2019年07月05日
夜景や星空をドラマチックに表現する「ナイトタイムラプス」。カメラの高感度画質の向上とタイムラプス撮影機能を内蔵したデジタル一眼の登場で、がぜん注目を浴びるようになりました。今回は「超高感度」をキーワードに、暗い場所での撮影テクニックについて、ナイトネイチャーカメラマンの竹本宗一郎氏が解説します。
ナイトネイチャーカメラマン・竹本宗一郎氏
皆さん、こんにちは。ナイトネイチャーカメラマンの竹本宗一郎です。この数年、カメラの高感度特性が向上し、暗い場所でもきれいな動画を撮影できるようになってきました。また、カメラのタイムラプス撮影機能を使って夜景や星空をドラマチックに表現する「ナイトタイムラプス」を楽しむ人も増えてきました。
そこで今回は、動画を得るための2つのアプローチとして、(1)超高感度イメージセンサーを搭載したムービーカメラを使った「リアルタイム動画撮影」、(2)高感度特性に優れたスチルカメラを使った長秒露光による「ナイトタイムラプス撮影」、この2点を超高感度撮影のプロがどのように行なっているのかについてお話ししたいと思います。
その前に簡単に自己紹介をしておこうと思います。私は世界各地の暗闇の絶景を撮影するナイトネイチャーカメラマンとして、ネイチャードキュメンタリー番組やテレビCMなどの撮影を数多く手がけてきました。またそうした経験を生かして、メーカーへのアドバイザーの仕事や書籍・雑誌での執筆も行なっています。本日は、そうした経験をもとにお話をしていきたいと思います。
超高感度ビデオ撮影に必要なものは?
はじめに機材の話をしましょう。超高感度ビデオ撮影に適切な機材をどう選ぶのか。超高感度撮影は撮影者の経験やテクニックもさることながら、常に最先端の開発技術と歩調を合わせながら、ハードウエアがもつ性能を最大限発揮させるという視点が重要だと思っています。
まずはカメラですが、実は私の場合は市販されていない特殊機材を使う場合がほとんどなので、ここでは一般に購入できるデジタル一眼カメラを取り上げていきます。
そもそも「超高感度ムービーカメラ」とはどんな性能を持つカメラのことを言うのでしょうか。いろいろな意見があるかと思いますが、皆さんには、ひとつの基準としてISO51200以上の設定で映像品質を担保できるカメラを選んでほしいと思います。
高感度に強いカメラというと、ソニーの「α7S II」、そしてパナソニックの「LUMIX GH5S」が代表的なカメラということになるかと思います。さらに、ここにはありませんが、春に発売されたパナソニックのフルサイズカメラ「LUMIX S1」も超高感度の撮影に向いたカメラと言えるでしょう。
大口径レンズの必要性と選び方
これらはいずれも高感度特性に優れたカメラですが、その性能を最大限引き出すためには、明るい大口径レンズを組み合わせることがポイントになります。カメラ側でISO(ゲイン)を上げるより、少しでも開放値の明るいレンズを使って光量を稼ぐほうが、ノイズによる画質劣化を防ぐことができるからです。
超高感度撮影では、F2よりも明るいレンズを選んで下さい。例えばF2のレンズからF1.4のレンズに変えると、1段分明るくなります。これにより、カメラ側の設定感度を1段分下げることができる、つまりISO102400からISO51200に下げて撮影できるということです。ISO51200以上で高品質な撮影が可能なカメラを入手するだけでなく、同時に明るいレンズも手に入れることが非常に重要だということを覚えておいてください。
ただし、レンズを選ぶ際には他の要素も重要になります。一般的な撮影ではボケの美しさであるとか、収差 中でも被写体のエッジの部分に色がついてしまう「色収差」がないか、といった点を気にされる方が多いのではないかと思います。
しかし、超高感度撮影の場合には、レンズの絞りを開放にして星や蛍のような「点光源」を撮影するケースが多いため、その点が放射状に細長く尾を引く「コマ収差」や、同心円状に伸びてしまう「サジタルコマフレア」といったレンズ収差が大きな問題になってきます。
実際に見ていただきたいのはこちらの写真です。これは星空を撮影した写真の右上部分をトリミングして拡大したものですが、画面の周辺では本来点であるはずの星が細長く写っているのがおわかりかと思います。
これがサジタルコマフレアと呼ばれる収差の影響です。こうしたレンズを使うと、星や蛍の光といった被写体の形自体が変わってしまうことになり、大きな問題になります。特に自然系の撮影で被写体の形が変わってしまうと、サイエンスではなくなってしまいます。レンズを選ぶ際には、明るいことだけでなく、コマ収差やサジタルコマフレアが少ないレンズを選ぶことが大切になってきます。
ノイズリダクションと増感処理技術について
撮影時のテクニックについてひとつお話をしておこうかと思います。最近のカメラには必ずノイズリダクション機能が搭載されていますが、私はこの機能をすべてオフにして撮影しています(設定をオフにしてもメーカー側で映像の品質を担保するために完全にはオフにできないカメラも多い)。
ノイズリダクションをかけて撮影した映像は、後処理での耐性がなくなり、例えばノイズリダクションやカラーグレーディングなどの加工をすると簡単に映像が破綻してしまうからです。
一方、撮影時にノイズリダクションをオフにして撮影したフッテージは、後処理工程を工夫することでノイズを効果的に消すことができます。こちらの画像はその例です。
オリジナルの映像(左)と、後処理でノイズを除去しカラーグレーディングした映像
このように、後処理で何がどこまでできるのかということをわかっていれば、現場で無理ができるようになるんです。例えば現場で、「ノイズ的にはISO51200が限界だけれど、ISO102400にすればかなりハッキリ映るのだがどうしよう」と悩むケースがあります。こんな時、もし後処理でのノイズリダクション技術を持っていれば躊躇することなくISO102400に上げて撮影する、そういう判断が現場で下せるわけです。
またノイズリダクション処理のほかに、後処理による増感テクニックもあります。撮影してきたフッテージをさらに高感度化しつつ画質を担保する、そうした適切な後処理技術を持っていれば、現場での撮影限界をさらに高い次元で判断できるというわけです。
オリジナルの映像(上)と、後処理で増感処理をした映像
ナイトタイムラプスでまず知っておくべきこと
超高感度撮影のもう1つのアプローチが「タイムラプス」です。タイムラプスはご存じの通り、一定の間隔で撮影した静止画を連続再生することで動画化するテクニックです。
では、1秒間の動画を作るためには何枚撮影する必要があるでしょうか。これはビデオのフォーマットによって変わります。これまではHDの24pか30pが主流でしたが、最近では4K映像のフォーマットが60pになり、8Kの場合は最高で120pと高解像度になるにつれてフレームレートも上がってきます。
大雑把に言えば、30pとは1秒間に30枚の静止画を連続再生する映像フォーマットのこと。10秒の映像にするためには300枚、1分では1,800枚の静止画が必要になります。60pだとその倍、120pではさらにその倍と必要な静止画の枚数は多くなります。
タイムラプスでは、アウトプットのフォーマットによって撮影枚数が決まるというわけです。ですからクライアントに対して事前に30pなのか60pなのか、どういう使われ方をするのかという点を撮影前にしっかりと確認しておくことが大切になるのです。
ナイトタイムラプス撮影に使えるカメラ
星空のナイトタイムラプスに必要なカメラの説明する前に、まず覚えておいていただきたいのが、月明かりや街明かりの影響のない、真っ暗な夜空で天の川を撮影する場合に基本となる露出設定です。ズバリ「感度ISO6400」「絞りF2.8」「シャッタースピード20秒」という組み合わせ。これは15mm前後の超広角レンズを使った場合に、星を点像として写しながら天の川を適正露出でとらえることができる基本データです。
こうした環境で撮影することになりますので、やはり高感度に強いカメラ、一般的には1画素のサイズが大きく撮れるフルサイズセンサーを搭載したカメラが有利ということになります。
ただし、マイクロフォーサーズでも撮影できないわけではありません。センサーサイズの小さなカメラで高感度撮影すると、ランダムノイズが目立ちます。1枚の作品ならそれほど気になりませんが、タイムラプスで連続撮影し、それを動画にするとランダムノイズも動き出すため非常に気になります。そのため、マイクロフォーサーズで私が4Kフォーマット用のナイトタイムラプス撮影をする場合は、本来ISO6400で撮影したいところをISO1600に抑えるようにしています。
ISO6400とISO1600では2段の違いがありますから、基準の数値に合わせるためにはレンズを2段明るくしなければなりません。そこで「F2.8」よりも2段明るい「F1.4」のレンズを使って撮影しよう、となります。つまり、ISO1600にしてF1.4のレンズを使えば、マイクロフォーサーズでも高い品質の星空が撮影できるというわけです。
焦点距離について
夜空の星は1時間で約15度動きます。これを長い露出時間で撮影したり、焦点距離の長いレンズで撮影すると、星の動きが明確になり、線のように伸びた状態で写ってしまうことになります。つまり使用するレンズの焦点距離によって、星を点像に表現するための最大露光時間が変わってくるということです。
例えば14mmのレンズでシャッタースピード20秒までなら星を点像に写せたとします。次にその倍の焦点距離28mmで20秒露光すると、星は完全に線状に写ってしまうのです。焦点距離が長くなると、その分シャッタースピードを短くして星を点像のままに留める必要がある。シャッタースピードを短くした分不足する光量は、レンズのF値を明るくするか、ISOを上げて適正露出になるよう調整しなければなりません。
レンズは光量落ちや片ボケにも注意
ここからは具体的におすすめのレンズを紹介したいと思います。先ほど超高感度ムービーのお話で、レンズ選びの際にはコマ収差やサジタルコマフレアなどの被写体の形状を変化させてしまう収差に気をつけるということをお話しましたが、開放で撮影する機会の多い暗闇での撮影は、さらに周辺の光量落ちにも注意してください。広角の大口径レンズの多くは開放で撮影した場合に、2段分くらい周辺の光量落ちが見られます。これは絞ることで改善されていきますが、できるだけ光量を稼ぎたいナイトタイムラプスでは開放値での性能判断が重要です。
また、中心部分でしっかりとピントを合わせたにも関わらず、画面の片側だけ星が大きく写ってピンボケになるレンズがあります。これは片ボケという現象で、レンズの組み立て精度が原因となります。傾向としては安価なレンズに起きがちなトラブルですが、20万円を超える高級レンズでも見受けられる場合があります。
例えば韓国のSamyangのレンズは、14mm F2.8と高いスペックながら非常に安価でおすすめのレンズなのですが、リーズナブルな分、ハズレを引く可能性が高いように感じます。片ボケといっても、星空の撮影ほどの精度を要求されない日常的な撮影では問題にならない程度なので、メーカーの基準内であり返品・交換の対象ではないという点が辛いところです。
オススメのレンズとは
では具体的にどんな製品がおすすめなのか。ここでは私がよく使う優れたレンズをいくつかご紹介します。大口径で明るいだけでなく、周辺でも星が点像に近い形状になるレンズです。
ニコンの「AF-S NIKKOR 14-24mm f2.8G ED」は設計の古いレンズですが、収差がよく抑えられ、周辺まで星が点像に写る優れたレンズです。タムロンのズームレンズ「SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD」もまた、星の撮影に向いた優れたレンズです。最近、コーティングが新しくなったバージョンが登場していますね。次がシグマの「14mm F1.8 DG HSM Art」です。こちらは開放F1.8の広角レンズで、ニコンよりも一絞り以上明るいため、その分シャッタースピードを短くできます。タイムラプスでは同じ時間でより多くのカットを撮れるという点がメリットになります。
撮影をマイクロフォーサーズで行なう時には、オリンパスの「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」をよく使います。これは35mm版換算で14-28mmの非常に素晴らしいレンズです。
さらに先ほど悪い例として挙げてしまったSamyangですが、価格が非常に安いにも関わらず優れたレンズであることは間違いありません。ここでは12mm F2.8の魚眼レンズ、14mm F2.8の超広角レンズ、さらに高画素センサーに対応したプレミアムレンズのXP14mm F2.4、この3本をおすすめしておきたいと思います。
ロープワークを使った三脚固定
タイムラプス撮影でカメラ・レンズの次に重要なのが三脚です。数時間にわたってシャッターを切り続け、そのうち1枚でもズレてしまうとすべてが台無しになってしまうタイムラプスでは、重く頑丈な三脚を使うのがセオリーです。
ただし、私が使っている三脚は1kgに満たないような軽量のものです。というのも、山岳地帯やジャングルなどの過酷な環境に、多くの三脚を運び入れなければならないからです。例えばテレビのネイチャードキュメンタリー番組の撮影では、一度に10台近くのカメラを仕掛けなきゃいけないこともあるんですね。
しかし、重さ1kgの軽い三脚では、風が吹いたら簡単に振動が発生し、運が悪いと倒れてしまいます。そこで大事なのが、ロープを使って三脚を固定するテクニック「ロープワーク」です。役に立つのが、細引きと呼ばれる直径5mm前後のロープや、スリングと呼ばれるリボン状の輪っか、それにテントを設営する時に使うペグなどの登山用品です。三脚に細引きロープをかけペグで地面に固定すれば、ちょっと風が吹いたくらいではビクともしなくなります。一般的に三脚は低く設置した方が風や振動に強く安定しますが、ロープワークのテクニックを使えば脚を伸ばして設置しても大丈夫です。
風がそれほどない時は1本がけ、ちょっと風が強いなという時には2本ないしは3本のロープを使ってしっかりと固定します。このロープワークが撮影の成功・失敗を決めますから、極めて重要なことだと考えてください。ちなみに細引きロープは、登山用品店などで太さ3mmから5mmのものが130円/mほどの価格で手に入ります。カラビナはロープやスリングとペグを素早くつなぐもの、自在金具はロープにしっかりとテンションをかけるための道具として使っています。
さらに海岸や砂漠などでは、サンドペグという特殊なペグを使用します。途中に穴が開いていて幅が広く長さのあるサンドペグは、砂地でもテンションをかけたロープワークが可能になります。
ちなみに、砂漠での撮影は砂との戦いです。タイムラプス撮影で長時間カメラを置いておくと、風で飛んできた砂がどうしてもレンズフード内に溜まってきてしまう。一晩中、レンズの下からブロアーで砂を吹き飛ばす作業をしていた、なんてこともあります。
なお、氷河の上でロープワークを行なう時は、アイススクリューのような登山用品も使います。現場の状況に合わせた道具を適切に使い分けることも、撮影を成功に導くためには重要な要素となります。
下の写真に写っているのは後で紹介しますが、モーションスライダーという機材です。タイムラプス撮影中にカメラをゆっくりと移動させる装置ですね。当然ですが、スライダーもしっかりと固定しなければいけません。
タイムラプスの現場で役に立つアクセサリー
そのほかにも便利なアクセサリーがありますので、紹介しておきましょう。
左上から、まずはレンズヒーター。これは重要なので後で解説します。次に、大量の静止画を撮影するための外部電源や、光源を滲ませることで明るい星を強調して表現できるディフュージョンフィルター。そして夜の撮影には欠かせないLEDフラッシュライトですね。
フラッシュライトは赤色のLEDが点灯できるものを使います。現場では複数のカメラを同時に運用しますので、先にスタートしているカメラの撮影画角内に影響を及ぼさないためということもありますが、一番の目的は暗順応対策です。
人間の目は、一度明るい光を見てしまうと瞳孔が急激に小さくなります。一般的にその状態から瞳孔が再び開ききるまでに数十分必要で、これを暗順応といいます。瞳孔が小さくなっている間は、暗闇での細かい作業ができなくなってしまいます。赤い光は暗順応を妨げず、手元の作業には十分な明るさをもっていますので、夜の撮影では赤いLEDライトが必須なんです。ちなみに、ひとつのボタンで赤と白を切り替えるタイプのものは、白い光が一瞬点灯してしまうため使いにくい。赤・白それぞれの点灯スイッチがあるタイプのものを選ぶのがいいでしょう。
さらにインターバル撮影のための外付けタイマーリモコンや、軽量の三脚をアスファルトの上で安定させるためのストーンバッグ、バッテリーを追加で装着するためのバッテリーグリップなども状況に応じて使用します。
ひとつ、左下の機材の説明が抜けていました。このアイスホッケーのゴールキーパーがつけているようなニーパッド(膝あて)ですが、撮影は森の中や湿地帯、砂地、氷の上などの様々な環境で行ないますので、ニーパッドを装着していればどんな地面の状況であっても躊躇なく膝をついて作業ができます。ロープワークやカメラの構図を作るといった際に大変役立つもので、私は現場に到着したら最初にニーパッドを装着しますね。このニーパッドは、海外ロケの際に近くのホームセンターでわずか2ドルくらいで買ったものなのですが、今や必須のアクセサリーとなりました。
レンズヒーター使用の注意点
さて、後回しにしていたレンズヒーターですが、これが非常に重要なアクセサリーです。タイムラプス撮影でレンズに霜や夜露がついてしまうのを防ぐためには、フードを装着するのと同時に、レンズの前玉部分を周囲の温度よりもほんの少し高くしなければいけません。
この現象は季節に関係なく、湿度と気温の急激な変化によって発生するので注意が必要です。特に草原や土の上などで撮影する場合は結露しやすく、あっという間にレンズが曇ってしまう。こうした現象が1回でも起きてしまうと、苦労して撮影した作品全体が水の泡になってしまいます。
私がよく使っているのは、望遠鏡メーカーのビクセンが販売しているレンズヒーターです。このレンズヒーターは、固定するためにいわゆるマジックテープを使っていないため、巻きつける作業をしてもピントのずれが生じにくいからです。
ちなみにレンズヒーターの使い方を間違っている人がとても多いので簡単に説明しておきますと、暖めなければいけないのはレンズの筐体ではなく前玉部分です。ですから前玉を覆うようにフードの切れ目ギリギリに、写り込まないようにして装着することがポイントです。
ナイトタイムラプス撮影のポイント
ここからは、ナイトタイムラプス撮影のテクニカルなポイントを紹介しておきたいと思います。
暗闇の中で撮影する場合に厄介なのが、構図をどう決めるかという点です。光学ファインダーが使える一眼レフだとある程度見えるのですが、ミラーレスだと見えないことがあります。その場合ニコンやオリンパス、パナソニックのカメラであれば「ライブビューブースト」という機能を使います。これは一時的にゲインを上げて表示してくれる機能で、ノイズは増えますが構図の確認が可能になります。
こういった機能がついていない場合は、とにかくISOを最大まで上げて撮影をしてみるのがいいでしょう。何度もテスト撮影をすることで構図を合わせていくのです。
ピント合わせのポイント
また、星の撮影ではピント合わせも気を遣う必要があります。デジタルカメラのレンズは、無限マークよりもさらにピントリングを回せる機能がついているように、実は無限マークに合わせただけでは星にピントは合いません。さらにEDなどの特殊低分散ガラスを使用したレンズは、気温の変化でピント位置がズレてきますので、撮影直前に合わせる必要があります。
星のピント合わせは、AFではなくマニュアルフォーカス機能を使用します。ライブビュー表示で明るい星を液晶画面の中央でとらえ、拡大表示機能を使って10倍以上に拡大します。フォーカスリングを動かしながら星が最も小さく見える状態が無限ポイントになります。
露光時間はどう決めるか
露光時間はどうすればいいのでしょうか。星空でシャッタースピードの設定というと「500ルール」と呼ばれる俗説があります。500という係数を、使いたいレンズの焦点距離(フルサイズ換算)で割ると、星を点像に写せる上限の露出時間が算出できるというものです。目安としては使えますが、実際はそんなに単純な話ではないんです。
星は、北極と南極を結ぶ地軸を中心に、1時間に約15度の角度で東から西に移動して見えます。同じ15度の移動でも、見かけ上は北の方向よりも赤道上の星の方が大きく動いて見えます。こうしたことを考えると、500ルールに従うのは賢明とは言えません。特に広角レンズでは、北の空から南の空までひとつの画角に収まってしまうので、500ルールを適用すると、画面の中で星が点像に写るエリアと、線になってしまうエリアが混在することになります。
ではどうするかというと、結局は使用するレンズで実際に構図を作ってから、テスト撮影を繰り返して最適値を見つけ出すしかないのです。幸いデジタルカメラになってテスト撮影はしやすくなっていますから、手間を惜しまずに行なってください。
露出ランピングの設定方法
カメラのダイナミックレンジに収まりきらないほどの輝度差がある、昼間から夜にかけてのタイムラプス撮影では、常に適正露出になるよう、撮影中に露出を変化させ続ける必要があります。こうした撮影テクニックのことを「露出ランピング」と呼びます。夕陽がだんだんと落ちてきて、風景が暗くなるにつれてカメラの露出を徐々に上げていきます。プロのタイムラプスフォトグラファーは、撮影中はマニュアル操作で露出を制御し、後処理で階段状になっている露出のギャップを滑らかに繋ぐテクニックを用いることもありますが、一般の方にはとても無理な方法です。
最も簡単な方法は、カメラのAE機能を使って撮影することです。絞り優先AEが使いやすいでしょう。ただしカメラの測光機能は非常にセンシティブですので、わずかな光の変化で測光値が微妙に変化し、その結果、映像にした時にチラチラとしたフリッカー現象のような作品になってしまいます。そうしたケースに対応した機能を搭載したカメラのひとつが、ニコン Zです。今日は「Z 7」を使って実際に露出ランピングの設定方法を紹介したいと思います。
ニコンZ 7の露出ランピング設定方法
まず、インターバルタイマー撮影の設定をします。なお、ここでは開始日時の設定をすることもできます。これは複数のカメラで同時に撮影をスタートさせるようなケースに役立ちます。
撮影間隔(インターバルタイム)の設定をする際には、露出時間を考えねばなりません。例えばシャッタースピードを20秒にするなら、それ以上の撮影間隔を設定する必要があるからです。露出時間プラス1秒がこの機能を使う場合の最短の間隔ですので、シャッタースピードを20秒にした場合には、撮影間隔を21秒以上に設定して下さい。
ニコン Z 7には「露出平滑化」という設定があります。これは前後のカットで露出が大きく変わらないよう平滑化してくれる機能です。露出ランピングをするにはこれをオンにするのですが、そのためには「サイレント撮影」をオンにする必要があります。あわせて設定をしてください。
その次に「撮影間隔優先」の項目を設定します。これは「設定した撮影間隔を超えたシャッタースピードをカメラが自動選択しない」という意味です。これをオンにすることで、測光結果に関わらず、シャッタースピードの設定を無視して勝手に露光時間を伸ばしてしまうといったカメラの振る舞いを止めることができます。「光の状態がどうであれシャッタースピードは最長20秒まで」という意志をカメラにしっかりと伝えるわけです。
さらに「ISO感度設定」の項目にある「感度自動制御」をオンにします。こうすることで、カメラの測光結果で露光不足と判断されればISOを自動的に上げてくれるようになります。
その際にもう1つ大事なのが「制御上限感度」です。例えばここを「6400」にします。これはカメラに「どんなに暗くてもISO6400よりも上げてはならない」という撮影者の強い意志をカメラに伝える設定です。この設定をしないと、星の撮影ではISOがどんどんアップしてしまい、違和感のあるノイズが出てしまいます。
さらにもう1つ、「低速度限界設定」の設定も忘れずに行なってください。ナイトタイムラプスでは、ノイズを伴う感度アップのタイミングをなるべく抑えて撮影をしたい。感度アップする前にできる限りシャッタースピードで露出を補いたいのです。
例えばここを「10」に設定すると、「ISOの感度アップを抑えたまま10秒まではシャッタースピードで露出を稼いでくれ」という意思をカメラに伝えることになります。つまり、光量が足りなくなったらまずは「シャッタースピードを限界まで伸ばし」、最後に「ISO感度を変える」という順にカメラの設定が変化するようになります。
こうすることでISOを上げるタイミングを後にすることができ、結果的にノイズを抑えた美しいナイトタイム作品につながるというわけです。これも大きなポイントです。
ちなみにカメラの測光機能には「低輝度限界」があり、同じ露出ランピングの設定をしてもカメラによって結果が異なってきます。低輝度限界の低いカメラだと、暗すぎて星の明るさまで検知しきれないといったことが起きます。ニコンで言えば、D850やZ 7といった最新のカメラは、こうした低輝度限界が拡張されているため、天の川を適正露出でAE撮影することができます。
左は低輝度限界が拡張されたD850、右は標準的な低輝度限界のD810A。日没後に空が暗くなった後にも測光が追従するD850は星空を撮影できるが、D810Aではそれができず暗いままとなった
モーションタイムラプス
タイムラプス作品にカメラワークをつける方法も紹介しておきましょう。それがモーションタイムラプスという撮影テクニックです。モーションタイムラプス用のマウントは大きくは2種類に分けられ、ひとつは回転系、もうひとつは移動系です。それぞれ撮影、表現の特色があり、またカメラの設置方法等でも表現の仕方が大きく変わってきます。
まずは回転系から始めるのがおすすめです。回転系はビデオ三脚を使った撮影のように、カメラのパンニングやチルティングをタイムラプス作品に付加できるマウントなので、シチュエーションを選ばず効果的なカメラワークを実現することができます。
最近では安価な製品も出てきた回転系のモーションマウントによって、手軽に挑戦できるようになってきていますが、安いものの中には動作が安定しない製品もあり、動画化したときに速度が微妙に変化するギクシャクした映像になるものがあります。強度的にも問題があり、安い製品にはそれなりのリスクがあるということを覚えておいてください。
回転系、移動系ともにそれぞれ表現しやすい構図やシチュエーションというのがあり、特に移動系の場合はレンズの近くに草や木、岩などを配置し、手前と奥とで移動速度が異なるようにすることで奥行感のある作品に仕上げことができるなど、いろいろなポイントがあります。
プロとアマチュアの違いとは?
ここで、プロとアマチュアで何が違うかというお話をしたいと思います。一番の違いは、撮影に入る前段階で完成形をどれだけ具体的にイメージできるかという点にあると思います。タイムラプスは、撮影をスタートするとカメラマンは一切カメラに触れることができません。ですから事前にどんな表現、仕上がりを求められているのかを把握し、それにあった機材や表現方法をしっかりと選べるのがプロではないかなと思っています。
例えば日が暮れて天の川が見えてきて、最後に月が昇ってくるシーンをスライダーでカメラを動かしながら撮影する、といったタイムラプスムービーを撮る場合、いつ、どの方角に陽が沈み、どこから、何時に月が昇ってくるのかを調査し、それを撮影するためにはどこにどうカメラを設置すればいいか、そのためにどんな機材が必要かを事前にイメージし、徹底して検証するのです。それがうまくいくと、洞窟のわずかな隙間から天の川が昇ってくるようなシーンを撮影できるのです。
最後になりますが、こうした内容について、昨年、「ナイトタイムラプス撮影テクニック」という本を出させていただきました。こちらについても目を通していただけたら幸いです。
ちょうどお時間となりました。今日はどうもありがとうございました。
関連情報
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取材:小泉森弥