俊彦
――そのほか、HP Z400のメリットはありますか。
林 さきほども言いましたが、Photoshopの新機能を試したり、新しいテクニックなどの技術開発をするのがわりと好きなので、マシンが速いのは助かります。新しい機能を試す時はトライ&エラーが多くて、時間がかかるじゃないですか。HP Z400くらいのマシンスペックがないと、Photoshop CS5の機能を使いこなせないなと実感しているので、その中で試さないと意味がないと思うし。そのスピード自体も技術というか、大事なことだと思います。
――ソフトがバージョンアップしたら新機能は一通り全部試してみるんですか。
林 基本的にはそうですね。マニュアルも全部読むようにしています。
――Photoshopの説明書は最近オンラインマニュアルになっていて読みにくいと思うのですが、あれも全部読むんですか。
林 新しい機能については読みますね。マニュアルを読むのが好きなんです。
――なるほど、工業デザインを勉強されていただけあって、理系的な考え方もできるんですね。
林 社内でコンピュータが壊れたり、ネットワークに問題が発生するとよく直しに行っていますし、絵描きのわりに頭は理系かなと思います(笑)。
――Photoshopと3ds Max以外に、ソフトは何を使っていますか。
林 フォートンでは基本的に全員のマシンにAdobe CSのProduction Premiumが入っているので、IllustratorやAfter Effectsも入っています。Illustratorは、デザインまではやりませんが、ちょっとしたパスを切ったりデザイナーさんとの連携で使ったりします。After Effectsもエフェクト的な部分で使うことがありますね。
――After EffectsとPhotoshopを連携させるんですか。
林 Photoshopにはないエフェクトというか、すごくいい機能がたくさんありますね。静止画にも十分使えます。それからちょうど今、フォートンは会社として動画のレタッチを本格的に始めたところなので、動画のチームからも技術開発に協力してほしいと言われているところです。
――HP ワークステーションを導入して、ますます技術開発に磨きがかかったというわけですね。
林 コンピュータの速さというのは、単にCPUやメモリの問題ではなく、またWindowsかMacかという次元の話ではなくて、マシントータルで全部のパーツの連携がうまく取れているかどうかだと思います。特にPhotoshopのように限界までマシンの能力を使うようなソフトの場合、全体の設計が大事になります。
Macというコンピュータは長年、アップル1社だけでOSからハードまでを製造してきたので、かなりバランスのいいマシンだと思いますが、HP Workstationも同じような状況というか、それよりもっといい環境を提供してくれているように思います。今後、その部分をもっと突き詰めてくれると、私たちレタッチャーにとってはすごくありがたいですね。
関連情報
日本HP ワークステーション 製品ページ
HP Workstations
HP Z400 Workstation HP Workstationシリーズの中では比較的低価格なモデル。4コアのインテルXeonプロセッサーを1基搭載し、カスタマイズで6コアのプロセッサーを選ぶこともできる。林さんが使用しているZ400は、CPUが4コアの2.66GHz、メモリが24GB、OSはWindows 7 Professional 64bit版という構成だ。詳細 |
HP Z210 SFF/CT Workstation 2011年4月に発表された省スペース型ワークステーション。Sandy Bridgeアーキテクチャを採用したインテルXeonプロセッサー E3ファミリーを搭載し、2コアと4コアが選べる。フォートンで短期間使用してもらったが、「レタッチャーのセカンドマシンとして使用するのに十分なスピード」という評価を得た。詳細 |