2011年12月09日
7からX(テン)へ大きく飛躍したFinal Cut Pro(以下FCP)Xはあまりの変貌ぶりに賛否両論の議論が沸き起こった。従来の操作性の継承に背を向けたFCP Xは、技術的な専門性をバックグラウンド化することで編集の敷居を下げ、高度で高品質な映像編集をすべてのクリエイターに開放したとも言える。乱暴に言えば、編集ソフトに精通したプロのためのツールから、映像のプロのためのツールへ。EOS MOVIEを機に映像制作を視野に入れるフォトグラファーにとってのFCP Xを検証する。
映像のプロ用ソフトからより多くの人が使えるツールに生まれ変わった
言うまでもないが、映像制作は多くの専門スタッフがチームとなって制作を行なう集団制作が基本だ。役割は分業化され、結果的にそれぞれの技術、ノウハウは高度に専門化、分断化しているのが現状だ。
編集工程も例外ではなく、ツールは高機能かつ安価になり、自分で編集するディレクターも増えた一方で、EOS MOVIEを筆頭とする近年のファイルベース制作への転換期の中、コーデックやトータルワークフローなど複雑化する技術要件は編集の敷居をかえって上げてしまっている。
そんな激動期にバージョンアップしたFCP Xは一部で期待されていたS3D(立体視)対応などの新機能には目もくれず「映像編集の再定義」とも言えるドラスティックな操作面での変更を行なった。
Mac App Storeのダウンロード販売のみ
FCPはかつて3Kgを越えるマニュアルを含む巨大なパッケージが象徴するヘビーアプリだったが、FCP Xはダウンロード販売のみ。十数万円した価格も2万6000円となった。だが、価格以上に重要なポイントがある。Mac App Storeで購入したアプリは個人使用の場合、その個人が持つすべてのMacにインストールできるのだ。家のデスクトップ、ロケ用のノート。合法的に同じ環境が構築できる
従来の操作感と大きく異なる挙動に加えて、マルチカム編集などこれまでのFCP 7で実現されていた機能が削除されたこと(2012年初頭のアップデートで実装するとアップルはコメントしているが)、インターフェイスの見た目がiMovieに似ていたことなどから、iMovie PROと揶揄されるなどネガティブな感想が続出、特にこれまでFCPを支持してきたヘビーユーザーからの批判が目立ったのも特徴だった。
だが、従来のプロ目線でなくこれからの映像制作という観点で見ると、まったく違うFCP X像が見えてくる。これまではキーボードを叩きながら高速に操作していく俊敏な編集機器という印象だったが、FCP Xはマウス(あるいはトラックパッド)で映像をダイレクトに操作するシンプルなソフトとなった。操作する指先にリニアに追随していくレスポンス、ユーザーの意図を読むかのような挙動は、スピーディではないけれど、易しく、そして優しい。
これまでFCPの核としてアドバンテージを支えてきたProRes 422コーデックも前面から消えた。技術的な部分、設定の複雑な部分は可能な限りバックグラウンド化し、ユーザーに意識させない。FCP Xは技術的な側面をアプリが引き受け、ユーザーをクリエイティブな作業に集中させる形に再設計されたのだと思う。
この恩恵を最大に受けるのは、既存の映像編集のプロではない。従来、専門性のハードルで編集に二の足を踏んでいたフォトグラファーにこそ、大きな可能性をもたらすアプリ、それがFCP Xである。
大きく変わったFinal Cut Proのポジショニング
シンプルになったワークフロー
Final Cut Pro X
EOSで撮影した動画
H.264ファイルのまま
読み込む
Final Cut Pro Xで編集
最終的な媒体に
合わせて書き出す
完成したムービー
Final Cut Pro 7
EOSで撮影した動画
EOS MOVIE Plugin E1
などでProResに
変換して読み込む
Final Cut Pro 7で編集
完成したムービー
色調整は
Colorで行なう
特殊効果は
Motionで行なう
斎賀和彦 Kazuhiko Saika
CM企画/演出時代にノンリニア編集勃興期を迎える。現在は駿河台大学メディア情報学部、デジタルハリウッド大学院等で理論と実践の両面から映像を教えながら、写真、映像作品を制作。
ブログ http://mono-logue.air-nifty.com/
ツイッターアカウント http://twitter.com/SAIKA