ペンタブレット・クリエイター

ヴォンズ・ピクチャーズ

ヴォンズ・ピクチャーズは撮影から画像処理、Web、3Dまでをトータルに手がける制作会社である。スタッフの多くがペンタブレットで作業をしており、なんと19台ものIntuosが社内で稼働しているという。ヴォンズ・ピクチャーズとペンタブレットの関係について、同社の代表・片岡竜一さんに話を聞いた。

画像処理からWebまで様々な仕事を効率化できる


アルパイン株式会社 企画制作=岩瀬徳英 画像処理=大里宗也(VONS pictures)

—まず、ヴォンズ・ピクチャーズの成り立ちを教えてください。

片岡 私はもともとフォトプロダクションで撮影の仕事をしていたのですが、15年ほど前に画像処理部門にも関わるようになりました。フォトグラファーとして画像処理の作業に立ち会っているうちに自分でもやってみたくなり、「これからはレタッチャーが主役になる会社が必要だ」と考えて、1997年にヴォンズ・ピクチャーズを設立しました。


ヴォンズの代表 片岡竜一さん
その3年後にはWeb部門ができました。同じメーカーのカタログの仕事を続けているうちに、そのメーカーの画像が全て集まるようになり、「どうせならWebも作ってほしい」と頼まれるようになったからです。3Dは設立当初から画像処理の延長として取り組んでいましたが、2002年頃から手軽に分散レンダリングができるようになったので、3D部門を作って本格的に取り組むようになりました。その後、撮影部門も新たに加えて、広告ビジュアルのワンストップソリューションを目指しています。現在のスタッフ構成は撮影が2名、画像処理が8名、3Dが3名、Webが6名です。
ダイワハウス ジーヴォ
企画制作=電通 ECD=中治信博 CW=関陽子・塚本真理子 AD=佐藤拓 D=葛西健一(アドブレーン)・長谷康平(アドブレーン)・脇田慎一(アドブレーン) P=日下将樹 CG=濱中英華(VONS pictures)


—どんな業務でペンタブレットを使っているのですか。

片岡 まず当然ですが、画像処理部門は全員ペンタブレットで仕事をしています。Web部門では、FlashのScriptを書くことが多いのでマウスとキーボードですが、Photoshopでのデザイン作業はペンタブレットになります。それから3D部門ですが、3ds Maxの時は使いませんが、Photoshopで作業する時はペンタブレットを使います。ZBrushを使うようになったら3Dのオペレーションもペンタブレットになるかもしれません。社員それぞれのペンタブレットに加えて、クライアント立ち会いルームに置いてあるものや、持ち運び用のA5サイズのものまで含めると、ペンタブレットの台数は全部で19台になります。

ワコムのIntuosシリーズは、1998年に最初のモデルが出てからずっと使っています。ちょうど会社を立ち上げた翌年だったので、そのときペンタブレットを全てIntuosに入れ替えています。ただペンタブレットはなかなか壊れないので、初代のIntuosもいまだに現役で活躍しています。道具は手になじんでいるものを使うのが一番ですからね。


チーフCGデザイナーの大里宗也さんは、会社でも自宅でも初代Intuosを使っている。「長く使っているので、初代Intuosがいちばん手になじんでいるんですよ。自宅用に買い増しをしようと思ったら、どこにも売っていなくて、ネットであちこち探してようやく手に入れることができました。Intuos3にも初代Intuosのペンを復刻したオプションペンがあるんですよね」

チーフCGデザイナーの山崎政男さんは、Intuos2のユーザー。イチから描き起こす仕事が得意で、上は商品パッケージ用イラストを描いているところ。「Intuos3と2では微妙なフォルムの違いがあって、手が当たる部分の感触などは、使い慣れた2のほうがしっくりします。手を使う仕事なので、そういう細かい部分にこだわってしまいますね」


—ペンタブレットはどんなメリットがあるでしょうか。

片岡 長いことペンタブレットしか使ってないので、あまり考えたことがないですね(笑)。あえて言うなら、意識をペン先の1点に集中できるので、すばやく正確に作業ができることでしょうか。たとえば切り抜きの時などは特にそうですね。通常の切り抜きではよくパスツールが使われますが、これはマウスでもなんとかなる。でもパスで切り抜くと、エッジの硬さやボケ具合の調整が難しいんです。これに対して人物を切り抜くような場合は繊細さが必要となるので、「手切り」と言って、ブラシツールでマスクを描いてレイヤーで調整するテクニックを使うのですが、この作業はペンでなければどうにもならないと思います。

ペンタブレットに慣れている我々からすると、デザイナーの方たちはマウスだけでよくやっているなあと感心します。最近のデザインカンプはものすごく精密になってきていますから、マウスだけで作業するのはかなり大変だろうなぁと。でも最近はときどき、アートディレクターやデザイナーの方から「そろそろ自分たちもペンタブレットにした方がいいかな」という声が聞こえてくることもあります。


チーフCGデザイナーの磯崎大介さんは、学生時代はマウスを使っていたので、入社して初めてペンタブレットをさわった。「最初のうちは勝手が違ったのですが、プロの仕事道具はこれなんだと自分に言い聞かせて使っていました(笑)」。上の写真は社内の立ち会いルームなので最新のIntuos3だが、普段は初代Intuosを愛用している

ヴォンズのオリジナルグッズ“ Tachiaibo”。伸び縮みする指示棒で、棒の先がモニタ画面にあたってもいいように、柔らかい素材を採用している。画像処理の作業に立ち会うアートディレクターなどに渡している


—ヴォンズ・ピクチャーズならではの、ペンタブレットやPhotoshopの使いこなし方はありますか?

片岡 最近では画像処理の仕事をやりたいという若い人が増えていますが、マウスしか使ったことがない人もまだまだ多い。ウチでは新人に必ず教えることがいくつかあって、たとえばペンタブレットの筆運び。線をキレイに出すためにはかならず上から下に引くようにして、下から上には引かないように指導しています。これは実際にやってみると分かるのですが、どんな線であっても、下から上に筆を動かすとキレイには引けないんです。


レイヤーマスクを使って「手切り」で切り抜く場合、上のようにペンを下から上に動かすと、どうしても動きがゆっくりになり、ペンの軌跡もきれいにならない

これに対して常にペンを上から下へ運ぶようにすると、素早く、しっかりとした軌跡で描くことができる。まず左のように、少しくらい食い込んでもよいので思い切って上から下へペンを動かす。続いて右のように、ブラシの描画色を白にしてペンを動かす。すると、さきほど削れてしまった部分が元に戻る


—新人の方には他にどんなことを教えていますか?

片岡 コピースタンプツールを使ってブラシサイズを小さくして、点描でグラデーションを描く練習を徹底的に行ないます。写真はグラデーションのある点の集まりですから、ピントが合っている状態と合ってない状態の違い、被写体の手前のボケと後ろのボケの違いを、グラデーションで表現できるようにするためです。被写体が金属なのか、あるいは水なのかによってエッジの表現も異なってきますから、そのエッジのゆるみ具合に合わせてペン先を調整できるようにならないとなりません。

作業量の多い仕事は何人かで分担して作業をしますが、最終的には誰か一人がフィニッシュワークを行なって、全体のトーンを調整しています。その時に作業者ごとにレイヤー構造がバラバラだと効率が落ちてしまうので、レイヤーについても一定のルールを作っています。たとえば遠景の画像はレイヤーの一番下、近景は一番上に置くといった具合です。これは当たり前のように思われるかもしれませんが、そういうことに無頓着な人が案外多いので、新人のうちに徹底するようにしています。

明治製菓 キシリッシュ+F アクアミント/ホワイトグレープミント
企画制作=電通 CD・AD=高橋秀明 D=杉浦豊(アドブレーン) 画像処理(イラスト)=山崎政男(VONS pictures)

—ペンタブレットに対する要望はありますか?

片岡 Intuos3からファンクションキーがついてCtrlキーやShiftキーを割り当てられるようになったのですが、やはり慣れているキーボードショートカットの方を使ってしまいますね。でも、ファンクションキーの数をもっと増やしてもらえば、キーボードショートカットを使わなくてすむので、便利かもしれません。画像処理の仕事ではブラシのサイズをしょっちゅう変えて作業をしますが、今はこれもキーボードショートカットを使っています。ホイール状のつまみをつけてもらえると、直感的にブラシのサイズを変えられるのでうれしいですね。次のIntuosに期待しています。


Webディレクターの高山和久さんは「画像処理に比べてキーボード入力することが多いので、マウスだと持ち替えながら作業をしないとなりません。ペンタブレットならペンを持ったままキーボードを打てるので、非常に効率的です。ウチのFlashの制作陣はまだマウスなんですが、ペンタブレットならキーボードでScriptを入力しながら、ペンでツール等を選べるので作業は早くなると思います」と語る。

2008年4月に入社したばかりのWebデザイナー石川翼さん。「ヴォンズに入って初めてペンタブレットを使いましたが、3日ですぐ慣れました。それからはすごく効率が上がって、これまでマウスが作業上のストレスになっていたことに気がついたんです。いまモニターが大きくなっていますので、マウスで広い画面を行ったり来たりするより、ペンで直接移動したほうが楽ですね」

Photo : 坂上俊彦

写真:ヴォンズ・ピクチャーズ

ヴォンズ・ピクチャーズ VONS pictures

撮影、画像処理、3DCG、動画など、異なる技術を融合して広告ビジュアルを提供する制作会社。
https://www.vons.co.jp/

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