フォートンがHP Workstationを選んだ理由

Vol.4 西山慧

HP Workstation Zシリーズは、世界最高峰の速度と性能を誇るデスクトップマシン。レタッチカンパニーの「フォートン」ではすでに広告の制作業務に活用している。同社の西山慧さんにHPのワークステーションの使用感を聞いた。

地上波デジタルテレビ放送への移行に伴って、テレビCMにおいてもレタッチの需要が高まっている。フォートンではすでに高品位な動画レタッチの技術開発に成功しているが、その開発を陰で支えたのがHP Z800 Workstationだという。今後ますます重要性が増していく動画レタッチの観点から、HP Workstationの実力に迫る。

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資生堂 ザ・コラーゲン CMより

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写真と同じクオリティでテレビCMをレタッチ

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西山慧 Kei Nishiyama
1988年甲斐彰氏と共にフォートンを創業。以降、広告写真やファインアートのレタッチを手がける。現在は動画レタッチのチームを率いる。

──西山さんはいま、動画チームを率いている立場ですね。

西山 はい。私のほかに4名のレタッチャーと1名のプロデューサーがいて、この6名で動画のレタッチを担当しています。

──すでにCMの仕事もされているとか。

西山 初めて動画の仕事をしたのが昨年夏で、CMは昨年の暮れからです。オンエア待ちも含めて、すでに6本のCMをやらせていただいています。

──写真の仕事との違いは?

西山 動画の世界でもこれまで、肌のレタッチはありましたが、主に「肌をボカす」など、フィルター変換を前提としたものでした。でも私たちフォートンは、動画においても「素材の質感=肌のキメを活かした」本物のレタッチ技術を開発したいと考えて、長い間試行錯誤してきました。ですから、基本的な考え方は静止画のレタッチとかなり近いと言えます。

作業の手順としては、まず動画から静止画を切り出してPhotoshopでレタッチします。私たちはこれを「ベンチマーク」と呼んでいますが、指示書のようなもので、この段階でレタッチの方向性や色などを決めていきます。

これをもとにして本番のレタッチ作業に入るのですが、ツールとしてはAfter EffectsやNukeX、3ds Maxなど様々なソフトを使っています。この部分は日々進化していて、仕事のたびに新しい技術を開発しているような状況です。

──動画レタッチの具体例を見せてもらえますか?

西山 デモリールをYouTubeやVimeoにアップしているので、詳しくはそちらをご覧になってください。現在公開している動画は6本で、フォートンが得意とするビューティレタッチやデジタルメイクアップをテーマにしたもの、フィルムの粒子感を動画で再現したもの等があります。

上の動画はフォートンのYouTubeチャンネルより引用している。同チャンネルには様々な動画レタッチの作例が並んでいる。

西山 これらのデモリールはいずれも2011年に公開したものです。先ほども説明したように技術的には日々進化しているので、現在行なっている作業とはかなり違っていますが、動画レタッチの概略について分かっていただけると思います。

――フォートンが手がけたCMについて教えてください。

西山 最近オンエアが始まったものだと、資生堂 ザ・コラーゲンのCMがそうですね。「フォートンは元素材の肌理を活かした自然な仕上がりにしてくれる」という反響があってからは、スキンケア商品のCMでキャスティングされることが多くなりましたが、この技術を応用してマスカラ、リップ、ファンデーションなどいろんな依頼が来ていますね。

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img_products_hp_nishiyama_11.jpg 資生堂「ザ・コラーゲン」
A&P=電通+葵プロモーション ECD=古川裕也 CD=金井正人(資生堂)・東畑幸多 Pr=小幡観(資生堂)・齋藤卓夫・吉田宗太 PL=室井友希 C=照井昌博・小山佳奈 Dir=田中秀幸 P=田島一成 ED=神田剛志 PM=羽鳥正志

新しい技術を開発するには速度と安定性が欠かせない

──写真から動画への移行はどのように?

西山 3年ほど前から技術開発を始めたのですが、最初の頃はMac Proを使っていました。その時はそれが普通だと思っていたのですが、そのうちに写真と同じクオリティを実現するには、最低でも4K解像度(水平方向4000ピクセル)の動画が必要だということがわかってきたんですね。4Kの動画を扱うとなると、さすがにMac Proではストレスを感じるようになって、もっと速いコンピュータはないかと探すようになりました。

Mac以外となると当然Windowsマシンになるわけですが、あるときHP Workstationのテスト機をお借りする機会があって、その時にすごく速い!と思ったんですね。でもその時はMacもやっぱり捨てがたいという思いがあって、まだ迷っていました。

ちょうどその前後にMac Proの2010年モデルが発表されたのですが、私たちの期待とは違っていて、新しいテクノロジーを積極的に取り入れるという方向性が感じられませんでした。それで踏ん切りがついたというか、今後の流れを見るとWindowsマシンのほうが開発のスピードが速いという気がして、実際に導入することにしたんです。

──HP Workstationに乗り換えて、いかがでしたか?

西山 最初に最高峰のZ800を導入したんですが、全く速度が違いました。ちょっとした動画レタッチのテストをする時でも、プレビューが速いのでトライ&エラーがやりやすかったですね。おかげで開発のスピードがグンと上がりました。

──Z800を使っていて、Z400などとの違いは感じますか?

西山 普段はあまり感じないのですが、ここぞという時にものすごい威力を発揮しますね。最近の仕事の話ですが、4Kでしかも毎秒60フレームで撮影したCMがありました。マスターモニタはHDが表示解像度の限界なので、立ち会いはHDで行なうのですが、60フレーム/秒となるとZ800でなければリアルタイムには再生できませんでしたね。さすがだなと思いました。

ただ、動画はZ800でなければいけないのかと言うと、そんなことはなくて、私以外のムービーレタッチャーは1人2台ずつZ400を使っています。レタッチとレンダリングを並行して行なえるので、これはこれで便利です。

──話はちょっと戻りますが、MacからWindowsに乗り換えると、使用するソフトウェアも変わってくるんじゃないですか?

西山 Macで動画を扱う人はたいていFinal Cut Studioを使っていると思いますが、私たちも最初に購入したソフトのひとつです。でも、その当時、フォートンはWindows/Mac混在の環境だったので、全てのマシンに同じソフトをインストールできるアドビ製品の方がベターだと思って、そちらの方にシフトしました。

フォートンでは、ほぼ全てのマシンにアドビのProduction Premiumをインストールしていて、動画と静止画のマシンを分けていない(静止画のレタッチャーもいつでも動画のソフトにさわれるようにしている)のですが、その後、HPのワークステーションを増やしていくときも、MacからWinのバージョンにクロスアップグレードできたので、全く無駄がなくて、大正解でしたね。

それから、私は以前から3ds Maxも使っているんですが、HP Workstationに乗り換えたことで、1台で3DCG、動画、静止画のソフトを全部使えるようになって、とっても効率が良くなりました。ソフトウェアの話は、もしかしたらそこが一番重要な部分かもしれませんね(笑)。

私のZ800は30インチのモニタのタスクバーが全部埋まってしまうぐらい、やたらたくさんのソフトがインストールされていて、Photoshop、Lightroom、Illustrator、 3ds Max、NukeXなどは、ほぼ常時、同時起動しています。そのほかにメール、インターネットはもちろん、WORD、FileMakerなどなど、あまり気にせずにどんどん起動していってしまうのですが、ストレスを感じることはほとんどありませんね。After Effectsを複数起動して作業することがあって、このときはさすがに重たいソフトは閉じるようにしていますけど。

──HP Workstationによって、いよいよ動画レタッチの技術開発が本格化するわけですが、完成までにはどれくらいの時間がかかったのですか。

西山 そうですね、HPへ乗り換えたのが2010年の夏で、社外にデモリールを公開したのが2011年の6月なので、1年はかかっていないですね。

──ずいぶん順調に進んだんですね。

西山 実際には試行錯誤の繰り返しで大変でしたが、HPに乗り換えてからは本当に早かったですね。

4K動画のレタッチワークにはZ800のスピードが欠かせない

──さきほど4K解像度をターゲットに開発を進めたというお話がありましたが、実際にはテレビ放送はそこまでの解像度はないですよね。実際の仕事として作業をするには大変じゃないですか?

西山 そうですね。4Kの映像はフルHDの4倍のデータ量にもなりますから、当然ハンドリングが大変になります。納品するには最終的にフルHDへ変換してしまうので、「4Kでやる必要がどこにあるんだ?」という疑問もあると思います。でも、4Kで撮影・レタッチをしてデータを縮小したものと、最初からHDで撮影してレタッチをしたものとは、最終的にサイズは同じHDでもクオリティは全然違うものなんですね。

──フォートンとして、4Kはどうしても譲れないわけですね。

西山 もちろん、予算やもろもろの都合で、HDで撮影せざるを得ないものもあると思いますが、私たちの技術はデータ量に依存するわけではないので、絶対に4Kでないといけない、などというつもりはありません。むしろ、仕事として見たときには、HDだと本当に楽ですね。レンダリングなどはあっという間に終わってしまいますから。

私たちが4Kに取り組んでいるのは、これは弊社代表の甲斐彰の20年以上前からのテーマなのですが、「静止画と動画の融合」という歴史的役割にチャレンジしようという企業姿勢が大きいですね。

そのほかに、ビジネス的にも、各社から4Kの動画カメラが発表され、民生用・業務用モニタの世界でも4Kが続々発表されつつあります。YouTubeも4Kのサービスに対応していますし、動画の未来を見据えたときに、高画質化というトレンドは歴史の意思だと思うんですね。ですから、多少大変でも今のうちから4Kに取り組むことは重要だと思っています。

今にして思うと、静止画のレタッチがこんなにも楽だったのかっていう感じがします(笑)。静止画だとホクロ1個取るにしても、あっという間に終わってしまう。本当に数秒で済んでしまうんですが、動画だとそうはいかなくて、レンダリングを待つ時間があるんです。その時間がすごく重くのしかかるわけですよ。納品の時間が迫ってくると、精神的にも肉体的にもかなり極限まで追い込まれてしまいます。

その時にZ800がフリーズすることなく、安定して動いてくれるというのはありがたいですね。スピードはもちろん、この安定性が限りない安心感につながっています。

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左:フォートンの立ち会い用スペース。マスターモニタの他に民生用テレビ2台、Z800とZ400が1台ずつ設置されている。右:Z800のメモリは48GBに増設。そのほかにマスタモニタ用のボードも搭載している。

──なるほど、4K動画レタッチの大変さがよく分かりましたが、それを担当するチームはどのように出来上がったんですか。

西山 今のスタッフに落ち着くまでに、何回かメンバーは入れ替わっています。まだ誰もやったことのないことを始めたわけですから、どういう経験があればいいというわけではないんです。大事なのは「技術開発型」の考え方ができるかどうかです。

まずレタッチに関していえば、ポスプロでも簡単な肌のレタッチはやっていますが、広告写真のレタッチを長くやってきた私たちとはクオリティに対する意識が全然違っています。私たちの考えるクオリティになじんでくれる人じゃないとだめですね。

合成に関していうと、今までのCMはグリーンバックで撮影して、グリーンで抜くというのが当たり前でしたが、グラフィックの現場ではそういうやり方はしませんよね。私たちに相談されるのは、グリーンバックではない、できるだけ最終イメージに近い背景で撮影したい、ということだったりするんです。グリーンで抜く方が簡単だけど、私たちが新しい技術開発をすることで、動画レタッチの世界ももっとクリエイティブな進化ができるんじゃないか、という向き合い方が必要なわけです。

正直言って、それはとても大変な作業です。それでもいいものを作りたいという意識を持っている人が、最終的にいまも残っている感じです。

──なるほど、技術開発型というのはそういう意味なんですね。

西山 弊社代表である甲斐に言わせると、「フォートンが動画に取り組むにあたっては、動画の歴史に何ができるのかを考えるべきだ。我々にとってやるべき価値があるのかどうかが全てだ」ということになるんです。ちょっと大げさかもしれませんが(笑)。

「このやり方だと開発するのが大変だ」と考えるような人は、そもそもウチには向きません。「動画が進化する方向性を考えたら、大変だけどやるべきだ」と言う人でないと。

動画チームが今のメンバーになってからは、「そんなのは無理ですよ」っていう言葉を一度も聞いたことがありません。むしろ「もっとこうしたほうがいいですよ」って返されてしまうぐらいで、もう負けそうな感じですよ(笑)。

──そういうスタッフが揃っていると、環境もしっかり整える必要がありますね。

西山 ありがたいことに、いつもその時点で手に入る最高の環境で仕事ができていると思います。

HP Workstationの新ラインナップが登場!

──最後になりましたが、HP Workstationの製品ラインが一新され、新たにHP Z820 / Z620 / Z420、そして世界初のオールインワン型のワークステーションHP Z1が発表されました。

西山 どの製品も非常に気になりますね。

img_products_hp_nishiyama_04.jpg HP Z420 Workstation

──西山さんにはいち早くHP Z420を使ってみていただきましたが、感想はいかがですか。

西山 フォートンで一番多く導入しているのがZ400で、Z420はその後継にあたります。今回テストしたマシンは6コアのインテルXeon E5を搭載していて、CPUの性能で言えば、今使っているZ400よりは確実に速いと思います。

メモリも最大64GBまで搭載できますので、8コアのインテルXeon E5と大容量メモリを搭載したZ420なら、4Kの動画もストレスなく扱えるのではないかという期待もあります。動画のスタッフも、静止画のレタッチャーも、Z420をはやく使ってみたくてウズウズしています。

Z820にも期待しています。最大8コアのCPUを2つ搭載できるので、Z800の上を行く究極の動画用マシンになると思います。

img_products_hp_nishiyama_05.jpg HP Z1 Workstation

──オールインワン型のZ1はいかがですか。

西山 Z1にもすごく興味を持っています。私たちレタッチャーが撮影現場に立ち合うことがときどきあるんですが、Z1は動画の撮影立ち会いに最適だなと思います。写真の場合はHP EliteBookを持ち込むことが多いんですが、4Kの動画になるとさすがにもっとパワーがほしくなりますよね。液晶のサイズも小さいし。

Z1だったら、インテルのXeon E3を搭載しているので動画のRAWデータを現像するのも問題ないだろうし、液晶も30ビットカラーの表示が可能なのでしっかりした色再現が期待できるし、画面サイズが27インチだから画像の細部までちゃんとチェックできる。そういう意味で、すごく可能性を感じています。

ワイヤレスのマウスやキーボードを使えば、本体から出ているケーブルを電源ケーブルだけにできるというのもいいですね。最近ペンタブレットをワイヤレスのIntuos 5にしたので、Z1と組み合わせると非常にすっきりとした状態で使えると思います。4月下旬の販売開始を楽しみに待ちたいと思います。

──ありがとうございました。


撮影:坂上俊彦


関連情報
日本HP ワークステーション 製品ページ

HP Workstations

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HP Z420 Workstation
新しいZシリーズのエントリーモデル。最高8コアのインテルXeon E5プロセッサーを1基搭載し、メモリは最大64GBを搭載できる。前モデルのZ400のCPUは最高6コア、メモリは最大24GBだったので、大幅な性能向上が可能になっている。筐体は従来モデルのZ210と共通化されている。詳細
HP Z1 Workstation
27インチの大画面オールインワン型ワークステーション。3.7GHzのXeon E3、8GBメモリ、1TB HDD、DVDドライブのスタンダードモデルの希望小売価格が税込み252,000円。3.9GHzのXeon E3、16GBメモリ、300GB SSD×2、Blu-rayドライブのハイエンドモデルが税込588,000円。詳細

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