五千万の瞳

第1回 PENTAX 645Z

写真と文:茂手木秀行

高画素時代のデジタルカメラ、それは何を写すのだろう。五千万画素が当たり前になりつつある今、それが写真に何をもたらすのか、実際にはまだ誰にもわかっていないのではないか—。中判、DSLRを問わず高画素機で作品を制作する茂手木秀行が、高画素時代の写真を問い直す。

img_special_50m01_01_b.jpg

函館山からの定番の夜景だが、レンズとカメラの性能が如実にわかる。長時間露光でもノイズに悩まされることなく、画面周辺までシャープな描写をしてくれた。(写真をクリックすると別ウィンドウで原寸表示)

カメラ:PENTAX 645Z/レンズ:smc PENTAX-D FA645 55mm F2.8 AL[IF]SDM AW/撮影データ:マニュアル露光 f5.6 30秒 ISO100 DNG記録

600万ドルっていくらだ?

「600万ドルの男」というテレビドラマシリーズがあった。アメリカのSFテレビドラマで、日本での放映は1974年からだ。

リー・メジャース扮するスティーブ・オースティン大佐は、実験機のテスト飛行中の事故で、左目と右手、そして両足を失った。しかし、一命を取り留め、失われた部位を600万ドルの費用をかけてサイボーグ化された。国家機関がそれだけの大金をかけて蘇らせたのだ。もちろん、のほほんと余生を暮らせるわけはない。様々な敵とカッコよく戦っていただくというわけだ。

そんな彼の左目は、ウィキペディアによれば、20倍望遠になっている。眼球に20倍光学ズームは入らないだろうから、今で言えば20倍デジタルズームであったと想像する。作品中にも敵を拡大・発見したり、危険そうなアイテムを観察したり、ガンサイトとして使ったり、さまざまデジタルズームが活躍するシーンがあったと記憶している。

74年といえば20倍などというズームレンズはなかったと思うのだけれど、小学生だった僕にはわからない。しかし、望遠レンズ、それは遠くがよく見えるスゴイものという認識はあった。遠くのビルに立つ敵を拡大して発見する映像にはワクワクしたものだ。それは、よく見えるを通り越して、見えないものが見える驚きだった。

img_special_50m01_03_b.jpg 上の写真は、トップの写真をPhotoshopで300%に拡大表示し、キャプチャーしたもの。拡大した地点までは約2.5kmの距離がある。驚くほどの解像力である。露光時間が長いので、動体は消えてしまっているが、昼間の撮影であれば人間の姿も充分に写ってしまうであろう。(写真をクリックすると別ウィンドウで原寸表示)

数十万画素からスタートしたデジタルカメラだが、いまや2000万画素が当たり前の時代になった。僕が初めて使った2000万画素超のカメラはPhase One P25だったが、その絵を見たときに何かが変わった気がした。何かがといっても、その答えははっきりしている。よく見えるのだ。多分、人間は物をより詳細に見たいという欲求を根源的に持っている。それが満たされる感じだった。

当時すでに1億画素を実現できるようなスキャンタイプのデジタルカメラはあったが、やはりカメラらしいカメラとしては、フェーズあたりから高画素化の扉が開かれたように思う。その後もデジタルカメラは高画素化の道を進むが、いまや高画素と言えるのは、PENTAX 645Zが代表するように5000万画素クラスとなってしまった。

それと共に、よく見たいという欲求はさらにエスカレートしていると思う。数年前の1200万画素のデータと比べると、それでは物足りなく感じてしまうのだ。本当のところ、多くの仕事の現場において、1200万画素あれば必要十分であるのに、だ。しかし、欲求というものに歯止めは利かない。これからも高画素のカメラを、その絵を望んでしまうことだろう。

PENTAX 645Zの画像を拡大して見ているうちに、ふと「600万ドルの男」を思い出してしまった。このカメラは、広角で撮ったものを拡大しても、本当によく見えるのだ。

オースティン大佐にも、任務ではなく、ただ見たいだけの気持ちで風景を眺めることがきっとあったに違いない。サイボーグと言ったって脳は人間だからね。

img_special_50m01_04.jpg

暗い森の中で見つけた岩肌はぬらぬらと金属のように光っていた。画像を拡大してみるとそこかしこに発見がある。しかし、ふと引いてみると、そこには烏天狗が笑っていた。(写真をクリックすると別ウィンドウで原寸表示)

カメラ:PENTAX 645Z/レンズ:smc PENTAX-D FA645 55mm F2.8 AL[IF]SDM AW/撮影データ:マニュアル露光 f8 1秒 ISO100 DNG記録


img_special_50m01_02.jpg

リコーイメージング PENTAX 645Z
PENTAX 645Dに続く、PENTAXの2代目中判デジタル。データの読み書きを含め、すべての面でのレスポンスが高速化されたほか、超高感度や長時間露光にも強く、他の中判デジタルとは一線を画した幅広い撮影領域を実現している。それに加えて、レンズ群の豊富さが特徴である。

撮像素子:CMOSセンサー/撮像画面サイズ:43.8×32.8mm/有効画素数:約5140万画素/最大記録画素数:8256×6129画素/レンズマウント:ペンタックス645AF2マウント/感度:標準出力感度ISO100〜204800/連続撮影速度:最高約3コマ/秒/実売価格:約75万円〜


※この記事はコマーシャル・フォト2015年6月号から転載しています。


写真:茂手木秀行

茂手木秀行 Hideyuki Motegi

1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。

個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」

デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/

関連記事

powered by weblio