2012年04月10日
編集作業に先入観を持たず自由に使うことが
Final Cut Pro Xとうまくつき合うコツである
フォトグラファーがFCP Xで最終仕上げまで行なわない場合でも、このクリップにはスタビライズ(手ブレ補正)を行なっているとか、色調整をこのようにしてほしいという情報を、テロップの形でも盛り込むことで、次の作業者に対して自分の意図を伝えることができる。
自分自身を振り返って、映像の造り方は誰から学んだのだろうと思う。学校、先輩、それとも自分の独学だろうか。どんな方法で映像の基本を習得するにしても、ベースになっているノウハウは、先人達が過去に学んだことの積み重ねである。そして、その中には理論的というよりも、先輩からこのように教わったからといった、理屈抜きに口伝えに伝授してもらうことが多かったと思う。学習の序盤はこれでも構わないが、初級者を卒業する頃には自分で吸収した知識を再構築すると、その後のテクニックの深みが変わってくるものである。
FCP XはFCP 7から大きく生まれ変わったが、その目的はどこにあったのだろうか。FCP XのリリースにあたってAppleは、編集という作業をイチから再構築したと言い切った。これまでに我々が思い込んでいた編集作業に対して、Appleなりの疑問を持っていたからこそ再構築する必要があったと考えられないだろうか。
FCP Xは編集作業に先入観を持たず、もっと理想的なスタイルはないだろうかとの向上心のある制作者が使うべき編集アプリケーションである。これまでの決まりきった手順が捨てられないと、決して手に馴染むことがないだろう。先入観を捨てて自由に使ってみることが、FCP Xとうまく付き合っていくコツなのだ。
そこで、これまでにはなかったようなFCP Xならではのワークフローを紹介しよう。たとえば、フォトグラファーは自ら動画素材から完成品を仕上げることはまだ少ないはずだ。そのような場合、実際の編集作業を行なう人に対して、素材を渡すと同時に撮影時の意図を盛り込んで伝えたいと考えるだろう。そんなコミュニケーションツールとしてのFCP Xの使用例だ。
FCP Xでは素材や編集結果が限定されたフォルダの中に保存されるため、編集結果の受け渡しも、それをコピーさえすればトラブルは起こりにくい。撮影素材はすべてFCPイベントに取り込んでおき、自分で選択したOKテイクだけのProject(タイムライン)を作っておくと、次のワークフローで受け取った側が理解しやすくなる。また、色調整もセットアップだけを作成しておくことで、フォトグラファーの目指した方向性も明確に伝わるだろう。
さらに、FCP Xにはテロップを簡単に加える機能もあり、タイムライン上に指示書の代わりに指示テロップを加えておくのも効果的だろう。映像のプレビューもMacBook ProのDVI出力からハイビジョンテレビへ1920x1080解像度で出力することが可能だ。これを活用すれば高品位なプレビュー環境が簡単に構築できる。
このようにFCP Xは、単なる編集ツールから一歩飛躍したコミュニケーションツールとしても活用できる。編集作業の経験が少なくても、素材の整理や意思の伝達のために使えるので、今までよりも映像編集の敷居が低くなるのではないだろうか。
山本久之 Hisayuki Yamamoto
映像技術者。マウントキュー株式会社( http://mount-q.com/ )代表。映像設備の設計・設置・導入やビデオ編集、映像技術コンサルティングなどを手がける。