HP ワークステーション 実機レビュー

デスクトップワークステーション Zシリーズをテストする

株式会社2055 田中大介(+3)/藤田猛士(+M)/入江佳宏(+R)

HPワークステーションはクリエイティブの現場でどこまで使えるのか。広告写真を中心に、3DCG、ムービー、レタッチなど様々なビジュアル制作に取り組んでいる株式会社2055で、その実力をテストしてもらった。

写真や映像でも期待されるHPワークステーション

株式会社2055は関西に拠点を置く広告ビジュアル制作のプロダクションです。元々は広告写真スタジオとしてスタートした弊社ですが、広告ビジュアルを総合的に展開していくため、数年前に「スタジオ2055」から「株式会社2055」へと社名を変更。「想いをカタチに」を理念に、現在では広告写真を主軸として、専門的に3DCG、ムービー、レタッチを行なう、「+3」「+M」「+R」という3事業部を設置し、幅の広いビジュアルを一元的に制作しています。

写真でも映像でも3DCGでも、ソフトウェアやハードウェアの進化は止まるところを知りません。データサイズはどんどん巨大になっており、それを扱うためコンピュータの環境は常にベストなものが要求されます。今回テストする機会を得たHPのワークステーションは、まさにそのようなニーズに最適のマシンだと思います。

写真の世界ではあまりなじみがありませんが、3DCGの世界ではHPワークステーションが広く使われています。実際に弊社でも、レタッチと映像の担当はMacで作業していますが、3DCG担当はHP Z800を導入しています。そこで今回は、レタッチと映像でもHPワークステーションを使用してみたいと思います。

HPワークステーションは多くのモデルで、NVIDIA社の最新のグラフィックボードQuadroシリーズが組み込まれた状態で販売されています。このQuadroシリーズはCUDAという並列計算アーキテクチャに対応しており、グラフィックボード上のGPUパワーを利用することにより、計算処理能力を劇的に向上させることができます。3DCGの定番ソフトAutodesk 3ds Maxの最新バージョン2012や、動画編集ソフトのAdobe Premiere Pro CS5.5と組み合わせると、非常に高いパフォーマンスを発揮すると言われています。

今回、「+3」「+M」「+R」の各事業部が、テスト機を試用。それぞれの立場から、様々なテストなどを行ない、レポートしています。3ds Maxの検証は「+3」の田中大介、Premiere Proの検証は「+M」の藤田猛士、Photoshopの検証は「+R」の入江佳宏が行ないました。なお、レポート全体のとりまとめは私、藤田が行なっていることを申し添えておきます。

3DCGの操作性はグラフィックボードの性能がカギを握る

img_products_hp_2055_10.jpgQuadro 6000を組み込んだZ800で3ds Maxの動作を検証した。

今回、3DCGセクションの「+3」は、普段自分が使っているZ800と、Quadroシリーズの最高峰Quadro 6000を組み込んだZ800でマシン比較を行なうことにしました。それぞれのスペックは以下の通りです。弊社使用のZ800よりも、テスト機のZ800の方がCPU、グラフィックボード、メモリとも、ハイスペックとなっています。

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まずは弊社で使用しているZ800のグラフィックボードNVIDIA Quadro FX1800を、NVIDIA Quadro 6000へ交換してパフォーマンスを検証してみました。その結果、操作性、描画性ともに、かなり向上したと言えます。

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仕事上、CADデータから変換した3ds Maxのデータが多いので、ポリゴン数は必然的に増えてしまいます。ポリゴン数が多いとアングルを変更しただけで3ds Maxが固まってしまうことが多々ありますが、Z800とQuadro 6000の組み合わせでは、1000万ポリゴンクラスのハイポリゴンデータでも操作にストレスを感じることなく動かすことができました。操作性の向上は作業のスピードに直結し、プロジェクトの効率化が図れると思います。またマテリアルスロット等、解像度の高いテクスチャを使用していても、表示速度が早くなりました。

img_products_hp_2055_11.jpgグラフィックボードをQuadro 6000へ交換すると、操作性、描画性とも大幅に向上した。

Autodesk 3ds Maxのレンダリング時間を比較

また、Autodesk 3ds Maxの最新バージョン2012とNVIDIAのCUDA対応ボードを組み合わせると、i-rayレンダラのレンダリング時間が大幅に短縮できるということなので、こちらも検証してみました。

①テストマシンHP Z800 + Quadro 6000
②テストマシンHP Z800 + Quadro FX1800
③弊社使用HP Z800 + Quadro 6000

の3パターンで比較テストをしてみました。i-rayのベンチマーク用に、フリースクリプトでCPUとGPUの使用選択ができるIray Manager Maxscriptを使用し、GPUのみで計算させています。

img_products_hp_2055_04.jpgレンダリング時間の検証に使用した3DCGのデータ。

出力サイズは1000×700pixel、使用データはざっくりと作った時計のデータ、環境としてライト1灯、ホリゾント1枚を敷いています。i-rayレンダリング設定は時間での設定とし、満足の行くレンダリング結果が得られた時間を比較しています。

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その結果、グラフに記載したとおり面白い結果が得られました。①の場合30分でレンダリングが完成しましたが、②の場合は2.5時間レンダリングしても満足行く結果にはなりませんでした。また③の場合はマシン全体のスペックは明らかにテスト機に劣っているのに、Quadro 6000へ交換しただけでテスト機とほぼ同じ結果が得られました。このことから、i-rayのGPUレンダリングは、CPUやメモリのスペックにはさほど影響されず、グラフィックボードのみでも十分に満足行く結果が得られるということが分かりました。

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ただし、マシンスペックが他の時間に影響していることも同時に分かりました。高スペックなテスト機に比べて、当社のZ800のスペックではレンダリングのトータル時間に大きな差が出ました。①のテスト機Z800ではレンダリング開始までにi-rayレンダリングの設定時間に関係なく約1分ほどかかったのに比べ、③の弊社Z800ではi-ray設定時間30秒に対して2分30秒かかり、30分の設定時間に対してはなんと12分20秒も時間がかかり、i-rayのGPUを使用する前にメモリやCPUのスペックによって差が出る結果となりました。

高スペックHP Z800とNVIDIA Quadro 6000の組み合わせで3ds Max 2012のi-rayを使用することで、作業全体の高速化が可能となるでしょう。

QuadroシリーズはPremiere Proの真価を発揮する

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EOS 5D Mark IIでのテスト撮影風景。
ムービーセクション「+M」の藤田は、普段MacとFinal Cut Pro 7の組み合わせで編集作業を行なっています。HPワークステーションは今回が初体験ですし、テストしたHP Z800は普段使っているMacと比べると圧倒的な高スペックということもあって、直接的な比較というよりも、Z800+Quadro 6000+Premiere Pro CS5.5の使用感をベースに検証してみました。

Premiere Pro CS5.5に搭載されている映像再生エンジンMercury Playback Engineは、Quadroシリーズと組み合わせることで真価を発揮すると言われていますから、そのあたりも検証したいと思います。

Premiere Pro CS5.5で動画ファイルを操作する

まず、テスト的に撮影したEOS 5D Mark IIのムービーをそのままPremiere Pro CS5.5に取り込んでみたところ、かなりスムーズな再生を体感できました。Premiere Pro CS5.5はネイティブでEOS MOVIEに対応しており、Final Cut Pro 7のようにいったんProResに変換する必要がないことは分かっていたのですが、こんなにスムーズに再生できるとは思っていませんでした。

試しに、現在使用しているMacにもPremiere Pro CS5.5体験版をインストールして同じ動画ファイルを再生させてみたところ、同様にスムーズな再生を見せてくれたのですが、シーケンスにエフェクトを1つかけただけで、まったく再生できなくなってしまいました。

一方のテスト機Z800は「ガンマ補正」「3ウェイカラー補正」「アンシャープマスク」のフィルタをかけても、レンダリングバーは赤くなるものの(アンシャープマスクが高速処理エフェクトではないため)、何の引っかかりもなく再生してくれました。

映像再生負荷が高いH.264のEOS MOVIEファイルがそのまま再生できるのも、実はMercury Playback Engineの64-bit対応+マルチコア最適化によるものだといいます。そういう意味でMercury Playback Engineは、マシンの性能にもよりますが、Macでもそれなりに恩恵があるようです。ただしエフェクトやフィルタは、その種類によってはCUDA対応でないと高速処理できないものもあり、Quadroを搭載したZ800の方が速いという結果につながったのでしょう。やはり、 GPUが真価を発揮する一つのポイントは、CUDA対応エフェクトの高速処理ですね。

img_products_hp_2055_06.jpgPremiere Pro CS5.5とNVIDIA社Quadroシリーズの組み合わせでは、リアルタイムでの編集が可能。

同様に、仕事で使うことの多い、P2フォーマット(AVC intra100/1080P)の動画ファイルを取り込んで、必要以上にフィルタをかけたり、ビデオトラックをいくつも重ねてみましたが、その軽快な動作は変わることがありませんでした。

img_products_hp_2055_07.jpgP2フォーマットのビデオカメラでの撮影風景。

さらに、5D Mark IIムービーのシーケンス(デュレーションは1分)をDVD用のMPEG-2に書き出してみたところ、4分弱で完了。普段使用しているMac+Final Cut Pro 7で、同条件であれば、おそらく30分以上かかると思われるであろう処理ですから、まさに驚異的なスピードです。

しかしながら、マシンそのもののスペックが違いすぎるので、これではMacにとってあまりにも不公平というもの。そこで、同じ素材をProRes422(HQ)に変換しながら取り込み、同等3種類のフィルターをかけてみることにしました。その結果、画質は荒れるものの何とか再生してくれるし(無制限RT)、さらにDVD用MPEG-2に書き出してみると10分程度で完了しました。アプリケーション自体が32bitでも、ここまで頑張れるProResならではの性能は、素直に賞賛すべきところではないでしょうか?

話を元に戻しましょう。編集作業をする者にとって、レンダリングで待たされる、再生がスムーズでない、低画質での編集というのは、ストレス以外の何ものでもなく、編集のリズムを崩されることは、最終的な仕上がりにも影響を与えかねません。

今回のテスト機、Z800+NVIDIA Quadro 6000は、おいそれと導入できる価格帯でないのは確かですが、スペックの高さには眼を見張るものがあり、導入することで、仕事の効率を上げられるのであれば、コスト的な問題を差し引いても余りあります。

アップルからFinal Cut Pro Xが発売されたものの、旧プロジェクトが開かない(アップデートで対応するとのことですが)、インターフェースに馴染めないなどの理由で、Windows + Premiere Proへの乗り換えを真剣に考えている方も多いのではないでしょうか?

とはいえ、その中でも使用環境が変わることへの不安から二の足を踏んでいる人がいるのも当然のことで、現にZ800の実機を触るまでは、自分自身、その一人でした。しかし、Premiere ProにはFinal Cut Proのショートカットがプリセットで入っていますし、エフェクトやインターフェースもほとんど同じ。After Effectsを使っている方であれば、そのアピアランスに違和感を感じることもないでしょう。

エントリーモデルのZ210、Z210 SFFはレタッチの作業に最適

レタッチセクション「+R」は、HPワークステーションのエントリーモデルのZ210と、同じくエントリーモデルで省スペース型のZ210 SFFの2モデルを試用しました。Photoshopで作業する場合は、必ずしもZ800のようなハイエンドモデルでなくてもよいのではないかという観点からのチョイスです。「+R」の入江も同じくHP初体験となるので、主に使用感のレポートが中心となります。

img_products_hp_2055_08.jpgZ210で2GBのPhotoshopデータを動かしても、ほぼストレスはなかった。

Photoshopデータの拡大・縮小や、フィルタの実行速度について

今回は2GBのpsdデータで検証しましたが、データの拡大・縮小や各種フィルタの実行速度などほぼノンストレス。フィルタや変形の実行中に地味な待ち時間が生まれたりしますが、ファイルサイズを加味して考えれば十分納得できる範疇でした。クライアントが立ち会っての処理の際にも、待ち時間を作ってしまうような心配をすることもなさそうです。

撮影時の取り込みスピードもかなり早く、モデル撮影などのように、マシンによるタイムロスでシャッターチャンスを逃すなんてことが許されない場面では、安心して撮影に集中することができます。

img_products_hp_2055_09.jpg省スペース型のZ210 SFFでスタジオでの撮影を行なっているところ。本体の小さいZ210 SFFは使い勝手が良かった。

また、カタログ撮影など、物量と一定のスピードを要求される仕事の場合、裏で現像処理を行ないながら別のファイルをPhotoshopでレタッチする、ということも頻繁に行ないますが、本機ならそういった状況でもスムーズに作業できるのではないかと思います。使用するマシンとソフトの最大限のパフォーマンスを享受したいのであれば1つのソフトのみを立ち上げて作業するのがベストだとは思うのですが、実際の現場ではそうもいかないのが現状です。コストパフォーマンスを考えた上での実力は相当なものだと感じました。

また、Z210 SFFの省スペース設計というのは意外と大きな利点であるように思います。仕事場でマシンの大きさというのは意外に重要で、ペンタブレットを導入する際に手前に大きなスペースが必要になり、使用しているマシンの大きさに頭を悩まされた経緯が過去にありました。この大きさでこの速度を得られるなら、十二分なパフォーマンスと言えそうです。

総括

MacユーザーがWindowsへ移行するというのは、「なんとなく」移行できない人がほとんどだという印象があります。

結局のところ、これといったきっかけがなかったり、ただ単に食わず嫌いの側面が多いように感じます。操作感は「慣れ」の問題が大きいので、マウスからタブレットへの移行のように、一度慣れてしまえばさほど問題はないでしょう。デフォルトの設定ではサムネイルが表示されなかったりファイルの扱い方の違いといった問題はありますが、「そういうもの」と割り切ってしまえば問題なく使用することができます。

各種ソフトウェアの品質向上に伴って、必然的にマシンスペックもそれに見合ったものが必要になり、ハード買い換えの頻度が以前にも増して上がっています。この買い換えのタイミングは誰もが頭を悩ます問題で、特にフリーランスで仕事をされている方にとってハードの買い換えは重要な問題、選択には非常に気を遣います。そういった現状の中で「コストパフォーマンスの高さ」というのは大きな要素だと思います。
  
また、クリエイティブに従事している人間にとってもう一つ重要なのが「安定性」です。納期寸前での修正やクライアント立ち会いの下で制作途中にマシンが落ちてしまう、というのは最も避けたいことの一つでしょう。ムービー編集や3DCG、レタッチでも検証してみましたが、今回の制作にあたりマシンが悲鳴を上げたりソフトが落ちてしまうということはありませんでした。

MacからWindowsへの移行を考えている方にとっても、また更なるスペックを求める方にとっても満足のいく実力を持ったマシン。導入により快適な制作環境になることは間違いないと思います。

関連情報
日本HP ワークステーション 製品ページ

HP Workstations

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HP Z800 Workstation
HP Zシリーズのフラッグシップモデル。6コアのインテルXeonプロセッサーを2基搭載し、NVIDIA Quadro 6000やNVIDIA Tesla C2050 GPUカードも搭載できる。詳細
HP Z210 SFF/CT Workstation
2011年4月に発表された省スペース型ワークステーション。Sandy Bridgeアーキテクチャを採用したインテルXeonプロセッサー E3ファミリーを搭載し、2コアと4コアが選べる。詳細

NVIDIA

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NVIDIA® Quadro® 6000
革命的なNDIVIA Fermiアーキテクチャを組み込んだNVIDIA® Quadro® 6000グラフィックスは、448のCUDA 並列プロセッサコアと6GBのGDDR5ビデオメモリを搭載し、デザイン、アニメーションやビデオアプリケーションなど様々な分野のアプリケーションを最高5倍も高速に実行する。

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